90話 「恋愛戦争勃発」①
河原で夜遅くまで遊んだ翌々日。学校は休みの土曜日。温かいお布団の中で惰眠を貪り、寝返りをうつ。少し空いた隙間から冷気が入り込み、身震いすると急いで毛布を体に巻き付ける。時計を見てみると時刻はまだ朝の9時30分。二度寝を決め込もうとスマホを置いた瞬間、着信音が鳴った。
「あ〜?朝早くから電話してくんじゃねえよ。どこの誰だよ。営業の電話だったら殺すぞ」
などとぼやきながら見てみると、公衆電話からだった。
「はい間違い電話おつ」
電話を拒否してまたスマホを置く。
すると置き終わらぬうちにまた着信が。
「ああ〜?」
見るとまた同じ番号からだ。
「はいオレオレ詐欺だめっ」
またもや拒否してスマホを置こうとするとまたかかってくる。
「ぐぬぬぬぬっ。しつこいやつだ。人の眠りを妨げおって。大体時間が早すぎるだろ
うがよ。社会人だったらスマホ壊すレベルでぶちぎれてるぞ」
文句のひとつでも言ってやろうと出ることにした。
「もしもし!?どちらさまでっ!?」
「なんで拒否するのさっ!番号打つの大変なんだからねっ!自分でいつでも電話しろって言っておいてひどいよ!」
怒鳴ろうと思っていたが逆に怒鳴られ怒りが引っ込む。
「オタクの育毛剤は効かないからもう買わないって言ったでしょうが!」
「誰と間違えてるのさこのハゲ!僕の言った言葉聞こえなかったの!?」
「最近の営業は馴れ馴れしいな。あーあっちの方か!だーかーらー、サプリメントごときじゃ俺の悪玉菌には勝てないの!こいつらがん細胞くらい凶悪でタチ悪いの!どうしても買わせたいなら仙豆持ってこい仙豆!ったく、しつこいやつらだ。一体どこから電話番号知ったんだよ」
「君一体なんの営業から電話来てるの!?あんまり聞いた事ないんだけど!?あんまりお金ないからそろそろ話進めさせてもらっていいかな!?営業じゃないって言ってるよね!?僕だよ僕!」
「なんだとうとうぼくぼく詐欺が始まったか。絶対こっちの方が金持ちのお坊ちゃんたちっぽくて富裕層から詐欺れると思ってたんだよなー。俺ん家のトイレットペーパーは死んでもやらんからな!死ぬ気でかかってこい!」
「だから違うんだって!!君日本語分かる!?っていうかわざとだよね!?さすがにもう君のやり口は分かってるんだよ!もうお金ないの!次ふざけたらおじさんの使用済みのカツラ盗んできて口につっこむよ!?」
「あーその声は白銀かー。悪い悪い寝ぼけてて分からないふりしてたんだ。あっはっはっ」
「引っぱたいていいかな!?」
電話越しでも怒っている顔が容易に浮かんでくる。
「すまんすまん楽しくてついな。で?何か用か?」
「まったく。要件言うのにどれだけ手間かけさせるのさ。ふんっ」
「怒んなよ。冗談だろ。電話代はあとで払うから。大事な話だったか?」
「ううん。ちょっと話したいなって思って。会えない?」
「えー。ねむいさむいだるい。やだ」
「女の子が勇気出して誘ってるんだからそんな正直すぎる最低な理由で即答しないでよ!」
「ていうかお前電話かけてくるのが早すぎるんだよ。まだ朝だぞ?土曜の朝は電話しちゃダメって暗黙のルール知らねえのか?」
「それは悪かったけど、こっちにだって事情があったんだよ。ねーお願い今日だけ頑張って来れない?」
「それがよー、なんか布団が俺のこと離してくれねえんだよ。なんか離れたくないって言っててさー、こいつ寂しがり屋だから可哀想じゃん?優しい俺は見過ごせねえのよ」
「だったらさっきおちょくったこと許してあげないよ。それだけじゃないよ。これから給料は全部君のモーニングコールに使うからね。公衆電話だから着信拒否もできないよ。いいのっ!」
「わーったよわーった!ったくいい性格してるぜお前。どこに行けばいい?」
「やったー!じゃあっ、君と僕のお家のちょうど中間地点くらいのところにしない?」
「いいけど、何時だっけ?」
「1時間後はどう?」
「OK。で、それってどこだ?」
「うーんと、喫茶店になるね。大丈夫かな?」
「了解。じゃあとでな」
「はーい!待ってるねー」
電話を切ると、気力をふりしぼりなんとか布団から出る。
身支度して着替えると待ち合わせ場所に向かう。
「ようお待たせ」
「やあっ。一昨日ぶりだねっ」
なんかやけに上機嫌な白銀。
「なんか、化粧してるか?」
「えっ!?な、なんで分かったの!?絶対分からないと思った!?」
「なんかいつもより唇赤いし、まつ毛巻いてるし、なによりなんかいい匂いするしな」
「〜っ!べ、別に深い意味はないんだよっ!?女の子は可愛い自分が好きだから!ただそれだけだからねっ!?」
「ふーん。そんなもんか。おっ、俺も今日はでっかいの取れたぞっ」
「君びっくりするくるいいつも通りだね。髪もてっきとうに上にくくってるし。返しもそれってほんとにびっくりだよ。まあいいんだけどさ」
しらーっとした目で見てくる白銀。
「それで?今日はなにか用なのか?」
「ううん。別に用はないよ。ちょっと君と話したいなーって思ってさ」
「それだけのためにこの俺を布団からひっぱりだしただと?」
「なに?なにか文句?」
電話するジェスチャーで脅してくる白銀。卑怯な真似を。
「いやー、俺もちょうどお前と話したいと思ってたんだよ。聞いてくれよここのトイレがさー」
「女の子とのトークデッキがそれって終わりすぎだよね!?ここ喫茶店なんですけど!?」
「あははっほんとに君はもうっ。ほんとにしょうがないなあ」
やけに嬉しそうにニコニコして、両肘をついて、両手に顎を乗せて見つめてくる。
「なんか今日はやけに上機嫌だな。なにかいい事あったのか?」
「ふふっ。あった!」
「なにがあったんだ?」
「ひみつー」
「んだそりゃめんどくせー」
「あははっ。楽しいねっ」
「なにがだよ」
「世の中の女の子はみんなこんな感じなのかな。こんなに幸せなんだね」
今日は随分幸せそうな様子で、やけに俺の顔を見てくる気がする。
「何の話だよ」
「なんでもないよっ」
「何飲む?」
「あっ。ごめんここにしといてなんだけど僕お金ないや」
「水くせえな。俺がだすから好きなの頼めよ」
「えっ。いや、悪いよ」
「気にすんな今更」
「ほんとに違うんだよっ!?たかる気でここにしたわけじゃないんだ!お互いに近いところにしたくてっ!」
「別に疑ってねえよ。気にすんなって」
「ごめんね?嫌いになった?」
やけに悲しそうな顔で上目遣いで尋ねてくる。
「なるかよこのくらいで。どうしたんだ今日は?いつもらしくないぞ」
「ほんとに?」
「ほんとだよ。食べたいのはあるか?」
「いや、全然お腹すいてぎゅるるるるるる〜」
大きい音が響き渡る。
「あっ、あははっ、あははあっ」
大きくため息を着いてふさぎこむ。
「じゃ、じゃあ、いい?頼んでも」
悔しそうに机に顎を乗せて尋ねてくる。
「おおいいぞ」
「じゃあ、ナポリタンとホットコーヒーお願いします」
てこっと頭を下げる。
「それと?」
「それだけです」
「いや無理すんなって。腹減ってるんだろ」
「減ってないもん!」
ムキになって言い返す。
「どうしたお前マジで。なんか落ちてるもん食ったのか?」
「食べてませんからっ。ほらっ、僕ってこう見えて実は少食なんだよー。ほらっ。僕女の子だからさっ」
などと言ってはにかむ。
「イヤイヤ。無理がありすぎるだろ。何を今更訳の分からんことを」
「いいからっ今日はあんまり食べたくないの!」
「ははーん。分かったぞ。俺ももう昔とは違うからな。生理だろ?」
「1ミリも成長してないし。そのドヤ顔ムカつくから引っぱたいていい?」
真顔で否定される。
「おっとすまん。女の子の日だろ?」
「ほんとに違うからね」
「じゃあなんなんだよ」
「うっ。な、なんとなく、そんな気分なのっ」
「何か悩みがあるなら聞くぞ?」
「君には、言えないよ。でも、だって、可愛くないでしょ?女の子なのにこんなに食べて、変じゃないか。男の子は、食が細くて、ハンバーガーひとつ食べるのに小さな口で一生懸命苦労して食べるような女の子っぽい子が好きでしょ?」
目を伏せて悲しそうにそうこぼした。
「なにを気にしてるのかと思えばそんなことか。あのなあ、別にすべての男がそういう子が好きなわけじゃないと思うぜ?大体お前はお前だろうが。食い意地が張ってて、美味そうなもん見てヨダレ垂らして、幸せそうにほっぺた膨らませて食べるのがお前だろ。俺はそういうところ嫌いじゃないけどな。なんなら俺はいっぱい食べる女の子の方が健康的だし、幸せそうで好きだしな」
「…………」
「なんだか、君はいつも僕の悩みなんかあっという間に吹き飛ばして、ちっぽけなことで悩むんじゃねえって叱ってくれるよねっ。僕は君のそういう所が、ほんとに……」
「お、おう」
「ほんとに………」
潤んだ目にピンク色の頬で俺を見つめてくる白銀。
「お待たせ致しましたー。お先にお飲み物になりますー」
「……はい。ありがとうございます」
複雑な表情で店員さんを見る白銀。
「ありがとうございます」
「で、なんだって?」
「はあっ。なんでもない。第一今言うのは卑怯だもんね。そろそろ来ると思うんだけどな」
「誰がだ?」
「カランカランッ」
入口のドアが開き鈴の音がなり、入ってきたのは二タ見だった。
「……一ノ瀬?」
入口で突っ立ったままこちらを見て固まっている。
「二夕見?あれ?もしかして」
俺は白銀の方を見ると、白銀も緊張した面持ちで唇をかみしめていた。
「なっ、なんでっ、あんたが、い、いるの?休日に二人で……。え?ち、違うわよね?ねえ、一ノ瀬?」
ひどく動揺した様子で何かを呟いている。
「こんにちは二夕見さん。あなたのお家に手紙をいれたのは僕だよ。ここに来てほしいっ呼んだのは僕。とりあえず、その、座らない?」
白銀まで急にピリついたような空気をかもし始める。
「よ、よお二夕見。大丈夫か?なんか様子がおかしいが。調子悪いのか?」
様子のおかしい二夕見の元に行ってみると、すごく深刻な顔をしていた。
「お、おい、マジで大丈夫か?とりあえず座れよ。肩借りるか?」
「パシっ」
近づけた手をはたかれる。落ち着いたのか、今度は警戒色がにじんでいる。
「大丈夫よ。それより、あの子とどんな関係なの?ただの同僚だったら二人で休日に会ったりしないでしょ」
キッと睨みつけるように覗き込んでくる。
「ま、まあちょくちょく飯行ったり、遊ぶ?ってほどでもないが、まあそれなりに縁があるな」
「やっぱり、私の感は間違ってなかったっ」
また何かを呟いていて、唇をキツくかんでいる。
「あの、2人ともそこで立ってると他のお客さんの邪魔になっちゃうから、とりあえず座らない?」
自分で呼んでおいて気まずそうな表情をした白銀が歩み寄ってきて提案する。
「そうだな」
「あの、今日は来てくれてありがとう。改めまして、僕は一ノ瀬くんと仲良くさせてもらってる、白銀ゆきです」
ふたりは向き合うように座り、横の席、2人が見えるところに俺が座る形になってい
る。二夕見に白銀が自己紹介する。
「一ノ瀬くんとは、友達?なのかな?」
恐る恐るといった感じで俺に苦笑いしながら尋ねてくる。
「まあ、そうなのかな」
「です」
二夕見は相変わらず不機嫌そうだ。
「私は二夕見しお。一ノ瀬とは同じ部活で友達っていうか、なんていうか……」
「私たちの関係ってなに?」
横目で恥ずかしそうに俺の方を見ながら問いかける。
「腐れ縁とかでいんじゃね」
「ふんっ」
なぜか肩パンされる。
「なんでさっきから不機嫌なんだよ」
「別に不機嫌じゃないし。勘違いうざ」
などとイライラしている。
「それで、今日はなんで呼んだの?白銀さん」
「えっと、その……」
白銀が言葉につまり、うつむく。
「僕は、変わるんだっ」
そう言って顔をあげた白銀の目には覚悟がにじんでいた。
「僕のことを認識してほしくて。僕は二夕見さんが一ノ瀬くんと仲良いこと知ってる
けど、二夕見さんは僕と一ノ瀬くんの関係を知らないと思ったから」
「関係?」
二夕見の肩がピクっとする。
「お、おいお前機嫌悪いのは分かるけど、白銀にまで当たるなーーー」
「は?」
氷点下のような凍てつく声と目でぶっ刺される。
「な、なんでもないです」
「そう。あんたは黙ってて」
「どういう関係なの?」
「親しい関係だよ。二夕見さんに負けないくらい」
白銀も珍しく、さっきまでのようにおどおどせずに、負けじと強気に言い返す。
「ふーん。そーいうことね」
なにかを理解した二夕見が細めた目で白銀を見据える。
「なーお前らもう少し仲良くだなーー」
「あんたは黙ってて」
「キミはだまってて」
こちらを見もせずに、お互いに睨み合いながら、ピシャリと言い放つ。
「はい」
「いつから仲良いの?」
「初めて会ったのは一ノ瀬くんのお家でかな。あれはたしか5月頃かな。もう半年くらいの付き合いになるんだね」
などといつもとはどこか違うようなわざとらしい笑顔を向けてくる。
「そ、そうな」
「ふーん」
二夕見はというとゴミを見るような目で俺のことを見てくる。
口パクで同じ形のなにかを何度もやってくる。なんか「裏切り者」にしか見えない。
「まあ私はほぼ毎日一緒に部活してるけどね。一緒に花火も見たし」
「ふーん」
今度は白銀がゴミを見るような目で見てくる。
「でもそれって他の人も一緒だよね。僕は基本会う時は二人っきりだけどね」
「っ!」
二夕見がギリギリと歯を鳴らす。俺の方を鋭い目で見て、ほんとなのかと暗に問いかけてくる。
「いや、その、ほら、こいつ貧乏だから飯とかご馳走したりな?な?白銀?」
「まあそうだね。でもそれだけじゃなくて一緒に色んな所にも行ったよね?」
ニコニコといい笑顔でぶっこんでくる。
「パキッ」
二夕見が割り箸を割れ目に沿った縦ではなく、横に割る。
「そ、そうか?で、でもっ、全部たまたま会って成り行きでとかだけどな!?」
「なにさ。じゃあキミは楽しくなかったの?僕と一緒は嫌だったってこと?」
不満そうに睨め着けるように見てくる。
「そ、そうは言ってねえだろ?もちろん楽しかったさ。ただトラブル続きで、今思い返すからいい思い出に思えるってことを言いたかったんだよ!」
適当にごまかしてみる。
「そうには聞こえなかったけどね」
まだ不機嫌そうな白銀。
「でもそれって一ノ瀬に奢らせてるってことでしょ?貧乏なのは分かるけど、ちょっとおこがましくない?一ノ瀬だって学生で、そのうえ一人暮らしなのよ?」
「うっ、そ、それは、そのっ……」
言葉に窮する白銀。
「いやそれは俺が自分から奢ってるんだよ。白銀にたかられたことは一度もねえよ。こいつはいつも遠慮するくらいだ」
「一ノ瀬くんっ」
嬉しそうな白銀。
「っ」
悔しそうな表情の二夕見。
「ていうかそれ二夕見さん人の事言えるの?この前ハンバーガー一ノ瀬くんにねだってたし、普段からおごらせてるんじゃないの?」
「私はそんなことしたことないわよっ!」
「うん?5000円くらいカフェで奢らせれたような……」
「あれはあんたが私に借りがあったからっ!」
「飯1回奢るとは言ったがまさかあんなに出させられるとは思わなかったがな」
「は?あんたさっきからどっちの味方なの?なんで白銀さんは庇うのに私のことは責めるわけ?」
眉をひそめて目を怒らせた二夕見か立ち上がった。
「ちょっとトイレ」
「お、おお」
1分ほどしてLINEがきた。みると二夕見からだった。
「トイレに来て」
と書かれている。ひえええええっ。
恐る恐るトイレに向かうことにした。
「どこ行くの?」
「いやあちょっとトイレに……」
「なら僕も行こうかな」
「いやほら、一応注文待ちだし、一人残ってくれると助かるんだが……。あとでとかでも、ね?無理?」
「むう。わかったよ。いつもみたいにお腹痛いんでしょ?」
「え、あ、や、うーん、そ、そーかも、な、うん」
「はあっ。知らないよ?」
やけに艶やかにペロッと唇を舐める。
「飲み物減っててもさ?」
「……」
おかしい。ただのいつもの食いしん坊のセリフのはずなのにやけに艶やかに見えるし、深い意味があるように聞こえる。どうしたのだ俺は。
トイレにつくと、二夕見が腕を組んで壁にもたれて立っていた。
「よ、よお。どーしたんだ。なにか用でもーーー」
「ダンッ!」
床を大きく踏み鳴らす。
「ビクッ!?」
こちらを睥睨すると聞いたことないくらい低い声で尋ねる。
「なんで黙ってたの?」
「な、何の話だ?」
「ダンッ!」
「ビクッ!?」
「なんで白銀さんと仲良いこと隠してたの?」
こわいこわいこわいこわいっ!こわいってえ!
「いや別に隠してたつもりはねぇって。強いていえばあいつはちょっと人には言えない副業みたいなのしてるから、気軽に話題にできなかったっていうのはあるけど、そんないちいち話すことでもないだろ?お前だってクラスでの人間関係のこととかいちいち言わねえじゃねえか。ていうかなんでそんなに怒ってるんだよ」
「別に怒ってませんけど?ていうかなに?じゃあなんであんたは白銀さんのことは庇うくせに私のことは責めるわけ?」
「いや責めてたわけじゃ……」
「責めてたわよ!私だけあつかましい女みたいな言い方してた!私より向こうの方が奢ってもらってるのに!」
「それは、お前が白銀のこと悪く言うからだろ。あいつもあいつで苦労してるんだか
ら、尊重してやれよ」
「あんた、どっちの味方なの?」
「は、はい?」
「どっちの味方なのかって聞いてんのよ」
つかつかとにじりよってくる。俺は後ずさるが、壁に追い込まれる。
「ドンッ!」
壁ドンされて下から睨みつけられる。
「答えてよ」
「いやそんなどっちとかじゃねえよ。俺は別にそんな……」
「じゃあ言い方を変えるわ。どっちも困ってたらどっちを助けるの?」
「そんなの両方助けるにーーー」
「1人を選びなさい」
「お、おい顔近いってっ。ちょっと落ち着けよっ」
「話を逸らさないで。どっちなの?」
「それは……」
「それは?」
「俺は……」
「俺には、誰も助けられないよ。俺は誰も救えない。どうせ中途半端に手を伸ばして、差し出しても、結局手は届かないから。そうだったから」
「い、一ノ瀬?」
呆気に取られながらも、心配そうに俺を見る二夕見。
俺は二夕見の肩を優しく掴むとぐっと離す。
「もう戻ろう。そろそろ飲み物が来る頃だろ」
「あっ」
何か言いたそうに手を伸ばしかけた二夕見に背を向け、廊下に出る。
席に戻ると、白銀が不機嫌そうに頬をふくらませていた。




