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Intermission - 登校風景

次回から 更新は火・木・土の週3回を予定しています。引き続きよろしくお願いします。

冬季休講が明け、今年初めての講義の日。


今年で、俺とクロードは18歳。まぁ、だからといって何が変わるわけでもないんだけど。


あ、でも学府生活には変化が起きそうかな。


昨年中は専門高等学部(上位学部)になりたてだったので免除(?)されていたが、そろそろ俺たちにも上位学部生としての役割が回ってくる。通称、奉仕活動。


春と秋に行われる下位学部の口頭試問(テスト)の立ち会いに、大図書館の受付、学園都市の夜間巡回やら、学内行事にも駆り出される。


リュシアンさんが言うところの「くだらない雑務」ってやつだ。


俺とクロードは、現在この学府に通っているレオポルド出身の学生の中では、最高位の貴族だ。だからこそ、絶対にサボれないんだよね。なにせ高位貴族には、ノブレス・オブリージュの体現という崇高な役目があるんだからさ。


実情としては、苦学生の手軽な小遣い稼ぎとして、雑務の代行も横行しているんだけど。俺ら(というか主にクロード)くらいになると、常に注目を浴びているから、『貴族の規範』から外れることは出来ないってワケ。


しかし、下位学部の口頭試問の手伝いか。コレットと遭遇して絡むことになったら、すこぶる面倒そうだよなぁ。胃痛の予感。


まぁ、その時はその時で考えよう。



そんなことより、今はクロードだ、クロード。


今日は馬車でクロードを迎えに行って、一緒に通学する予定。今日、というか暫くは、かな。


一時とはいえ、冬季休講中にクロードがストレスで幼児退行してしまったのが、やっぱり心配なんだよね。なので、様子を見ながらだけど、とりあえず今月中は毎朝迎えに行くって約束しているんだ。


あの直後、クロードの執事さんに報告に行ったら、言葉を詰まらせ、涙ぐむほどの勢いで感謝された。でも、執事さんも不可抗力だったと思うよ。クロードの詰問って圧がすごいんだもん。言いたくなくても言わざるを得なかったんだろうなぁ。


しかし、あれ以降、執事さんの俺を見る目が、クロードを拝む生徒達の目に似ているのが気になるんだよね……。新興宗教の教祖役はクロードだけで十分だ。



とか考え事をしている間に、クロードの家に到着していた。近いしね。


待っているとドアが開いて、クロードが入ってくる。


「おはよう、ルーク」


「おう、おはよ!」


二人で上座(進行方向)に並んで座る。


「なんか、身体が講義受ける気になっていないんだよなー」


「ルーク、いつも休講期間明けはそれ言ってるよね」


俺の発言に、クロードはクスクス笑っている。ご機嫌そうで何よりだ。


「実際のとこ、毎回そうなんだから仕方ないだろー」


笑っていたクロードだが、ふっと不安げな目をして窺うように俺を見てくる。


「ね、ルーク……」


「ん? またか? しょーがないな、ほれ」


俺が苦笑いしながら片手を差し出すと、クロードは少し恥じらいながらその手をそっと握り返してきた。

上質な薄い革手袋越しに、ほんのりとクロードの体温を感じる。


あ(・)の(・)日(・)以来、クロードはこうしてちょこちょこと俺と手を繋ぎたがる。子どもの頃のこいつは、自らが持つ強大な魔力に振り回されて頻繁に寝込んでいた。それを俺が、こうして手を繋いで治めていたからな。もはや刷り込みめいた精神安定剤になっているのだろう。


「ありがとう、ルーク」


クロードは安心したようにふわふわと笑っている。


「まったく、馬車の中(いま)だけだぞ?」


この年にもなって、男二人が「おててつないで」(夢の中でそんな歌があった)なんて痛々しいことこの上ないが、この程度のことでクロードが元気になるんなら易いものだ。


とは言え、絶対に他人(ひと)に見られるわけには行かない。


特に、エレノアとかな!


どうせまた激しい勘違いをされて「不潔」を連呼された上に、全てを俺の責任にされるのが目に見えている。


俺はリュシアンさんとカップルに間違えられたことだって、まだ引きずっているんだ。これ以上、俺の硝子(ガラス)のように繊細な心(ハート)に傷を残すつもりは断じてない。



朝の気だるさを感じつつ、クロードと取り留めのない会話をしていると、大学に馬車が着いた。


正門前に広がる車寄せは、広大な石畳になっている。その中央の大きな噴水を囲むように馬車が滑り込む。


四頭建ての大型馬車が何台並んでも狭さを感じない空間だが、今のような登校のピーク時には、侯爵家や伯爵家の家紋をつけた馬車で溢れ返る。


御者が馬車を止めると、控えていた大学の門衛が恭しく扉を開ける。俺達は黒い学士衣(アカデミックガウン)の襟元を少し整えながら、石畳に足を下ろした。主人を降ろした馬車は、円形の車寄せを優雅に旋回し、そのまま北の外郭にある厩舎へと去っていき、下校時刻まで待機するのだ。


石畳を歩く俺の頬を、冷たい風がすり抜けていく。春はまだ遠そうだ。


「――暖かくなったら、馬で登校してもいいかもしれないな」


「ルークは乗馬が好きだもんね。その時は、僕も一緒に馬を出そうかな」


「おう、そうしようぜ。春になったら父上に手配を頼んでいた新しい馬も届くはずだし、今から楽しみだ」


「え? 新しい馬?」


「あー、言いそびれてたっけかな。入学して三年経って、俺たちもかなり背が伸びただろ? いまの愛馬じゃ、俺の体重を受け止めるのにそろそろ骨が折れそうだからさ。実家に戻して、もう少し体格のデカい馬に替える時期かと思って」


「言われてみれば、そんな頃合いだね。……僕も真似して、父様に頼んでみようかな」


「そうしとけ、そうしとけ。んで、そのうち新調した馬で遠乗りでも行こうぜ」


「ふふ、今から春が待ち遠しいよ」


「リュシアンさんの新居訪問も待ってるしなー。転居祝いも考えないとだし――」



雑務に胃痛の種、それに春の楽しみ。いろいろ抱え込んだまま、俺たちは端正に仕立てられた学士衣の裾をなびかせて正門をくぐるのだった。


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