第39話 最終実習
共同運用の終了が正式に発表された翌日。
学園長代理は、全学年を実習場に集めた。
ざわめきの中、静かな声が響く。
「本日、最終実習を行う」
空気が、張りつめた。
「条件は一つ。解析補助なし」
◆
ざわめきが大きくなる。
「警告装置も使わない」
「判断は、現場責任者が行う」
「教師の介入は、致命的状況のみ」
つまり。
完全な“自分たちの判断”。
◆
アルトは、実習場の端に立っていた。
手元の解析端末は、接続していない。
何も表示されない。
不思議な感覚だった。
いつも“見えていた”歪みが、今日は見えない。
◆
実習開始。
放逐される模擬魔獣。
班が展開する。
最初の数分は、順調だった。
だが――。
「……待て」
誰かが、迷う。
「行けるだろ?」
「いや、今の揺れ……」
判断が遅れる。
詠唱が半拍ずれる。
小さな爆発。
一人が転倒。
致命傷ではない。
だが、空気が乱れる。
◆
教師は動かない。
アルトも、動かない。
歯を食いしばる。
ここで口を出せば、
今までの積み重ねが崩れる。
◆
「……一旦、下がれ!」
別の班の代表が叫ぶ。
「出力落とせ! 循環が重い!」
その声に、別の班が反応する。
「了解、詠唱止める!」
「距離取れ!」
連鎖的に、判断が繋がる。
完璧ではない。
遅い。
ぎこちない。
だが。
止まった。
◆
魔力が、安定する。
干渉は拡大しない。
暴走も起きない。
数分後、実習は再開される。
今度は、さっきより速い。
誰かが、誰かの判断を見ている。
考えている。
◆
最終討伐が完了したとき。
実習場に、静かな達成感が広がっていた。
大事故は、ない。
軽傷は数名。
だが、誰も“装置のせい”にはしない。
◆
学園長代理が、ゆっくりと口を開く。
「……見たか」
教師たちを見る。
「解析がなくても、判断は育つ」
ローディアスが、小さく頷いた。
「時間はかかるがな」
◆
実習後。
何人かの生徒が、アルトに近づいてきた。
「……前、止めた理由、分かった気がする」
「怖かったけど、考えた」
「警告がなくても、分かる瞬間があった」
アルトは、静かに聞いていた。
◆
リィナが、少し離れた場所から見ている。
「……効率は悪い」
近づきながら言う。
「でも、壊れない」
アルトは、小さく笑う。
「それでいい」
◆
夕暮れ。
実習場に長い影が伸びる。
解析がなくても、
判断は残った。
委ねた時間は、
無駄じゃなかった。
アルトは、胸の奥で確信する。
止める力は、
止めなくても、
残る。
それが、学園の答えだ。
あとは――
制度として、どう残すか。
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