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大魔女グラディウス

屋敷の廊下は、いつもより静かだった。


 いや——正確には、“静かすぎた”。


 普段なら使用人たちの気配や、わずかな物音があるはずなのに。


 それが、ない。


「……完全に侵入されてるね」


 ミアは小さく呟いた。


 その声には、昼間の柔らかさはない。


 代わりにあるのは——


 わずかな高揚。


「警戒を」


 ルシナが低く言う。


 デゼヌも静かに頷き、一歩前に出た。


 キュリルはすでに人間から蝙蝠へと姿を変え、天井にぶら下がっている。


 ミアはゆっくりと歩き出した。


 足音はほとんどしない。


 廊下の奥——


 重厚な扉が、わずかに開いているのが見えた。


「……あそこだね」


 ミアは目を細める。


 あの部屋は——


 屋敷の中でも重要な場所の一つ。


 魔族に関する資料や、魔法関連の書物が集められている。


(狙いはそこ、か)


 分かりやすい。


 でも、それだけに——


(油断はできない)


 ミアは扉の前で足を止めた。


 そして——


 屋敷の奥、魔導書庫。


 扉が開けた瞬間——空気が張り詰めた。


「……いらっしゃい」


 ミアは静かに言った。


「勝手に入るなんて、礼儀がなってないよ?」


 その声に応えるように——


 奥の影が、ゆっくりと動いたかと思うと。


 ミアの首が飛んだ。


 デゼヌやルシナが反応できない速度。


 目の前には黒いローブの人物。


 フードで顔は見えない。


 だが、その魔力。


 明らかに——魔族。


「久しいな」


 ゆっくりと、フードが外される。


 現れたのは——妖艶な女性だった。


 長い髪、鋭い瞳。


 そして、濃密すぎる魔力。


「我が名はグラディウス」


 それを聞いた瞬間、空気が一瞬で変わる。


 デゼヌたちの気配が、ぴりっと鋭くなる。


 ミアは——


 わずかに笑った。


「久しぶり」


 飛ばされた首を拾い、胴体にくっつけながら一歩、前に出る。


「それで?」


「グラお姉さん、わざわざ不法侵入してまで何しに来たの?」


 グラお姉さん…そう呼ばれた女性はじっとミアを見つめる。


 試すように。


 測るように。


「命を受けてな」


 短く言う。


「お前の力量を見極めてこいと」


「父様から?」


「ああ」


 その一言で、確信する。


(……あーなるほど)


 ミアは内心で納得する。


(人間の国でうまくやってるか心配してるのかな)


「それで何するの?」


 ミアは軽く首を傾げる。


「見て終わり?それとも——」


 にやっと笑う。


「試す?」


 その瞬間。


 グラお姉さんの口元が、わずかに歪んだ。


「やはり話が早くて助かるよぉ!バカ弟子!」


 ——来る。


 直感が感じ取る。


「下がってて」


 ミアが小さく言う。


 デゼヌたちは慌てて後方へ下がった。


 次の瞬間——


 グラお姉さんの指が、わずかに動く。


 それだけで。


 グラお姉さんの後ろに膨大な数の魔法陣が展開される。


 詠唱なし。


 高速展開。


「——《黒雷》」


 轟音。


 黒い雷が、一直線にミアへと走る。


 速い。


 普通なら反応できない。


 だが——


「おっそ」


 ミアは軽く手を振った。


 バチン、と音がして雷が霧散する。


 相殺ですらない。


 “消した”。


 グラお姉さんの目がわずかに細くなる。


「……マジか…これならどうだ…」


 今度は、目で追えない数の魔法陣。


 全てが同時に展開される。


「《重圧》《拘束》《崩落》」など効果は様々なようだ。


 床が歪む。


 空気が沈む。


 見えない鎖が空間を縛る。


 複合魔法だ。


(さっすが師匠)


 ミアは少しだけ嬉しそうに笑う。


「じゃあこっちも」


 ミアが指を軽く鳴らす。


 ——何も起きない。


 ように見えて。


 次の瞬間。


 グラお姉さんの魔法が、すべて“逆流”した。


「なっ!?——」


 空間がひっくり返る。


 魔力の流れが反転する。


 術者に返る構造。


 グラお姉さんは即座に後退し、強制的に魔法を解除した。


「……魔力制御を奪ったか」


「うん」


 ミアはあっさり頷く。


「そのくらいできないと困るし」


 さらっと言う。


 だが内容は異常。


「チート野郎がっ……!」


 グラお姉さんの目に、明確な敵意が宿る。


 次の瞬間。


 魔力が爆発的に膨れ上がる。


「お前なんか…この国ごと——消しとべっ」


 背後に巨大な魔法陣。


 幾何学的な紋様が重なり合う。


 空間が歪む。


「《終焉の裂け目》」


 黒い裂け目が開く。


 そこから溢れ出す、異質な魔力。


 明らかに“滅ぼし”に来ている術。


「ちょっと本気じゃん」


 ミアが驚く。


「なら私も本気………くらえっっっ!!!」


 ミアが一歩、踏み込む。


 その瞬間。


 ミアの魔力が、音速を超えて静かに広がる。


 魔法同士がぶつかる。


 圧と圧が。


 空間が軋む。


 そのとき——


「あぶなっ…」


 ミアが間一髪のところで衝撃で飛んできた魔法を避ける。


「ちっ…くそが」


 相変わらずグラお姉さんは口が悪い。


 しばらくして


 黒い裂け目が、音もなく閉じた。


 二人の魔法が相殺したのだ。 


完全消滅。


 痕跡すら残らない。


 しばらくお互い見つめ合って、静寂が流れる。


 グラお姉さんは——


 ゆっくりと、息を吐いた。


「……想定以上だ」


 そして。


「認めてやる」


 そう言って微笑む。


 屋敷の屋根はなくなり、月明かりに照らされたグラお姉ちゃんは、とても綺麗に見えた。


 そんなことを思っていたのだが――


「貴様は、父である魔王ゼルネス様の後継に相応しい」


 唐突な言葉にミアは一瞬だけぽかんとして——


「え……ありがと…」


「でもそんな魔王みたいなことできないよ?」


 ミアが渋ったような顔で返事する。


「え?」


 今度はグラお姉さんの方が固まる。


「だって本当はめんどくさいし?」


 ミアは試すように言う。


「……」


「今楽しいこといっぱいあるし?」


 魔法に魔法、そして魔法。


 優先順位は明確だった。


「……」


 その沈黙の後。


 グラお姉さんが、小さくつぶやいた。


「魔王ごっこ…」


 そう呟いてグラお姉さんはおもむろに立ち上がった。


 ミアが慌てて引き留める。


「えっ…ちょ…おまっ何で知って…」


「お父さんに言っちゃおうかなぁー」


 悪魔のような笑いを浮かべながらそう答えるグラお姉ちゃん。


「え?」


「ここに居座る」


「えぇ!?」


 ミアが驚く。


「ちょうど良いし」


 グラお姉さんは周囲を見回す。


「環境も悪くない」


「いやいや勝手に決めんな!?」


「問題あるか?」


「あるよ!?」


 全力ツッコミ。


 だが——


 デゼヌが一歩前に出た。


「……いえ」


 静かに言う。


「戦力としては歓迎すべきかと」


「はあ!?」


「ミア様の魔法の制御の練習になります」


「……」


 デゼヌがこちらを問い詰めるように見てくる。


 ミアは頭を抱えた。


 そして——


「……はぁ」


 諦めたようにため息をする。


「変なことしないでよ?」


「善処しよう」


「絶対しないって言って!?」


「善処しよう」


「もういいや……」


 ダメだこいつ。


 こうして——


 大魔女グラディウスは。


 半ば強引に、ミアの側に居座ることになったのだった。



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