第37話 歪んだ成功
軍との共同訓練は、三日後に実施された。
場所は学園外縁部の演習地帯。戦場ではないが、訓練用の魔獣放逐区域だ。危険度は中程度――学園の実習より、明らかに一段重い。
アルトは、結界端末の横に立っていた。
解析は接続済み。
警告は出せる。
だが、止める判断には関われない。
◆
「開始する」
軍側指揮官の号令。
若い兵たちが展開する。
動きは速い。迷いがない。
魔獣が三体、放逐される。
風属性二、地属性一。
アルトは即座に兆候を拾った。
「……北側、循環乱れ。三十秒以内に干渉」
記録官に伝える。
警告が指揮官へ共有される。
「把握」
指揮官は、短く返す。
だが、命令は変わらない。
「前進、継続」
◆
迷いはない。
判断は速い。
兵たちは突撃し、二体を瞬時に処理する。
成果としては、理想的だった。
だが――。
「干渉、増幅」
アルトの声が低くなる。
「今なら止められる」
だが、言葉は記録官止まりだ。
指揮官が、魔獣への最終攻撃を命じる。
瞬間。
魔力が跳ねた。
◆
爆ぜる音。
地属性の残滓が反応し、衝撃が走る。
兵の一人が吹き飛ぶ。
もう一人が膝をつく。
「……収束!」
軍側の制御魔法で、事態は即座に抑えられた。
大事故ではない。
死者もいない。
だが、担架が二つ運ばれていく。
◆
訓練は、成功扱いだった。
討伐時間は短い。
成果は上々。
報告書には、こう記される。
《解析による警告は正常に機能》
《指揮判断は合理的》
アルトは、その文字を見つめていた。
◆
「……警告は出ていた」
指揮官が、淡々と言う。
「判断は、戦術上妥当だ」
誰も反論しない。
反論できない。
成果は出た。
重傷だが、想定内。
軍の論理では、失敗ではない。
◆
帰路の馬車。
解析運用班は、無言だった。
最初に口を開いたのは、ミナだった。
「……止められましたよね」
小さな声。
アルトは、答えない。
ガルドが、拳を握る。
「警告は出てた。なのに」
「出しただけじゃ、足りない」
セリアが、低く言う。
◆
アルトは、窓の外を見ていた。
確かに、成果は出た。
軍のやり方は、間違っていない。
だが。
止められた未来が、
選ばれなかった。
そしてその責任は、
誰にも残らない。
◆
夜。
ログを開く。
《共同訓練・結果》
成功。
重傷二名。
死亡なし。
評価:良好。
その下に、強く書き足す。
――俺の解析は、ここでは完成しない。
警告だけでは、足りない。
止める判断に触れなければ、
ただの“観測装置”だ。
◆
アルトは、ペンを置いた。
外の世界は、速い。
合理的で、冷酷だ。
それを否定はできない。
だが。
それに合わせる必要もない。
次の会議で、答えを出す。
これは、共同運用の問題じゃない。
――線を引くかどうかの問題だ。
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