83話 「うんこまんショー」
葉もすっかり赤に染まり、寒々としてきた十月暮れ。俺は寒さに負けじとホットコーヒーを握りしめ、一人ショーに向かっていた。どれほどこの日を心待ちにしたことか。一か月前からカウントダウンしていたカレンダーは×だらけになり、とうとうはなまるされた本日29日を迎えたのだ。
会場の入り口に着くと、どこもかしこも親子連ればかりで、子供たちは3歳から小学生がほとんどだ。俺みたいな大人一人は珍しいのだろう。俺が小学生の頃からやっていたこのアニメは、小学生の男子に大人気で、学校に行けばみんなその話でもちきりだった。
しかし年を重ねるにつれ、みんな興味を薄れ離れていき、今となっては俺くらいしか残っていない。みんなどんどん変わっていく。中学に上がればあんなに好きだったアニメやヒーローものは見なくなり、おしゃれや女の子の話ばかり。大切にしていた安価な、でも思い出のつまった宝物は捨てられ、洋服やCDに代わっていく。いつまでも変わらないのは俺だけだ。俺はいつまで俺のままでいられるのだろうか。
なんて少し深い思考に入りかけたところで、見知った顔を見かけた。
「「「あ」」」
白い長袖のトップスに、赤いカーディガンを羽織り、膝丈ほどの灰色のスカートを履き、ピンクの髪をくくって帽子で隠した整った顔の女の子と、小学生中学年くらいの男の子が手を繋いでこちらを見ていた。
「お兄ちゃんだ!」
嬉しそうな笑顔を浮かべるカズ。と嫌そうに顔を歪める月野。
「おお!カズ。と、えっと、うんこまんのcmによく出てくるうんこ食べてる人」
「ちげえ!てめえがうんこまん以外のテレビを見ないから知らないだけであたいはそれだけのcmの人じゃねえ!ていうかうんこじゃなくてチョコだ殺すぞてめえ!」
「よっ。お前らもうんこまんショーに来たのか」
「うん!お兄ちゃんもそうなの⁉」
「おおよ。一か月前からうきうきでカウントダウンしてたからな」
「いくつだからてめえは一人でうんこまんのショーに来てるんだよ!周り見てみろ!親子連れしかいねえだろうが!」
「バカたれが。うんこまんは永久不滅なんだよ。子供の頃はその面白さにはまり、大人になるとその深さにハマるんだよ。うんこという嫌われ役でありながらみんなの体を守ってるダークヒーロー。それがうんこまんなんだよ。ちなみにダークヒーローのダークはうんこの色のことじゃねぞ」
「分かってるわ!汚え補足付け足すんじゃねえよ!なんなんだてめえは!」
今日もキレ散らかす月野。人目もはばからずに叫んでいる。
だが、そう。今日、俺はあの大人気アニメ、うんこマンのヒーローショーに来ているのだ。今日のために夏休みバイトして稼いだ金全部下ろしてきだのだ。グッズ買うの楽しみすぎるだろ。
「ねえお兄ちゃんも一緒に見ようよ!」
「ええ⁉カズ!お姉ちゃんがいるんだからいいでしょ⁉」
嫌そうな顔をしてなんとかかずを説得しようとする月野。
「お兄ちゃんがいた方が面白い!」
「いいぜ。お兄ちゃんがうんこまんについて詳しく教えてやる。まずはうんこソフトクリームを買いに行くか。うんこまんがよく食べてお腹壊してトイレ籠ってるあれが売ってるらしいぜ!」
「くそみたいなもん買わせるんじゃねえ!ていうかうんこがうんこすんな!」
文句を言いながらもついてくる月野。
「おおうんちちょこバナナもあるらしいぞ!」
舞台の後ろの方の屋台に行くと、ソフトクリーム以外にもいろいろ売っていた。
「いい加減にしないとこの会場ごと爆破するぞ!」
キレだした月野。
「何い⁉うんこ消しくんシリーズもあるぞ!おじさんこのシリーズあるだけ全部下さい!よーし!うんこサイリウムにうんこペンライト!うんこ蛍光リングも買うぞ!うんこくん応援グッズだ!」
「いくつだてめえは!金銭感覚いかれてんのか!お前がやると話が変わってくるんだよ!意味わからんもんしかねえしよ!」
「どけどけガキども!これは全部俺のもんだ!うんこくんくじの一等は俺があてる!おじさんくじ全部くれ!」
「大人げねえことしてんじゃねえ!後から来る子供のことも考えろ!泣かすんじゃねえ!こっち来いてめえは!」
月野に引きずられて後ろの方に連れていかれる。
「放せえ!この日のためにバイトしたんだぞおおおおお!」
「恥ずかしいから叫ぶな!さっきからひそひそ噂されてんだよ!」
頬を赤く染めて恥ずかしそうに俺を引きずっていく月野。
「お姉ちゃん僕も光るやつ欲しい」
「うん。はいカズ。好きなの買っといで」
そう言って俺の財布から一万円出して渡す。
「当然のように俺の財布から出すんじゃねえ!なんでカズはよくて俺はダメなんだよ!」
「てめえはもう高校生だからだよ!この犯罪者が!」
「お姉ちゃんお兄ちゃん!買ってきたよ!」
そう言ってカズが見せてくれたのはうんこまんブザーだった。
「これね、5段階の危険信号に分かれてて、押したら周りに響き渡るか、同じこれを持ってる人に通知がいくんだって。三人分買ってきたよ。これでみんなになにかあったらすぐに分かるね!」
などといい笑顔ではにかむ。
「か、カズ!なんていい子!」
感動して涙目の月野。
「おおカズやるじゃねえか。だがこれより俺はうんこまんサイリウムの方がよかーーー」
「黙ってろカスが!お前みたいなアホよりよっぽど有意義な買い物できるんだよ!優しいからみんなの分買ってくるしな!お兄ちゃんの分はドブに捨てようかかず」
「お兄ちゃんも持っててよ。これでみんなおそろいだね!」
いい笑顔で笑いかけるカズの頭をポンポンとする。
「お前はいい男になるな」
「そんなの当たり前だろ。あたいの弟だぞ。てめえが教育の邪魔しなければ好青年になるんだよ」
などと言って俺を邪見にする。
「よーし!俺が直々に男としての心構えを教えてやることにした!」
「いいから近寄んなこの害虫が!カズが腐るだろうが!」
「俺は腐ったミカンか⁉」
しばらく公園まで時間があるというため、俺とカズは一緒にトイレに行き、月野は場所取りに行った。
「やべ。カズ俺ちょっとお祈りの時間が来たわ。トイレ籠るから先姉ちゃんのところ行っといてくれ」
「分かった」
あのバカとカズと一旦別れ、いい席を探して歩いていた。ここはちょっとカズの身長だと見えないかも。もう少し前がいいかな。などと考えていると、さっきカズにもらったブザーがブーッブーッと鳴り出した。信号は5と表示されていた。
「⁉」
カズに何かあった⁉あいつカズとはぐれたの⁉私はすぐさまトイレに向かって走る。
しまった。どこのトイレか聞いていなかった。なんでこのブザーには位置情報まで出ないの!
入口付近のトイレに行ってみるがそこにはおらず、慌てて地図を見てトイレを探す。どこなの⁉トイレを探し出し、急いでさっきの屋台の裏の方にあるトイレを目指す。
「カズ!」
すぐにトイレを見つけ男子トイレだということも忘れて中に飛び込む。
「カズ⁉大丈夫⁉どこ⁉返事して!」
「ああここだ。俺だ」
一番左の個室から聞き慣れた声が、くたびれたように聞こえてきた。
「一ノ瀬⁉カズは⁉カズはどうしたの⁉」
「カズはお前のところに向かった。別になんともないはずだ。それより問題は俺だ。危険度5だ。助けてくれ。死んじまう。一刻も早く温かい毛布とココアを持ってくるんだ。大至急だ」
「てめえが鳴らしたのかよ!てめえくそみてえなことで鳴らすんじゃねえよ!カズだと思って心配しただろうが!何が危険度5だよ!バカにしてるとぶっ殺すぞ!」
私は怒りの余りドアをぶん殴る。
「おおいよせ。今大きい音はお腹に響く。だいたいその防犯ブザーはうんこまんのお腹のピンチ度五段階に基づいて作られてんだよ。うんこしてる時に使うやつなんだよ」
「うんこしてる時にどんな危険があんだよ!」
「ばっかお前うんこなめちゃいけねえよ?甘く見てるとやられるぞ。こちとら毎日命がけだかんな?」
「もういいわ!てめえ次鳴らしたら殺すからな!てめえは鳴らすな!てめえに鳴らす権利はねえ!」
全くムカつく野郎だ。まあでも、こいつに何かあっても困るんだけどな。ほら。カズが悲しむし。私はかずを探そうと思いふと視線を感じ周りを見る。おじさんが恥ずかしそうに用を足していた。
「いやあああああああ!」
男子トイレに私の悲鳴が響き渡った。
「まったくてめえはなにを自分から男子トイレに入っておきながら乙女みたいに叫んでんだ」
「てめえのせいだろうが!てめえがブザー鳴らしたから行ったんだよ!汚えもん見せやがって!あたいはアイドルだぞ!」
カズも合流して三人でヒーローショーが始まるのを待ちながら最前列で話す俺たち。
「しかもお前恥ずかしくなって、駆け付けた警備員さんに『あいつが』とか言って俺のこと指さすから危うく俺が捕まる所だっただろうが」
「ほんとうにお前のせいなんだからいいだろ別に。お前は捕まった方がいいしな」
「そしたら永遠にこのうんこまんブザーを鳴らし続けてやるからな」
「よこせ!てめえにそれを持つ権利はねえ!」
「触るんじゃねえ!俺の宝物だぞ!アイドルのくせに気安く男に触れようとしやがって」
俺たちがうんこまんブザーを巡って争っているのを横で不満そうに見ているカズ。
「お姉ちゃんたち喧嘩しないでよ。今日お姉ちゃんずっと口悪いし」
「ご、ごめんねっカズ。ほら。一ノ瀬君。そろそろ始まるよ」
「うおおおおおおおっ!来た来たー!うんこまーん‼」
「お前まじでやめろ!お前生きてて恥ずかしくねえのか⁉」
「うんこまーん!」
かずも一緒に叫ぶ。
「かずが真似し出しただろが!この害虫が!」
「「「うんこまーん!」」」
子供たちも次々と叫び出す。
「う・ん・こ!う・ん・こ!」
俺のうんこコールに子供たちも続く。
「「「う・ん・こ!う・ん・こ!」」」
「よーしガキども!俺に続けえ!ぶりぶりうんこまーん!ハイ!」
「『ハイ!』じゃねんだよ!何を仕切ってんだてめえは!生き恥をさらすな!羞恥心をどこに置いてきた!高校生にもなってなにをしてんだまじで!」
月野に頭をはたかれる。周りのお母さんたちに『本当にすいませんうちの友達が』などとぺこぺこ謝っている。
などとしているとうんこまんのオープニングが流れて、うんこまんが登場してきた。
「みんなこんにちは!うんこ星からやってきたウンチョーニイッヒーミ五世。その名もうんこまんだ!今日も悪いやつらがいないか街を元気にパトロールだ!」
「「「うおおおおおおおおおお!」」」
子供たちのテンションが上がる。
「さーて。次はこのトイレに行ってみよう!ん?あれは」
うんこまんが町のトイレで何かを見つけたようだ。
「どうしたんだうんこまーん!」
「黙ってろ!」
ひそひそ声で月野に注意される。
「な、なんだこれはっ!トイレットペーパーがすべて破り捨てられている⁉」
すべての個室のトイレットペーパーが予備も含めてズタズタに引き裂かれて床に捨てられていた。
「ゆっ、許せない!トイレットペーパーをこんな風にするなんて!一体誰の仕業だ⁉絶対に見つけ出してやる!」
街のトイレを巡って犯人を捜すうんこまん。すると
「だ、誰かトイレットペーパーを!トイレットペーパーを恵んでくれえ!」
「紙がないわ!どこにもない!さっきまであったのに!」
「なんだこの床は⁉トイレットペーパ―が散らばっている⁉」
街のあちこちのトイレで被害者が出ていた。
「これは⁉間違いなく怪人の仕業だ!どこにいるんだ!」
「ぐへへへへへへへっ。さーて次はどこのトイレの紙をバラバラにしてやろうかなあ。たーのちいなあ~」
声の方を見ると、そこにはハゲた醜いおじさんのような、両手がはさみとなった怪人がにやにやしながら歩いていた。
「待て!お前があちこちでトイレットペーパーを捨て散らかしている怪人だな⁉」
「んんう?なんだお前はあ。だったら何か文句あるのかあ?」
「当たり前だ!トイレした後にトイレットペーパーがなかった時の気持ちがお前に分かるのか⁉」
うんこまんが怒りをにじませる。
「そうだ!ふざけんな!」
「なんかお前と似たようなこと言ってんな」
俺に憐みの目を向けてくる月野。
「分かるに決まっているだろうぎゃ!俺はなあ!かつて人間だったころ、まじめなサラリーマンだった。ブラック企業に就職してしまい、毎日残業につぐ残業の中、雀の涙の給料で家族を養っていた。だがある日。仕事帰りにお腹が痛くなり公園のトイレに駆け込んだ。用を足しおしりを拭こうとしたところで、トイレットペーパーがない!どこの個室にもない!しかしいつまでもそこにいるわけにもいかず、私はおしりを拭くものを探した。するとだ。唯一拭けるものは財布の中の紙幣だけでないか!しかも一万円札しか入っていなかった!このお金は!今月の生活費。使うわけにはいかない。しかし!このままここにいつまでもいることもできない!私は泣く泣く全紙幣を使い拭いた!そして破産し妻には離婚され、すべてを失ったのだ!そして気づけば怪人化していた。俺の悲しみが分かるか!俺はこの街のすべてのトイレットペーパーをひきちぎるまでやめないのだ!ギャハハハハハハハッ!」
「ううっ。泣けるっ」
「泣けるかっ!どんな怪人だよ!」
涙を流す俺の横で呆れる月野。
「君の気持ちは分かった。だがそんなことしても奥さんは帰ってこない!むなしいだけだ!紙がなかったときの絶望を誰よりもわかっていーーー」
「紙と言うなああああああ!トイレットペーパーと言えええええ!」
急に髪の毛をむしり出す怪人。
「俺はなあ!人間だったころ、激務のストレスで若くして髪がなくなったんだ!『ハゲ』とののしられ生きてきた俺の気持ちが分かるか!紙も髪もむしりとってやる!んぐううううううううううう!」
「こ、こいつっ!俺だったかもしれないっ」
「どんなバケモン生み出してんだこのアニメは!てめえは何を共感してんだこのハゲが!こいつと一緒ってどんなモンスターだ!」
「どうやら説得は無駄なようだな。僕は君を止める。これ以上人々に迷惑はかけさせない!くらえ!うんこバブル光線!」
「ぐえええええええええっ!」
うんこまんの必殺技が怪人に炸裂する。
こうして敵を倒しみんなを救ったうんこまん。
「みんな!もう大丈夫だよ!これでうんこし放題だ!」
「お前!よくも街を汚してくれたな!」
「え?」
「あんたもあの怪人も似たようなものよ!ふざけんじゃないわよ!この怪人もどき!」
悲しそうな顔を浮かべるうんこまん。物を投げつけられながら、一人悲しく、消えていく。
「ふっ。でもみんなが無事でよかった」
そうしてエンディングが流れる。
「うんごまんんんんうううう!お前ってやつはああ!お前が本物のヒーローだああ!なんでお前はいつも誰にも評価されないだよお!でも俺には分かるからなああああ!」
「いやいやいやいや!は⁉なにこれ⁉当たり前だろ!住人が正しいだろ!そりゃそうなるだろ!ていうかうんこ片付けてから帰れよ!お前感性大丈夫か?」
「ううっ。ひっく。うんこまんっ」
横でカズも泣いている。
「か、カズっ。そ、そうだよねっ。お姉ちゃんも分かるっ!うんこまん頑張ったよね!」
「いやいや。お前俺の時と反応ちが過ぎだろ。今の今までバカにしてたよね?手のひら返しえぐすぎだろ」
ちなみに周りの子供たちもみんな泣いてました。
一旦休憩をはさみ、第二部が始まるということで、俺と月野は飲み物を買いに自販機に向かった。月野が飲み物買ってくると言うのでホットココアとリクエストしたら『てめえは荷物持ちすんだよ!』と無理矢理連れてこられた。
自販機を探して歩いていると、舞台裏の楽屋のような所に通りかかった。なにやらもめているようだ。
「なんかトラブルかな?」
「さあ。でもなんか困ってるように見えるな」
そのまま通り過ぎようとしたが、自販機はどうやらその人たちの隣にある。
「さっと買って戻ろうぜ」
「あ、ああ」
どうやら気になるようの月野。自分もアイドルだからそういう舞台裏とか演者のアクシデントが他人事のように思えないのだろうか。
「はあ。お人よしめ。あの。どうかしました?」
俺もなんかそのまま戻ったらもやもやしそうだったので声を掛けてみる。月野が少し驚いたようにこちらを見ている。
「えっ⁉じ、じつは、うんこまん役の演者がお腹を下してしまって。あまりの体調の悪さに帰ってしまったんだ」
現場監督と見られる偉そうな人が困り顔で打ち明ける。
「リアルうんこまんというわけか」
「てめえがな!どの口が言ってんだお前は!」
月野がくわっとツッコむ。
「実はうんこまんの役をしたバイトはみんなひどくお腹を下して、次々と辞めていくんだ。第二部で出る予定だったヒロインの女の子も実際にうんこまん役のバイトがお腹を下したのを見て怖がって帰っちゃって。お客さんも待ってるしどうしたらいいか」
「呪われてんじゃねえか!どうなってんだうんこまんは⁉」
月野が空気を読まずにツッコむ。
「ちゃんとトイレの神様にことわってやってるのか?トイレの神様にお祈りとかしてるか?」
「な、なんだいそれは?そんな神様聞いたことないが」
「はあ。これだから素人は。いいか?うんこをネタにしたりバカにしたり、それで飯を食わせてもらう時は、ちゃんとトイレの神様に報告しお参りに行く。じゃないと祟りにあう。お家から出られないほどの腹痛や、おしりに大きいイボができたり、痔になったりする。そんなことも知らねえのか?」
「そんなの聞いたことねえわ!怪談みたいに言ってんじゃねえぞ!大体どこの神社にトイレの神様祀ってるんだよ!」
月野がまた余計な口を挟む。
「俺のばあちゃんが嘘ついてるってのか⁉」
「てめえもばあちゃんも間違ってんだよ!逆ギレすんじゃねえ!大体ばあちゃんのせいにすんな!」
「だが、たしかに、言っていることの筋は通っている……」
「だろう?」
スタッフたちはざわざわし始めた
「いやあのこいつ適当に言ってるだけなので真に受けないでくださ―――」
「君!君やたらとトイレに詳しいね!今日はうんこまんを見に来たんだよね⁉」
現場監督が食い気味で俺に尋ねてくる。
「そ、そうだが」
「うんこまん役やってくれないか⁉」
「え?」
「いやいやいや無理ですよこんなやつ!なにしでかすかわかったものじゃないです!絶対やめておいた方がいいですって!」
月野が全力で否定し出す。
「まあたしかに俺には呪いは効かない。選ばれし子だからな。生き残った男の子とは俺のことだ」
「ただ元から腹下してるだけだろうが!ハリーポッターみてえに言ってんじゃねえ!」
「君も!よく見たら可愛い顔している!ヒロイン役どうかな⁉ちょっと帽子取ってみてくれないか!」
今度は月野に近寄る。
「ええっ⁉わ、わたしはいいです!無理です!こいつやらせていいですから!私は無理!」
「そ、そんな!頼むよ!とりあえず帽子ぬいでみてくれ!」
「嫌です‼」
回れ右して逃げ出した月野。それを追いかけるスタッフたち。
「それでやってくれるかい⁉」
「まあ。困ってるみたいだし、子供たちを悲しませるわけにはいかない。やるよ」
「ありがとう!本当に助かるよ!バイト代ははずむからね!」
本当に嬉しそうに手を握ってくる監督。スタッフもみんな安堵した様子だ。
「あとは彼女が協力してくれれば!なんとか形になるんだが!」
「あいつは、まあ無理かもしれないですね」
「そんなあ」
などと話しているとまたドドドドと月野が走ってきた。今度はばっちりメイク済みだ。
「はあっ!はあっ!ほらっ!あっ、あたいはこんなだぞっ!こんなやつがヒロインなんかできるわけないだろっ⁉」
どんだけやりたくないんだよ。まあこんな所で勝手にうんこまんに出たらネットニュースになるだろうし、事務所に怒られるのか。
「ひ、ひらめいたっ!君は、怪人役にふさわしいっ!怪人でいこう!」
「誰が怪人だごらあっ!」
「落ち着け怪人黒ギャル戦士子供泣かせお化け!」
「ひどくなってんだろうが!どんだけ属性ついてんだ!誰が子供泣かせるお化けでアマゾンの戦士だ!」
「衣装はどうする⁉」
「予備の中から探してみます!」
スタッフたちがばたばた探しに行った。
「だからっ、あたいはやらないって!」
「頼むよ!君がやってくれなかったら子供たちはみんな悲しむんだ!」
「そっ、そんなことあたいに言われてもっ。あたいにも事情が……」
「月野。カズのためにもやろうぜ。化粧してるし大丈夫だよ」
カズの名前が出た途端瞳が揺らぐ。
「うっ。なんでお前はそんなに自信満々なんだよ。あたいはまだ舞台慣れしてるからいいとしてもお前は大丈夫なのかよ」
「大丈夫だ。俺はうんこまんはブルーレイボックスで全話集めてるし、OVAから番外編まですべて履修済みで完璧に頭に入ってる」
「相変わらずキモいやつだな!分かったよ!カズのためだ!今回だけだからな!」
とうとう折れてくれた月野。
「ありがとう!本当に助かるよ!これでなんとかなるぞ!」
喜び合うスタッフたち。




