第38話 線を引く
共同訓練の報告会は、翌日に行われた。
学園と軍、双方の代表が揃う。
形式上は検証会議だが、実質は評価の確認だ。
◆
「訓練は成功だ」
ハーグ准将が、資料を閉じる。
「討伐時間は想定より短縮。解析の警告も機能している」
事実だけを並べれば、否定の余地はない。
「重傷者は出たが、戦術的には許容範囲内」
その一文が、静かに落ちる。
学園側の空気が、わずかに重くなる。
◆
「警告後の判断については?」
ローディアスが、低く問う。
「適切だ」
即答だった。
「干渉の可能性はあったが、撃破を優先する合理性があった」
合理性。
効率。
成果。
軍は、間違っていない。
◆
アルトは、ゆっくりと立ち上がった。
「質問があります」
視線が集まる。
「警告が出た時点で、一度引く選択はなかったのですか」
ハーグ准将は、表情を変えない。
「なかった」
「理由は?」
「戦闘は流れだ。止めれば、別のリスクが生じる」
即答。
理屈は通っている。
◆
「……分かりました」
アルトは、短く言った。
そして、続ける。
「共同運用から、離脱します」
室内の空気が止まった。
◆
「理由を聞こう」
准将の声は低い。
「俺の解析は、止めるためのものです」
迷いはない。
「警告を出すだけなら、別の装置で代用できる」
「だが、君の警告は有用だ」
「有用でも、使い方が違う」
視線を真っ直ぐ向ける。
「止められる未来を、選ばない前提で使われるなら、それは俺の解析じゃない」
◆
ざわめき。
教師陣も、息を呑む。
学園長代理が、ゆっくりと言う。
「……学園としても、共同運用を見直す」
明確な決別ではない。
だが、距離を取る宣言だ。
◆
「世界は、理想では動かない」
ハーグ准将が、静かに言う。
「止められない判断もある」
「犠牲を受け入れなければならない局面もある」
アルトは、頷いた。
「知っています」
否定しない。
「でも、全部をその論理に合わせたら、止める技術は育たない」
◆
沈黙が落ちる。
軍は合理的だ。
学園は教育の場だ。
目的が違う。
「……分かった」
准将が、短く言う。
「君の線は理解した」
完全な納得ではない。
だが、敵意もない。
「解析の導入は、軍独自で進める」
「それも、理解しています」
アルトは、静かに答えた。
◆
会議が終わり、学園に戻る馬車の中。
解析運用班は、誰もすぐには話さなかった。
「……これで、よかったの?」
ミナが、かすかに尋ねる。
「正解かどうかは分からない」
アルトは、正直に言う。
「でも、線は引けた」
ガルドが、笑う。
「中途半端じゃねえな」
セリアも、小さく頷く。
「ええ。はっきりした」
◆
夜。
アルトは、ログに記す。
《共同運用・終了》
成果はあった。
損失もあった。
どちらも、否定しない。
だが――。
解析は、免罪符にはしない。
止めるための力は、
止められる場所で使う。
それが、俺の線だ。
◆
窓の外。
学園の灯りが、静かに揺れている。
世界は、速く回る。
合理的に動く。
それでも。
ここでは、
立ち止まれる。
次は、学園の番だ。
最後の問いが、
静かに近づいていた。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




