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一ノ瀬英一のおバカ譚  作者: 八野はち
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80話「双子の貧困格差(貧乳巨乳)」

 九月も日を重ね晩夏も終わり、涼しくなってきた頃。俺たちはまた学校福祉部なる部室でやることもなくだべっていた。


「なんかまじで冷えてきたな。お腹冷やさないように気をつけないとな」


 俺はあけ放たれた窓を閉めながらつぶやく。


「ほんまやで。これから便座の冷たい季節になる。秋の到来や」

「この程度で何を言うてんねん。虚弱どもが」


 蓮浦が呆れたように視線を蓮に向ける。


「これからいろいろ活発な時期になっていくんやし、いいことしかないやん。スポーツの秋、読書の秋、食欲の秋。ってな。なあしお。今日も弁当食べた後パン買いに行っとったやろ?」

「……」


 蓮浦が隣の二夕見に意地悪な笑みを向けるが、二夕見は心ここにあらずといった感じだ。


「しお?聞いてる?」

「えっ⁉き、聞いてる聞いてる!そ、そうよね!ほんとテストの結果酷かったわ!」


 焦って取り繕うように返事するがまったく見当違いなことを言っている。


「そんな話してへんし。大丈夫?最近ボーっとすること増えたよ?しかもやけにちらちら一ノ瀬君のこと見てへん?」

「へ、へえっ⁉そ、そそ、そんなことあるわけないでしょ⁉へ、へへへんなこと言わないでよ!こ、こいつの鼻毛が気になって見てたのよ!まじあんたキモすぎ!」

「あ、ああそうやったん?一ノ瀬君鼻毛出てるらしいで」


 突然俺のメンタルをやりにくる二夕見。


「嘘つけ。今さっき確認したわ。なんか最近こいつによく鼻毛出てるから見てただけだし!ってキレられるから定期的にトイレでチェックしてるんだよ。お前は俺の鼻毛を根絶でもしたいのか?」

「べ、別にあ、アホみたいな顔してるから、き、気になるだけよ悪い⁉」

「なんかしおは前まで絶対鼻毛とか言わなかったのに、ためらいなく言うようになってもうたのは、絶対一ノ瀬君に悪い影響受けてるからやわ」


 蓮浦がはあっと溜息を吐く。


「おいアホやなお前はりん。ちょっとこっち来てみ」

「ん?なんや偉そうに」


 蓮に連れられて部室の外に出て行く蓮浦。


「なんだあいつら。仲いいな」

「……」


 視線を落ち着きなくさわよわせ、ソワソワしだす二夕見。


「ね、ねえ。あんたってさ、どういうかみ――――」

「トイレットペーパーだな。間違いない」

「紙じゃないわよ!髪型!まだ言い終わってないのに食い気味に答えんな!」

「もっと言うとダブルだとよしだ」

「だから掘り下げんな!人が勇気出して聞こうとしたのに!このクズ!」


 なにやらぼそぼそ言っている。


「なんかお前最近ぼそぼそなんか言ってない?なにか文句言ってない?俺の髪のこと言ってるよね?ねえ?」

「うっさい根暗ハゲ!キモい勘違いするな!」


 またキレる二夕見。


「それで。どうなのよ。どういう髪型が好きなの?」

「髪型?別にその人に似あってればなんでもいいんじゃねえか?」

「そ、それはそうだけど。もっとこうあるでしょ?あんたの好みを聞いてるのよ」

「そんなもん聞いてどうすんだよ」

「い、いいから答えなさいよ!勘違いするんじゃないわよ!ハゲが好きな髪形を聞いてアンケート取ってんのよ!」

「なにその鬼畜すぎるアンケートは。俺も調査対象に入ってるの?ねえ?そしたら髪くれるの?」


 俺の眼力に気圧され椅子ごと退く。


「こ、怖い目を向けるんじゃないわよ!じょ、冗談でしょ。ただ、参考に聞いてみただけだし」

「好きな髪形ねえ。ハーフアップとか?」

「はああんたそれまさか二組の柏木さんのことじゃないでしょうね。誰のことさして言ったのよ。おい。吐け」


 急に目が虚ろになって顔を近づけてくる。


「怖えよ!別に誰もさしてねえよ!なんで自分から聞いといて答えたら怒ってんだよ」

「なによ私の髪型は可愛くないっていいたいわけ?」

「いやまあセミロングも嫌いじゃないけど。めんどくせえなあ。髪の毛むしりとるぞ」

「こっちのセリフよ!セミロングは何番目に好きなのよ!」

「ああ?だから似合ってればいいんだよ」

「じゃ、じゃあ私は、に、似合ってる?」

「お前は丸坊主が似合うから出家しろ」

「こいつ殺してやるわ!」


 などと言って首を絞めようとしてくる。


「おいよせ冗談だろ!」


 俺が首を必死に守ろうと戦っていると二人が戻ってきた。蓮浦がやけににやにやしている。


「ただいま♪いやうちとしたことがまさかこんなことに気づかへんとは。進展なさ過ぎて忘れとったわ」

「俺みたいないつもデリケートな問題を扱ってるやつにしかこんな繊細な変化には気づかへんねん」

「ほざいとけ。ただけつが弱いだけやろ」


 蓮浦と蓮がにやにやしながら入って来る。


「どこ行ってたの?」


 二夕見が不思議そうに尋ねる。


「あーちょっと、ほら、あれやんな?蓮太郎」

「ああ。ちょっとツレしょんや」

「お前殺すぞ!なんでうちがお前とツレしょんせなあかんねん!」

「間違った。つれうんや」

「悪化しとるやろうが!お前のどこが繊細やねん!」

「ま、まあいいけど」


 二人のいつもの喧嘩に、流す二夕見。


「コンコンッ」


 その時、ドアがノックされた。





「失礼するぞ!」


 元気な挨拶とともに、ドアがスライドされ、入ってきたのは、ウルフカットで真っ直ぐ大きな目に、明るい笑顔の女の子だった。なにより目を引くのがその胸で、女子高生にしては大きなそれが実っていた。


「ちょっと相談があって来たんだ!な!」


 大きな声の元気っ子が後ろを振り返ると、もう一人女の子が入ってきた。


「ルカうるさい。声大きいの」


 元気っ子とは対照的に冷めた表情にぼそっとしゃべり、クールっぽい。


「こんにちは。こちらにどうぞ」


 二夕見が立ち上がって椅子まで案内する。


「久しぶりやね相談者なんて」


「そういえばここはそういう部活やったな。忘れとったわ」


 俺たちの向かいに相談者の二人が座る。


「それで、どういう話なの?」


 明るく優しく尋ねる二夕見。


「ああ!恵先生が面白いやついねえのかって言ったら、この部室にいるっていうから、会いに来たんだ!誰が面白いやつなんだ⁉」


 などと楽しそうなやつ。


「す、すごい陽キャな子が来たわね」


 蓮浦に耳打ちする二夕見。


「え、えっと、まずお名前はなにさん?」

「おっと悪いな!あたしは三宮ルカ!好きなことは思いっきり走り回ること!好きなスポーツはサッカー!面白いやつが好きなんだ!よろしくな!」


 円藤守みたいなやつが来たな。


「そ、そうなのね。よろしくねルカさん。私は二夕見しお。一応この部活の部長してるわ」

「しおが面白いやつなのか⁉」

「え⁉わ、私は別に面白いとかじゃないけど……」


 と困惑する二夕見。俺の方をちらちら見てくる。なんだよ。


「ふん。顔が面白いやつならさっきからそこに座ってるの。まぬけな面してて見ていて滑稽なの」


 黙っていると思っていたらいきなり毒をはいてくるもう一人の女の子。


「おいおい蓮お前言われてんぞ。まぬけな顔だってよ」

「お前に言ってるの。初対面の人の前で鼻ほじるななの」

「ご、ごめんなさいうちのアホが。えーっと、あなたは、お名前は?」

「りなの名前はリナなの。リナは別に仲良しこよししに来たわけじゃないの」


 と冷めた様子のリナ。


「おいリナナノ。アメリカ人かお前は?バナーナチンパンジィムシャムシャオーケイ?」

「リナナノじゃないの!リナなの!お前死ぬほどムカつくの!」

「リナナノじゃねえか」

「お、おい!この鼻ほじってたやつ面白そうだな!お前か!お前だな!」

「別に俺はそんな芸人枠とかじゃねえよ。どっちかというとそろそろ俺様系ワイルドイケメン男子でやって行こうかと思ってる」

「あはははははっ!やっぱりお前だ!面白い!お前名前なんて言うんだ⁉」


 向かいから身を乗り出して覗き込んでくるルカ。お、おいその姿勢はた、谷間が。


「いけるわけないでしょうがこの原始人が!あんたはワイルドが過ぎるのよ!」


 隣の二夕見が不機嫌そうに言う。


「俺は一ノ瀬英一だ。まあよろしくな。お前サッカーはどこのポジションなんだ?」

「あたしか⁉あたしはFWだ!点を取って取って取りまくるんだ!」

「へえ。イメージ通りだな」

「お前サッカー分かるのか⁉」

「俺は西中の片づけ屋と言われた男だ。俺に取れないうんこはない。最高の整備士だ」

「あははははははっ!何言ってんだお前!お前絶対アホだろ!あははははははっ」


 爆笑している。


「ていうかお前さっきからその姿勢やめろよ。別にそんな近づかなくても話はできるだろ」

「なんだ照れてんのか?気にすんなよ!じゃあさ!隣行っていいか⁉」

「いやいいよ。別に向かいに座っても話はできるだろ。いいから早くその前傾姿勢やめいだだだだだだだっ⁉」


 急に右の太ももに鋭い痛みを覚え右を向くと、笑顔の二夕見が俺の太ももを机の下でつねっていた。


「二人だけで仲良く話すのはちょっと控えてね~。ルカさんも席に座ってくれる?」

「あ、ごめんな!あたし夢中になると周り忘れてのめりこんじまうんだよな」

「お・い・ど・こ・見・て・ん・だ? あ?」


 と二夕見が口パクで伝えてくる。


「見てみ蓮太郎。超かわいいやろ今のしお」

「怖いやろ。どう見ても。まあ一は色仕掛け効かんから心配せんでもええけどな」


 と隣で仲良くなにか話している蓮と蓮浦。二夕見はルカの胸を見て今度は歯ぎしりしていた。しかし、

その二夕見以上に悔しそうに歯ぎしりしているやつが向かいにいた。リナだった。この世のすべてを睨みつけるような目で、自分の胸元を見ていた。そこは確かに隣のルカと比べると大きな格差が生まれていた。この国の貧困格差よりも大きな、いや、小さな問題だった。


「ルカ。ただのバカをつけあがらせないでほしいの。いい加減男との距離感考えて欲しいの」

「なんだよ。別に面白いやつと仲良くなりたいのは普通だろ。むしろリナはもっと人と接した方がいいぞ」

「そんなのリナの勝手なの。ルカは男との距離を考えろって言ってるの。今もそこのバカがルカの胸ガン見してたの。ルカはただのクソビッチなの」

「なんだと!別にわざとじゃねえよ!ていうか別に英一もそんな目で見てねえし!男とか女とかリナが気にしすぎなんだよ!」


 喧嘩し出した二人。どうしようかと思って隣を見ると、二夕見は「えいいち?」などとなぜか俺の名前を呼んで呆けていた。


「ま、まあまあ二人とも落ち着いて。な?友達なんやから仲良くして」

「ルカは別に友達じゃないの」

「そうだな。リナは友達ではねえよ」

「い、いやそれは言い過ぎやないか?」


 蓮も少し焦る。


「あたしたちは双子だ」

「「「「ええっ⁉」」」」


 まさかの返答に四人とも驚く。俺も含めて。


「あ、あんまり似てねえな」

「ほんとに」

「二卵性だからな」

「どこを見て似てないって言ったの?今そこの原始人からいやらしい視線を感じたの」


 恨めしそうな顔で俺を見てくるリナ。


「別に顔とか雰囲気の話してるんだよ。ブス」

「ルカ、ブスって言われてるの。怒るといいの」

「今リナにブスって言ったんじゃねえか?あたしじゃねえよ。な?英一」


 二夕見がぴくりと反応する。


「リナとルカは双子だからリナにブスって言ったっていうことはルカにブスって言ったっていうことなの。そしてリナはブスじゃないからルカがブスっていうことになるの」

「そーなのか?」

「そーなの」

「おい英一!誰がブスだこのやろー!あたしはブスじゃねえぞ!」


 騙されて俺につっかかってくるルカ。


「お前バカだろ。今お前のことブスって言ったのお前の姉ちゃんだぞ」

「そーなのかリナ?」

「あいつ嘘ついてるの。リナがそんなこと言うわけないの。そんなことより今あいつブスって言ってたのブス」

「ほんとだ!やっぱりお前が言ったんじゃねえかよ!覚悟しろよ!」

「いや今ブスって明らかに言われてたじゃねえか。お前栄養全部胸にいって脳みそ足りてねえんじゃねえか」

「そうなのか?栄養が脳みそにいってないってどういうことだリナ?」


 今度は俺の言うことを信じてリナに素直に尋ねる。


「今のはリナに言ったの。リナは胸が大きいからリナに対する悪口なの。でも本当は興味津々なくせに照

れ隠しなの。照れ屋なの」

「でもリナはあたしより胸小せえじゃねえか」

「うるさいの。そんなぷよぷよの脂肪がついてるからって調子に乗らないで欲しいの。どうせ将来は垂れてみっともない身体になるの。でもママは絶対許さないの」


 などと恨みがましそうな顔を浮かべ、ルカの胸をパチンと叩く。


「痛えよリナ!おっぱい叩くなよ!」


 その時、隣から向かいのリナに手がすっと差し伸べられた。横を見るときりっとしたいい笑みを浮かべた二夕見だった。リナは一瞬不思議そうな顔を浮かべるが、二夕見の胸元を見た瞬間に、ふっと笑い手を出しそれに応じる。二人が固く握手した。


貧乳同盟結成!


俺は心の中で叫んだ。


「ルカはちょっと胸が大きいから調子に乗っているけど、小学生までは自分のこと男と思い込んでて男子トイレでトイレしてたの」

「あっそれ言うなって言っただろ!リナの秘密もばらしてやるからな!」


 顔を赤くして恥ずかしそうに怒るルカ。


「リナに秘密なんかないの。言えるもんなら言うといいの」

「リナはこの前怖い夢見ておもらししてたんだぞ!高校二年生にもなって!」

「う、う、う、嘘なの!リナはおもらしなんかしてないの!」


 うろたえて焦り出し、必死に否定するリナ。


「いやほんとだ!隠そうとして『この布団もうダメみたいなの』とか言って捨てようとしたらママにバレて怒られて泣いてた!」

「な、泣いてないの!ルカは嘘つきなの!それにリナは一つしか言ってないのにルカは2つもばらしたの!しかも男子もいる前で!パパとママに言いつけてやるの!」


 顔を真っ赤にして怒るリナ。


「ルカだってこの前近所の小学生に『お前高校生なんだから高校生の友達と遊べよな』って言われてハブられて泣いてたの!」


 面白いばらし合い合戦が始まった。


「なっ!泣いてねえから!あれは心の汗だから!それだったらリナは中学生のときに家族共有のパソコンで履歴に――――」

「リナが悪かったの!ごめんなさいなの!それだけは言わないで欲しいの!」


 涙目で謝罪するリナ。


「いいぞもっとやれ」

「こいつ人の不幸を面白がってるわ。最低」

「なんだ終わりか?二夕見教えてやれよ履歴から消す方法」

「は、はあっ⁉あ、あんたどういうつもり⁉べ、別に私はそんなの知らないわよ!あんたこそ履歴から消さなくて大丈夫?それとも隠しフォルダに保存して大事に取ってるのかなあ?お姉さんがよちよちしてあげましょうか?」


 顔を赤くしたまま攻撃に転じる。


「お、おいよせてめえ!俺はそこまで具体的なこと言わなかったぞ!お前のもばらしてやるからな!」

「あんたが突然ばらし出したんだからあんたが悪いでしょ!あんたバラしたらあれつぶすからね!」


 なにかを握りつぶすジェスチャーをする二夕見。


「し、しお?い、一体どこでそんな言葉覚えてきたん?」


 焦る蓮浦。


「や、やめろお!俺の毛根だけはつぶさないでくれ!きんたまはつぶしてもいいから毛根だけはやめるん

だあ!」

「こいつの優先度は一体どうなってんねん」


 普通に引いている蓮浦。


「おい英一!お前からもリナに言ってやってくれよ!あたしは別にビッチじゃないって!英一もあたしの胸とか見てねえだろ⁉」


 そう言ってまた俺のことを向かいから覗き込んでくるルカ。おいよせやめろ見たくて見てるんじゃねえお前が見せてくるんだよ。


「ま、まあそうね?俺はつつましくて奥ゆかしいものを愛する真のジャパニーズ。そんな暴力的なものには決して屈しない。いつだってマイノリティのパイオニアであれ。それを座右の銘に掲げる俺は巨乳に屈しない。そんなパイオレンスなパイカロリーの象徴でしかない堕肉に負ける俺ではない!心頭滅却!落ち着いて円周率を唱えるんだ!πππππππππ!πがふたつでパイパイ!好きなドラゴンボールのキャラクターはタオパイパイ!」

「「屈しまくってるやないか!」」


 蓮と蓮浦が同時にツッコむ。


「あんた途中から全部パイになっとったわ!」

「円周率は数字で唱えんかい!省略すな!」


 だって目の前でぼよんぼよん揺れるから。男の子だもん。


「「あっ」」


 二人が急に押し黙り、不思議に思い横を見ると、にっこり笑顔の二夕見がいた。


「あんた、次惑わされたらひきちぎるから」


 いい笑顔で穏やかに告げる。でも目は笑っていなかった。


「な、なにをひきちぎんのやろ」

「それはあれやろ。ナニに決まっとるやろ」


 ひそひそ話す蓮と蓮浦。


「か、髪の毛だけはやめてくれ!ちんこは引きちぎっていいが髪の毛だけはやめてくれ!」

「いやそっちかい!お前の価値基準は一体どうなってんねん!男のシンボルやぞ⁉」

「バカやろう!男のシンボルはちんこじゃねえ!髪の毛だ!」

「もうそれでええやろこいつは」


 呆れた様子の蓮浦。


「両方引きちぎるから」

「ひいいいいい」

「「怖すぎる」」


 差し殺すような目におののく俺と恐怖する二人。


「ルカのせいであちこちでいさかいが起きてるの。ちょっと大きいからって調子に乗らないで欲しいの」

「あたしは別にみんなと仲良くしたいだけだ!この胸だって走ると揺れて邪魔でしょうがないんだ!好きでこんなんじゃない!」

「「キーッ!」」


 悔しそうに爪を噛むリナと二夕見。


「大体リナの胸が小さいのはルカのせいなの!ルカはママのお腹の中にいた頃からリナのことを蹴って栄養を独り占めにしてたの!それに小さい頃からママのおっぱいを吸う時もリナのことをぶって独占してたの!ご飯もリナの分奪ってたくさん食べてたの!リナは全部覚えてるの!リナのおっぱいを返すなの!だからルカは体重がリナより10キロも重いの!おデブなの!」

「嘘つくなリナ!あたしはそんなガキ大将みたいなことしねえ!言いがかりだ!ママに聞いたらそんなことなかったって言ってたぞ!それどころかリナの方がルカをぶってそっちゅう泣かせてたし、おっぱいもよく飲んでたしご飯もルカの分盗んでたって言ってた!『それなのにリナはこんなに小さくてルカはこんなに大きくなったのかしら。不思議ねー。それにルカの方がこんなに強く育ってねー』って言ってたぞ!それにあたしの体重が重いのは胸のせいだ!あとは筋肉だ!」

「うるさいなの!リナじゃなくてお姉さまと呼べといつも言ってるなの!お姉ちゃんの言うことは絶対なの!何が胸のせいなの!ちょっと胸が大きいからって調子に乗らないで欲しいの!じゃあルカは自分でおっぱいばっかり揉んでるから大きくなったの!ただのドスケベなの!」


 ヒステリックに叫び散らすリナ。


「自分の胸揉んでるのはリナだろ!そういえば中学生の時家族共有のパソコンに、『おっぱい 大きくする』とか、『おっぱい体操』とか、『おっぱい 成長期』とか!履歴にたくさん残ってたの見たことあるぞ!」

「ち、ち、ち、ち、違うなの!それは間違えて検索しちゃっただけなの!リナじゃないの!そ、そんな可哀想なやつを見るような目で見るななのお前たち!ああああああああああああああああっ!」


 叫びながら部室を飛び出していったリナ。


「二夕見なんか聞いたことあるいだだだだだだっ」


 また太ももをおもいっきりつねられて遮られる。


「なあに?なにか言おうとした今?よーく思い出して見て?ほんとうに言おうとしたことはそれ?」

「い、いえ。あの、気のせいでした。はい」

「そうよね?気のせいよね?よかったわ」


 ふんと鼻を鳴らし立ち上がる二夕見。


「私リナちゃん追いかけてくるわ」


 そう言って出て行った二夕見。


「シンパシー湧くんだろうな」

「お前は今痛い目見たくせになんで口に出すんや」


 呆れた様子の蓮。


「ほんまやぞ」


 と賛同する蓮浦。向かいのルカはとぼんとしている。


「あたし本当は面白いやつに会いたいから来ただけじゃないんだ」


 目を伏せて語り出す。


「ずっと、女子に嫌われてて、仲間外れにされるんだ。『三宮さんは男子と仲いいんだから男子と絡めば?』って言われるんだ。だからリナに言われた時ついカッとなっちゃって、言い返しちゃったんだよ。あたしはただみんなと仲良くしたいだけなのに。あたしがダメなのかな」


 こいつのことはまだ深く知らないが、らしくないように思えた。


 きっとこいつは心が綺麗なのだろう。小学生の頃のままここまで生きてきたのだろう。


「男とも仲良くなれたと思ったら、みんな体に触ろうとしてきたり、そんなつもりないのに、色目使うなとか、その気にさせるなとか怒るんだ。あたしはただ楽しくいたいだけなのに、みんなあたしのこといやらしい目で見るか嫌うんだ」


 唇を強くかんで、泣いてたまるかって食いしばっている。


「お前は何も悪くねえよ」

「え?」


 俺の言葉に驚いたように顔を上げるルカ。


「嫉妬ばっかのバカ女どもも、童貞こじらせたバカ男どもも、やれるかやれないかでしか女を見てないクソ男どももみんなバカかクソなんだよ。お前が低いレベルに合わせる必要ねえ。その程度のやつらと仲良くしても苦労するのはお前の方だ。お前は別に間違ってない。それがお前の個性だ。環境に合わせて自分を変える必要なんかない。そういうのが俺は一番嫌いだ。自分を信じろ。男とか、女とか、そういうの関係なくお前は人を心で見てるんだよ。誰よりも心がきれいだから。色んな人と仲良くなりたい。楽しくありたい。いいじゃねえか。それでいいんだよ。いつか、この人は特別だなって思える男に会えるさ。それがお前が友達以上になりたいって思った誰かだよ。まあでも、一つだけ言わせてもらうなら、相手は選べ。見る目を持て。じゃないと後悔するのはお前の方だ。男は女をそういう目でしか見れないやつがほとんだということを覚えておけ。そのうえでお前を尊重して友達でいようとしてくれるやつを探せ。そういうのはお前の姉ちゃんが得意そうじゃねえか。教えてもらえ。あいつもお前のことは分かってるさ。ただ、コンプレックスがあるんだろ。だからつっかかっちゃうだけだ。本当にお前のこと嫌ってなんかないと俺は思うぜ。 まあとにかく、お前は悪くねえ。だから、自分らしく生きろ」


「え、英一っ」


 唇をぎゅっとさせて、嬉しそうに瞳をうるうるさせている。


「じゃ、じゃあ!あたしの友達になってくれるか⁉」

「いやだ」

「「「ええええええええええっ⁉」」」


 三人が同時に叫ぶ。


「「そこはなっとけや!」」

「ほんとだよ!なってくれる流れじゃないのかよ!今のはあたしでも分かったぞ!」

「いやだよめんどくせえ。じゃあお前おっぱい切り落とせ。そしたら友達になってやるよ」

「できるわけねえだろ!」 


 キレてつかみかかってくるルカ。


「ぐえっ!お、お前力強すぎだろ!筋肉ゴリラかお前!」

「な、何だとお⁉気にしてるんだぞ!」


 そう言いながらも嬉しそうに俺の首に腕を回すルカ。


「おおいおっぱい当たってるって!そういうことするから言われるんだろ!」

「他の男にはやったことねえよ!でも英一は特別だからこのくらいはいいぞ!」

「「え?」」


 驚いた様子の蓮と蓮浦。


「へんな意味じゃねえぞ!特別な友達ってことだ!」


 にっしっしと笑うルカ。


「そ、そのくらいで止めといた方がええ―――」

「あっ」


 蓮浦が何かを言いかけた時、入り口から冷気が漂ってきた。


「一ノ瀬くん?ちょっとこっちおいで?お話しましょ」


 表情のよく見えない二夕見がおいでおいでと手をこまねいている。 その後ろには罰の悪そうなリナがいた。


「一旦このことは忘れてあげる。でも後で詳しく教えてもらうから。その前に、ほら、リナちゃん。言うことあるんじゃない?」

「い、言い過ぎたの。ルカが悪く言われてることリナ知らなかったの。クソビッチとか言ってごめんなさいなの。ルカは昔から純粋なだけで、悪いことじゃないの。ルカは男とか女とか関係なく、ただ面白いやつが好きなだけなのをリナは知ってるの。ただそういうのに疎いだけで、にぶちんなだけなの。だからルカはルカのままでいいの」


 恥ずかしがりながらいつもは決して言わないであろうことを一生懸命伝えるリナ。


「り、リナ……。あ、あたしもっ!リナの秘密ばらしちゃってごめんな!あたしもリナのマイペースでおっとりしてるところ尊敬してる!いつも一人で楽しそうで、あたしたちは対照的だけど、でも、リナのことはあたしも分かるから!だから、リナも悩んでることあったらなんでも言ってくれ!」

「ありがとなの。でもにぶちんでおこちゃまのルカに言っても分からないこともあるの、。この前なんかドラマのキスシーンだけで鼻血出して『エッチだあああああああ!』とか叫びながら夜の街に走り出していったくらいなの」

「り、リナ!またばらしたな!それ言うんだな!リナなんか昨日夕ご飯の中華スープの椎茸こっそり捨てたのがバレて、ママにお尻叩かれて泣いてたくせに!」

「な、泣いてないの!て、適当なこと言うななの!まだくまさんパンツ履いてる分際でお姉さまにたてつくななの!ルカのパンツはくまさんパンツかいちごパンツしかないの!」

「あああああっ!リナよくもばらしたな!それは絶対言っちゃいけないだろ!こいつっ!」


 顔を真っ赤にして恥ずかしがるルカが、リナを後ろから羽交い絞めにする。


「や、やめるなのっ!この原始人!ルカはいつも口げんかに負けると最後は暴力に訴えるの!ぐふっ!DVはダメなのっ!放せなのっ!」

「リナのパンツだって変なおじさんがプリントされたダサダサパンツだろ!人のこと言えねえよ!」

「こびとおじさんは可愛いの!ルカはガキだからこびとおじさんのよさが分からないの!」

「あんな髭面のはげたおじさんのどこが可愛いんだよ!」

「こびとおじさんを悪く言うななの!」


 いやどう考えてもお前の方がダサいだろ。おじさんのプリントされたパンツとかダサすぎるだろ。

 取っ組み合う二人を見て、呆れたように笑う三人。俺もきっと似たような顔をしているのだろう。二人は結局その後三十分近く喧嘩した後仲良く帰って行った。何なんだよこいつらは


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