元暗殺者と凄腕暗殺者・終
クルト達を見送った後、僕とアキは二人で遠くにそびえる千石組の本拠地を眺めていた。爆発のせいで建物は崩れかけ、火が舞っている。
だけどまさか、悪魔や不老不死に出会うことになろうとは夢にも思わなかった。
しかも青蓮が不老不死だったとは。出会った時の思いつめていた表情には、そういう理由が隠されていたのだ。でもディノという少年のおかげか、別れを告げた時には彼女はすっかりと元気になっていた。不老不死という体質も治るそうだし、本当によかった。
キリルにも終わったことを報告しよう。――イヴァンさんのことも含めて。
「そういえば……暗殺者達はどうなったんだい?」
ふとアキに問い掛ける。思えばゴタゴタしていて詳細を聞いていなかった。
「逃げた奴らもいたけど、大体は殺した」
アキは建物を見つめたまま答えた。
「そうか……」
僕は自分の手を見つめる。
血で汚れている。決して、落ちることのない血で。
「僕達は恨まれているんだろうね」
気付けばそう呟いていた。
アキが振り向き、僕を見る。
「後悔してるの?」
感情のない声だった。
後悔は……していないと言ったら嘘になる。
だけど何もせずに暮らしていたほうが、もっと後悔していたのだろう。これでよかったのだと思う。
手に付いた血は、決して落ちることはないけれど。
「わたしはね、小田島」
僕の返事を待たずに、アキは口を開いた。
「今まで人を殺してきたことについて後悔したことはなかった。ただ、殺すことに違和感はあった。多分、心の奥底では嫌だったんだと思う。でも物心がついた時から殺すことが当たり前になってて、ただ気付かなかっただけ」
彼女は真っ直ぐに僕を見つめる。その瞳はどこか寂しそうだった。
「だけどね、長年一緒に暮らしてきた暗殺者達を殺した時、初めて後悔した。というより、悲しかったのかも」
言いながら苦笑する。
「まさか自分がこんな気持ちになるとは思わなかったけど」
僕もアキとこんなふうに話せる時が来るとは夢にも思わなかった。
出会った時がすでに懐かしい。
「でもさ、わたしはあいつらの命を背負って生きていこうって思ってる。ついでに……組長の分もね」
アキはそう言って空を見上げた。
命を背負って生きる。僕はそう思って、今まで生きてきたのだろうか。
いや、ただ後ろ暗い過去だと思って生きてきただけだ。
「でもこれって……多分、一人だと辛いことだと思う」
「そう……だな」
自分の心の中だけに閉じ込めて生きるのは辛い。
僕が一番、よく知っていることだ。
「だから……」
アキは何か言い難そうに下を向いた。どうしたというのだろうか。
「あの、さ、小田島……」
彼女の頬が火照っている気がした。また熱でも出たのかと心配する。
すると何かを決意したように僕を見上げ、
「――わたしと一緒に生きて」
一生懸命に僕を見つめる瞳に捉えられる。
えっ――と掠れた声を出してしまう。
僕と生きてほしいと、彼女は言ってくれた。
僕も。
僕も伝えよう。
「ありがとう、アキ」
そう言ってアキの手を引いた。
「お、小田島っ?」
驚く彼女を、しっかりと抱きしめる。腕の中にすっぽりと包まれる小さな体。
今さらすぎてアキには悪いけど、女の子なんだと改めて実感する。
「僕も……アキと一緒に生きたい」
僕は、はっきりとそう告げた。
彼女もギュッと僕の背中を抱きしめてくれる。
「……うん」
一緒に生きよう。僕達は一人じゃない。
そして前へ進むんだ。
僕達の新しい道を。




