010 侯爵子息の念願
了承したらひとっ飛びです!
婚約の手続きの当日
「お久しぶりでございます。クレメンス・エヴァンスと申します。この度は、我が家に過分なご縁の取りなしあり難き幸せでございます」
テイラー邸の応接間には本日の主役であるベアトリクスとクレメンスと共にテイラー侯爵と次期当主であるエーレンフリート、エヴァンス侯爵とアーデルベルト。
何故かディオティマとハーシェルヒルムが揃っていた。ハーシェルヒルムがいるのでもちろん側近の二人もいる。なかなかの大人数になってしまっている。
エヴァンス侯爵が第二王子と公爵令嬢の同席に疑問を持たないわけではない。
「一つよろしいのでしょうか?」
エヴァンス侯爵が物々しく尋ねた。家人では無くこの席で最も高位の王子が直答を許すと、エヴァンス侯爵はもっともな質問を王子に投げかける。
「何故、ハーシェルヒルム第二王子殿下とディオティマ・アンダーソン公爵令嬢が同席されているのでしょうか?私は妻同士の話合いでテイラー侯爵家と縁を結んだと伺っているのですが・・・」
「なんだ、クレメンス。其方父上に何も伝えていないのか?」
「はい。王家にまつわる話になります故、何処から何処まで話していいのかわかりかねまして・・・本日いらっしゃる旨を伺いましたので殿下がお話されるのかと愚行いたしました。事前に申し上げておいた方がいいでしょうか?」
ハーシェルヒルムの質問にクレメンスが答えるとまあそうだな。と納得しこれまでの事柄をクレメンス達に話した程度説明するとエヴァンス侯爵がそういうわけですねと納得の色を見せ言葉を続けた。
「と、いうことはこの婚約は隠れ蓑ということでしょうか?解消の予定は1年ほどと考えてよろしいですか?新たな婚約者の選定の為にはできるだけ卒業前がよいのではと考えておりますが・・・」
エヴァンス侯爵の発言にハーシェルヒルムとディオティマはもちろんのこと、ベアトリクスとクレメンスも目を見開いて絶句する。そんな皆をみてテイラー侯爵が溜息をつき嘲笑をのせて口を開いた。その言葉は辛辣だが声色は優しい。
「殿下もまだ未熟ですな。婚姻で無く、婚約でしょう?解消も双方が納得していたら簡単なのですよ。現にリートは婚約を白紙したでしょうに・・・その様な話し方ではこの不穏な期間だけの婚約だとフレデリックが思い至るのは当たり前ではありませんか?」
「ぐっ・・・しかし・・・」
何かを言いかけたハーシェルヒルムを放置し、テイラー侯爵はエヴァンス侯爵へ話始めた。
「フレデリック、其方はご子息の婚姻相手にうちの娘では不服だろうか?」
「いやっ!そんな事あるはずないだろう!だが、アーデルベルトがベアトリクス嬢に失礼としたと聞いているのにクレメンスと婚約して頂けると思えなくてな。それにクレメンスでは子爵位しか継げぬ。爵位が大分下がるだろう?ベアトリクス嬢に不便をかけないかそこが懸念されるんだ」
「あぁ。そこだな。すまない。先に説明する前に横やりが色々入り、私の方の話をしていなかったな。
妻から君のところの子を婚約を結ぶと聞いた時に・・・私とベアトリクスは学園で仲良くしてもらっている次男のクレメンス君をうちの婿に迎える心つもりだった。私自身、クレメンス君の素性を調べさせて居いんだ」
「婿かい?何故?そちらには嫡男のエーレンフリート君がいるではないか?」
「あぁ今、私とリートは、法務局に出仕しているのは知っているだろう?
領地経営は父上に任せきりなのだ。父上もいい歳だからな。最近厳しいと訴えてくるのだが、今は私も王都を離れることが難しい。リートを次期当主とするが官吏も引き継ぐことになるだろう。私の妹は王弟へ嫁いでいるし、子はディオティマだけだ。弟に至ってはどこにいるかわからん!
安心して領地を任せられる人間がほしかったのだ。うちには大叔父や弟が継がなかった伯爵位が2つある上にテイラー家は嫡男が法務大臣に限り次男も侯爵を名乗ることを許されている。
今は統一しているが領地を分けることも可能だ。
代々長男は法務大臣を、次男が領地をみているテイラー家で、領土も大きいのだから親族を増やしたいんだが、父上の代は男子が父上だけで私の代は放蕩野郎しかおらぬ。嫡男は功績を重ねるのに対し、その前もテイラーの一族は国を出るやつが多すぎる。
ルーは幼すぎるし何やらあれはあれで考えがあるようだ。もしルーも留まるといっても爵位はあるしクレメンス君を婿に入れる話には大変乗り気なのだよ。
クレメンス君は学園の履修をみるところ官僚を目差しているのではないか?卒業したら、すぐに領地で父上から引継ぎをお願いしたいと思っているのだが、どうだろうか?優秀な次男を手放す事は難しいか?」
ジークフリートの長々とした説明をする横で、お父様。叔父様は大きな商会を興しているので放蕩してるわけではありませんわとベアトリスは訂正するが、連絡を寄こさないやつは放蕩というんだと取り合ってくれない。
そんな親子の会話を聞き流しながらクレメンスの父親であるフレデリックはじっくりと考えクレメンスに向き直る。
「そちらの事情は分かった。う〜む。うちにいても子爵位しか渡せんし、クレメンスはどうだ?城に出仕するために頑張ってただろう?」
テイラー侯爵の提案もエヴァンス侯爵は、クレメンスの気持ちが大事だとクレメンス自身に意向を聞く。クレメンスは先ほどまで期間限定の婚約なのかと青い顔をしていたが話を聞く限りテイラー侯爵はかなりクレメンスを買ってくれている。
城のいち官僚となるよりほぼ領主と変わらない立場になるのになんの不満があるだろうかと答える。
「ベアトリクス嬢さえよろしいのであれば、私に否はありません!テイラー侯爵領は小国家と謡われるほどの大領地ではないですか!?その領地経営を見込まれているなど誉でございます。
もともと、私はベアトリクス嬢を以前より勝手ながらお慕いしております。その様な女性と婚姻を結ぶだけでも恐れ多いにも関わらず、更にご兄弟と協力して大領地の運営を任せて頂けるなんて僥倖意外何物でもありません!
それに、テイラー家とも縁を結び事も、子爵位をコンラーディンに渡せる事においても我が家にとってもいい話ではありませんか?」
他の兄弟に比べ、あまり感情を表に出さず何事も卒なくこなす冷静な次男の捲し立てる様な発言にエヴァンス侯爵は一瞬目を見開いて瞬き、それはだんだん柔和な笑みに変わっていった。
テイラー侯爵を始め、他の関係者は満足気な顔になり、ベアトリクスは友人として仲良くして頂いてるとは思っていたがこの様な慕われ方をしていたことに初めて気が付き首まで真っ赤にしてどうにか貴族の笑みで耐えていた。
「フレデリック。元々、娘からも同学年で仲良くしてもらっていると聞いていたんだ。どうだろうか?」
「ジークフリート。我が家は何も問題無いようだ。君の提案は私としても嬉しい。君たちとの縁も深くなる。私にも否はないよ」
「あぁそうだな。領地の利を考えての婚約になると思っていたが・・・それだけではないようでこちらとしても婚約を結びそのまま縁を繋げたいと思う」
いつもいかめしい顔のジークフリートの柔らかな笑みに子供たちはびっくりしたが、旧友であるフレデリックはそうだな嬉しい限りだよと手を差し伸べ握手する。
そのあとは、婚約期間と学園が長期休暇の度に領地へ赴くことが出来るかなどの細かな話し合いの末、ベアトリクスとクレメンスの婚約は誓約された。
「事情によるだけの婚約でなくベティが幸せそうで良かった。ベティ。クレメンス殿。おめでとう」
ハーシェルヒルムはにこやかに祝いの言葉をかけると、テイラー侯爵が機嫌のよい顔になりハーシェルヒルムに向かい提案する。
「殿下。護衛役を頼むのでしょう?彼らの実力をうちの鍛錬場で体感するといいのではないですか?」
そういうと、エーレンフリートに目くばせをする。エーレンフリートは肩をすくめハーシェルヒルム殿下と側近二人とエヴァンス侯爵兄弟を連れ立って鍛錬場へ向かった。
◆◇◆◇
「では、私が相手してもらおうか」
ハーシェルヒルムが意気込むと、エーレンフリートはいい笑顔で了承する。しかし、クレメンスが大きく手を上げ制止する。
「殿下のお相手は私が。兄上の相手はオリバー様がよろしいかと思います」
「なに?アーデルベルトはそんなに強いのか!?」
オリヴァーは、子爵家の五男であり貴族の子供であるが有力な権力も持たず実力だけで17歳の成人してすぐに騎士団の大会で優勝し騎士伯を得て、ハーシェルヒルムの護衛騎士に抜擢されたほどの実力者である。その相手をアーデルベルトは出来るという。驚くハーシェルヒルムに、クレメンスはにっこりと微笑み答える。
「兄上は、お祖父様のお気に入りです」
「あぁ。あの・・・ストゥワート公の・・・」
では、お相手願いますと普段感情を見せない明るい茶色の瞳を輝かせオリヴァーがアーデルベルトに向き直る。アーデルベルトは、長い髪を結いよろしくお願い致します。と会釈する。
二人の早い剣さばきに、ハーシェルヒルムは口を半開きにしながら見入り。エーレンフリートは、関心を寄せまじまじと試合の流れを見ている。二人の打ち合いが終わってから、手合わせした方がいいかと考えたクレメンスはナサニエルに声をかける。
「ナサニエル様は私と体術の稽古でもされますか?体幹がよろしいのでお勧めしますよ。相手の勢いを往なす体術です」
「そうなんですか?そこそこの剣術は習ってますがもっぱらオリヴァー頼りですね。まぁ従者は戦えない人の方が多いですけど」
「はい。歩き方で体幹の良し悪しはわかりますね。見た目で戦えなさそうだと思われることはいい事ですよ。我々、兄弟は筋肉が付きにくいらしく見た目で侮られるので相手が勝手に手を抜いてくださいます」
ふふふっと微笑むクレメンスに、エーレンフリートと同様に敵に回してはいけないタイプだなとナサニエルは心のメモに書き記し会話を続ける。
「それはいいですね。奔放な殿下を守る為には武力はあるに越したことはないですからね」
二人がそんな会話をしている間に、アーデルベルトがオリヴァーの剣筋をひらりを空に舞い躱すと絡めてで1本勝利し戻ってくる。奔放な動きをする相手はオリヴァー様は対峙したことはございませんか?絡め手で来られるのは苦手ですねと指摘しつつ、体格の小さい人や力が無さそうな人の戦い方もご覧になってみたほうがいいかもしれませんと話しながら戻って来て、更にアーデルベルトはクレメンスとナサニエルに会話に入る。
「クレメンスは指導がうまいので、末の弟のコンラーディンはもっぱらクレメンス師事してもらってます。お祖父様は力任せだし、私は手加減出来ないので参考にならないと言われました」
「さすが、ストゥワート公の秘蔵っ子。オリヴァーが負かされるのなんていつ以来だ?」
「ここ最近の試合ではありませんね。学生の初期以来でしょうか?いやぁ。なかなかに楽しかったです」
もっと、手合わせをしたいという目をしているオリヴァーからそっと目をそらしハーシェルヒルムはアーデルベルトに問いかける。
「アーデルベルトは私の留学と共にした留学団のメンバーに入っていたよな?」
「はい。我が家も精霊学の国、聖ルゥフィーナ国の血をひいておりますので殿下が向かうマジーン魔術学園に興味がありまして」
「留学団のメンバーに入るときに側近の打診はなかったのか?」
ハーシェルヒルムの質問に、申し訳なさそうにアーデルベルトは答える。
「ありました。ですが、母上に唆されたお祖父様が反対しまして、留学先のみの護衛として参加しました」
「唆すとは、穏やかじゃないがエヴァンス侯爵夫人はなんと?」
「ん~母上はまぁ。思い込みの激しい女性でして。陛下と王弟殿下の・・・関係をいとこですので間近で見ております。王家の派閥争いに私が巻き込まれることを危惧したようで・・・殿下方が仲が良いようですので、良かったです」
「俺の側近になれば、ディーと会えるとか考えなかったのか?」
「そんな、ずるではないですか!?」
ハーシェルヒルムの質問に、顔を赤らめ慌てて両手をふるアーデルベルトは先ほど手合わせでオリヴァーに勝利したと人間とは絶対に信じられ無さそうな男にしか見えなかった。
「・・・・そんな真っすぐで嫡男は務まるのか???心配になる」
「大丈夫ですよ。兄上はちゃんと腹芸できますよ。ただディオティマ様が関わるとポンコツになるだけです。残念な事に」
「はぁん?お前もベアトリクス嬢が関わると母上に出し抜かれていたではないか!」
「・・・・」
突然の兄弟喧嘩が勃発してが、ハーシェルヒルムが手合わせを願い場を収めた。
拝読ありがとうございます。
ジークフリート・テイラー侯爵(45)
現テイラー侯爵*髪:水色、ショートオールバック、ストレート*瞳:金
ベアトリクス・テイラー侯爵令嬢(15)
テイラー侯爵家第二子長女*髪色:桔梗色・腰までの長髪・ストレート*瞳:金
エーレンフリート・テイラー侯爵子息(18)
テイラー侯爵長子長男*髪:水色、肩までの長髪、ストレート*瞳:金
ディオティマ・アンダーソン公爵令嬢(16)
アンダーソン公爵一人娘*髪:オレンジ色、腰までの長髪、ゆるウェーブがかかった髪質*瞳:青
イーヴォイェレミアス第一王子殿下(19)
王国第一子、第一王子*髪:金、肩下、ウェーブ、一つの三つ編み*瞳:赤紫
フレデリック・エヴァンス侯爵(45)
アーデルベルト、クレメンス、コンラーディンの父親 髪:銀 瞳:碧
クレメンス・エヴァンス侯爵令息(15)
エヴァンス侯爵次子*髪:短髪・銀・センターパート・ストレート*瞳:赤
アーデルベルト・エヴァンス侯爵令息(16)
エヴァンス侯爵家長子*髪:腰までの長髪・黄金色・ストレート*瞳:碧
オリヴァー・ミラー騎士伯(25)【ハーシェルヒルム第二王子殿下 側近】
ミラージュ子爵家五男。 髪:黒、短髪 瞳:明るい茶色
ナサニエル・イーストン子爵(17)【ハーシェルヒルム第二王子殿下 又従弟/側近】
イーストン子爵家三子(次男) 髪:ピンク、ふわふわ天然パーマ 瞳:赤




