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魔力があるならゴーレムに注げばいいじゃないか。  作者: エノキスルメ
第一章 来訪者たちは異世界に迎えられる。
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第18話 ゴーレムは成長している。

「やっぱり、最初の頃よりも洗練されてきてるように見えますね……」


「ああ、これはもう間違いないだろう」


 1匹のオークに襲いかかる2体のゴーレムたちを見ながら、僕とヴォイテクさんはそんな会話を交わしていた。

 ゴーレムたちの戦い方は、明らかに以前よりも熟達しているように見える。


 最初の頃は力押しで魔物を倒している感が強かったけど、今は囮役のゴーレムがオークの攻撃を最小限の動きで躱し、もう1体が死角から鉄槍で頭を狙い……と、役割を分けて効果的に動いている。


 攻撃役のゴーレムが隙をついてオークの頭を鉄槍で貫き、僕たちが喋っている間にものの30秒で仕留めてしまった。


 僕たちがこの開拓地に来てから1か月弱。


 拠点から半径1.5m、直径で3kmほどの危険な魔物を狩り尽くした時点で、ヨアキムさんは「ひとまずこのあたりは安全が確保された」と判断した。

 その結果、僕とマイカが睡眠時間をずらすルールも解除され、今はマイカも夜に眠り、朝に起きる生活へと戻れている。


 僕も午前中の見張りから解放され、ゴーレムを常に警戒に当たらせる必要がなくなったので、1日フルで働けるようになった。


 午前中は邪魔な木の伐採や切り株の排除などに参加して、開拓地の開墾でも力を発揮。

 そして午後は、開拓地とシエールを結ぶ「道」を作るために、その予定ルート周辺の魔物を狩る日々を送っている。


「ゴーレムたちの戦い方が成長しているように見える」という話が出たのは、今から2週間ほど前。最初にそう指摘したのはヴォイテクさんだ。


 その数日後には他の『荒ぶる熊』メンバーも「確かにそう見える」と言い始め、ここ数日で僕とマイカにも実感できるくらいに、ゴーレムたちが熟達を見せ始めた。


「旦那が細かい戦い方まで指示を出してるわけじゃねえんだよな?」


「はい、僕はざっくり『2体で戦え』とか命令してるだけです。とてもじゃないけど僕には細かい判断まではできないので……」


「となると、あのゴーレムたちが自然と効率のいい戦い方をしてるってことか……」


 ゴーレムにそんな学習能力があるという話は聞いていない。

 まあ、ゴーレムをこんなに継続的に稼働させ続けているのは僕が歴史上初めてだから、長期間使ったらどうなるかなんて過去のデータはないわけだけど。


 その日、狩りから戻った夕方に僕とヴォイテクさんがこのことについて考察していると、その話が聞こえたのか、大工のデニスさんが声をかけてきた。


「ゴーレムも一応は魔法具なんだろ?なら、鍛冶師のドミトリに聞いたらいいんじゃないか?あいつは仕事柄、魔法具職人の知り合いも多かったはずだ」


 ということで、僕たちはドミトリさんのもとへ向かう。


 仕事で火を使う関係上、彼とその家族が住む住居兼鍛冶場は、開拓地の中心部から少し離れたところにあった。


「ゴーレムが成長ねえ……もしかすっと、骨格に人骨が使われてんのが関係してんのかもなあ」


 僕たちがゴーレムの件について相談すると、ドミトリさんは頭の上の獣耳をピクピクと動かしながらそう言う。彼は狼系の獣人だ。


「人骨!?人の骨が使われてるんですか!?」


 さらっと衝撃的な事実を教えてくれたドミトリさんに、僕はそう返した。横で聞いているヴォイテクさんも驚きの表情を浮かべている。


「俺も魔法具職人のダチから聞いただけの話だけどな?ゴーレムの骨格は、戦闘奴隷の骨を、魔法鉄でコーティングして作ったっていう記録があるらしいんだよ。つってもゴーレム作りのために奴隷を殺したりしたわけじゃねえぞ?戦争で死んだ奴隷の死体を、職人が買い取って材料にしたって話だ」


 とはいえ、ぞっとする話には違いない。下手をしたら僕はゴーレム使いというよりネクロマンサーになってしまう。


「骨格のコーティングに使った魔法鉄は、普通よりもかなり大量の魔石を溶かした魔力含有量の高いもんだったらしい。おまけに骨格に魔力図式を書くのにも、魔石を溶かした塗料を使ってたとか。どんだけ手間かけてんだって話だよなあ」


 驚いている僕たちを前に、ドミトリさんは陽気に笑いながら続ける。


「それなのに、魔法具として使えもしなけりゃ飾るにも無骨だってんで大した値もつかねえで、作った職人の工房はとんでもねえ大赤字だったんだとよ」


「そ、それで、骨格に骨をを使ってるってことは、もしかして脳もそのまま……実は意識も……」


「いや、それは違うと思うぞ?骨格に使ったのは体の骨だけのはずだ。頭の部分には骨じゃなくて、でけえ魔石の加工品を使ってあるからな、確か」


 ドミトリさんがそう言ったところで、それまで黙っていたヴォイテクさんが口を開く。


「……熟練の戦士の中には、戦うときには無意識に魔力で体の動きを補助する奴もいるからな。俺も多少はそういうことができるが……そういう体内の魔力の流れは、だんだん体の中に刻まれていくって話もある。骨格の中にその戦闘奴隷の魔力の動きが刻まれてて、ゴーレムが体を動かしていくうちにその流れが活性化された、とか考えるのが妥当か?」


 確証はないけど、ヴォイテクさんの言う仮説は納得のいくものではあった。


 ただ、それでもやっぱりちょっと怖かったので、ゴーレムに感情や自我が芽生えていないか、以前に試したテストをもう一度やった。

 さらに、「自分のかつての名前を地面に書け」「人間だった頃の記憶があるならそれを書け」「自我や感情があるならそのことを書け」という直接的な指示もしてみた。

 結果、ゴーレムは5体とも全くの無反応。やっぱり彼らに意識と呼べるものはないらしい。


 さらに、この話を後日マルクさんに聞いてみたら、意外な情報をもらえた。


「ヴォイテクが言っていた、体内に魔力の流れが刻まれるという話は本当だ。あまり他の種族に大っぴらには話さないが、エルフの間ではよく知られていることだよ。エルフは長く生きるからな。戦いに熟達して、体の動きを魔力で補助できる奴は珍しくない」


「じゃあ、その補助の過程で魔力の流れも刻まれる、っていうことですか?」


「ああ。体内に魔力の流れが刻まれると、だんだん体の動きに無駄がなくなって、力を効率よく使えるようになる。しばらく戦わないと魔力の流れは鈍っていくが、一度刻まれた流れは消えないからな。戦いの道に戻れば、また魔力の流れを使いこなせるようになるもんだ」


「じゃあ、僕のゴーレムの動きがよくなってるのも……」


「骨の中に刻まれていた魔力の流れが戻ってきているだけだろう。そもそも脳も頭蓋骨も残ってないのに、生前の意識を持つなんてまずありえないさ。そっちの心配はしなくていい」


 ということは、僕のゴーレムたちは、戦いの中で体が200年のブランクを取り戻している最中なだけか。

 よかった、意識があるわけじゃなくて。もしあったら死後も働かされ続けるゴーレムたちが気の毒すぎる。

 心の底からほっとした。


――――――――――――――――――――


 それからさらに2週間ほど経った頃、ヴォイテクさんたち『荒ぶる熊』の皆が、今度は「ゴーレムの成長が止まったように見える」と口々に言い始めた。


 僕は戦闘に関しては素人だからよく分からないけど、彼らがそう言うのならそうなんだろう。

 ゴーレムたちの性能は、「慣らし」の期間を終えてようやく完全なものになったらしい。


 その後の魔物狩りは、よりスムーズに進んでいった。


 最初の頃でさえ、重量級の強力な魔物を力押しとはいえ危なげなく倒せていたんだ。

 その上で洗練された戦闘技術まで得たゴーレムたちは、ヴォイテクさん曰く「悪い冗談みてえな強さ」になっていた。


 一般的な金属の硬度を大きく上回る魔法金属の体、2mの巨体と高い身体能力、そして戦闘奴隷だった頃の戦い慣れた動き。

 それらを兼ね備えたゴーレムは、以前は2~3体で囲むように狩っていたオークやグレートボアを、今では単体で相手取れるほどに強くなっている。


 ゴーレムが強くなったことで、開拓地の安全性もさらに高まっただろう。


――――――――――――――――――――


 僕とマイカは今日も1日の仕事を終えて、来訪者用の住居として割り当てられている建物に帰る。


「あっ。お帰りなさいませ、ご主人様!」


「マイカ様、リオ様、お帰りなさいませなのです!」


 住居の掃除や僕たちの服の洗濯、さらに開拓民の女性たちの手伝いなど、昼間は家事奴隷としての仕事をこなしているカノンたちが出迎えてくれた。


「ただいま、カノン。ミリィもありがとう」


「2人ともただいまー!」


 鎧代わりの厚い革の服や身を守るための小盾、護身用のナイフといった装備を解き、丈夫で重いブーツを脱いだ僕たちは、休憩のためにそれぞれ自分の部屋に入った。


 開拓地に来て1か月以上。森の中を歩いて魔物を狩る日々にも慣れたとはいえ、足場の悪い中を動き続けていると、夕方にはさすがに疲れ果てる。まだまだ体力が足りない。


洗浄ウォーター」をかけた水で体を拭いた後、「ふーっ」と息を吐きながら自分のベッドに倒れ込む。

 来訪者としてしっかり睡眠をとって体調を保つために、毛布だけでなく簡易ベッドが与えられているのはありがたい。


「今日もお仕事ご苦労様でした、ご主人様」


「ありがとう、カノン。疲れたよ……」


 そう答えながら、カノンに手招きする。

 ベッドの方に近寄ってきたカノンの手を取って、そのまま抱き寄せた。


「あっ」


 カノンはあっけなくベッドの上に倒れ込む。

 そのままカノンを転がして、お互い向かい合って寝転ぶような体勢になった。


「カノン、僕を癒して」


 すると、カノンは自分の胸に僕の顔を埋めるように抱きしめてくる。


「……ご主人様は、毎日とても努力されています。この開拓地が安全なのも、開拓団の皆さんが元気でいらっしゃるのも、ご主人様のお力があってこそです。ご主人様は素晴らしい方です。心から尊敬して、お慕いしています」


「ありがとう……今は甘えさせて」


「はいっ。私にはいつどのようにでもお好きに甘えてください。ご主人様にも休息や癒しは必要です。私はそのための存在ですから……」


「うん……」


 カノンの胸から顔を上げて、その顔を見つめる。2人で見つめ合う。


 カノンを仰向けにして、その上に覆いかぶさるような姿勢になって……そのときだった。


 ガチャッ「ねえリオ、ヨアキムさんが話があるから来てくれって――」


 いきなり不意打ちで入ってきたマイカと、カノンに覆いかぶさったまま振り返った僕の目が合う。


「あっごっごっごめんね、お邪魔だったね、ごゆっくり!でも早めに出てきてね!」


 慌てたようにそう言って出ていくお邪魔虫、もといマイカ。


「……まったく、ノックくらいしてほしいよね」


「……み、見られちゃいましたね」


 僕が呆れて言うと、カノンも照れながらそう返事をする。


「はーっ。ヨアキム団長がお呼びなら急いで行かなきゃね」


 そう言って僕がさっさと立ち上がると、カノンはベッドから起き上がりながら、


「あの、お帰りをお待ちしています」と少し寂しそうな、甘えたような顔で言ってきた。


「……さっきの続きはまた夜にね」と言って僕が頭を撫でると、カノンは顔を赤くして小さくうなずいた。

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