幼馴染
「クロード、手を貸して」
俺は、シーツに縋り付いているクロードの手を取り、握った。
「懐かしいな。昔はよく、こうして布団にもぐってるクロードと手を繋いでたの、覚えてるか?」
クロードは、俺の言葉に俯くように頷いた。
「あのころの俺たちは、まだ幼くて―――――」
◇◇◇
神胤諸公国連合の筆頭国であるレオポルド大公国。その君主たる大公家は、「太陽光と大気励起の神」に連なる神胤の家系だ。
その影響もあり、レオポルドには陽光や大気にまつわる力を受け継ぐ貴族家が多い。
俺とクロードの家系もそうだ。
クロードは、陽光を放出する能力に長けた血統魔術一門。
そして俺は、陽光を吸収する能力に長けた血統魔術一門。
幼い頃のクロードは、大きすぎる力が安定せず、よく寝込んでいた。
その話を耳にした俺の父が、同じ年だし相性が合うかもしれないという事で、ヴァルテンベルク侯爵家に俺を連れて行ったのだ。
そう、クロードの溢れ乱れる力を、俺なら丁度よく吸収できるのではないか、という事でだ。
初めて会ったクロードは、少し熱があるのか、赤い顔をしてベッドの上で起き上がっていた。
それでも、陽光を表すかのように輝く金髪と、全てを見通すかのように澄んだサファイアブルーの瞳は、まったく損なわれていなかった。
俺はその美しさに、幼心だからこそ純粋に、捉われてしまったんだ。
まるで大事な大事な、決して傷つけてはいけない宝物を見つけたかのような気持ちだった。
「ぼく、ルークだよ!はじめまして!」
「ぼく、クロード……。お客さま?」
「父さまに、新しいお友だちのお家に行くよ、って連れてきてもらったんだ!」
「お友だち……?お友だちになってくれるの……?」
「そうだ!今から友だちだ!」
俺がそう言うと、クロードは瞳を輝かせながら「よろしくね」と照れくさそうに言ったんだ。
俺はその、きらめく美しい瞳をもっと近くで見たいと思ってしまって――
「うわー!きらきら!きらきらだね!もっと良く見せて!」
遠慮なくクロードのいるベッドに乗り上げ、クロードに触れた。
その瞬間、違和感というか、不快感というか、何か正しくないものを感じた。
子どもの感覚だが、とにかくよくわからないけど、消さなければいけないもの。
血統魔術は、知識ではなく生まれ持った才能に左右されるものだ。
クロードに触れた事で、俺の能力が反応したのだ。父の言うところの「相性」もあったのかもしれない。
「なんかやだな、これー」
えい、っと俺はふんばるように、感覚でその「いやなもの」を無くそうとした。すると――
「ん?あれ?からだの中のいやなの、なくなったかも……」
クロードの体内で制御しきれず、陽光として溢れかけていた力を、俺が無自覚に吸収したようだ。
そこからは、怒涛の展開だ。
控えていたクロード付きの従者が、クロードの体調の変化に気づき、ヴァルテンベルク侯爵へ報告。
俺の能力があれば、クロードが健康に過ごせると知り、侯爵は俺の父に頭を下げる。
俺の父は、もとよりそのつもりだったらしく、二つ返事で了解したんだ。
もちろん、善意のみってわけではない。
クロードが落ち着くまで俺を預ける代わりに、侯爵家嫡男としての教育をクロードと共に受けさせる。それが父の出した条件だった。
『放出』と『吸収』の二大血統が手を取り合っていると見せつけるのは、派閥抗争への強力な牽制にもなる。俺たちが同じ屋根の下で学んでいるという事実そのものが、『両家の絆は揺るぎない』と連合内に誇示する格好の材料になるわけだ。
普通なら、同格の嫡男を相手の屋敷に預けるなんて真似はしない。下手をすれば、自派閥へ取り込むための『囲い込み』を疑われる。
それでも父は、厳格なヴァルテンベルク侯爵ならそんな卑怯な真似はしないと踏んだらしい。
まあ、父の見立て通り、政治の道具に振り回されることもなく――多分――こうして無事に育ったってわけだ。
◇◇◇
「なぁ、クロード。文字を覚えたての頃はうれしくて、ヴァルテンベルク邸の図書室に一緒によく籠もっていた事、覚えているか?」
家門的なものもあるのだろう、そこには陽光に関する学術書が多く収蔵されていた。
「お前が、ある本を持ってきて言ったんだ。
色は、太陽光の反射や吸収で見えるんだ、って。
そして、俺の髪と瞳の色――黒は、全ての色の光を吸収する、すごい色だ、って。」
クロードの表情は、俯いていてよく見えない。
「クロード、お前の痛みは俺が一緒に吸収してやる。だが、そうやって俺が俺でいられるのは、お前がいてこそなんだよ」
もぞり、とクロードが反応をしたのを見て、ふっと小さく安堵のため息をつく。
「なぁ、そもそも、お前は普段から最悪の事を考えすぎなんだよ。俺達が対立する前提で一人で自己完結するな。それに、いつも一緒に居たいって言ってるのはお前だろ?なのに、お前の方から勝手に離れて行くんじゃねーよ」
「ルーク……」
クロードが、やっとこさ顔を上げてくれた。やれやれ、世話のやける『光の貴公子』様だな。
「おはよう、クロード。執事さんがめちゃくちゃ心配してるぜ? とりあえず、軽く身なりを整えて食堂に来いよ。どうせ食事もしてないんだろ? 俺、何か軽いもの準備するように伝えてくるからさ」
「ルーク、まだ、居てくれる?」
「おう、お前がちゃんと食事を終えるまで居てやるから、食堂で待ってるからな」
俺がそう言うと、クロードは照れくさそうに笑ったのだ。
その瞳は、俺の大好きなきらきらだった。




