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魔力があるならゴーレムに注げばいいじゃないか。  作者: エノキスルメ
第一章 来訪者たちは異世界に迎えられる。
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第16話 開拓が始まる。

 午後になると、開拓団の主要メンバーが広場の中心に集められた。マイカももう起きている。


「クレーベル跡地を見回った結果だが……まず、修繕すれば使用に耐えられそうな建物は9軒あった。領主の屋敷や神殿、宿屋、鍛冶屋、それから一部の豪農の家など、もともとの作りがよかった建物が主だ」


 クレーベルの主要施設や自作農たちの住居は、村を東から西に通る街道の周囲に集まっていた。僕たちが野営をしたのもここで、このあたりが村の原型が一番残っている。

 領主の館は街道沿いから南に入ったところにあって、こちらも無事だ。


 農奴の住居や耕作地は街道から離れた村の北側に伸びていたけど、こちらは粗雑な作りの家が多かったのでほぼ朽ち果てていた。半ば以上は森に飲み込まれてしまって、村としての原型をとどめていない。


「無事だった9軒のうち、領主の館は住居兼行政府として私が使わせてもらう。部屋数が多いのでティナもそのどれかを使え。宿屋は2室がある小さなものだが、これはリオ殿とマイカ殿に家代わりとしてそれぞれ1室ずつ使ってもらおう」


 毎晩きっちり魔力を回復させないといけない僕と、集中力を維持しないといけないマイカは、ちゃんと眠って体調を常に整えることも重要な仕事だ。なので僕たちには個室が与えられた。


「鍛冶屋跡は設備の問題もあるので、鍛冶師のドミトリ殿にそのまま使ってもらう。それから広い作業場のある家が2軒あったので、そこは魔石職人のマルク殿と大工のデニス殿に住んでもらいたい」


 ドミトリさんとマルクさんが頷く。デニスさんは今も建物の修繕作業を指揮している真っ最中なので会議には参加していない。


「神殿はシーラ殿にそのまま運営を任せるが、中が広いのでしばらくは農民や労働者たちの寝床としても使わせていただきたい。構わないだろうか?」


「はい。もちろんです」


 ヨアキムさんが問うと、神官のシーラさんは微笑んでそう返した。


「残りの3軒だが、護衛の冒険者たちに各パーティー1軒ずつ貸そう。ヴォイテク、他の2パーティーにもそう伝えておいてくれ」


「へい」


 護衛冒険者として開拓団に同行しているのは、3パーティーの計16人だ。


「では、今は以上だ。各自、自分の午後の職務に励んでくれ」


 ヨアキムさんが話し合いの終了を宣言する。

 周囲ではデニスさんの指示のもとで工事が行われていた。崩れた建物からまだ使える建材が持ち出され、今後使う建物の修繕に充てられている。


 けど、それもいったん休憩が言い渡された。そろそろお昼だ。


 皆の昼食を作ってくれていた開拓民の女性陣、それを手伝っていたカノンやミリィによって、昨日狩った魔物の肉を焼いたものが配られていく。

 自分たちで狩った獲物を、すぐに捌いて食べる。サバイバルの醍醐味だ。


「すっごい美味しいこの肉!これって昨日の移動中の最後に斃して運んできたオーク?」


 よく焼けて塩で味つけされた肉にかぶりつきながらマイカが尋ねる。


「いえ、これは夜中に狩ったデビルヴァイパーですよ?オークはまだ解体が済んでないのです」


「デビッ!?え、じゃあこれってヘビの肉!?」


 ミリィの答えが予想外だったのか、驚愕の表情を浮かべるマイカ。


「ヘビ肉……ヘビ肉かあ……うん、でも、文句なしで美味しい。ちょっと複雑だけど」


「あはは、もとの世界でもヘビは鶏肉みたいで美味しいって聞いたし。これだけ大きいと見た目じゃ分からないよね」


 何とも言えない顔になったマイカだけど、食べる手は止めない。一方の僕はヘビ肉と聞いても、別に抵抗は感じなかった。


 僕の横に座って食べているカノンにも「調理お疲れさま。すごく美味しいよ、ありがとう」と声をかけた。

 それを聞いたカノンは、はにかみながら寄り添ってくる。


――――――――――――――――――――


 食事と休息を済ませたら、農民や肉体労働の冒険者たちは建物の修繕作業を再開する。僕たち来訪者も仕事の時間だ。


 今日からしばらくの間、僕とマイカはこの開拓地周辺の魔物狩りを行うことになる。


 多くの魔物は、だいたい数百mから数kmくらいの範囲で自身の縄張りを持っている。その縄張りから遠く離れたり、急に縄張りを大きく変えるようなことはあまりない。

 なので、半径2~3kmも魔物を狩れば、急な襲撃に怯える心配はなくなるだろう、とヨアキムさんに言われた。

 その範囲の魔物は全て狩るか、遠くへ追い払う。かなりの大仕事だ。


「とりあえず、今日はこの野営地から姐さんの探知に引っかかる魔物を、できれば狩り尽くしてしまいたい。どのくらいいる?」


 魔物狩りの実質的なリーダーはヴォイテクさんだ。

 彼の率いる5人組パーティー『荒ぶる熊』は、来訪者の専属護衛として雇われている。


 戦力的にはゴーレムだけでも十分だけど、僕とマイカでは戦いの場で適切な判断が下せない。

 それに、例えばもし僕が森の中で転んで気絶でもしたら、ゴーレムでは対処できない。

 そういうときに助けてくれるのが彼らだ。


「えっと、ここから半径500m以内にいるのは……全部で50匹ちょっとですね。オークかグレートボア級のが1匹、ホーンドボアとかデビルヴァイパーくらいのやつが6匹、残りは弱い魔物の群れが2つ。あと、魔物じゃない普通の獣もたくさん……」


「そうか、さすがに魔境ともなると数が多いな……日暮れまでに全部はきついかもしれんが、とりあえず大物だけでも狩ってしまいたい。一番でかいのからいこう」


 そう判断したヴォイテクさんに従って、僕たちは探知範囲の北側で大きな反応を示す魔物に向かって進むことになった。

 ゴーレム2体を開拓地の護衛として残し、あとの3体と僕、マイカ、そして『荒ぶる熊』のメンバーで森に入る。


 森の中に入って少し進むと、ヴォイテクさんが停止の指示を出した。


「肉眼で見えた。グレートボアだ。真っすぐあっちの方向だな。こっちが風下だから気づかれてはいない」


 ヴォイテクさんが指差す方向を見ると、確かに木々や枝の向こうに動く物体が見える。


「姐さん、他に魔物は近づいてきてないな?」


「ええ、こっちに気づくほど近くには何もいません」


「よし、じゃあ旦那、一気に頼む」


「了解」


 ヴォイテクさんからゴーサインが出て、僕は3体のゴーレムを展開させる。

 グレートボアがこちらに気づいてあの巨体で突っ込んできたら対処が面倒になる。先手で決定的な一撃を与えたい。


 ゴーレムの1体がグレートボアに音もなく接近して、その横っ腹目がけて鉄槍を投げた。

 ドスッという重い音とともに、「ブゴオッ!」という鳴き声が響く。クリーンヒットだ。


 それでこちらに気づいたグレートボアは、周囲にまとわりつくゴーレムを追い払おうと頭を振り回す。けど、ゴーレムたちは絶妙な距離をキープしているので、攻撃が当たることはない。


 その後すぐに、グレートボアの動きが鈍くなってきた。腹に深々と鉄槍が刺さったまま暴れたんだ。体内はズタズタだろう。


 ついに動きを止めたところで、その頭めがけてゴーレムたちが突撃し、拳を突き込む。

 いくら分厚い毛皮と硬い頭蓋骨があっても、魔法金属の拳で何度も殴りつけられたら耐えられないだろう。

 グレートボアはすぐに絶命した。


「今の戦いは60点ってとこか?まだまだ改善の余地があるなあ、来訪者の旦那よぉ!」


 そのままゴーレムたちを操ってグレートボアの首や脚にロープをかけ、運ぶ準備をする僕に声をかけてきたのは、護衛冒険者の一人エッカートさんだ。

 彼は『荒ぶる熊』の中でもムードメーカー的な立ち位置にいる。


「えっ、そんなに駄目なところありましたか……?」


「ああ、手早く仕留めたのはいいんだが、腹に槍をぶち込んでそのまま暴れるのを許したからな。きっと胃が破れて体内が汚れちまってる。次からはゴフッ痛え!?」


 僕の戦闘をそう評していたエッカートさんの頭を、『荒ぶる熊』の紅一点タマラさんが引っぱたく。


「偉そうに言ってんじゃないよ!自分じゃ倒せもしないくせに!」という手厳しいツッコミ付きだ。


「悪いな旦那、気にしないでくれ。グレートボア狩りなんて、仕留め方を気にする余裕がなくて当たり前だ。エッカートの馬鹿が高望みしすぎなだけだ。内臓が駄目になってても、背中側や脚なんかは問題なく食えるから気にしなくていい」


 そうフォローしてくれるヴォイテクさんに「ははは。まあ、できれば頭を一撃で仕留められるようにします」と苦笑いで返す。


 現状、面積の大きな胴体を鉄槍で攻撃するようにしているけど、ゴーレムに槍投げの練習でもさせたら上達して一発で頭を貫けるようになるんだろうか?

 ゴーレムに学習能力や記憶のようなものがあるかはまだ分からない。


 ゴーレムたちにグレートボアを引っ張らせて開拓地の拠点へと戻る。重すぎないか心配だったけど、3体で引けば問題なく運ぶことができた。

 開拓拠点の近くまでグレートボアを運ぶと、それを見た開拓団の皆からは歓声が上がった。


「グレートボアの肉なんて貴族様でもめったに食えねえ代物だからな。そりゃあ気分も上がるだろうよ」とエッカートさんが呟く。


 内臓が傷ついているので背中や脚などの汚れていない部位だけ解体するように開拓団の皆に頼み、僕たちは次の魔物を狩りに出た。


――――――――――――――――――――


 結局この日は、最初のグレートボア1匹にホーンドボア3匹、さらにブラックフットと呼ばれる巨大な熊の魔物(危険度はホーンドボアと同程度らしい)を狩りの成果として持ち帰った。


 マイカが「弱い魔物の群れ」と言っていたのはゴブリンとコボルト(2足歩行の犬のような魔物だ)だったけど、ゴーレムたちを真正面から突っ込ませたら、半分も倒す前に遠くへと逃げていった。

 ヴォイテクさんが「これだけ一方的に蹴散らせばもうここに戻ってくることもないだろう」と判断したので、追わずにそのまま見逃す。


 狩った獲物は農民や労働冒険者たちによって解体されていたけど、あまりにも分量が多いので僕もゴーレムを使って一部の作業を手伝った。

 とれた肉の量は、60人あまりの開拓団では消費しきれないほどだ。山のように積み上がった肉の塊を見て「食えねえ分を干し肉にするにしても、材料の塩が足りねえぞ」と農民たちが少し困ったように話していた。


 午前中から進められていた建物の修繕もそれなりに進み、特に優先的に作業がされていた宿屋と神殿は、今日から寝泊まりできる程度になっている。


 来訪者組の住居として割り当てられた宿屋に入ると、中は受付兼食堂となっているロビーと小さな調理場、2人部屋が2つという小ぢんまりした作りだった。

 カノンやミリィが掃除をして、僕たちの荷物も運びこんでくれていたので、このまま住める。


「あー、今日からは屋根と壁があるところで寝られる……」と、マイカが嬉しそうに呟く。今朝はテントの中で、しかも周りで開拓作業が行われている中で眠っていたから、落ち着ける環境が嬉しいんだろう。


「ねえリオ、あれ使おうよ、『洗浄ウォッシュ』の魔法具」


「ああ、いいね。出そうか」


 マイカの提案で、僕も思い出したように「洗浄ウォッシュ」の魔法具と、もう一つ「湧水ウォーター」の魔法具を取り出した。


洗浄ウォッシュ」を使えば、ごく普通の水に洗浄効果を持たせることができる。この水で体や髪を洗えば、まるで石鹸水でも使ったかのように汚れが落ちる。


 僕は「湧水ウォーター」の魔法具で僕とマイカそれぞれの桶にたっぷりの水を出し、そこに「洗浄ウォッシュ」をかけた。これだけでも魔力を100弱使っているけど、僕の魔力は毎朝ゴーレムに注いでも4000以上残っているので何の問題もない。


 僕とカノン、マイカとミリィは、水を持ってそれぞれ自分たちの部屋に入り、ドアを閉める。採光のための窓を板で塞いしまえば、外から見られることもない。


 ここ数日は常に移動で慌ただしかったので、久しぶりにカノンと2人きり、お互いの体を拭き合ったりして恋人らしい時間を過ごした。

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