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一ノ瀬英一のおバカ譚  作者: 八野はち
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79話 動物園の主「この世界への憎しみを乗せて鼻くそは飛ぶんだ」

「ていうかあんたなんでさっき山月記のネタわかったの?」

「ああたまたま補習でやったんだよ。このくらいは知っとけって」

「なるほどね。びっくりしたわ」


 話しながら歩いていると、横の方をやけに厳重に装備した集団が駆け抜けていった。


「総員!目的地は近いぞ!気を張り直せ!」

「「「サーイエッサー!」」」


 隊長と思しき男の後を十人近くの武装集団が続いていく。


「なんかすごい装備した集団が来たわね。何するのかしら」


 二夕見が驚きながら尋ねる。


「おそらく狂暴なライオンの世話か、オオカミの檻の掃除とかだろ」

「虎があれなのにそんなことある?」

「ついてってみようぜ」


 武装集団の後をついていてみる。


 しばらくすると檻が見えてきた。


「ほら!やっぱり何かすごいのがいるみたいだぞ!」

「ほんとかしら!ていうかここ従業員いたんだ。しかもこんなに」


 その集団は隊を組んでピリピリした厳重な空気を醸し出す。


「隊長!準備完了です!いつでもいけます!」

「よし!事前に指示してある通りに動け!この仕事は失敗できないぞ!みんな心して動け!」

「「「サーイエッサー!」」」


 後ろの方から見ていた俺たちまで緊張してくる勢いだ。


「すごい緊張感ね。こんな園総出でするのね」

「ほんとにな。檻の中見えるか?」

「あの人たちで見えないわ」


 すると部隊が檻を開けて中に突入した。


「A地点確保!」

「B地点確保!」

「C地点も確保!」

「よし任務開始だ!」


 どうやら始まったようだ。


「だ、大丈夫かしら。逃げ出したりしないわよね。あの人たち大丈夫よね」


 少し緊張が移ったのか強張った面持ちで俺の袖を掴む二夕見。


「大丈夫だよ。あっちはプロだし」


 俺は頭に浮かんできたパンダと虎の中のおっさんと鳥小屋のおっさんを記憶から消した。


「A地点回収完了です!」

「B地点苦戦中!量が多く、液状のものもあります!例の使用許可を求めます!」

「よし!洗浄を許可する!ホースとタワシを使うこと許可する!」


 なにをしているのかようやく見えてきた。


「総員気を抜くな!素早く袋につめろ!もたもたしていると―――しまった!見つかったぞ!」

「こちらC地点!捕まりました!がっちり腕に抱き着かれてホールドされています!」

「くそ!見つかったか!仕方ない!適度に相手して撤退だ!次の戦場に向かう!」

「「「サーイエッサー!」」」

「ってんこの掃除かい!なーんでこんなシリアスな雰囲気出してんのよ!しかもライオンとかじゃなくてオットセイじゃない!あんたら揃いも揃ってバカじゃないの!」


 二夕見が俺の袖を握りつぶしてツッコむ。


「ようやくまともなのが出てきたと思ったらやっぱりこんなのしかいないのかここは」

「みな気を抜くな!地雷は処理するまでが任務だぞ!まだどんな危険が待っているのか分からない!」

「「「サーイエッサー!」」」

「「「えっほ!えっほ!えっほ!えっほ!」」」


 みんなでうんこを大事に抱えて去っていく。


「そんなもんのどこに危険な要素があるのよ。でもあれオットセイ本物じゃない?」

「たしかに」


 俺たちは今日初めて見た本物のオットセイをしばらく眺めて次に進むことにした。





 しばらく行くと、今度は、高い木に登った猿たちがいるところに着いた。


「猿だ。本物っぽいな」

「ほんとだ。なんか普通にいて感動するわね」


 フェンスがない代わりに、木に面している緑の長い網が張られている。


 近づいてみると、網の隙間から手を伸ばしてくる猿たち。


「握手してほしいのかしら」


 恐る恐る指を握る二夕見。


「キィ!キイイ!」


 握手された猿が怒って手を振り払う。


「きゃあなに⁉違うの⁉なんで怒ったの⁉」


 驚いた二夕見が後ずさる。


「お前ばっかだなあ。猿は繊細で賢いからトイレした後手洗わなかったり鼻ほじったやつの手は分かるんだよ。次からは気をつけろよ」

「私がそんなことするわけないでしょうが!あんたと一緒にするんじゃないわよ!」


 憤慨する二夕見。


「じゃあ見とけよ?」


 俺は猿のもとに近づくと網の中に手を伸ばす。すると猿がやってきて握手する。


「どうだ見たか?」

「な、何でっ⁉私には怒ってたのに⁉信じられない!あんたやっぱり猿だったのね!この類人猿!」

「うるせえ!誰が類人猿だ!これだよこれ」


 俺は左手に持っていたみかんを猿にあげると、猿は手を伸ばして受け取って上へ逃げていく。


「いんちきじゃない!ただの賄賂よ!この詐欺師!猿が猿に餌あげるんじゃないわよ!」

「ひっぱたくぞクソ女!誰が猿だ!だいたいお前は―――いだッ⁉」


 突如頭皮に鋭い痛みが走り網の方を見ると、猿が俺の髪の毛を抜いて逃げて行った。


「このクソ猿があ!俺の大事な髪の毛を盗むとはいい度胸だなこら!えさあげた恩を一瞬で忘れやがって!」

「あはははははは!調子乗ってるから猿にもなめられてるじゃない!だっさあいったあ⁉」


 俺の方を見てバカにして爆笑していたら、今度は別の猿が二夕見の髪の毛をちぎって逃げて行ったようだ。


「このあほ猿!あんた猿の棟梁みたいなものなんだから代わりに私に謝りなさいよ!」


 キレた二夕見が俺にあたってくる。


「悪かったな。代わりに長めの鼻毛やるから許してくれ」

「いるかあ!ほんとに抜こうとすんな!死ね!」

「あ、そう?」


 俺が鼻毛を吹いて捨てようとしていると、物欲しそうにこちらを見つめてくる猿と目が合った。


 そっと手を伸ばしてくる。


「え、なに、欲しいの?これ?」


 さすがにためらいを覚えたが、あっという間に猿にとられてしまった。


 よく見ると、たくさんの猿が自分のお尻の毛を抜いている。


「こいつらは一体盗んだ髪の毛を何に使っているんだ?」

「なんか毛に執着してるわね。気持ち悪。可愛くないし次行きましょ」


 猿のコーナーを離れていくと、裏の方ではげたおっさんがなにやら猿に囲まれてぶつぶつ言っていた。


「よし今週のノルマは達成だ。それにしても短い茶色の毛が多いな。一体どんなやつから抜いてるんだ。まあいい。よしと」


 猿たちから回収した毛を自分の髪の毛に接着剤でくっつけていく。


「お前かあ!猿に何仕込んでんだてめえは!俺の髪の毛返せハゲコラ!無駄なあがきしやがって!しかも猿はほとんど自分のケツの毛で誤魔化してること気づけよ!俺の鼻毛も入ってるしよ!バケモンかお前は!」


 二夕見がぎゅっと俺の腕をつかんでくっついてくる。そうだよね。もうホラーだよね。でもちょっと近いなあ。


「これは俺のもんだ!誰にも渡さねえ!」


 必死にあたまをおさえると逃げて行った。


「モンスターパークとかに改名しろまじで」


 次のコーナーはナマケモノだった。どうせいるわけねえだろと思いながら檻の方に行ってみると、檻の中で気だるそうに腕をついて頭をのせ、横になっている男がいた。


「おお、なんだ、珍しいな。人間か。まあなんだ。あれだ。座れよ」


 しゃべるのも煩わしそうにその珍獣は偉そうに言う。


 よく見ると髪はボサボサ、髭はボーボー、服はヨレヨレ、あちこち汚れていてハエがたかっている。



「おいなんだお前は。原始人か?そういう設定か今度は?」

「きっとこの貫禄は動物園の主よ」


 二夕見が俺の後ろに隠れ、俺をいつでもさしだせるように後ろから服をつかんでいる。


「失礼なこと言うんじゃねえ。俺のワイルドなスタイルを見てそう言ってるんなら見当違いだな。看板を見なかったのか?俺はこの檻に長いこと引きこもりをやっているナマケモノの中のナマケモノ。ナマケモノの中の頂点。人は俺をグリズリー神と呼ぶ。あーかえー」


 背中をポリポリかきながら低い声でめんどくさそうにもごもご話す。


「ただのひきこもりのクソニートがかっこよくグリズリー神とか言ってんじゃねえ!誰が本物の怠け者置けって言ったよ!どこに引きこもってんだてめえは!」

「……」

「なんか言えよ!」

「144文字もしゃべって疲れてんだ。少し休ませろ。ああめんどくせー」


 そう言いながら鼻をほじり始めた。


「こいつガチの怠け者じゃねえか!ていうかハエたかりすぎだろ!どんだけ風呂入ってねえんだよ!きたないんだよ!」

「いいか?俺がこの世で最も嫌いな言葉を教えておいてやる。それは『勤勉』と『清潔』だ。驚いたか?」

「見ての通りだよ!ていうかお前さっきから話してるんだからせめて座れよ!なんで肘ついてめんどくさそうに横になったまましゃべってんだよ!」

「立つのは疲れるんだ。おいえーすけ。そんなに怒るな。あいつ偉そうすぎるって?大丈夫だ。あいつはどっちかというとこちら側の人間だ。俺には分かる」

「ハエに話しかけんな!何者だよてめえは!ていうか俺がお前側の人間だって⁉」

「たしかに。誰かに似てる気がしてたわ。あんたに似てたのよ」


 憤慨する俺に、ドン引きしてた二夕見が俺のことを小突いてくる。


「流石にあいつの仲間にするの止めてくんない⁉ていうかあの痛いんですけど?」

「あいつあんたの仲間みたいなもんだからあんたも責任あるわよ」

「だがあいつは確かに可愛い女の子連れててムカつくな。びーたの言い分も分かる」

「お前その数のハエ全員に名前つけてんのか!バトル漫画のキャラクターかてめえは!」

「ま、まさか飼ってるの?」


 二夕見が震える声で俺に強くしがみついてくる。あの、む、胸が、あ、あたって――――ないか。


「こいつらは俺の体の垢を食べ、代わりに俺のことを守ってくれる。共生しているんだ」


 「あ∸疲れた」と言いながらやけにかっこいい風に言う。


「そんな汚え共生聞いたことねえよ。半分人間やめてるだろお前」

「安心しろ。こいつらはうんこや生ごみには興味がない。俺の体の垢じゃないと満足しないんだ」

「猶更恐ろしいわ。安心できるか!どんだけ汚いんだお前の体はよ。うんこや生ごみに見向きもしないほど好きってどれだけなんだよ」

「最後に風呂に入ったのは今はもう昔の話だ」

「かっこつけんな!ムカつくから!」


 振り返ってみると、二夕見が目をかっぴらいて気絶しかけていた。


「俺はこいつらを体に宿し戦うんだ。そうだろう。やーとん、しーち、なんぺー」

「なんか油目シノみたいなこと言い出したぞこいつ。お前ほどそんな積極的な言葉と対極に位置する人間も珍しいわ。いったい何と戦うって?」

「この、社会とだ」


 やれやれと、まるで戦いつかれたみたいにしんどそうな顔を浮かべる。


「肘ついて寝っ転がって背中かきながら言うんじゃねえよ!ニートと社会は対義語なんだよ!大体お前なんで何もしてないのにさっきから疲れた風なんだよ!」

「この腐った社会を滅ぼしたくなる衝動と日々戦っているのさ。大体俺はしゃべるのが好きじゃないんだ。男なら行動で示せ。それが俺の座右の銘だ」

「お前ただ寝っ転がってるだけで何もしてないけどな!何も示してないけどな!ていうか鼻ほじりながらかっこつけんな!」

「なんか、闇落ちした一ノ瀬みたいな感じ?それなら大丈夫よきっとしお。ほら大丈夫」


 後ろで二夕見が何やら自分に言い聞かせて正気を保とうとしている。


「嘘だ。ほんとの座右の銘は『他力本願』だ。ところでだ、さっきから俺はお前がどうも他人のようには思えない。俺と同じ波長を感じている。ハエたちもお前に反応している。そのよしみで言うんだが……」


「「……」」


「……」


「いやしゃべんのやめておしりかくな!話すのめんどくさがるんじゃねえ!自己中かてめえは!どんなタイミングで終わってんだ!」


「もういいわ。しゃべるの疲れた」


「よくねえよ!俺とお前が似てるって⁉おい二夕見!言ってやってくれよ!」


 俺はさっきから俺を盾にしている二夕見に話を振る。


「まあ似てるわね。あんたあんな感じだから本気で直した方がいいわよ。檻の外に出たことあるかないかの違いくらいしかないわ」

「おい?今まで聞いたどの悪口もかすむな?死ぬよ?俺あんな風に見えてるの?もう俺檻の中に戻るわ。今までありがとうな」

「本気で檻に入ろうとしないでよ!あんたはノンデリだし下品だしムカつくけど、でも捉えどころのない感じとか、普段適当でアホだけど本当は芯が強くて優しい所とかかっこいいところもあるから大丈夫よ!ああなったら私本気で泣くわよ!」


 そう言って強くしがみついて止めにかかる。


「そ、そう?お前俺のことそ、そんな風に思ってたの?」


 耳まで真っ赤にして俯き黙る二夕見。


「い、今のは慰めただけよ!あ、あんたが本気でああなったら見てらんないし、言い過ぎたと思ったからよ!勘違いするんじゃないわよ!私があんたのこと―――」


「はああああああああああああああああー」


 深いため息が聞こえ、見ると、ナマケモノが心底目を腐らせて溜息を吐いていた。


「くっさ⁉何この臭い⁉ドブみたいな腐った何かみたいな!おえっ!どこからだこれ!」


「ううっ!」


 二人して鼻をつまんで口を押える。


「目の前でイチャイチャしやがって。くらえ。ゴッドブレス。何年も磨いていない俺の口臭はどうだ」

「お前か!臭すぎるだろ!この距離でこんな臭いってどれだけだよ!かっこいい名前つけやがって!おい大丈夫か二夕見!」

「ちょっと、無理かもっ」


 そう言って気絶した。


「おいっ!」


 俺はふらついて倒れかけてきた二夕見を支える。


「あまりのキモさに気絶しちまった」


 俺はそっと抱えると離れた木陰に連れて行く。ベンチに横にさせて、俺のジャージを被せる。






 ふと目が覚めた。あれ。なんか落ち着く匂いがする。温かくて柔らかいそれはジャージだった。一ノ瀬英一と書かれていた。


「ふふっ」


 暖かい気持ちになり、体を起こすと、二人はまだ話していた。


「だからこうやるんだ。しっかり親指に乗っけて弾く。分かったか?」

「こうだな?」

「全然だめだな。こうだ」

「ガーンッ!」


 弾かれた何かに檻が大きく揺れる。


「すげえ!どうやったら鼻くそ弾くだけでそんな破壊力生まれるんだよ!もっかい教えてくれ!」

「だからな、まず鼻くそが弱いんだお前は。それとまだ恥ずかしさが残っているな。人間としての尊厳を捨てるんだ。この社会に対する恨みや怒りを乗せるんだ。それで鼻くそは飛ぶんだ」

「何教わってんだあんたは!」


 私は全力で走って行くと一ノ瀬にドロップキックする。


「ぐええええ!」

「お、おお、起きたか。今こいつに防衛術を教わっていたところだ。指先に魔力をこめて霊魂をはじくと悪いものを撃退できるらしいしぞ。お前もういうの興味あるだろ?」

「そんな汚いのには興味ないわよ!ただは鼻くそ弾いてるだけでしょうが!魔力なめんな!」

「いやそれがな!これ結構すげえんだよ!男なら一度は鼻くそで相手を倒した後に、ふってやってみたいもんなんだよ!」

「あんたいい加減にしないとあの檻の中にほんとにぶちこむわよ!」


 馬乗りになって怒鳴っていると、目の前の檻に激しく何かがぶつかり、爆散する。


「おいお前ら。俺の前でイチャつくな。次は当てるぞ。ふっ」

「おい二夕見!しっかりしろ!二夕見!おいまた気絶しちまったじゃねえか!お前のその爆弾は刺激が強すぎるんだよ!」






 やけに周囲がうるさくて目が覚めた。あれ。なぜか落ち着く匂いのジャージがかぶせられていて、私はベンチに横になっていた。どうやらまた気を失っていたようだ。それにしてもあの男はほんとに無理だ。あとで一ノ瀬をボコボコにしておかないと気が済みそうにない。少し回復してきたので体を起こしてみようかと考えているが、どうにも先ほどからうるさい。


「総員隊列を組みなおせ!今度の対象は先ほどの比ではないぞ!気を引き締めろ!」

「「サーイエッサー!」」

「みな気を抜くな!今度のターゲットはコアラだ!」

「「サーイエッサー!」」


 さっきの檻から少し離れた所から聞こえてくる。


「また来たのねあのんこ掃除集団。こんな雑用に人数使って相当暇なんでしょうね。他に仕事ないのかしら」

「おらー!お前ら気を抜くなよ⁉うんこを制するものこそが仕事を制するんだ!」

「「サーイエッサー!」」

「お前ら俺に付いて来い!俺が本当のうんこの取り方を教えてやる!」

「「サーイエッサー!」」

「ちょっと待てえ!なんであんたが仕切ってんだあ!」


 聞き覚えしかない声にがばっと体を起こし立ち上がる。誰がどう見てもあいつだった。


「こちらA地点!狂暴なのが足にからみついてはなれません!」

「どうした!捕まったか!」

「地雷を踏みました!」

「なにい!A班はその場で待機だ!」

「こちらB地点!こちら液状にて非常に困難です!」

「B地点をS級危険区とする!C地点はどうだ!」


 一ノ瀬が少し取り乱して報告を促す。


「こちらC地点!明らかにパンダマンのものと見られる大きさのものが混じっています!非常に臭く邪悪です!どうしますか隊長!」

「総員撤退だ!一度対陣を組みなおす!総員撤退!」

「隊長変わった瞬間全滅じゃない!それだけの人数と装備でなにやってのよ!ていうかあのおっさん終わりすぎよ!」

「撤退撤退!」

「ほら!行くわよ!」


 私はアホ集団の中に入ると一ノ瀬の耳を引っ張って連れて行く。


「いだだだだだっ!いてえって!分かった行くから耳引っ張るな!」


 


 二夕見に耳を放してもらい、次のコーナーへ向かおうとしたところ、どうやらここが最後だったようで、最初の所に戻ってきた。


「はあ。終わり?本当にふざけた動物園だったわね。なんでここつぶれてないのかしら」


 不満足気な二夕見が眉根をよせて感想を言う。


「ま、まあ一応動物もいたじゃねえか。猿とかアザラシとかコアラとか」

「まあいたって言えばいたけど。ほとんどが珍獣だったけどね」

「普通の動物園よりは刺激的で退屈しなかっただろ?」


 俺はなんとか二夕見の機嫌を取ろうと接する。


「まあ。そういう言い方もできるわね。でも!やっぱり納得がいかないわ!こっちはお金払ってんのよ!今度もう一回本当の動物園行かないと気が済まないわ。だから、その、よ、予定空けといて?」


 突然目を落ち着きなくさまよわせ、そっぽを向きながら顔を赤くして言う。


「蓮浦と行けばいいじゃねえか。俺はもう動物園なんてこりごりだよ」

「そ、それはそうだけど。そ、そう!り、りんはほら、今日行ってるだろうし!えっと!あ、あんたくらいしかいないのよ!」

「えー。めんどくせえなあ。こんな遠くまでまた来るのか?大体動物はみんな俺のこと嫌いだしなあ。今日もコアラなんて俺に威嚇してたし。コアラが威嚇するところ見たことあるか?」

「何よ私と行くのは嫌なの?」


 急に不機嫌そうに目を鋭くさせ俺を睨む。


「べ、別にそんなこと言ってねえだろ。分かったよまた今度な」

「なにその適当な感じ!じゃあいい!行かなくていいわよ!」


 そっぽを向いて完全に機嫌を悪くしてしまう。


「お、おいキレんなよ。おーい?」


 呼びかけるが反対側を向いて無視する。


「動物園はほら!俺には相性悪いから!別の所だったらいいぜ!な!」

「無理して来ていただかなくて結構です。いやいや来られてもたまったものじゃないわ」

「いやお前が必要なんだよ!お前がいないと絶対ダメなんだ!お前と一緒に行きたいところがあるんだよ!頼む一緒に来てくれよ!」

「ふ、ふうん?そんなに私と行きたいの?私以外じゃダメ?」


 完全に向こうを向いて拒絶していたが、ちらちらこちらを見始めて興味を持ち始める。


「ああ!お前しかいないんだ!俺のことを受け入れてくれる女はお前しかいない!」

「へ⁉そ、そこまでは別に期待してなかったっていうか⁉待ってよ!物事には順序ってものがあるでしょ⁉まずは一緒に色んな所出かけてからじゃないと―――」

「ああ!お前しかいないんだ!一緒に街のいろんなトイレを周ってトイレマップを完成させよう!トイレマップというからには女子トイレの情報も必要だと思ってたんだ!男女両方のトイレをコンプリートしてこそ本物のトイレマップだ!お前には女子トイレの設備から汚れ具合をチェックしてもらいたい!お前しかこんなこと受け入れてくれる女はいない!」

「それのどこがデートなのよ!私のときめき返せこのクズ!いい加減にしないと髪の毛全部むしりとるわよ!」


 なぜかぶちぎれた二夕見が俺の髪の毛を掴みにかかる。


「いだだだだだっ!やめろお!髪の毛だけはやめるんだ!分かった!予定空けとくから!一緒に行かせてもらいます!」

「初めからそう言えばいいのよ。一ノ瀬の分際で私に歯向かうんじゃないわよ」


 ふんっと鼻を鳴らして髪を離す。しかしなぜか唇を尖らせ、まだ不満気だ。


「脅迫して一緒に出掛けても意味ないのよ。向こうから誘ってくるくらいにならないと」


 なにやら一人でぶつぶつ言っている。機嫌が悪いのだろう。


 先ほどの受付の前を通ると、小汚い最初のジジイが待っていた。


「お疲れ様です。楽しめましたか?」

「おかげさまでたっぷりとな」


 俺は皮肉たっぷりに返しておく。


「それはそれはよかったです。ではお土産にストラップはいかがですか?猿にコアラにパンダに虎。パンダと虎はなんと、脱がせられますよ」

「エロいフィギュアみたいに言ってんじゃねえ!脱いだら汚いおっさんが出てくるだけだろうが!隠す気ねえだろお前ら!よくそれ売ろうと思ったな!いいから帰りの地図よこせ!」

「わかりましたよ。ナマケモノもありますよ」


 地図と一緒に、まるでアニメのフィギュアみたいに青白いオーラを手に纏い、霊弾みたいに鼻くそを弾こうとしているナマケモノのストラップを差し出してきた。


「それは買おうかな」

「買うんじゃないわよ!なんでこれだけそんなに凝ってるのよ!」

「いだだだだっ」



 二夕見にまた耳を引っ張られて引きずられてあしからZOOを後にする。


 結局みんなの元に戻った頃には帰りのバスに乗り込むところで、俺たちはこうして最終日の林間学校を終えたのだった。


 



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