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招待状

翌日、早朝。


 クランツベルン家のお屋敷の一室——ミアの自室。


 空間一面に、淡く光る魔法陣が展開されている。


部屋の窓から差し込む朝日が、それを一際美しくさせ、幻想的な光が満ちている。


 床には魔法式が描かれた円環が。

 壁にはそれの補助式のようなもの。

 そして空中には、幾重にも重なった魔力の流路。


「……ここをこうして……」


 ミアは円環の真ん中に立ち、指先で空間をなぞる。


 すると、それに応じて魔力が形を変える。

 一本の流れが分岐し、二つに分かれ、再び一つに収束する。


「出力は足りてるはず……でも……」


 ぶつぶつと呟きながら、式を組み替えていく。


 そのとき。


「朝から面倒くせぇことやってんな」


 集中しているリンの後ろから声が響く。


「うわっ!?」

 ミアは振り返る。


「グラ姉!? ノックして!」


「したって」

「してないでしょ絶対!」


 軽口を交わしながらも、グラ姉の視線はすでに別のところにあった。


 ——魔法陣。


 正確には、その“構造”だ。


「……ほう」


 一歩、近づく。


 視線が走る。

 外周、内周、接続点、魔力の流速。


 そして——


「二重循環式、か」


 ぽつりと呟いた。


「え?」


「普通は一本だ」

 グラ姉は床の式を指差す。


「魔力は中心から外に流すか、外から中心に集めるか。そのどっちかだ」


「うん」


「だがこれは違うな」


 指先で空中の式をなぞる。


「流れが途中で“分離”している」


 ミアの組んだ魔法式では、魔力が一度二つに分かれていた。


 それもただの分岐ではない。


「……性質ごと分離してるな」


「……そこまで分かる?」


「分かるに決まってんだろ」


 グラディウスは鼻で笑う。


「こっちは“圧縮系統”」

「で、こっちは“拡散系統”ってとこか」


 真逆の性質。


 本来なら、同時に存在すれば干渉し、崩壊する。


「普通なら暴走する式だな」


「だから——」


 ミアが言葉を継ぐ。


「一回完全に分けた」


 頷くグラ姉。


「ただ分けただけじゃ終わってねえ」


 次に指したのは、中心部。


 そこには、極めて複雑な接続式があった。


「再結合してるな」


「うん」


「しかも、“均衡条件付き”で」


 ミアの式では、二つに分離された魔力は再び一つに戻る。


 だがそれは単純な合流ではない。


「片方が強すぎたら、もう片方が補正する」

「完全に“共存”させてる構造だ」


 グラ姉は言い切る。


 ミアは少しだけ目を見開いた。


「……そこまで?」


「当たり前だろ」


 グラ姉は一歩引いて、全体を見る。


「これは安定化の式じゃないな」


「え?」


「“衝突を避ける”んじゃない」


 ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「“衝突するものを成立させる”式だ」


 ぴたりと、核心を突く。


 ミアは一瞬だけ黙って——


「……うん」


 小さく頷いた。


 隠さなかった。


「性質が違うもの同士ってさ」


 ミアは空中の式を見上げる。


「無理やり合わせようとすると壊れるでしょ?」


「当たり前だろ」


「でも」

 指を軽く動かす。


 分かれていた流れが、ゆっくりと交わる。


「一回ちゃんと分けて」

「お互いの形を保ったまま戻せば」


 魔力はぶつからず、並び立つ。


「壊れない」


 ミアは静かに言い切る。


 グラ姉はそれを見て——


「……で?」


 少しだけ口角を上げた。


「それを何に使う」


 分かっているくせに聞いている。


 ミアは一瞬だけ視線を逸らす——


 でも、逃げはしない。


「魔族と人間」


 はっきりと言った。


「魔力の質、全然違うでしょ」


「……ああ」


「だから今は、ぶつかるしかない」


 少しだけ、声が落ちる。


「でも——」


 再び顔を上げる。


「こうやって“成立させる方法”があれば」


 式を指差す。


「戦わなくてもお互い並べるじゃない」


 静かな声だった。


 けれど、その奥には確かな意志がある。


 グラ姉はしばらく何も言わなかった。


 ただ、ミアを見つめる。


 そして——


「……ははっ」


 小さく笑った。


「なるほどな」


「何?」


「子の魔法陣の意味が分かった」


 目を細める。


「お前、最初から“制御”する気ないだろ」


「え?」


「暴走を抑えるんじゃない」


 はっきりと言う。


「“暴走しない自然な状態を作る”ってことか」


 ミアは少しだけ考えて——


「……そう」


 曖昧に笑った。


 グラ姉は肩をすくめる。


「めんどくさいこと考えてるんだな」


「ロマンだよ?」


「違うな」


 即否定される。


「思想だろ、それは」


 ミアは一瞬だけ、言葉に詰まった。


 そして——


 小さく笑った。


「……かもね」


グラ姉はしばらく黙っていたが——


「……はっ」


 小さく笑った。


「面白いこと考えてるじゃねえか」


「でしょ?」


「成功するのか?」


「するまでやる」


 その答えに、グラ姉は少しだけ目を細めた。


「……あいつに似てきたな」


「え?」


 グラ姉は一度だけ、式に視線を戻す。


「“相反するものをねじ伏せるんじゃなく、成立させる”……か」


 ぽつりと呟く。


「昔、同じこと言ってたやつがいた」


「……父様?」


 ミアの問いに、グラ姉は少しだけ笑う。


「さてな」


 はぐらかす。


 だがその目は——ほんの少しだけ懐かしそうだった。


(……父様)


 ミアは小さく息を吐く。


 自分の考えていること。

 やろうとしていること。


 それはもしかすると——


(父様と、同じ……?)


 ほんの一瞬、そんな考えがよぎった。




 その時。


 コンコン、と今度はちゃんとノックが響いた。


「ミア様」


 デゼヌの声。


「どうぞー」


 扉が開く。


「王城より招待状が届いております」


「招待状?」


 デゼヌは丁寧に封筒を差し出した。


 それは重厚な紙で作られており、王家の紋章が刻まれている。


 ミアはそれを受け取り、訝しげに開封する。


 中には——


「……誕生日パーティー?」


「はい」

「レオンハルト殿下の生誕記念祝宴でございます」


(うっわ…めんどくさそうだな)


 ミアは内心で即座に判断した。


「断れる?」


「できません」


「だよねー……」


 肩を落とす。


 だが——


「なお」


 デゼヌが一瞬だけ間を置いた。


「当日は、各国からの来賓も出席予定とのこと」


「へぇ」


「その中には——」


 ほんのわずかに、声を落とす。


「“クランツベルン家当主”としてのご出席も含まれております」


「……え?」


 ミアの動きが止まる。


「ちょっと待って」

「それって——」


 ゆっくりと顔を上げる。


「父様も来るの?」


 デゼヌは静かに頷いた。


「はい」


 その一言で、空気が変わる。


「——人間に変装して、ではございますが」


 グラディウスが、くくっと笑った。


「来るぞ、化け物が」


「ちょっと!言い方!!」


「事実だろ」


「まあね!!」


 ミアは頭を抱えた。


(最悪だ……)


 いや、違う。


(絶対、面倒なことになる気がする……!)


 レオンハルト。

 セリスティア。

 そして——魔王である父。


 全部が一箇所に集まる。


「……終わったかも」


「始まったんだよ」


 グラディウスが楽しそうに言う。


 ミアはじっと招待状を見つめた。


 そこには、美しくこう書かれている。


 ——祝宴へのご招待。


 だがミアには、それが


(地獄の戦場への招待状にしか見えない……)


 そうとしか思えなかった。


「お嬢様、そろそろ学園へと向かうお時間です。」


「朝食を済ませて、支度を」


デゼヌの言葉で我に返る。


とりあえず頑張ろ…


そう言って学園へと繰り出すのだった。

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