表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一ノ瀬英一のおバカ譚  作者: 八野はち
PR
79/81

77話 「野外炊飯?レトルトなんですけど」

 しばらく道路を走り、目的地に着いた。入り口には青山自然の家と書かれており、車から降りてみて辺りを見渡すと、森に囲まれており、色んな施設があるようだ。


「もうみな夕食の野外炊飯に取り掛かっている。君たちも早く自分の班に入りなさい」

「「はーい」」


 俺たちは軽く別れを済ませて各々の班に向かう。


「ゆき。食材と道具の場所はさっき確認した。鍵も盗んである。二人でカレーを作って食べよう」

「ええ⁉すごい!楽しそう!」


 などとひそひそ話しているやつらがいた。どうやら二人とも楽しめそうで何よりだ。


 などと考えながら自分の班を見つけ向かうと、俺の代わりに別の班の女の子が仲良さげに、楽しそうにカレーを作っていた。あの。僕も不藤さんと白銀さんの仲間に入れてもらってもいいですか。


 蓮太郎を探して他の班をのぞいていると、みな楽しそうに野菜を切ったり、ご飯を炊くための薪を切ったり、食器を運んだりしている。


 ある班に蓮を見つけ声をかけようとしたが、他の班と楽し気にしていたため声を掛けるのにためらい、気づけば一人立ち尽くしていた。


「あれ?俺ってこんな陰キャだったっけ?なんか泣きたいんだけど」


 悲しくなって、作業場所から離れ、とぼとぼ歩いていると牛舎を通りかかった。


「あ。カレーだ。なあそこに落ちてるのってカレーだよな。よっしゃ今日の夕飯みーっけった。らっきー。なーんだ。カレーなんか作らなくてもここで食べ放題やってるじゃん」


 牛舎に落ちているカレーに近づいていくと、端っこで女生徒三人がジャージ姿で藁の上に寝っ転がって上を見ていた。


「ねあ今なんかキモいやつの声聞こえなかったか?」

「リーダーなんか最近しゃべり方可愛くなってません?そこは『なあ』ですよ。私もなんか聞こえた気がしたけど多分幻聴ですって。最近あいつ見ないし多分もう死んだんですよ」

「いやなんかキモイ声っていうかまじでキモいこと言ってるの聞こえたんだけど私だけっすか?」


 三人目が会話に加わる。


「せーので見ません?そんな気分じゃないのわかりますけど、会いたくないやつだってのも分かりますけど、ね?三人で一緒に顔上げましょうよ」


 なにやらぶつぶつ言っているが俺には関係ない。


「ていうかよく考えたらこれビーフカレーじゃん。すげえ高くて美味しいやつじゃん。こくとかめっちゃ出るやつじゃん。よーしこれみんなのカレーに混ぜて『なにこれ美味しい!すごい一ノ瀬君!』って言ってもらって人気者になろうっと」


「「「いいわけねえだろうが!ぶっ殺すぞてめえマジで‼」」」


 端っこに寝転んでいた女生徒三人が勢いよく上体を起こし、叫んできた。見覚えのあるギャルだった。


「うんこはなぜ茶色いのか。その謎を解明すべく我々はアマゾンの奥地へと向かった」


 俺は藁を生い茂った葉のようにかきわけ近づいていく。そこにはアマゾンの原住民たちがいた。


「ブーパセンガッダドゥーラハムタ!」

「何語だよ!あたいたちを認識して一番に出た言葉がそれか!どういう意味だよ!」


 真ん中のリーダーみたいなやつが怒鳴る。


「今日は狩りには行かないのですか?と言っています」


「「「誰がアマゾンの戦士だ!ぶち殺すぞてめえは!」」」


 三人仲良くツッコんでくる。


「何かと思えばアマゾンの部族の言語か今のは!」


 三人とも立ち上がって怒っている。


「よう久しぶりだなお前ら。こんなところで何してるんだ」

「あたいらは不良らしくここでさぼってるんだよ。どうだよ不良っぽいだろ」


 とドヤ顔の月野。


「料理へたすぎて追い出されたんだろ」

「ち、ちげえ!あたいはやる気まんまんだったけど二人が止めたんだよ!」

「なんでお前リーダーが料理苦手なこと知ってんだよ」


 菅原と荒木が不思議そうな顔をする。


「なんでってこの前こいつの家で一緒に料理したしな。お前らのリーダーとはこっそり会ってるんだぞ。なあ月野。こいつの弟とも仲が良くて家族ぐるみの付き合いなんだ」

「はあお前適当なこと言いやがって」

「ふん。バカは寝て言え。ねえリーダー」


 バカにしたように鼻で笑って横のリーダーを見る。


「ちがっ!あ、あれは、弟が一緒に遊びたいって言うから仕方なくっ!ていうかそのことは言わない約束じゃ!」


 頬を少し赤く染め取り乱している月野を見て絶句する二人。


「「はああああああああっ⁉」」


 遅れて叫ぶ。


「リーダー本当なんですか⁉嘘でしょ⁉」

「てめえリーダーの弱み握って脅しやがったなあ!」

「いやいや俺からは一回も言ってねえから。ああでもたまたま握手会で会ったがあれはまあ俺から行ったな」

「おいてめえまじでばらすんじゃねえよ!別にたまたま会っただけだろうが!わざとだろてめえ!」


 とうとうキレる月野。


「たまたまならまあ、いいか?」

「たまたまなら。どうせこいつのことだからわざとまぎらわしい言い方してんだよ」


 二人で納得しようと頷き合っている。


「冗談だろうが怒んなよ。それで?お前らは少しは不良に近づいたんだろうな。どうよ」

「聞いて驚けよ!私たちはもう前の私たちじゃねえぞ!」

「そうだ!言ってやってくださいリーダー!」

「おお!なんとよ!コンビニのトイレにガムを捨ててやったぜ!これは悪いだろ!」


 ドヤ顔の月野。


「なに?なにを捨てただと?聞き間違いかもしれん。もう一度言ってくれ」

「だからガムを捨てて――――」

「ガムを捨てただと⁉お前らぶっ殺すぞ⁉ガムなんか捨てたらトイレが詰まっちまうだろうが!お腹痛いときに駆け込んだトイレが詰まってたらどんな気持ちになるか分かるか⁉この世の終わりのような気持ちになるんだよ!挙句の果てには『お客様いつもこのトイレ使ってますよね。詰まらせたのあなたですよね。このトイレ出禁にさせていただきます』とやってもいない罪をきせられ、その店の付近でお腹痛くなった時に遠くの店まで我慢しないといけなくなるんだ!分かるか!二度とやるなよ!」


「お、おう」

「なんかごめんな」


 と少し引いている菅原と荒木。


「でも後半のくだりはお前くらいしか該当しないと思うけど。ま、まあでもその時はトイレットペーパーで包んで捨てたから大丈夫だよ。トイレ詰まったりしねえよ」


 と月野。


「トイレットペーパーをガムを捨てるためごときのために使っただと⁉てめえらぶっ殺すぞ!お腹痛くて死にそうなときにトイレットペーパーがなかった時の気持ちがてめえらに分かんのか!もしそれでトイレットペーパーが市場から消えたらどうする!石油は有限なんだぞ⁉限りある資源を大切にしやがれバカ野郎が!二度とやんな!」

「トイレの話したら絶対こいつの地雷踏むじゃねえかよ」


 呆れた様子の菅原。


「ていうかそのくらいでトイレットペーパーが市場から消えるか!てめえいつの時代の人間だよ!今はトイレットペーパーを作る時に石油は使わないんだよ!木とか古紙からできてんだバカが!」


 逆ギレする月野。


「おい第三次石油機構が起きて世界からトイレットペーパーが枯渇して第三次世界大戦が勃発したらどうするんだよ!今のうちにトイレットペーパー買い占めないと!」

「だからトイレットペーパーの資源は石油じゃねえって今リーダーが言っただろうが!」


 と荒木もキレる。


「そもそも石油を巡って争いが起こるかもしれねえがトイレットペーパーを巡って争いが起きるわけじゃねえんだよ!バカみてえだろうが!」


 三人で怒鳴ってくる。


「はあっはあっ。ダメだ。こいつと話すと疲れる」


 肩で息をする菅原と荒木。


「まあ私はもう慣れたけどね。ていうか一ノ瀬くんはなんでこんなところいるの」

「「っ⁉」」


 目を見開いて隣を凝視する二人。


「リーダー⁉なんですかその仲良さげな口調は!」

「ていうかしゃべり方が戻ってますよリーダー!」

「はっ!ぶ、ぶっ殺すぞてめえ!」


 顔を赤くしてなぜか俺にキレる月野。


「いやいや。おかしいでしょ。なんで俺が殺されるんだよ。俺何も悪くないよね。弟の前で猫ばっか被ってるからそうなるんでしょ?」

「……」


 俺の言葉になぜか目を見開き、瞳を伏せると悲しそうな顔を浮かべる月野。


「猫、かぶってるのかな」


  ぼそっと何か言ったようだが聞こえなかった。荒木と菅原も戸惑ったような視線を向けている。


「なにか言ったか?」

「なんでもねえよ。だからなんでここにいるんだよって」


 先ほどの陰りなどなかったかのようにいつもの調子に戻る。


「なんか野外炊飯に遅れたら俺の代わりがいて居場所なかったからこのカレーでも食べようかと思って」

「「「だからそれはカレーじゃねえって言ってんだろうが!」」」

「冗談だろうがよ。じゃあお前らは夕飯どうするんだよ」

「それは……」

「ねえ?」


 二人で月野をちらっと見る。


「ぎゅるるるるる~」


 ここで月野のお腹が鳴った。


「~っ!」


 恥ずかしそうにお腹を押さえる。


「しょうがねえなあ。よし。じゃあ俺がさっきここに来る途中で見つけた備蓄庫まで案内してやる」


 三人の顔がパーッとほころぶ。


「よし!俺の良い所言ってみよう大会開催!ドンドンパフパフ!」

「バカが。誰がやるか。てめえの良い所なんかねえに決まってんだろ」


 月野がふんと肩をすくめて鼻で笑う。


「あーあー。もういいや。一人で備蓄庫行って美味しそうなの持ってこよー。お前らはみじめに色んな班回って余り物のカレー恵んでくださいって頭下げに行くんだろうなあ。みんな一生懸命作ったカレーを何もしてないやつらにあげるの嫌だろうなあ。きっとみんなにたらいまわしにされて最後は寂しくここに戻って来て俺が食べてる横でお腹鳴らして泣きながら藁の上で寝るんだろうなあ。悲しい林間学校を送るんだろうなあ。はあかわいそかわいそ」


 俺が牛舎から出て行こうとすると、菅原と荒木が必死に止めにかかってきた。


「待て待て待て待て待ってお願い!やりたい!一ノ瀬英一の良い所言ってみよう大会やりたい!」

「私もやりたい!リーダー謝ってくださいよ!私たちそんな惨めな思いしたくないですよ!お腹空いて気が立ってただけですよね!ね⁉」

「くっ!や、やりたいです!あたいもやりたいです!」


 悔しそうに賛同する月野。


「えーそんな嫌そうに良い所言われてもなあ。無理しないでいいんですよ月野さん。アイドルがそんな自分を安売りなんてしたらダメですよ」

「くっ!こ、こいつ足元みやがって!」

「え?なに?」

「すいませんでした!お腹空いて気が立ってたんです!あたいも一ノ瀬さんの良い所いいたいです!」


 心底悔しそうに下唇をかみながら言う。


「よーし!それなら月野から言ってみよう!一ノ瀬英一の良い所!なあにー⁉」


「「「こいつほんとにキモいなまじで」」」


「飯食った後半殺しにして牛の餌にしよう」


「「そうしましょう」」


「てめえに良い所なんかあるわけねえだろ犯罪者すれすれのくせに」


「「ほんとですよ」」


 三人で何やら集まってひそひそ話している。


「おいどうしたあ!やらねえのかあ!」

「「「ドンドンパフパフ‼」」」

「一ノ瀬英一の良い所!その一!」

「「はいはい!」」


 月野に二人が手拍子する。


「……」

「「はいはい!」」

「……」

「「はいはい!」」


「ありすぎて出ないか!よし飛ばして荒木行ってみよう!はいはい!」


 俺は月野を飛ばして荒木に振る。


「一ノ瀬英一の良い所!その一!」

「「はいはい!」」


 今度は月野と菅原がかけ声をする。


「……」

「「はいはい!」」

「……」

「「はいはい!」」


「よ、よおし!飛ばして菅原行ってみよう!二人とも考えとけよお!菅原お手本見せたれ!」


 二人とも緊張してるんだろう。仕方なく菅原に振る。


「一ノ瀬英一の良い所!その一!」

「「はいはい!」」

「……」

「はいはい!」

「……」

「はいはい!」

「……」


「よし二人とも集合!」


 月野の号令に三人で集まってひそひそ話し出す。


「あいつまじで良い所なんかあったか?一個も出ないけど。お前らある?」

「あれっすよあれ。えーっと。あれ?ん?」

「さ、流石に一個くらいあるでしょ。ほらよく考えたら。ん?」

「そんな人間もいるんだな。可哀想なやつだ。一体どんな生き方してきたんだ?」

「聞こえてんだよ全部!流石にあるだろ一個くらい!なんでそんなに考えて一個も出ないんだよ!おかしいだろうが!なかったらお世辞くらい言えよ!人を傷つけんな!」


 俺は泣き崩れた。


「日本語うまい!」

「漢字分かる!」

「文字も書ける!」

「日本人だバカ野郎!俺はいくつだ!誰にでもあてはまるわ!」


 なんとかひねりだしたのがそれってひどすぎるだろうが。


「うんこに詳しい!」

「バカ荒木それは良い所じゃ―――」

「そう!そうだろ⁉そういうのでいんだよ!もっとちょうだい!偉いぞ荒木!」

「よしあいつ誉め言葉だと思ってるぞ!頭悪いぞあいつ!これならいける!」


 なにやらひそひそ話している。


「うんこまん!」

「うんこたれ!」

「うんこ野郎!」

「ん?なんか怪しくなってきたな」


 俺の言葉など気にもせず三人ともノッてくる。


「軟便野郎!」

「トイレまん!」

「引きこもり野郎!」

「トイレットペーパー野郎!」

「ノンデリ男!」

「鼻くそ大魔神!」

「おい?それ完全に悪口だな?どんどんひどくなってるな?悪口はほいほい出てくるな?」


 俺は完全にいじけることにした。


「もういいし。一人で備蓄庫行ってくるし。お前らなんか知らねえし」

「お、おいあいついじけちゃったぞ。どうする?」


 いじける俺の後ろでひそひそ話し出す。


「り、リーダーなんかないんですか?」

「リーダーちょくちょく会ってるんですよね?なんか一つくらい思い浮かびません?」

「えっ、あたし⁉そ、そんかこと言われても……」

「「お願いします!リーダー!」」

「え、え~」


 なにやらもめているようだ。


「わ、分かったよ。お、おいっ」

「なんだよ」

「お、お前の良い所はあ、あるよ。ちゃんと。恥ずかしいから言わなかったけど、お前は、あたいが作った美味しくないチョコケーキをお腹壊しながらも食べてくれたし、絶対に美味しくないって言わなかった。嬉しかった。それに、なんやかんや秘密も守ってくれてるし、感謝してるよ」


 振り返ると頬を赤く染め照れた月野が。


「なーんかどうせなら化粧落としてから恥ずかしがって言って欲しかったな。やりなおし。ギャルは可愛くない」

「こいつっ!人が下手に出てたら調子に乗りやがって!ボコボコにしてやる!」

「待ってリーダー!抑えて!」

「気持ちは分かるけど!」


 と二人に止められる。


「よししょうがねえ。お前らのリーダーに免じてご飯恵んでやる。いろいろ取って来てやるからここで待ってろ」

「「「やったー!」」」


 三人でハイタッチして喜んでいる。俺は備蓄庫まで行っていろいろ拝借して戻る。


「よーし、いろいろあったぞー。ほれ。ビスコ、カロリーメイト、アルファ米、クラッカー」


 俺は菅原と荒木に渡す。


「おお!美味しそうだ!」

「お前のことだからどうせ変なの持ってくると思ってたよ!」


 と嬉しそうな二人。


「あたいは?」

「ほら。お前には砂糖とさつまいもとメリケン粉だ。ぜいたく品だぞ」

「なんであたいだけ戦後の配給みたいな内容なんだよ!むかつくからメリケン粉じゃなくて小麦粉って言え!」

「ヘイギブミーチョコレートって言えばチョコもやる」

「だからなんで敗戦後のアメリカ兵にチョコをねだる子供みたいなこと言わなきゃいけねえんだよ!ふざけんな!てめえの良いとこ言ったのあたいだぞ!」


 ぶちぎれる月野。


「なんてな。チョコは保存食には向かないから向こうに落ちているチョコになるがな」

「それは牛のうんこだろうが!」


 そろそろ本気で怒ってきたので俺はちゃんとしたものを渡すことにした。


「冗談だっつうの。ほれ。缶詰にレトルトのスープにカレーだ」

「か、カレー……」

「か、カレーはやめとこうぜ」

「そ、そうだよ」


 微妙そうな顔を浮かべる三人。そりゃそうか。みんなが美味しく楽しく自分たちで作ったカレーを食べる中、俺たちはレトルトの、それも保存食の温いカレーだもんな。


「とりあえず広げてみようぜ」


 俺はアルファ米を人数分開けて、缶詰やスープも次から次へと開けていき、大漁に備蓄されていた水の入ったペットボトルをそれぞれ配る。


「見ろよ!こんなにあるぜ!焼き鳥、おでん、シーチキン、さんま!防災用のランタンも持って来たぞ!」


 俺は暗い牛舎に灯りをともす。


「「「おおっ!」」」


 暗い顔を浮かべていた三人ともテンションが上がってきた。


「な、なんか非日常的な夜って感じで悪くないかもな!」

「うんうん!なんかこっちの方が自然体験って感じだ!」


 嬉しそうな荒木と菅原。


「た、確かになんか、秘密基地みたいで小さい時を思い出すかも。ワクワクする」


 と少し頬を染め高揚している月野。


「だろだろ⁉よしじゃあいただきます!」

「「「いただきます‼」」」


 みんな近くの缶詰からおかずを取って口に運ぶ。


「んっ!このおでん意外と美味しいぞ!」

「この焼き鳥も美味しい!缶詰悪くないかも!」

「あたいのたこ焼きも悪くない!」


 三人で顔を見合わせて、ほころばせる。その表情がランプの儚い灯りのもと、暗闇にまばゆく浮かぶ。良いもの見たかな。


「それな!米も意外と美味しいぞ。スープもクラムチャウダーにコーンスープに、中華スープにいろいろあるぜ!」


 俺はどんどん食べるように勧める。


「荒木それあたいにもちょうだい。私の焼き鳥も食べていいよ」

「ありがと。リーダーもどうぞ。三人でおかずシェアしようよ」

「いいなそれ!他のも開けよう!」


 楽し気な食事を、すぐそばの牛が見て微笑んでいるような気がした。


「おい俺にもくれよ」

「パシッ」 


 俺が箸を伸ばして月野のたこ焼きを取ろうとすると手をはたかれた。


「だ、だめだっ!これはあげられない!」

「なんで俺だけダメなんだよ。荒木と菅原は食べてるじゃねえか」

「お、お前はダメなんだよ!」


 さっきより頬を赤くして頑なに拒む月野。


「り、リーダー、それはさすがに……」

「そうっすよ。こいつがいろいろ持ってきてくれたんだし、少しくらい……」


 俺を庇いだす荒木と菅原。


「お、お前ら」

「だ、だって、これ、あたいが箸つけたんだぞ!こいつが食べたら、か、かか、間接キスになっちまうだろ!」

「おい触んなてめえ一ノ瀬!」

「ぶっ殺すぞてめえ!どさくさにまぎれてなにしようとしてんだてめえは!てめえはシェアできねえに決まってんだろうが!向こうで氷砂糖でもなめてろ!」


 一瞬で手の平を返し、キレだす二人。


「なんでてめえら箸つけてんだよ!取り箸つかえバカ野郎どもが!ふざけんな!」

「うるせえ!てめえが箸つけた汚いもの食えるかって話なんだよ!」

「ぺっぺっぺっぺっぺっぺっ!はい全部俺の唾つけたあ!はい俺の菌で上書きしたあ!はい俺の物!俺が食べるう!」

「汚えことすんじゃねえ!」

「もう食えねえだろうが!」

「てめえぶっ殺すぞ!」


 同時にキレだす三人。結局四人で騒ぎ続け、ご飯を食べ終わったのは二十二時頃だった。部屋に戻らないと心配されるということで、そこで別れて、自分の部屋に戻った。俺の部屋はみんな枕投げなどしていて楽しそうだったので、空気の読める俺はトイレで格闘したあと戻ることにした。戻る頃にはみんな寝静まっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ