第36話 条件交渉
交渉の場は、学園内でもっとも形式張った会議室だった。
円卓。
壁際には記録官。
空気は、張りつめている。
向かいに座るのは、ハーグ准将を中心とした軍側代表。
学園側は、学園長代理、ローディアス、ノイン教授。
そして――アルト。
◆
「結論から聞こう」
ハーグ准将が、低く切り出した。
「学園は、我々の試験運用を断った。だが、完全拒否ではないと聞いている」
「はい」
学園長代理が応じる。
「代替案を提示します」
視線が、アルトに集まった。
――ここからは、俺の役目だ。
◆
「条件は、三つです」
アルトは、静かに言った。
「一つ。解析は“警告だけ”で終わらせない」
「二つ。停止判断に、必ず現場責任者が関与する」
「三つ。停止の記録を、必ず後から検証する」
ハーグ准将が、眉をひそめる。
「判断速度が落ちる」
「落ちます」
即答。
「ですが、判断理由が残ります」
沈黙。
「それは、戦場では贅沢だ」
「承知しています」
アルトは、視線を逸らさない。
「だから、“戦場”では使わないでください」
◆
空気が、一瞬、凍った。
「……何だと?」
「提案するのは、後方支援・訓練・防衛任務限定の運用です」
資料を差し出す。
「突発性より、持続性が重視される現場」
「判断の共有が、戦力になる場所」
軍側の一人が、低く笑った。
「ずいぶん、用途を狭めるな」
「はい」
アルトは、頷く。
「その代わり、事故率は下がる」
「判断力は、蓄積される」
◆
ハーグ准将は、しばらく資料を眺めていた。
「……君は、軍に向いていない」
「よく言われます」
小さな笑いが、会議室に落ちる。
だが、准将の表情は崩れない。
「こちらの条件もある」
低い声。
「解析の警告は、我々の指揮系統に組み込む」
「最終判断は、現場責任者だが、命令には従う」
「それは、学園内と同じです」
アルトは、すぐに返した。
「責任線が、現場に戻るなら」
◆
ローディアスが、静かに口を挟む。
「判断を奪わない。それが、解析運用の最低条件だ」
ハーグ准将は、腕を組んだ。
長い沈黙。
記録官のペンの音だけが、響く。
◆
「……限定的に、受け入れよう」
ついに、ハーグ准将が言った。
「訓練・後方支援・防衛任務に限る」
「実地試験は、軍側主導ではなく、共同運用」
学園長代理が、静かに息を吐く。
「ありがとうございます」
「勘違いするな」
准将は、アルトを見る。
「これは、譲歩だ。信頼ではない」
「十分です」
アルトは、はっきりと答えた。
「信頼は、積み重ねるものですから」
◆
会議が終わったあと。
廊下に出た瞬間、アルトはようやく息を吐いた。
「……よく通したな」
ローディアスが、低く言う。
「通ったのは、思想じゃない」
アルトは、首を振る。
「使い道です」
◆
夕暮れ。
学園の中庭で、解析運用班が集まっていた。
「……受け入れられたんですね」
ミナが、まだ信じられないように言う。
「限定付きだけどな」
ガルドが笑う。
「でも、丸呑みじゃねえ」
セリアは、アルトを見る。
「これで、終わり?」
「いいや」
静かに答える。
「これで、始まりだ」
◆
アルトは、ログに一行だけ書いた。
《条件交渉・合意》
力は、使い方で意味が変わる。
だから、用途を決める。
解析は、
万能じゃない。
最適解でもない。
だが――。
選ばせる余地を、
奪わない限り。
この歯車は、
まだ壊れずに回る。
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