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一ノ瀬英一のおバカ譚  作者: 八野はち
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78話 「き〇たまないけど女の子」

翌日。青山自然の家を出てバスに乗ること一時間。着いた場所は動物園だった。これも林間学校の一環らしい。バスを降り、列を作ってみんな移動していく。すると、横から見知った声がした。


「ひさっ。久しぶりね」


 声の方を見るとジャージにポニーテールをした二夕見が腕を後ろに組んで立っていた。明らかに上ずって変な声を出したくせにまるでそんなことなかったかのようにいつもの強気な顔だ。


「今声うわずってなかった?」

「うわずってない」

「うわずってたよね?」

「うわずってない」

「久しぶりに声かける同級生に緊張して声が裏返っちゃった女の子みたいだったよね?」


 顔がどんどん真っ赤になっていき、耳まで熟れたトマトみたいになる。


「もういいっ!」


 怒ったのか走り去ろうと後ろを向こうとする。


「待て待て待て!冗談だろうが!いつもなら『あんたその勘違い普通にキモいから死んだ方がいいわよ』とか言うところだろ?どうしたまじで」

「別に。キモすぎてやっぱ話すのきついからやめようと思っただけだし」


 なんとか立ち止まらせ、二人で列から抜け脇で話す。


「それで、なんか用か?」

「用っていうか、まあ、あんたまず私に言うことあるんじゃないの?」


 急に不機嫌な顔になり眉が少しつり上がる。


「あー、あれバレたのか。悪かったよ。お前があまりに腹痛をバカにしてくるからつい魔が差しただけなんだ。出来心だったんだ。お腹痛くなる呪いなんかどうせ効かないだろって感じで試しでやってみたんだ。まさか効いたとは。悪かったな。それで、どんなうんこだったんだ?」

「違うわよ!そんなことじゃないし!ていうかあんたなに勝手にゴミみたいなことしてくれてんのよ!全然反省も感じられないし!死ね!」

「あ、それじゃない?じゃあなんだ?分からんな」


 どんどん不機嫌そうな顔になっていく。


「あんた夏休み私のことほっぽって帰ったでしょ。デートより大事なことがあるのもムカつくし、そのあと何の連絡もしてこないし。どういうつもりよ」

「ああんめんどくせえ女みたいなこと言い出しやがって。大体あれデートだったのかよ」

「べ、別にデートじゃないし!ていうかあんたがどうせ女の子とデートなんかしたことないだろうから優しくてモテモテな私はデートってことにしてあげたのよ!」

「どっちなんだよ。なんでキレてんだこいつは。はいはい。分かった分かった。こっちだってお前とは遊びだったんだよ。俺と付き合える女は俺のことうんこごと愛してくれるやつだけなんだ――――」


 言いながら顔を上げると、二夕見の目から涙が零れ落ちた。


「え?」

「あ、いや、これはその―――」


 困ったように無理矢理笑って見せようとして、顔をくしゃっとさせると、唇をぎゅっと結び、後ろを向いて走り去ろうとする。


「お、おい!待てよ!なんで、そんな!ごめんって!冗談のつもりで言ったんだよ!」


 いつもの調子で言ったはずが、傷つけてしまった。


 俺は急いで二夕見の肩を掴み止める。


「放して!」

「待てって!どうした?なんか気に障ること言ったか?悪い俺泣かせるつもりはなくて、いつもみたいな軽口のつもりだったんだ」

「分かってる。あんたは悪くないわよ。つい出ちゃったのよ。ほら、女の子ってこういうところあるから。急に泣き出すのなんてよくあることだし、あんまり気にしないで―――」

「ああなんだ生理か!」

「は?」

「まーったくびびらせやがって。俺が泣かせちまったのかと思ったぞ。薬はあるのか?まったく片付けしないからこうなるんだぞ。生理整頓気をつけよう!とか言ってがははぐふおおっ⁉」


突然のグーパンチが右頬に直撃する。


「この女の敵の野蛮人が。なんで私がこんなカスに。ほんとこいつのどこがいいんだろう。ガキなのか大人なのかほんと分かんないやつよね。ほら。土下座。泣かせてしまってすいませんでしたは?」


 靴をぬいで俺の頭を踏みにじって冷たい目を向けてくる。


「泣かせてしまってすいませんでじた」

「わたくしはトイレする以外能のないノンデリバカです」

「いや別にそこまで言わなくても―――」

「あんたに言えって言ってんの!なんで私がそんなこと言わなくちゃいけないのよ!あんた頭大丈夫⁉」

「足どけてくれたら大丈夫になるかも」

「ふんっ」


 気が済んだのか、鼻を鳴らして足をどかす。


「なによ。なんか様子がおかしかったから心配してたのに、いつも通りじゃない。やっぱり連絡してこなかったの許せないわね」

「なんて?」

「なんでも!」

「てかお前さっきから俺に触れて大丈夫なのか?」


 普通に素手で殴ったり踏んだりしてるけど。


「一ノ瀬菌は抗体ができたのよ。ゴキブリ並みにしぶといウイルスだったけど」

「俺は汚いけど大丈夫かって意味の質問じゃねえんだよ!男に触れられて大丈夫かって聞いたんだよ!」


 しかもなぜか少し頬を赤く染めてるのもわけわからんし。


「じゃあな。俺はこれから用がある」

「何の用なの?」


 急に不機嫌そうに眉をひそめる。


「そんなの俺の勝手だろ」

「いいから言いなさいよ」


 離れようとした俺に付いてくる。


「あんた昨日女の子と二人っきりで自然公園で遭難して遅れて来てんですって?なにしてたのよどんな子なのよどんな関係なのよ今日もその子と回るつもりなんでしょ」


 早口でまくしたてながらすごい形相でついてくる。


「別にただの友達だよ!分かったよ!どこに行くのか教えてやるよ!うんこだよ!お前も一緒に行くか⁉あ⁉連れうんするか⁉」

「は、早く言いなさいよ!まぎらわしい言い方するあんたが悪いし!んこするだけのくせにかっこつけて用があるとか言うからよ!」

「はいはい。じゃあな。この前は悪かったよ。急な腹痛に帰らざるをえなかったんだよ」

「……」


 静かになったし帰ったのかと思ったら、まだ付いて来ていた。


「じゃあ待ってるから早く帰って来てよ」

「待たなくていいから早く行けよ!なんなんだよ今日のお前は!俺の腹痛舐めてんのか⁉」

「だって。やっぱり、あんたの後ろ姿も横顔も悲しそうに見えるから」

「何て⁉」

「いいからさっさと行ってきなさいよ!この私が待っててあげるって言ってんのよ!」

「なんだこいつはほんとに」


 みごとな逆ギレをかまされ、これは何を言っても待ってるやつの顔だと判断した俺は、トイレに向かうことにした。


 トイレから帰って来ると腕を組んで不機嫌そうに待っている二夕見がいた。


「遅い!何十分待たせんのよ!もうみんなとっくに入園したわよ!」

「だから遅くなるって言っただろうが!勝手に待っといて何キレてんだお前は!」

「ま、まあでも仕方ないわね。班のみんなを待たせるのも悪いし、先に行くように言っておくかしら。し、しょうがないからあんたと二人で、ほんとに嫌々だけど、回ってあげるわ」

「えー女ってすぐトイレに行くくせに化粧直ししてたとか、髪の毛崩れてたからとか言い訳するから嫌なんだよな。うんこしたならうんこしたって正直に言えよ。だいたい人を待たせてトイレするやつ嫌いなんだよな」

「女の子はほんとに身なり整えてるだけよ!あんたどの口がほざいてるのか理解できてる?驚きすぎてぶん殴りたいんだけど。あんたと一緒にすんな!」


 怒った拍子に、二夕見のカバンが地面に落ち、中身がこぼれる。


「あっ」

「まったく。おっちょこちょいアピールはよせ」

「してないわよ!」


 ぷんぷんしながらカバンに詰めていく二夕見を手伝っていると、横から突然真っ白な猫がやってきた。


「きゃあ!可愛い!どこから来たの~?」


 急に甘い声を出してご機嫌になる二夕見。優しく頭を撫でている。


「にゃあ~」


 白猫も甘えるような声を出して気持ちよさそうにしている。と思ったら。


「パクッ」


 二夕見の落とした何かをくわえて逃げて行った。


「ああっ!」


 突然のことに二夕見が驚いた声をあげる。


「何を取ってったんだ?」

「動物園のチケットよ!」

「はあ⁉」


 急いで追いかける二夕見に続き、俺も走って追いかける。


「待ちなさーい!ちょっとお!それはダメよ!待って!」


 呼びかけながら走るが、止まらずに走り続ける白猫。

 そのまま駐車場から出て、横の森に入っていく。


「待ってよ!お願い止まって!ご飯あげるから!鮭おにぎりあるわよ!ほら!ね⁉」


しかしそれでも止まらず、俺たちも森の中に入っていく。足場の悪い中追いかけ、途中何度も見失いそうになるが、その度に猫はこちらをおちょくるように立ち止まって待っている。




「おいクソ猫!まじで早く返せ!どこまで行く気だ!もう森はいいんだよ!」


 俺が叫んだ途端、森の外に出た。白猫はどこにもおらず、見失ってしまった。


「うそ……。どこ行ったの?ていうかここどこ?」


 閑散とした古い小さな車道を挟んで、目の前には、寂れた建物があった。大きなアーチに看板があり何か書かれているが、文字が消えかけ読めない。


「入って行ったとしたらここじゃないか?中に入ってみようぜ」

「ここ何の施設?なんか気味が悪いわ」


 隣で不安げな表情を浮かべている。


「じゃあ俺探してくるからここで待ってるか?」

「こんなところに置いて行かないでよ!なんかこの森も道も人っ子一人いなくて怖いわよ!」


 ということで二人で恐る恐る大きなアーチをくぐり、建物の中に入ると、右側にポツンと受付のような建物があった。近づいてみる。


「誰もいないんじゃない?」

「窓も閉まってる」


 覗き込んでみるが誰もいない。


「トントン」

「うわあああ!」

「きゃああなに⁉」


 突然肩を叩かれて叫んだ俺と、その声に驚く二夕見。振り返ってみると、小汚いおじさんがニッコリと笑顔を浮かべて立っていた。その足元にはさっきの白猫がいる。


「「ああ!」」


「こんにちは。どうやら何かお探しのようですね」

「その子何か持ってませんでした⁉」

「さあ分かりませんねえ。ですが、先ほど拾い物をしましてねえ」

「きっとそれ私のです!」


 そう言うとポケットからクシャクシャになったチケットを取り出した。


「あなたが落としたのはこの動物園のチケットですか?」

「はい!それわたし……の」


 しかしよく見てみると、黒くすさんでいて、ところどころシミがついている。決定的なのは、チケットの名前が「あしからzoo」と書かれていることだった。


「あの、それじゃないです」

「そうですか。では、それとも、この動物園のチケットですか?」


 そう言って今度は別の新品の綺麗なチケットを左手に取り出し、見せる。


「そう!そっちの……チケット」


 しかしよく見ると、そっちも「あしからzoo」と書かれており、違う。


「ていうかそれどこの動物園だよ。そんな動物園聞いたことねえよ」

「あの、どっちでもないんですけど……」

「そうですか!あなたは大変正直です!どちらも差し上げましょう!」


 嬉しそうに二夕見に無理矢理掴ませようとして逃げられ、代わりに俺の手を掴むと無理矢理握らせる。


「ちょうど二枚あります!しかも!なんとですね!このチケットが使えるのはここ!この動物園なんです!」

「はあ?」


 俺たちは首を傾げる。


「あなたたちが今いるのは、超人気動物園!あしからzooなんです!」

「ここ動物園だったの⁉」


 二夕見が驚きの声をあげる。それほどまで閑散としていて、人がいなかった。


「ていうか超人気動物園の名前とは思えないけどな。あしからずってなんだよ。絶対苦情多いだろ」

「あの!他にチケットありませんでしたか⁉私こんなの落としてません!」

「さあー。他には何もなかったよね~?ねえちーちゃん?」


 白猫を抱き上げるとよちよちしだす。


「嘘つけおっさんこら。明らかにお前の飼い猫だろ。ていうかもう言うけどお前明らかにここの職員だろ。人気動物園のチケット盗ませてるだろ」

「はあ。分かりましたよ。分かりました。たしかにあと一枚ありましたね。では、あなたが落としたのはこの小汚いチケットですか?」


 そう言うとパンツの中に手を突っ込みごそごそするとよれよれの紙切れを一枚取り出した。


「どこから取り出してんだてめえは!人のチケットどこにしまってんだ!ほんとに汚えよ!」


 隣で目が死んでいる二夕見に話しかける。


「えっと、よかったな二夕見。チケット戻ってきたぞ。さあこれで戻れるな。ちょっと遅くなったけど今からでも回ろう」

「こんなのもう使えるわけないでしょ!二度と触れないわよ!ふざけんじゃないわよ!だったらあんたのと交換しなさいよ!」


 ぶちぎれて俺につっかかってくる。


「分かった分かった!怒んなよ。もう諦めよう。どうせ帰り道わかんねえし、こいつ絶対教えてくれないだろうから、もうどうせならこの動物園に入ろうぜ」

「ううっ。最悪すぎ。なんで私がこんな目に。どうせこころくなところじゃないし……」

「まあまあまあ。案外入ってみたら楽しいかもしれないしな。行ってみようぜ」

「あなたは大変正直ですばらしい人間ですね。この紙もあげましょう」


 そう言ってパンツの中からトイレットペーパーを取り出した。


「流石の俺もそこから出したトイレットペーパーは要らねえよ!」

「早く行くわよ!」


 二夕見に引っ張られゲートをくぐり中に入っていく。


  少し歩くと、鷹やトンビ、きじなどのイラストが描かれたところに着いた。最初のコーナーは鳥類のようだ。ボロボロで掃除も舗装もされていない道を歩く。


「へえ。けっこうちゃんとしてるんじゃないか?」

「まあ。たしかに」


 矢印の通りに進むと、檻が並んでいるところに出た。しかし、なぜか天井はなく、青天井で空がきれいに見えている。その上鳥一匹もいない。


「なにこれ」


 二夕見がしらーっとした目で見ている。


「いない、な。檻の中にさらに小さな小屋みたいなのあるぞ。あそこに隠れてるんじゃないか?」


 看板にはあひると書かれていた。


「アヒルだってよ。楽しみだな!」


「ガチャッ」


 その時、小屋が開いて何かが出てきた。


「ほ、ほら!な、なんか出てくるぞ!」


 機嫌がどんどん悪くなる二夕見の機嫌を取るように明るい声音を出す。


 中からアヒルのおまるにまたがって変なおっさんが出てきた。


「ガーッガーッ!ガーッガーッ!」


 地面にあひるのおまるを置くとうんこ座りして「んーっ!」などと言って顔をゆがめている。


「んーっ!でりゅ!ガーッガーッ!ガーッガーッ!」


 そして今度は両手を広げて羽のようにばたばたさせる。


「ひどすぎるだろうがよいくらなんでも」


 いや実際はズボンもパンツも履いてるからうんこのふりなんだろうけどひどすぎるよね?


「……」


 隣の二夕見の顔は怖すぎて見れなかった。でも怒りより恐怖の方が強かったんじゃないかと思う。まじでこの動物園やばいって。


「行こうか」


 またガーガー言い始めたので二夕見と促して次のコーナーに行くことにした。




 少し歩くと、看板に、あしからzooのアイドル。パンダのらんちゃんと書かれていた。


「お!おい次はパンダだってよ!可愛いやつきたぞ!」

「どうせいないに決まってるでしょ」


 と冷めた二夕見。


 しかし、檻の中には、白と黒のもこもこがいた。


「おい!まじでいるじゃん!見ろよ二夕見!」

「嘘⁉きゃああ!ほんとにいるわ!可愛い!おしりかいてる!」


 二夕見が久しぶりに高い声を出してはしゃぐ。


 近寄って見ると片ひじをついて側頭をのせ、おっさんみたいに寝ていた。


「なんかワイルドじゃない⁉」

「たしかに!なんか生意気で可愛いなおい!ていうか今度は脛の毛抜き始めたぞ!まじでワイルドなおっさんかよ!」


 二人で顔を見合わせてはしゃぐ。


「可愛い~!抱きしめたい!ねえ触れないかな!」

「流石にダメだろそれは。気持ちは分かるけど」

「またおしりかいてる!あ!今度は手の匂いかいで―――」


 二夕見が急に黙る。


「ねえ。なんかあまりに人間臭くない?ていうかおっさんくさすぎない?よく見るとなんかリアリティがないっていうか。今おしりかいてた手の臭いかいでたんだけど」


 流石の二夕見も冷静になるほどのおっさんぷりに、疑いを覚える。


「違うってよ。ぶんぶん首振ってるぞ」

「確信犯じゃない!どう考えても中身人間でしょ!」


  今度は腕をクロスさせてノーと主張してくる。


「違うってさ」

「だからそれはもう人間なのよ!ふざけんじゃないわよ!だましたわね!」


 今度はあざとく首を傾げる。そしてこちらにおしりを向けておしりをかく。先ほどの可愛いと言われた仕草を主張してくる。


「もしかしたら人間の言葉が分かるだけかもしれないだろ」

「そんなわけあるわけないでしょ!だいたい―――」


 二夕見が言いかけた時、びりっという音がした。


 パンダのおしりに穴があいている。


「「……」」


「ふう。あちいあちい。ちょっと今から水被ってパンダになってくるから待っててね」


 首が外れて中からおっさんが出てきた。


「らんま2分の一か!それで騙せると思うなよ!案の定おっさんかよ!おしりかきすぎて穴開いてるしよ!開き直って出てくんな!」


「……」 


二夕見はあまりの衝撃に声が出ないらしい。そして水をかぶってまた戻ってきた。可愛く小首をかしげる。


「全然可愛く見えねえよ!もう無理があんだろうが!さっきまでの全部汚くしか思ねえよ!もうお前の顔が頭に焼き付いて離れねえよ!」


 そしてまたおしりをかく。


「ふざけんじゃないわよ!もう可愛く見えないからおしりかくんじゃないわよ!」


 とうとうキレた二夕見が叫ぶ。


「臭いかぐなぼけ!」


 二人で散々物を投げてブーイングする。


 立ち上がると怒って床をダンダン踏む。


「「おっさんのくせに可愛い怒り方すんな!」」


「!」 


なにかおもいついたように手をぽんとすると、腰を落としておしりを突き出すと、踏ん張り始める。「ううっ。うううっ」などとうめき声をあげて見慣れたポーズをする。


「おおいこいつウンコする気だぞ!そのかっこうだからって許されると思うなよ!またかよ!ていうか今度はガチだぞこいつ!」

「いやああああああああああああ!」


 二夕見が俺の肩を思いっきりパンチする。


「いたああ⁉なぜに俺⁉」

「パンダはうんこ食べるんだぞお!」


 などとよく分からないことを大きな声で叫ぶパンダ。もといおっさん。


「ひいいいいいいい!」


 戦慄する二夕見。


「こいつバケモンだ!逃げるぞ二夕見!」


 俺たちは全力でその場を去った。


「はあっはあっ。あいつっ。逆ギレして嫌がらせにうんこってバケモンかよまじでっ」

「はあっはあっ。あれがこの動物園のアイドルっ⁉冗談言うんじゃないわよ!」


 二人で愚痴りながら進むと、今度は猛獣注意と厳重に書かれ、雰囲気が変わった場所に入った。


「ま、まさかいるのか?」

「え?何が?」


 先ほどとは違う、厳重な鋼鉄の檻の中には、雄々しい雰囲気を放つ虎が立っていた。


「「虎だああああ!」」


 二人してまたテンションが上がってきた。


「いるわ!ちゃんといる!虎よ一ノ瀬!」


 興奮気味に俺の方を見てくる二夕見。


「落ち着け!絵かもしれないぞ!絵に描いた虎なんかよく聞くし!」

「でもあの雰囲気はそうよ!ごまかしようがないわ!」

「よしちょっと試してみよう」


 俺は少し近づくと財布から五百円玉を取り出し檻の中に投げ入れる。


「ああ手がすべって五百円玉があー」


 ダッシュで五百円玉に近づき、拾おうとするが拾えずにいる。


「どうだ?」

「怪しいわ。かなり怪しい」


 二夕見が眉をひそめる。


「でもほら。動物は光るものとか好きそうだし」


 しかし何度も手からこぼれおち、らちが明かずにいるのを見ていると、肌色の手がどこからかぬっと出て、一瞬で五百円玉を回収しさっと消えて行ったのが見えた。


「おおなんか毛色の違う手が見えたなあ。きっと鵺の親戚みたいなもんなんなんだろうな。珍しいもん見たべ。さて次行くかあ」

「この嘘つき!」


 二夕見がなぜか俺の肩にパンチしてくる。


「いった」


 八つ当たりはやめてもろて。


「おいどうせおっさんだろ。出てきたらその五百円玉返さなくてもいいぞ」


 虎もどきに話しかけるとぬっとおっさんが出てきた。


「ほんとかい?」

「「はあ」」


 二人して大きなため息を吐く。


「それで?なんでこんなことしたの?」


 俺たちは正座させておっさんに詰問する。


「臆病な飼育員と莫大な奨学金で気づいたら虎になっていました」


「どんな山月記だ!ただ虎扱うのが怖いのとお前の借金のせいで虎の着ぐるみ着せられてるだけだろうが!臆病な自尊心と尊大な羞恥心みたいに言ってんじゃねえぞ!ていうか怖いんだったら飼育員なんかやめちまえ!」


「そんなこと言うなよ李白」


「うるせえんだよ!誰が李白だ!」


 二夕見は驚いた顔で俺を見ている。なんだよ。


「私が完全に虎になる前に、私の詩を聞いてくれ」


「めんどくせえよこいつ。人間ってバレた瞬間姑息な設定出してきやがって。いつまでその設定貫くんだよ」


「ほんとうは たてがみのない メスライオン きんたまあるけど女の子」


「どっちでもいいんだよ!汚い詩作んな殺すぞいい加減にしとけ!」


「この嘘つき!」


 二夕見が俺の肩をまた殴る。


「いてえよ!なんで俺なんだよ!」

「もう行くわよ!さっさとする!」


 俺の腕を掴むと、荒い足取りで次へと進んでいこうとする二夕見。引っ張られ俺もついていく。


「なんでこの動物園一匹も動物がいないのよ!ふざけんじゃないわよ!珍獣しかいないじゃない!むかつく!」

「お、落ち着けよ。気持ちは分かるがキレすぎだろ」


 俺がなだめようとすると、唇をとがらせてきっとこちらを見る。


「せっかくのデートなのになんでこんなところ回らなくちゃいけないのよ!ふざけんじゃないわよ!」

「で、デートだったのかこれ?」

「は、はあ⁉で、デートなわけないでしょ!勘違いするんじゃないわよ!」

「いやお前が言ったんだろうが。キレんなよ」


 さっきまで怒っていたと思ったら急にもじもじし出す二夕見。それから次のコーナーを目指し歩くが、静かになったかと思えば、やけにちらちらこちらを見てくる。


「あのさ。なに見てる?チャック開いてるか?トイレしたいか?」

「は、はあ⁉勘違いするんじゃないわよ!あんたなんかみ、みみ、見てないし!鼻毛出てるからキモこいつと思って見てただけよ!」

「一番つらいやつじゃん。早く言えよ。死にたくなるやつじゃん。なんでそんな頬赤く染めて鼻毛見てんだよ」

「別に赤くなってないし!」


 やけに強く否定する。


「はあ。うんこは出しても鼻毛は出すなが俺のスローガンだったのに。はあ」

「な、なんでそんなにへこんでるのよ。あんたいつも平気で鼻ほじったりうんこしたり、バケモノ級にノンデリで面の皮厚いくせにどうしたのよ。ていうか冗談だし」

「はあ⁉お前言っていい冗談とダメな冗談分からねえのか⁉男の子にはな!ちょっとはげた?と鼻毛出てるよだけは言ったらダメなんだよ!」

「だ、だって、あんたが急にツッコんでくるからでしょ。ていうかちょっとはげた?なんてなかなか使わないと思うんだけど」

「二度と言うなよ!」

「分かったわよ。悪かったわ。変なやつ」


 首を傾げながらも一応理解は示す二夕見。


「てかじゃあなんで見てたんだよ」

「……鼻くそついてたのよ」

「じゃあいいか」

「そっちの方がアウトでしょうが!なんで私こんなやつのこと!」


 なにか言いかけて口をつぐむ。



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