85話 「二夕見しおの休日」
「ピンポーン」
玄関でチャイムが鳴った。そわそわとリビングをうろうろして今か今かと待っていた私はびくっと反応してしまう。
「はーい」
ママがモニター覗き込んで、玄関に向かう。遅れて私はモニターまで走って宅配の人であることを確認すると、ダッシュでママのもとにむかう。
「ママ!私が出るからいい!座ってて!」
「え?どうしたのしおちゃん。いつもはすっぴん見られるの嫌だからって出ないじゃない」
「今日は出たい気分なの!ていうか私はすっぴんでも可愛いし!ただ男だから嫌なだけだし!いいから奥にいて!でも奥から見守ってて!」
私はママを奥のリビングにおいやって、ドアの前に立つと、深呼吸した。そして、勇気を振り絞り、ドアを開ける。
「ガチャッ」
目の前には、30代前半くらいのがっちりした体つきのお兄さんが立っていた。身長は180cmくらいはあるだろうか。
「二夕見しおさんのお自宅で間違いないでしょうか?」
「あっ、あのっ!そっ、そうでひゅっ!」
男だという上に、しかも背も高くてがっしりした体つきのいかにも雄々しい感じに腰がひけて、情けない声が出る。言った後恥ずかしくなり顔が熱くなる。でも逃げるわけにはいかない。これだけは自分で受け取らなければ。
「ゲームソフトのお届けになります。こちらにサインいただけますか」
「は、はいっ!」
慣れない一ノ瀬以外との男との会話だということ以外にも、この箱の中身を知られるわけにはいかないという緊張も重なり、声が裏返る。汗がすごい。
「はいありがとうございます。失礼します」
「あっ、ありがとうございましたっ!」
男性宅配員は商品を渡すと、一礼して去って行った。
「や、やった……」
ぽつりと喉の奥から心の声が漏れる。
「やった!ついに届いた!初めて自分で宅配受け取って!あはっ!ふふふっ!」
私がルンルンで部屋に戻ってゲームしようと振り返ると、目の前にはママがいた。
「しおちゃん何買ったの?顔ゆるみきってるわよ?自分から宅配受け取るなんてママびっくりしたわ。そんなに楽しみにしてたの?しおちゃんがそこまでするほどの物ってママ気になるなー」
「なっ、なんでもいいでしょっ!ママには関係ない!」
「まあひどいわ。最近は学校でのことなんでもママに話してくれてたじゃない。今日は一ノ瀬がなにしたとか、一ノ瀬と何話したとか。大体一ノ瀬君のことだけど。もしかして一ノ瀬君から何か届いたの?」
「そっ、そんなにあいつのこと話してないしっ!ただの文句でしょ⁉ていうか別にそんなんじゃないし!あっち行っててよ!」
「もー。分かったわよー。でもそういうの使う時はママたちがいないときにしてよー。音とか聞こえてきたら気まずいし。あと使った後はパンツは手洗いしてから洗濯機に入れるのよー」
「そういうのでもないからっ!ゲームよゲーム!うるさいなあほんとに!」
私はうるさいママをリビングまで押していくと、部屋に入り、さっそく届いたゲームを開ける。
「くうううっ!どれだけこの日を心待ちにしたことか!ときめき学園マジ恋セブンティーン!ぬおおおおおおおおお!パッケージやばいいいいいいい!なにこれかっこいい可愛い尊いいいいいいい!キュンキュンするうう!ぐへへへっよだれがっ。はっ⁉私としたことがおっさんみたいなリアクションをっ!」
そう。これは今巷で女の子たちに大人気な乙女ゲーム。くせの強い魅力的な男の子たちを攻略して恋愛して、最後は付き合う学園モノ乙女ゲーム。私はこれがやりたくてやりたくて発売三か月前からカレンダーでカウントダウンして待っていた。この日のために私は好きな物我慢しておやつもスイーツも食べなかったんだから。まあちょっとは食べたけど。なによほんとにちょっとよ。
「しかも、このゲーム、18禁なのよねー!ちょっとエッチなシーンも入ってて、解像度高いらしいのよねー!ぐふふっ!はっ⁉私としたことがおっさんみたいなことをっ!」
それもあってママには絶対に知られるわけにはいかなかったのだ。まあ前置きはこのくらいにして、さっそくやってみましょう!
私はパッケージを開けて、
開けて。
開け……。
……。
開けると、そこには「ときどき学園まじギレセブンティーン」と書かれたソフトが入っていた。
「ん?」
目をこすってもう一度見てみる。
同じだ。
目をギューッとつぶってゆっくり目を開けてみる。
同じだ。
「……」
「はあああああああああああ⁉」
私は思わずゲームソフトを壁に向かって叩きつけそうになる。なんとかこらえる。
「ふざっけんじゃないわよ!どれだけ楽しみにしてたと思ってんのよ!なによこのパチモンは!聞いたことないわよ!誰よこれ入れたやつ!」
はあっ。はあっ。あまりの怒りに一人叫び散らす。
「まあ落ち着こう。一旦落ち着くのよ私。もしかしたらただのプリントミスかもしれないじゃない。大事なのは中身なのよ。デザインとか絵は似てるし、中身は同じかもしれないじゃない。とりあえずやってみましょうよ。そうよその通りよ」
ということで、ソフトをゲーム機に差し込み、電源をつける。
すると、BGMとともに「ときどき学園マジギレセブンティーン」と表示される。
「……」
どうやら印刷ミスとかではないようだ。
しかし、どうやら乙女ゲームではあるようで、攻略対象の男の子たちはいるようだ。ちゃんとかっこいいビジュアルをしている。
「もしかしたらこれめっちゃレアなやつなんじゃない?同じ制作会社みたいだし、世に出回ってないゲームなんじゃない?ギャグ度高めの乙女ゲームってことかな?なんか普通に作りこんでる感じするし、面白そう。とりあえず進めてみよ」
画面を進めていくと「攻略するキャラを選んでね」と出てきた。
「きたきたあ!どういうキャラがいるの⁉」
すると、「好きなパンツを選んでね。パンツに応じてキャラが変わるよ」と出てくる。
「なんでパンツで選ぶわけ?こういうところがギャグ度が高いってこと?そういうのは日常で間に合ってるんですけど」
選択肢は、トランクス、ボクサー、ブリーフの三択だ。
「じゃあトランクスかしら」
トランクスを選択する。
「べ、別にあいつが履いてるからとかじゃないから。一番ましなのがこれなだけだし」
選択音がなり、「トランクスパンツは繊細な病弱系イケメン男子。あなたの支えに惹かれていくよ」と表示される。
「へえ。なるほどね。悪くないじゃない。名前は、えっと、小野屋英一?え⁉すごい偶然ね。このキャラも英一っていうのね。トランクス履いてる男って英一しかいないんじゃないの」
キャラを選択し終わると、ストーリーが始まる。
話は高校二年生の一学期の始まりから。クラス替えで新しいクラスとなり、どこにでもいる普通の主人公美香は緊張しながら教室へと向かう。
「けっこう背景とかキャラデザとか凝ってない?可愛いかも。しかもBGMとか街並みもいい感じで悪くないわ。ありよこれ!」
廊下を曲がったところで、いきなり誰かとぶつかった。
『いたたた。す、すいませんっ!』
謝る美香に手が差し伸べられる。
「きゃああっ!王道来たわー!でも体弱いのに大丈夫?」
そこには、さらさらの黒髪に、整った顔立ち。だぼっとした制服を着こなした爽やかでおっとりとした
雰囲気の男の子が立っていた。
「か、かっこいいかもっ」
どんな人なんだろう!
『あの。ごめんなさい。大丈夫?一年生?』
『だ、大丈夫です!あ、ありがとうございます!』
『教室まで送ろうか?場所分かる?』
『あ、あの、私、二年生です……』
『え?そうなんだ。僕と一緒だね。何組?」
『3組』
『へえ。クラスも一緒だ。じゃあ一緒に行かない?僕、去年休みがちであんまり学校行けなかったから、友達いないんだ』
『へ⁉わ、私なんかでよかったらっ、ぜひ!』
こうして二人は一緒に教室に向かう。
「うんうんっ!いいっ!悪くないわ!声優さんもかっこいい声にちょっとおっとりしてて気弱そうな演技も上手だし!これから仲良くなっていくんだね!」
そして教室の窓際の後ろの席で隣同士だった二人は、初日にして、ちょっとずつ距離を縮めていく。
「ありがちだけど悪くないっ!ここからよね」
放課後。
『あのさ、よかったら一緒に帰らない?』
『いっ、いいの?う、嬉しいっ』
やばいにやにやしちゃう。嬉しいよね~。
『もちろん。僕は美香ちゃんと仲良くなりたいんだ』
教室を出て階段の踊り場に出た時。
『ぐあっ、うっ!くっ、苦しいっ!』
急にうずくまりだす英一。
「えっ⁉どうしたの⁉大丈夫⁉病気が再発したとか⁉ど、どうすればいいの⁉病院に連れていくとか⁉」
『お、お腹が、い、痛いっ!』
「内臓が悪いのね⁉肝臓が悪いのかな!」
『ぼ、僕をトイレに連れて行ってくれ!』
イケボで苦しそうにこぼす英一。
「?は?」
『トイレ?』
美香も困惑している。
「トイレ?なんでトイレなのよ。病院じゃなくて?」
『急いでくれ!漏れそうだ!僕は過敏性腸症候群という病気なんだ!つまりお腹が弱いんだ!』
「いやお腹が弱いだけ⁉何が病弱系男子よ‼一丁前に病名なんかついてるけど一ノ瀬と同じだけじゃない!ふざけんじゃないわよ!」
『あ……。ま、間に合わなかった、か』
がくんと首を下げる英一。
「え?嘘でしょ?あんたまさか漏らしたわけ⁉」
悲惨なBGMとともにゲームオーバーの文字が表示される。
「ええ⁉ゲームオーバーって何⁉乙女ゲームでしょ⁉」
ゲーム攻略のヒントというボタンをクリックすると、『英一はうんこを漏らすとストレスで死にます』
と表示される。
「はいい⁉たまごっち⁉それだけで死ぬんじゃないわよ!なにこのクソゲー!」
セーブをしていない私はもう一度最初からやりなおしになる。やめようかと思ったが、せっかく買ったし、楽しみにしていただけに簡単には諦めきれない。
「大丈夫。まだわからないじゃない。ここから面白くなるかもしれないじゃない。頑張るのよしお」
そしてもう一度さっきの場面に戻る。
『急いでくれ!漏れそうだ!僕は過敏性腸症候群という病気なんだ!つまりお腹が弱いんだ!』
「はいはい。トイレに連れて行けばいいんでしょ」
「近くのトイレに連れて行く」という選択肢を選ぶ。
しかし、連れて行ってみると。
『このトイレは嫌だ。和式しかないんだ。僕は洋式がいい』
などと言って入ろうとしない。
「文句言ってんじゃないわよ!めんどくさいわね!分かったわよじゃあ二階に連れて行けばいいんでしょ!」
「二階のトイレに連れて行く」という選択肢を選ぶ。
『ふう!間に合ったよ!ありがとう美香ちゃん!あと少しでうんこ漏れるところだった!』
「女の子にそんなこと言うんじゃないわよ汚いわね!こいつのどこが病弱系イケメン男子なのよ!繊細さ
のかけらもないじゃない!」
私は画面の英一を指で叩く。突然効果音が鳴る。
『テレレー』
「なに?」
『トイレが汚かったので好感度が下がりました』
右上の好感度のゲージが下がる。
「はああ⁉ふざけんじゃないわよ!なんでトイレが汚かったら私の好感度が下がるわけ⁉こいつ女の子にトイレまで付いて来てもらいながら感謝の気持ちもないわけ⁉ていうかあんたが他のトイレがいいって言ったんでしょ!」
『ご、ごめんね英一くん。次は気をつけるから』
申し訳なさそうに謝る美香。
『気をつけてね』
「むかつくむかつく!」
あまりにむかついた私はスマホを取り出して一ノ瀬に「しね!」とメッセージを送っておくことで留飲
を下げる。
そして翌日。一緒に昼食を食べることになった二人は食堂に向かう。
『お昼ご飯何たのもっか?英一君』
『君と同じものでいいよ』
ふん。
『えっと、じゃあ、冷やしうどんとかどう?』
『美香ちゃん……』
また効果音が鳴り好感度が下がる。
『好感度が下がりました』
「なんで⁉」
『英一はお腹が弱いので冷たいうどんは食べられません』
と表示される。
「じゃあ君と同じものでとか言うんじゃないわよ!しかも何が『美香ちゃん……』よ!そんなことも分からないの?みたいな顔してんじゃないわよ!あんたなんか別にこっちも好きじゃないのよ!」
『英一の腹痛ゲージが溜まりそうです』
今度はそんな文字が表示される。
「めんどくさいやつね!どれだけトイレ行くわけ?ていうかトイレくらい連れてってもらわないで自分で行きなさいよ赤ちゃんじゃないんだから!」
『ヒント;ヨー〇〇〇なら食べられるよ』
ピコンッという効果音とともにヒントが表示される。
「腹立たしいわね。だったら初めからそう言いなさいよむかつく!」
画面に向かって喚いていると部屋がノックされた。
「しおちゃん?どうしたのさっきから叫んで。おもちゃで遊ぶのはいいけど激しすぎるのはママ早いと思わ」
「違うから!ゲームって言ったでしょ!静かにするから部屋来ないで!」
「もう。まだ反抗期なの?怖いわ」
ママの足音が遠ざかっていく。
その後も何度も英一をトイレに連れて行って、なんとか死なせずにゲームを進めていく。しかしこいつはことあるごとにうんこをして、うんこを踏む。英一っていうやつはろくなやつがいないのか。
「一体これは何のゲームなのよ。なんで好感度ゲージは少ししか上がらないくせに、トイレゲージは一瞬でたまるのよ。なんならことあるごとに何癖つけて好感度下がるし」
文句を言っていると、英一がまたお腹が痛くなり、下校途中、美香の家に寄ってトイレを貸してあげることになった。
『ねえ』
英一がトイレから顔を覗かせている。
「なによ汚いわね。覗くんじゃないわよ。ちゃんとズボンを履いてるんでしょうね」
『ウォシュレットがないんだけど』
「はあ?そんなのあるわけないでしょ。なによその腹立たしい顔は」
『僕はウォシュレットがないトイレは好きじゃないんだ。次から気をつけてよ』
そう言い捨ててドアをバンッ!と強く閉める。
「こいつ殺していい?人様のトイレを使わせていただいてる分際でよくそんなわがまま言えたわね!そんなに嫌なら漏らして死ね!」
『好感度が下がりました』
「どうやったら好感度上がんのよ!こいつ良いことしても感謝しないくせに、一人前にけちはよくつけるから下がるだけじゃない!」
頭を抱えてぐぬぬ唸っていると、英一がトイレから出てきた。そして勝手に食卓に着く。
『お腹空いたね。何か食べようか』
「『ちょっとお腹空いたんだけど何かありませんか?』だろうが!いい加減にしとけ!なんでその選択肢無いのよ!殺すっていう選択肢はどこ!」
『お腹空いたな』
「はいはい分かったわよ!ヨーグルトでしょ。ありますわよ。ちゃんと買ってあるから。流石私よね。こういうこともあるかと思ってさっき買っといたのよ」
「ヨーグルトを渡す」の選択肢を押す。
『……この味はちょっと飽きたな』
「はあ⁉こいつ何言ってんの⁉めちゃくちゃイライラするんだけど!この子こいつのどこがいいの?嫌だったらカップラーメンでも食べてなさい」
私は「ラーメンを渡す」の選択肢を押す。
『はあ。美香ちゃん。ラーメンは脂っこくて食べられないよ。ブルーベリーヨーグルトじゃなくてストロベリーヨーグルトが食べたいな』
「はいい⁉買ってこいと?あんたがトイレ長すぎるせいでもう21時なんですけど?この時間に女の子一人で買ってこいと?はいもう無理。こいつ嫌。あんたは攻略しません」
初めのホーム画面にもどってキャラ選択をしなおそうとするが。
『一度攻略しようとしたキャラは途中でキャンセルできません』と表示される。
「何でよ⁉なんなのこのクソゲー!ほんとムカつくんだけど!まだこいつより一ノ瀬の方がましよ!じゃあもういいわよ!こんなクソゲーもうやらないわよ!時間の無駄よ!他のゲーム買うし!死ね!」
私はソフトをゲーム機から取り出すことにした。しかし。
『※ゲームプレイ中にソフトを取り出そうとすると、ゲーム機本体が壊れます。最低一人は攻略しないとプレイの中断はできません』と表示される。
「はあああああああああああ⁉何それ⁉聞いたことないんですけど⁉誰がこんなクソみたいな機能つけたのよ!ふざけんじゃなわいわよ!訴えてやるわ!」
しかし、いくら「トキドキマジぎれセブンティーン」と検索しても出てこない。AIに聞いてもそんなゲームは存在しないと言う。
「じゃあこのクソゲーは何なのよ!誰が何のために作ったのよ!新種のウイルスだろ!どんなクソパクリゲーム作ってんのよ!」
三十分ほど唸って暴れるが、どうしようもないことに気づき、首を落とす。
「分かったわよ。やればいいんでしょ。クリアしてやるわよ。あのウイルスを攻略して駆除してやるわよ。vitaは高いのよ。簡単には買えない。仕方ないわ」
諦めてさっきの続きからプレイする。
次は初めてのデートだ。デート当日。駅で待ち合わせしてから、デパートに向かって歩く。
『美香ちゃん。ごめんうんこ踏んじゃった。とってくれない?』
「あんたまたんこ踏んだわけ⁉何回目よ!しかも『とってくれない』⁉頭おかしいのかしら。女の子にんことらせるきなわけ?」
私が憤慨していると、選択肢に「自分で取りなよ」という選択があることに気づく。
「美香分かってきたじゃない!よし、『自分でとれ』っと」
『美香ちゃん……。普通に考えて自分じゃ靴の裏掃除できないよね?』
またもや好感度が下がる。
「なんで私の好感度が下がるのよ!だったら靴脱げばいいでしょ⁉こいつマジで無理なんですけど!この靴はぎ取って靴の裏で頭引っ叩いてやりたいわ。ていうかこんなところにうんこさせるんじゃないわよ。飼い犬の糞は飼い主が持ち帰るのは常識でしょ?」
『どうやら野良猫の糞のようだね』
英一が勝手にしゃべる。
「口答えすんじゃないわよ!腹立たしいわね!なんでそんなこと分かんのよ!」
キレながらも靴を掃除してあげる。しかし、掃除し終わると。
『うんこを踏んだので好感度が下がりました』
「だからなんで私の好感度が下がるのよ!てか掃除しても結局下がるんだったら掃除しなければよかった!」
『うんこゲージがたまりました』
今度はその表示が出る。
「また⁉次から次へと!あんた一日に一体何回んこすんのよ!これ乙女ゲームじゃなくて介護演習ソフト
とかじゃないの?あんたはもうパンパース履けパンパース!」
『近くのトイレに連れて行こう』と出る。
「はいはい。じゃあ早く済ませてきて」
連れて行って外で待つことにした。
『やあお待たせ。今日はなんかいつもより水っぽかったよ』
トイレから出てきた英一が開口一番にそう言った。
「報告すんな!死ね!あんた一ノ瀬より終わってるわ!」
『ていうかトイレットペーパーなかったんだけど』
「なんで私のせいみたいに睨んでんのよ。腹立たしいわね。それがここまで連れてきた相手に対する態度
なの」
また効果音がなり、『好感度が下がりました』と表示される。
「だからなんで私のせいになんのよ!ただの八つ当たりでしょうが!このクソゲー!もう分かったわ!こいつの声聞きたくない!VCオフにしてやるわ!」
私はゲーム内設定を開き、VCをオフにするを探す。しかし。
『VCはオフにできません』
と出てくる。
「なんでよ!普通できるでしょ!乙女ゲームでできないの見たことないわよ!」
諦めて設定画面を閉じ戻る。すると。
『なんとなく好感度が下がりました』と表示される。
「なんとなくってなんだ!なんでなんとなくで下がってんのよ!ふざけんじゃないわよ!絶対VCオフにしようとしたからでしょ!やっぱりこれ作ったやつ嫌がらせで作ったでしょ!明らかに悪意を感じるわよ!」
デパートを目指して歩いている途中、美香の靴紐がほどける。かがんで靴紐を結び直し、立ち上がると英一はいなかった。
「待ちもせずに先行ってるし。なにしてんのよあいつは。普通に終わってるわ。女の子を置いていくんじゃないわよ」
目的地であるデパートまでどうやっていけばいいのだろうか。ピコンという音が鳴り、『デパートまで
の道を通行人に尋ねてみよう』と表示される。
「なんかイベント発生って感じね。じゃあとりあえずあそこのおばさんに聞いてみよ」
美香が木陰で座っていたおばさんに話しかける。
『すいません。道をお聞きしたいんですけど、駅の近くの大きなデパートにはどうやって行けますか?』
『ああそこね。5㎞ほどまっすぐ道なりに進んで、十字路の交番を右に曲がるの。そしたら二番目の交差点を左に曲がるとそこに駅があるわ』
おばさんが親切に教えてくれる。
『ありがとうございます!』
おばさんの言うとおりに進んでいく。しかし、交番を右に曲がり、二番目の交差点を左に曲がると、そ
こは駅ではなくトイレだった。
「ってトイレじゃない。どこに案内してんのよ。なんで『目的地に着きました』って表示されてんのよ。どこが目的地よ。やっぱ作ったやつの脳みそがバグってるのね」
とりあえず中に入ってみると、なにやらミニゲームが始まった。
「なんかゲーム始まった。なになに?」
出てきた説明を読んでみる。
『カーソルを焦点に合わせると磨けます。点数がたまるとコインをもらえます。コインで掃除道具を買ってより早く掃除をできるようになります。すべての汚れを落とすとゲームクリアです』
「つまんないわねー。なんでこんなに汚いのよ。しかも男子トイレなの意味わかんない。美香は女の子なんですけど」
めんどくさいがなんとかミニゲームを終わらせる。
「ふうっ」
すると次は『また道を聞いてみよう』と表示される。
「はいはい」
適当に近くにいたおじさんに聞いてみる。またデパートまでの道を教わる。そして教わった通りに行ってみると。
「なんでまたトイレなのよ!こいつら嘘しかつかないじゃない!どこに案内してんのよ!」
画面下に『さっきとは違うトイレのようだ。ミニゲームが始まるよ』と出る。
「またトイレ掃除するわけ⁉もういいってのよ!つまんないゲーム作るんじゃないわよ!
なんで乙女ゲームでトイレ掃除しないといけないのよ!」
しかも今度は難易度が上がっていて、洗ってる側からおじさんがトイレして汚していく。
「清掃中のトイレに入って来てんこすんじゃないわよ!今洗ったばっかなんですけど!こんな若い女の子がトイレ掃除してるそばでトイレして恥ずかしくないわけ⁉ちょっとどこにんこしてんのよ!せめて便器にしなさいよ!床にすんなクソガキ!」
しかし一時間程経ってもおじさんやガキが入って来ては汚していくためゲームが終わらない。
「だから入ってくんな!永遠に終わらないでしょうが!こいつ!こうしてやるわ!」
意味なんかないだろうがあまりに邪魔なので、便器用ブラシでおっさんを擦ってみると慌てて逃げて行った。
「あっ!こうするんだ!なるほどねこうやって追い払うのね!」
次から次へと入ってくるやつをブラシで攻撃していると、人が入って来なくなった。
「よしよし。今のうちに掃除を終わらせちゃいましょう」
仕上げとばかりに水を撒いていると、制服を着た警察官が入ってきた。
「なに?警察官初めて来たかも。こいつもブラシでってえええええ⁉なんか捕まったんですけど⁉はあ⁉」
なんと入って来るやいなや手錠をつけられる。
『傷害罪で通報がありました。逮捕です』
そしてGAMEOVERの文字が浮かぶ。
「はああああああああああ⁉何これ⁉なんで乙女ゲームで捕まってGAMEOVERなのよ!ふざけんじゃないわよ!ゲームの仕様でしょ⁉こうしないとクリアできないんだけど!」
ヘルプで確認すると、『警察が来るまでにゲームクリアしないといけません』と出る。
「このクソゲーが!」
キレてゲーム機を投げ捨てそうになるのをこらえる。
なんとか時間内にゲームをクリアしてトイレの外に出る。
『デパートまでの道を聞いてみよう』と再度表示される。
「またあ⁉もういいでしょ。どうせろくなことにならないのは目に見えてるわよ」
適当にそこにいる学生に声をかける。そして言われたとおりに行くと案の定トイレに着く。
「いい加減にしないと海に投げ捨てるわよ!無限ループ⁉何時間トイレ掃除してる⁉バカしかいないの⁉」
そして今度のトイレ掃除ミニゲームも、おっさんどもが次から次へとトイレに入って邪魔していく。小汚いおじさんが入ってきたと思ったら大きなんこを落として去っていく。それがなかなか落ちない。。
「なんで落ちないのよ!むかつく!」
『強力な汚れだ。トイレクリンを探しに行こう』
と表示される。
「なんでたかがミニゲームでイベントが発生してんのよ!さっさと済ませなさいよ!ふざけんじゃないわ
よ!てかあのおっさんどんだけ強烈なんこしてんのよ!」
怒りながらも、道行く人たちにトイレクリンについて尋ねてみる。しかし、誰も知らないし持ってもいない。
「なんで誰も持ってないのよ!もう百人くらいに聞いたんですけど!無駄に難易度高いのなんなわけ⁉」
叫んでいると部屋がまたノックされた。
「しおちゃんまだゲームしてるの?パパもママももうとっくに夕飯食べちゃったわよ?エッチなゲームもほどほどにするのよ?」
「エッチじゃないし!ウンチだし!文字通りのクソゲーだし!」
「そんなのやって楽しいの?」
「ぜんっぜん楽しくないわよ!これ作ったやついたら髪の毛全部引きちぎってやるわよ!」
「もうママ寝るから静かにするのよ?早く寝なさいよ」
と自分の寝室に去っていくママ。私は冷蔵庫からパパのエナジードリンクを部屋に持っていくと、一気
飲みして目をかっぴらく。
「やってやるわよ!さあトイレクリンはどこ⁉」
150人目くらいでようやく持っているというおじいさんを見つけた。
『ああトイレクリンのお。わし持っとるぞ。あれはよく効くし今はもうどこにも売ってないからのお』
「それちょうだいおじいちゃん!お願い!」
『じゃあその代わりに君のパンティーが欲しいの』
「パッ、パンツ⁉このエロジジイ!誰があげるか!ってなんでいいえがないのよ!このクソゲーぇエエエエ!」
しぶしぶパンツを脱いで差し出す美香。
『なんだかいも臭いパンツじゃな。まあええか。いらんから代わりに一発ギャグやってくれ。面白かったらくれてやるわ』
「こいつボコボコにしていい⁉受け取らないのはそれでムカつくだけど!なんで美人キャラは無理だからネタ枠でいいやみたいになってんのよ!」
『ほれどうする?』
焦らしてくるジジイ。
「やるわよ!やればいいんでしょ!」
まだましなギャグを選ぼうと思い選択肢を待つが、表示されない。代わりにキーパッドが出てくる。
「なんでこういう時だけ自分で考えんのよ!今まで散々クソみたいな選択肢選んできたのに一発ギャグは自分で考えるのまじでムカつく!」
ぐううううううううっ!
『俺はしがないカンガルー。だがほかのやつらとは違う。周りのやつは喧嘩ばかり。どいつもこいつも体を鍛えて掴みあって蹴り合う毎日。だが俺は違う。頭を使うんだ。そう、頭を。くらえっ!渾身の頭突きを!
かっ、カンガルーがかんがえるー』
私は渾身の一発ギャグをした。
『……。面白くないのお。おぬしダメダメじゃのお。可哀想じゃからあげるわい。次はもっとましなの考えとくんじゃぞ。かんがるーだけにのお。ふっ』
そう言って去って行った。
「死ねぇええええええええええ!このエロジジイ!同情して最後はネタにされて失笑されたんですけど!このクソジジイ!頑張って考えたのに!」
胸をえぐられ傷を負った私はまた黙々とトイレを掃除する。
「私なにしてたんだっけ。なんかトイレを掃除する以外の目的があったような気がするんだけど」
ボーっとした頭で考えるが思い出せない。そうしていると、床にゴキブリが現れた。
「きゃああああああ!汚い!とうとう湧いたわね!」
またピコンとなって画面の下に文字が出る。
『モンスターが現れた!倒して経験値を稼ごう』
「なんで今度はクエストみたいになってんのよ!一体これは何のゲームなのよ!モンスターではないし!」
しかしブラシで攻撃したり、水をかけても倒せない。
『武器が足りない。モンスターを倒すための材料を集めに行こう』
またムカつく字幕が出る。
「もうイベントはいいってのよ!ゴキブリスプレーくらい売りなさいよ!」
またトイレから出てあちこちの人に聞きに行く。
一人目。『パンツの色を教えてくれたら教えるよ』
十人目。『うんこした後何回おしり拭くか教えてくれたら……』
二十人目。『胸何カップか教えてくれたら……』
三十人目。『便座に座る時パンツどこまで下げるか教えてくれたら……』
「なんでこいつらただでくれないのよ!必ずセクハラかトレハラしてくるおっさんばっかなんですけど!しかも最終的に冷められてネタ枠扱いで一発ギャグさせられるのなに⁉材料もどんだけあんのよ!あんだけハラスメント受けて、一発ギャグまでしたのにまだ集まんないの⁉」
ようやく最後の材料を集めてモンスター(ゴキブリ)を倒す薬を調合することに成功した。
「よーし!くらえ!この薬を!」
ゴキブリに向けて発射すると、ゴキブリが苦しみだした。
「効いてるわね!」
と思いきや。何やら煙を吹きだし始めた。
「な、何⁉」
テレーッという音とともに、字幕が出る。
『強力な薬に対応するために、驚異的に進化したようだ。テレフォーマーになった』
「はああああああ⁉キモッ⁉なにこの原始人みたいなゴキブリは⁉ただのバケモンじゃない!」
『じょ、じょうじ、じょうじょう』
気持ちの悪い声を出しながらトイレの外に出て行く。さっきからホラーじみた音楽が流れている。
トイレの外に出ると、町は血の海だった。
「はあ⁉これ何のゲームだった⁉ホラーゲームになってない⁉私そう言えば英一探してたんじゃなかっ
た⁉ていうかあそこで死んでるの英一じゃない⁉」
とそこに、テラフォーマーが走って近づいてくる。
「こっちくんなバケモノ!」
「ぐちゃっ」という音がなり、ゲームオーバーの文字が血色で出る。
「乙女ゲームで死んだんですけど!攻略対象も死んだし!結局何してもゲームオーバーじゃない!クソゲーよクソゲー!パクリだし!」
そして。
『お試し版はここまでとなります。この先のストーリーは課金対象となります。決して飽きたわけではないのであしからず』
「飽きたんだろうが!途中で作るのやめんな!ていうかここからどうやったら巻き返せるのよ!大体いくらで買ったからお試し版なわけ⁉お金返せ!7000円返せ!」
ピコンと音が鳴って何か文字が表示された。
『カンガルーはかんがえません』
「死ねぇええええええええええええ!」
私はソフトを引き抜くと壁にぶん投げて寝た。一ノ瀬にもう一度「しね!」と送っておいた。




