013 伯爵子息の苦悩
下の登場人物に【愛称:】追加してみました!
「お邪魔しております」
ベアトリクスとの婚約者のお茶会の為、訪れたテイラー家でベアトリクスの弟ルードリッヒよりベティ姉上とお義兄様に友人に紹介したいとの招待をされた。
クレメンスは少し浮かれた気分でテイラー邸の子供達が友人と使う応接室へ訪れる。するとそこで銀に近い髪を顎下で綺麗に切り添えらた、意思の強さを感じさせる紫紺色の瞳を細め優雅にお辞儀をする少年に挨拶をされる。
「ブラウン伯爵が第四子。ニコラスと申します。以後お見知りおきを」
ベアトリクスとクレメンスは、さっと青い顔になった。同年のナルチェルを警戒していたが弟と同年のニコラスの事を見落としていたと思った。すると、背後から入室してきたエーレンフリートが「ニコラス。いらっしゃい」とニコラスに声をかけると二人とも返事は?と初対面の挨拶を促され行う。エーレンフリートは、皆に座るよう促すと自身の侍従に新しいお茶の手配を頼むと口を開いた。
「まず、ベティ。クレメンス。ニコラスは協力者だ。自ら名乗り出てきた」
「本当にびっくりしたよ!兄上が婚約解消の日の翌日に突然ニコラスが、協力させてほしいと言ったんだ。あの女の思い通りにはしたくないって声かけてくるんだもん」
「ルードリッヒ。それは、謝っただろう。本当に突然だったと・・・。でも、チャンスだと思ったんだ・・・あの女の思惑を一つ潰したテイラー侯爵家なら・・・」
ベアトリクス達を置いて三人の会話は進む。兄の説明に乗った弟や、そんな弟に謝罪するニコラスの会話には警戒心がまったく見えず。二人は顔を見合わせ、ほっと力を少し抜き一番気になる事を伺う。
「ブラウン伯爵子息。あの女とは・・・」
ベアトリクスに真っすぐ見つめられ声をかけられたニコラスはうっすらと耳を赤くし先ほどの砕けた様子ではなく最初に挨拶の様に丁寧に応えた。
「テイラー侯爵令嬢。申し訳ございません。お耳汚しを・・・ですが、母親ですがお母様などと呼びたくないのです・・・あの女・・・ブラウン夫人と呼称致します。ご容赦下さい」
ニコラスの悲痛な願いにベアトリクスの方がキュッと胸が苦しくなる。なぜ、13歳の子供が自身の母親を母と呼びたくないだと言うのだろうか。それにその状況で、未だニコラスは生活しているのだろうか。自身の家族仲が良いベアトリクスにはとても悲しい告白だった。
「ベアトリクス嬢。ブラウン伯爵令息が困ってしまっていますよ。考えるのは後にしませんか?それよりも、どうでしょう?ブラウン伯爵令息。私のことはクレメンスと呼んで下さい。私もニコラスと呼んでもよろしいですか?」
「あっ。私もベアトリクスと呼んで下さいまし、ニコラス様と呼んでもよろしいですか?」
クレメンスの提案に、乗るようにベアトリクスもニコラスに話しかける。ニコラスは目を見開き驚きの顔になって数秒固まると相好を崩して満面の笑みを零しもちろんです。ありがとうございます。と答えた。
「じゃあ、私はリート兄様で!」
と茶化すように会話に入ってきたエーレンフリートに二人は、私はレメ兄様でしょうか?ベティ姉様もいいわねと言い始める。ニコラスが顔を真っ赤にし混乱し始めたのを見てルードリッヒが笑いを堪えられずゲラゲラと笑い始める。
「あははニコラス。そんな顔も出来るんだな。すかした顔しか出来ないやつだと思っていたよ!」
「何だよ!すかしたとは!貴族として表情を繕うのは当然のことだろう!」
「いやいや、あの鉄壁の貴族の微笑みより今の方が断然好感度があがるぞ!」
自分たちが発端ではあるが、13歳らしいニコラスとルードリッヒのやりとりにベアトリクスは、ほっとしてにこにこと眺める。もちろん、エーレンフリートもクレメンスも微笑ましいものを眺めていると、はっとしたニコラスは、まだ少し赤い顔を一生懸命に引き締める。
「ベアトリクス様。クレメンス様。エーレンフリート様。過分なお許しありがとうございます。愛称は私には大変烏滸がましいでございます。お名前呼びをお許し頂けただけでも嬉しく思います」
「あぁ君が呼びやすいほうでいい。それで、今日はどうしたんだい?」
エーレンフリートも揶揄いを辞めて、ニコラスに向き直る。
「はい。お三方にはお伝えして置きたいのですが・・・」
ちらっとルードリッヒを見る。それに気が付いたルードリッヒは突っかかる。
「なんだい?僕には聞かせることが出来ない事かい?」
「ニコラス。君が自分で考えて立ち回っているように、ルーももう13歳だ。学園にも入学した。情報を制限する気はないよ。無関係ではないからね。情報を得て、口を噤むこと。警戒すること。を覚えていかなくてはいけない。しかし、まだ私の監視下でだけだけどね」
ニコラスの態度に、エーレンフリートは真剣な眼差しでニコラスと向き直るとルードリッヒにも情報を共有する旨を伝える。最後は可愛い末っ子を茶化すように軽い口調で付け加え優しい笑みを向けるとルードリッヒは照れ臭い様に少し拗ねた顔をする。
そんな二人のやりとりにニコラスがボソッと『普通の兄弟とは、こういうものなのですね』と漏らしてしまい、口を抑える。誤魔化す様にゴホンっと咳ばらいをして話を始めた。
「では、改めてブラウン家の現状を報告しに参りました。フランチェスカの婚約が白紙に戻り今までと違う状況になっています」
として始まったニコラスからの話は、父であるブラウン伯爵が家に早く戻るようになり、それに伴い長兄のメルヴァンもブラウン伯爵が戻れない日によく家に戻るようになった。父と兄の帰宅は監視かと思われる事。
フランチェスカは自室にて謹慎、時折喚き声が聞こえるがニコラス自身は会わないので静かなものだという。謹慎の最初はブラウン夫人が部屋を訪れお茶をすることはあったようだが謹慎も長くなるとフランチェスカが不機嫌過ぎて寄り付かなくなっていた。
ブラウン夫人も自宅謹慎を言い渡されているので、暇を持て余しニコラスとナイツェルがお茶によく呼ばれていること。ナイツェルにはベアトリクスに接触するようにるよう指示していますが。ナルツェルは、常にクレメンス様もしくはクレメンス様のお兄様が近くにいるので近づけないと夫人に伝えている事。
「ナイツェルは、ベアトリクス様をブラウン家に招待するように言われているようです」
ニコラスが騎士の職務の様に報告していく様をベアトリクスは悲しい気持ちになっていく。
【 父上 】【メルヴァン兄様】と
【 夫人 】【フランチェスカ】【ナイツェル】の呼び方があからさまに違う。
彼の立ち位置は?心情は?【父上】と【メルヴァン兄様】だけでも彼に愛情をかけてくれる人はいるのだろうか?ベアトリクスの疑問は重たい気持ちと共に積み重なるが、そんな彼が懸命に情報を伝えようとしてくれている。ベアトリクスはただでさえ良い姿勢を更に正しニコラスの話を静かに聞く。
「使用人の噂話では、エーレンフリート様との再婚約を狙っているのは確かでしょう。
あと、夫人の謹慎はあと1週間でひとまず解除されるようです。これは、父上とメルヴァン兄様の会話を聞いた使用人の話ですので精度は少し落ちますが、仮面舞踏会がその翌日にあると聞きました。
更にその舞踏会はお昼に開催されるそうです。夫人も外出できる時間になります。
郵便で家に届く夫人の手紙は注視しているようですが、ナイツェルが学園もしくは帰り道でやりとりしているのではないでしょうか?
学年が違いますので、月の日と金の日は私が先に授業が終わります。御者の負担を考えて図書室で自習をして同乗して帰っていたのですが、先に帰される事が多くなりました。
御者の情報では寄り道もあったりなかったりとの事ですので、学園でも手紙の受け渡しを出来る手段があるのではと思います」
「そうだね。手紙の受け渡しを街か学園か両方で行っているかもしれないね。学園に常に入れる相手ではないのか・・・学生の線は薄いね。教師、料理人や職員は常に学園に入る事が出来る・・・・」
「エーレンフリート様。よろしいでしょうか?」
ニコラスの報告を聞きながらエーレンフリートがブツブツと情報を整理する。そこにクレメンスが声をかけると、リートと呼ぶようにと言われたクレメンスが一度静止するがエーレンフリートの笑顔の圧に負ける。
「・・・・リート様。商人ではないでしょうか?」
「商人?」
「はい。高位の貴族はあまり利用されませんが、下位の寮生活の貴族や優秀な奨学金を受け取って通っている者向けに安価な紙やインクを販売する商人が1日、5日、10日、15日、20日、25日、30日に学園に来て放課後に販売を行います」
「それが、ニコラスの早く帰る月の日か金の日であると学園内で手紙の橋渡しが出来る」
「そうかもしれません!ナイツェルはいつも寄り道するときは、馬車を大通りで待たせてある菓子店のお菓子を夫人とフランチェスカにお土産に買うのです!その隣の商会が学園に来る商人の商会ではないでしょうか?」
「ありえるな。調べよう!」
エーレンフリートは喜色を滲ませたが、突然一変させ真剣な顔をし其々の顔を見渡し名前を呼ぶ。また其々もはいと返事し真剣な顔になりエーレンフリートを見つめ返す。
「ニコラス、ルードリッヒ、クレメンス、ベアトリクス。
調査は大人の仕事だ。友人やいつも会話をする使用人との軽い会話や人の動きなどで気が付いた事は教えてほしい。しかし、誰かを尾行したり、わざわざ普段話をしない人間に話しかけたりは決してしてはいけない。わかるね?」
ニコラスとルードリッヒはビクッと身体を揺らし、クレメンスとベアトリクスは胸に手を当て心得ておりますと応えた。ニコラスとルードリッヒに再度釘を刺す。
「もちろん君たちの安全の為でもある。しかし、ニコラス、ルードリッヒ。君らが迂闊に動くことによって私たち大人の努力が霧散する可能性もある。本当にわかったかい?」
二人はハッとした顔をしてコクコクと頷いた。その様子に満足したエーレンフリートは優しい笑顔になる。この年頃の子が大人に認められたいと自身の危険を顧みず頑張りたいという気持ちがエーレンフリートにも分かっている。しかし、その行動によって大人達の準備を台無しにしてしまうことも自らの過ちで知っていた。
彼らの安全もあるが、彼らに小さな失敗ならいいが、取り返しの付かない瑕疵をつけてほしくないという気持ちが伝わった事に安堵した。安堵するとふと気になった事を聞いてみようと気になる。
「しかし、クレメンス。何故、下位の者が利用する商人を知っていたのだい?君の家は侯爵家の中でも中位だろう?困窮していると聞いたことはないが?」
突然のエーレンフリートの質問にクレメンスは面食らうと、はっとして自身の家の状態をきちんと伝える。ベアトリクスの婚約継続に支障をきたす疑いは即座に取り除くのがクレメンスという男である。
「私が利用したわけではございませんし、我が家も困窮しておりません。ご心配なさらなくてもお金無心などはありません!」
「あははそこを心配してるんじゃない。何故知っていたのか不思議に思っただけだ」
「それは、ベアトリクス嬢もご存じでしょう?」
「えぇ存じてますわ。友人たちが利用しておりますもの」
「友人?」
「私とベアトリクスのクラスはご存じですか?」
「特待クラスだろう?成績上位10名の優秀な者しか入れないクラスだろう?2年生からずっと」
「「そうなのですか!?」」
会話の途中でニコラスとルードリッヒが目をキラキラとさせて、クレメンスとベアトリクスを見つめる。ルードリッヒも一緒に驚いた事にニコラスが更に驚くと、姉のクラスも知らず。特待クラスのシステムも学園入学後に知ったとの事だった。凄いですねと二人に羨望の目で見られた。彼らも決して成績が悪いわけではない。Aクラスの上位だが特待クラスは1年生の1年間の成績で2年から振り分けられるクラスである。
自分たちがまだ入っていない高みの存在が身近にいたことに驚く弟にベアトリクスはニコニコと微笑む。
「ルー殿。君の兄様はさらに6年間主席だよ」
「あぁ。お陰で6年間、イヴにグチグチ文句を言われた。手を抜いたらまた怒るくせに面倒くさい」
自身の兄姉の優秀さに驚愕し、口が閉まらなくなったルードリッヒの横からニコラスからの羨望の眼差しが止まらないが、イーヴォイェレミアスが楽しそうにエーレンフリートに文句を様子を思い出しベアトリクスはくすくす笑っていた。クレメンスは話を続ける。
「お恥ずかしながら、私たちの学年の特進クラスはウィルソン家のご子息と我々の三人しか高位貴族がいないのです。更に主席も平民出身の者です。中には特待生制度を取得している者もおります。生活費も補助されている平民の中でも貧困層の者もいるのですよ。
彼らの知識と理解力には感嘆しますが、やはり消耗する備品の出費は抑えたいということで商人の販売を利用するのです。ご一緒させてもらったこともあるのですよ。まさか、紙やインクの質や値段の差があのようにあるのを知りました」
クレメンスは本当に興味深かったとルビーの様な赤い目をキラキラさせて話し、ベアトリクスも微笑んでコクコクと頷く。そんな二人に金の目を細めエーレンフリートは微笑みベティの学年はいい関係のようだね。というと。
「長話をしてしまったね。日が傾き始めている。ニコラスもクレメンスも帰宅なさい。夜道は危険だ」
「ありがとうございます。帰路につかせてもらいます」
エーレンフリートに退室の挨拶を済ませるとクレメンスは、ベアトリクスに。ニコラスはルードリッヒへ向き直り明日学園でと去るが、ベアトリクスは玄関まで送りますと二人について退室した。部屋に残った兄弟の会話はベアトリクスには届かなかった。
「姉様お幸せそうですね」
「あぁそうだね」
拝読ありがとうございます。
~ 登場人物 ~
【愛称:ベティ】ベアトリクス・テイラー侯爵令嬢(15)
テイラー侯爵家第二子長女*髪色:桔梗色・腰までの長髪・ストレート*瞳:金
【愛称:リート】エーレンフリート・テイラー侯爵子息(18)
テイラー侯爵長子長男*髪:水色、肩までの長髪、ストレート*瞳:金
【愛称:ルー】ルードリッヒ・テイラー侯爵子息侯爵子息(13)
テイラー侯爵長子長男*髪:薄紫、短髪 ストレート*瞳:青
【愛称:ラス】ニコラス・ブラウン伯爵令嬢(13)
ブラウン伯爵令嬢四子(三男)*髪:銀、ストレート、ボブ*瞳:紫紺色




