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魔力があるならゴーレムに注げばいいじゃないか。  作者: エノキスルメ
第一章 来訪者たちは異世界に迎えられる。
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第17話 開拓地は安定する。

 多くのファンタジーゲームや小説のお約束と同じで、この世界の冒険者も「冒険者ギルド」で依頼を請けたり報酬を受け取ったりする。


 ただし、この世界の冒険者ギルドは「全国規模・世界規模の独立組織」なんて強大なものではないし、「ギルドカード」という便利なものもない。


 各地の中規模以上の都市で独立した冒険者ギルドが運営されていて、そこで仕事を請ける冒険者たちは、依頼者の口コミやギルド職員からの顔覚えによって「信用できる冒険者」としての立場を地道に築いていく必要がある。


 各都市のギルド運営者は近場の者同士で定期的に集まって情報交換をするし、そこで各自の持つ「信頼のおける有能な冒険者」の情報も広まる。

 ここで名前が挙がるような冒険者やパーティーは、その地域一帯で高い知名度を得て、富裕層や貴族を相手により条件のいい仕事を請けられるようになっていく。


「それで、俺たち『荒ぶる熊』はルフェーブル領の東のエルスター伯爵領を拠点に活動しててな。王国北西部じゃあ多少は名の知れたパーティーだったんだよ。だからルフェーブル子爵家から開拓の護衛依頼を投げられて、まあ条件も良かったから受けることにしたんだ」


 マイカが寝ている午前中の見張りの時間、ヴォイテクさんがそう教えてくれた。まだこの世界の知識が浅い僕にとって、こういう社会の仕組みの解説はありがたい。


「私も『荒ぶる熊』っていう名前は聞いたことありましたよ。そんな有名なパーティーを作り上げるなんて、ヴォイテクさんって実は凄い人なんですね?」


 横で一緒に解説を聞いていたティナが尋ねる。


「立ち上げたのは俺じゃねえぞ?『荒ぶる熊』自体は俺が加入する前、もう20年以上前からそれなりに名のあるパーティーだ、確か」


「ってことは、ヴォイテクさんは前のリーダーから今の立場を継いだんですか?」


 僕の問いに、ヴォイテクさんは「前の頭領が戦闘で死んだから、俺が後釜に着いたんだ」と答える。


「えっ……亡くなったんですか?」


 あまりにもあっさり言うヴォイテクさんに思わず聞き返してしまった。


「ああ、俺がこのパーティーに入ったのはまだ成人したての時だったが、その頃のメンバーは全員とっくにあの世だな。俺の後に加入した奴も何人も死んだ。俺もそのうち死んで、残った奴らの中から誰かが……古参だが馬鹿なエッカートはねえな。しっかりしてるタマラあたりが次の頭領に就くだろうよ」


「……」


 まるで何でもないことのように言うヴォイテクさんに、僕もティナも何と返していいか分からず黙り込む。


「そんな辛気くせえ顔すんなよ。下級貴族や平民の、継げる地位も土地もねえ次男坊以下が実家を追い出されて、力仕事や荒事で日銭を稼ぐようになって、いつか年を食って体がついていかずにくたばる。それが冒険者ってもんだ。自分でもとっくに分かってるさ」


 僕らの表情に気づいたヴォイテクさんは、苦笑しながらそう言った。


――――――――――――――――――――


 昼になってマイカが起きたので、僕たちは今日の見張りを終えて鐘楼から降りた。


 開拓団がルフェーブル子爵領の北西部に入って、今日で2週間が経つ。


 午前中は神殿の鐘楼に上って周囲を見張り、午後は魔物狩りで安全地帯を広げる……という毎日。

 ひたすら淡々と魔物を狩り続けていたら、今では開拓地の半径1kmほどでは危険な魔物が探知に引っかかることはほとんどなくなった。


 いくら危険地帯とは言っても、別にグレートボアやオーク級の魔物ばかりいるわけではない。

 開拓地を中心としたこれまでの狩りで見つけた魔物は、ホーンドボア以下の強さのものが大多数だった。

 初日の移動時にあれほど多くのグレートボアやオークと鉢合わせたのは、大人数で長距離を移動していたからこそだろう。


 狩った魔物の肉は開拓団だけでは食べきれずに干し肉にしたり、それすらも追いつかずに廃棄したりしていた。魔石や毛皮、牙や爪などの素材も、もの凄い数が溜まっている。


 魔物から取り出した魔石は、そのままでは使い物にならないし、数日で腐敗して崩れてしまう。

 魔力を安定させて商品化するために、魔石職人によって精錬してもらう必要があった。


 なのでこの開拓団には、エルフの魔石職人マルクさんが同行している。


 ただ、魔石の精錬には専用の魔法具と、それに注ぐ魔力が要る。

 マルクさんはエルフだから魔力が多い方だけど、僕たちが大きな魔物の魔石を毎日のように持ち帰るので、さすがに魔法具を動かす魔力が足りなくなるらしかった。

 なので、僕は狩りから帰って来た夕方、魔力の補充係としてマルクさんの作業に付き添うのが恒例になっている。


「……相変わらずだな。よくもそんな湯水のごとく魔力を注げるもんだ」


「まあ、魔力量だけが僕の取り柄ですから」


 今日もマルクさんの魔法具に魔力を注いでいたら、そんなことを言われた。


「私も900年近く生きていて来訪者たちの召喚を見るのは3回目だが、どの時代でも君たちのギフトとやらは出鱈目な力だな」


 普段は達観したような雰囲気で表情の起伏がないマルクさんだけど、僕の膨大な魔力を目の当たりにして、少し呆れたような声色になる。


「そっか、マルクさんは昔の来訪者も知ってるんですよね」


「ああ。600年前の方は直接見てはいないからよく知らんが、300年前に召喚された来訪者には、何人か会ったこともある。君たちの故郷の……『ニホン』とか言ったかな?そことは違う国から来たみたいだったが」


 さすがは1000年以上の寿命を持つエルフ。まさに歴史の生き証人だ。


「この王国も300年前は今より小さかったが、来訪者の力があったからな。もっと希望や熱気に満ちていたよ。今では領土ばかり大きくなって、不安定な地域も増えたがな。君たちが召喚されて、これからどんな変化があるんだろうな」


「……マルクさんは、どうしてこの開拓団に同行しようと思ったんですか?」


「私か。私は今のアルドワン王国のあたりで生まれてな。当時はまだ違う国だったが。その後は大陸南部のあちこちを渡り歩いて……戦乱に巻き込まれることもあって疲れてな。穏やかな地で暮らそうと、エルスター伯爵領に移住したんだよ。あそこは今のところ戦乱とは無縁だからな」


 長い寿命を持つエルフの人生観は他の種族とは大きく違っていて、一生の家族を作ることはない。

 数十年ほど誰かと暮らして子どもを育て、その成長を見届け、また別の土地で誰かと暮らし……という生活をくり返すという。


 その中で異種族と結婚する者も多く、ハーフエルフやクォーターエルフといった存在も生まれていく。僕のカノンもそんな1人だ。


「60年ほどあそこの領都で暮らして、人間の妻と結婚もしてな。子どもも独立して、老いた妻も看取ったんで、新しいところに行こうと思った。そんなときにルフェーブル領の開拓団の話を聞いて、付いていってみることにしたんだよ」


 マルクさんの語る人生は、20年も生きていない僕にとっては途方もないスケールの話だった。


――――――――――――――――――――


 使えそうな建物の修繕が終わり、ひとまず全員が屋根の下で寝られるようになって、労働冒険者たちの仕事は本格的な村の建設へと移っている。


 農民たちは、いよいよ開墾に取り掛かっていた。と言っても、まだ開墾予定の土地の石を取り除いたり、邪魔な木を切り倒したりといった下準備の段階だけど。


 今回の開拓には、ルフェーブル領内の自作農の次男以下と、彼らの妻たちが参加している。

 実家の農地や農奴を相続できない彼らも、ここで新たな土地を開拓すれば晴れて自分の平民家を興せるんだ。モチベーションは高い。


 そのモチベーションの維持に、僕も多少、というかかなり貢献できていると思う。


 まず大きいのが、豊富な食料の供給だ。


 本来、開拓の初期は食料で苦労する。基本的に食事は持ち込んだ麦で作るポリッジ(麦粥)が中心で、たまに干し肉や、狩りで得た獲物の肉を食べられる程度。

 麦の備蓄量も開拓にかけられる資金の豊富さに左右されるので、余裕のない開拓の場合は、食べられる野草や虫をかき集めて腹の足しするようなこともある。


 それがこの開拓地では、食べるのも保存食にするのも間に合わずに一部を廃棄するほど大量の肉を得られる。

 それも、ホーンドボアやオーク、デビルヴァイパー、さらにはグレートボアなど、上質なものばかり。

 農民たちが贅沢な食生活に慣れきってしまうことを危惧して、ヨアキムさんが「肉を食べるのは昼と夜だけにして、朝はポリッジのみを食べること」というお達しを出したほどだ。


 そして衛生面。僕の魔力で、ここの開拓民たちはかなりの清潔さを保っている。


 僕の魔力は膨大だ。毎日ゴーレム5体に注いで、夕方にはマルクさんの魔石精錬の魔法具に注いでも、まだまだ余裕がある。

 なので、僕の余った魔力と「洗浄ウォッシュ」の魔法具を、開拓団の皆に使ってもらうことにした。


「無料で施すのは信仰上良くない」と神官のシーラさんに言われたので、水1リットルあたり10ロークの対価をもらっている。この価格は光魔法使いのティナに相談して決めた。

 ヨアキムさんやマルクさん、ヴォイテクさんなどお金に余裕のある人たちは、ほぼ毎日この魔法具を使っている。

 労働冒険者や農民はさすがに毎日使うほどの余裕はないけど、それでも全員が1週間に1度くらいは使えているらしい。


 ちなみに、僕とマイカは毎日好きなだけ「洗浄ウォッシュ」を使っている。もちろんカノンとミリィもだ。

 さすがにシャワーやお風呂のような気持ちよさはないけど、少なくとも肌や髪がベタつくことはないので、元の世界と変わらない程度の清潔さは保てていた。


 開拓地とは思えない食料事情と衛生事情を実現したことで、開拓団の中での僕とマイカの評価はうなぎ上りだ。「来訪者様」と誰もがちやほやしてくれる。


 ルフェーブル子爵領北西部の開拓は、予想以上に順調なスタートダッシュを切っていた。

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