悪役令嬢と仲良くなろう
俺は思うのだ。あの夢の中の展開通り、クロードが本気で恋に生きるってのなら、それを支えるのも友達としての義理として……まぁ、正直ドン引きだが、やぶさかではない。
だが、エレノアが犯罪者になるのだけは流石に見過ごせない。
エレノアなぁ……。
わざわざクロードを追ってこの大学にまで入学してくるくらい、あいつのことが好きなんだよな。
だけど、クロードにはエレノアと結婚する気が一切ない。
クロードがエレノアを避けているのも「変な期待をさせないため」という誠実さ(あいつなりの)から来ているのだろうから、俺からクロードに「少しは構ってやれよ」とも言えない。
かといって、エレノアに別の男を紹介しようにも──クロード以上の男なんて、この世に居ない(断定)。
むむむ。
となると、だ。
とりあえず今一番大事なのは、「エレノアの信頼を得ること」なんじゃないか?
エレノアと親しくなっておけば、彼女の動向や不満を把握しやすくなるし、万が一の時にストッパーになれる。
それに、俺がエレノアと絡む分には、誰も困らないはずだ。
ってなわけで、いざ出陣。
「エレノア、サロンに今年の早摘み茶葉が入ったそうだよ。もう試したかい?」
「エレノア、さっきの討論すごくよかったよ。わざと隙のある主張で相手を誘導し、自滅させた手腕は見事だった」
「エレノア、今日のドレスもすごく素敵だね」
目標! 最低でも1日1回は声をかける『エレノア・チャレンジ』!
エレノア! エレノア! エレノア!
……しかし、そんな怒涛の接近戦を始めて数週間が経った頃。
「いい加減にしてくださいまし!!」
人気の少ないサロン室に呼び出されたので、
「おっ! エレノアもとうとう心を開いてくれたか!」
とホクホクしながら向かったら、めちゃくちゃ激怒された。
どぉしてぇ〜〜〜???
「え〜っと……何がかな?」
とりあえずお怒りの原因を聞いてから、反省したフリをして適当に謝っておけばいいだろう。
そう高を括っていたのだが。
「急に不自然になれなれしくしてきて! 正直、不快ですわ!」
え、そこ!?
「いやいや、不自然もなにも、俺たち昔からの付き合いじゃん」
「いいえ! 不自然です! だって……。
私、クロード様に避けられていますもの……。だから、クロード様といつも一緒にいるルーク様も、同様だと思っていましたの……!」
くしゃりと、気位の高いエレノアが人前では絶対に見せないような、屈辱と寂しさが混ざった表情をする。
おう……言われてみれば、確かにそうだな。ぐうの音も出ない。
「あぁ〜、まぁ、クロードは確かにそうかもしれない……っていうか実際そういうところあるけどさ。でも、俺とクロードは友達とはいえ別の人間だろ? 俺までエレノアを避ける必要なんてないじゃないか」
なんとなくそれっぽいことを言って誤魔化そう。うん。
エレノアは、俺の言葉が響いているのかいないのか分からない、相変わらずジト〜ッとした目で俺を睨みつけてくる。
「ほら、エレノアはすごく頑張ってるじゃん。数少ない女子生徒の権利を守るために、同世代のまとめ役をしっかりやってるしさ。そういうの見ると……ほら、俺ってば長男だし? 『がんばれ〜』みたいな、そういう応援したくなるアレだよ」
どう? だめ? まだお怒り? 1回ビンタされるくらいは覚悟した方がいい?
内心ヒヤヒヤしながら、爽やかな笑顔(当社比)でエレノアの反応を伺っていると。
……ん?
なんだか……?
エレノアの顔が……?
見る見るうちに赤面して、耳の先端まで真っ赤っ赤になっているんだが???
「〜〜〜〜〜〜っ! べ、別に責任ある貴族として、当然のことをしているだけですわ! ルーク様に褒められるようなことではありませんの!」
ん? これ、喜んでる? 正解だったよね?
なんだよ、褒められ慣れてなくて赤くなっちゃって。案外かわいいところあるじゃん。
俺は内心胸を撫でおろし──そして、ついうっかり口を滑らせてしまったのだ。
「褒められ慣れてなくて赤くなっちゃって、案外かわいいところあるじゃん」
パチンッ!
……快音とともに激しい衝撃が頬を走り、真っ赤な顔で怒り狂ったエレノアは風のように去っていった。
(この後、平謝りしまくって許してもらえるまで、1ヶ月半はかかりました。トホホ)




