天使と悪魔と従者・終
何やら、不老不死だという超絶美人のお姉さんとディノの二人は、グラスとフルール嬢との会話を終えた後、皆に別れを告げて仲良さそうにこの町を出て行った。
何て羨ましいんだ、ディノ。一体どうやって口説いたら、あんな美人をゲットできるというのか。
「クルトはこれからどうするんだい?」
真剣にそんなことを考えていたら、小田島さんが俺に声を掛けてきた。隣にはアキも突っ立っている。
「とりあえず、フルール嬢の従者を続ける……って感じッスかね」
グラスと楽しそうに話をするフルール嬢を見て、俺は答えた。
命の恩人だというのに俺とグラスのせいで危険な目にまで遭わせちまったし、まだ従者をする期間も半分残ってる。今度はしっかりと守ってやらなくちゃな。
「そうか。……気が向いたらでいいんだけど、工場のほうに顔を出してみてくれよ」
俺はその言葉に驚いて、小田島さんを仰ぎ見る。
「紳さんも何だかんだで気にしてるんだよ、クルトのこと」
そうだろうか。思いっきり鬼の形相で怒られたし、俺もめちゃめちゃ暴言吐いたし。今さらどの面下げて会いに行けと言うんだ。
「たまには謝るのもいいものだよ」
「こいつが謝るのを想像しただけで、吐き気がするけど」
アキが急に話に割って入ってくる。
この女。相変わらず可愛くないぜ。
「……そういう小田島さんは、どうすんですか? まさか暗殺業復帰なんてことは」
俺は話を逸らして尋ねてみた。
「まさか。もうこれで本当に足を洗うつもりだよ。……僕も紳さんに謝らなくちゃな。また働かせてもらえるかはわからないけど」
苦笑して小田島さんは頭を掻く。
そういえば電話で一方的に辞めてきたとか言ってたな。そりゃあカンカンだろうな、あの爺さんも。
「クルト!」
その時、フルール嬢が俺の名前を呼んで、てこてことこっちに駆け寄ってきた。そして小田島さんとアキに向き直り、ペコリと一礼した。
「あの、お二人とも色々とお世話になりまして、ありがとうございました」
馬鹿丁寧なお礼に小田島さんもヘコヘコと頭を下げる。ついさっきまでバリバリ戦ってた人だとは、とても思えない。まあ、これが俺の知ってる小田島さんなんだけど。
「フルール、クルト。オレ達も行くぞ」
グラスが少し離れたところでフルール嬢と俺を呼ぶ。
「ああ、わかったよ」
俺はグラスに軽く返事をして、
「アキ、うまくやれよ」
小田島さんをちら見しながら、にやりと笑って言ってやった。
俺の言葉が理解できたのか、アキは顔を真っ赤にする。なんという初々しい反応。
「う、うるさい!」
アキの怒鳴りに、話を理解できていない小田島さんは不思議そうに俺らを見る。
「じゃ、二人とも、お疲れさん!」
俺は仕事終わりのように挨拶して歩き出す。フルール嬢もまたお辞儀をして俺の後ろをついてくる。しかし俺は暫くしてピタリと立ち止まった。フルール嬢が俺の背中に軽く顔をぶつける。
グラスが怒り出す前に、俺は小田島さんとアキのほうへ振り向いた。
「クルト?」
フルール嬢と視線を合わせる。
「俺も少しはフルール嬢を見習ってみるかな」
俺は小田島さんとアキに向かって、思いっきり礼をした。
「ありがとうございました!」
顔を上げると、小田島さんと何よりアキが驚きの表情でこっちを見ていた。まあ世話になったのに、ちゃんと礼を言ってなかったし。
小田島さんが笑って手を振ってくれる。アキも呆れたように笑っていた。
「クルト、とっても格好いいです」
フルール嬢の言葉に、俺は少し照れ臭くなりながら今度こそ歩き出す。
グラスを見ると、奴はこっちを見て佇んでいた。
何か怒鳴られるかと思って身構えるが、
「……馬鹿が」
俺の予想に反して、グラスはたった一言そう呟いただけだった。そしてそのまま、俺にクルリと背を向け歩き出す。
「さあ、行きましょう」
フルール嬢に手を引かれ、グラスを追いかける。
今回の件で、俺はグラスとの距離が少し縮んだ気がしていた。あいつはどう思ってるかわかんないけど。まあ暫くは、こいつらの従者としてがんばるか。
また事件に巻き込まれないことを祈りながら。




