第2章 六星闘技
『初めぇ!!!』
ダァンッ!!!
試合開始の合図と共にエイナが地面を抉り、上空に飛躍する。
『竜炎の息吹』
口から吐き出した炎は、ラゼッタと対峙した時の手加減したものでなく、灰にせんとするその勢いと範囲に、その他六星が一瞬で炎の中に消える。
通常、スペシャルマッチでは六星が一般生徒に本気を出す事は禁止されている。その理由は1つのみで、実力差があまりにもかけ離れているからである。特に前年度の五星に関しては、全生徒が認める程の怪物級達であった。
その怪物級と恐れられた中にエイナは、たった2年生でその座を勝ち取ったのだ、本気で挑んできた3年の八星を返り討ちに遭わせて。
だが現在の六星が弱いのかと言ったらそうでもない。特にジュランとレイン。
ジュランは実力のみで六星に入り。前の学園では五星と並ぶ強さと言われた十魔剣の1人を倒した程の実力だ。
レインは本気を出していないエイナと戦ってその座を勝ち取ったが、非公式でエイナと幾度も戦い、その実力はかなり伸びてきている。そしてグレアモル学園最強と謳われたロイドの弟。その潜在能力も未知数である。
そしてエイナが最も警戒する人物。それは自身が大きく飛躍し、炎を吐き出すと同時に、会場から気配を消した元五星ガルハートの弟。エリオルドであった。
エイナが入学して間もない頃。当時1年で最強と噂されていたエリオルドが気に入らず。勝負をけしかけた事があった。結果全力を出し切ったが、最後に地面を舐めていたのはエイナであった。
それからすぐに面積が3大陸の内、1番広大な面積を有す、中央大陸フルフニカにあるたった1つの超大国、グラムハーツ魔導国へと留学したと言う情報が耳に入る。
(最も警戒すべきはあの男)
警戒心を解く事なく炎を出し切り、風魔法で滞空するエイナ。
ズズズズッ
地上をよく見ると、エイナの放った豪炎が一箇所に収束している。
「ふぅ、、だいぶ吐き出したねぇ、エイナさん」
『千炎蒼蛇』
凰剣イグニスによって吸収された炎を、青い炎の大蛇に変換させ、エイナに放つ。
「ふんっ!まずはお前からだ!」
ブォンッ!!!
放たれた大蛇を拳で容易く四散させ、空を蹴り、一瞬でジュランの目の前に着地するエイナ。
「手加減はしないから」
『竜炎拳』
『灰燼』
深紅の炎を纏った拳と、淡い光を放つ手刀がぶつかり合うも、エイナが腰を入れた瞬間、ジュランが結界に吹き飛ばされ、気絶した。
「一瞬でジュランがのされた、、」
『ファントムスマッシュ』
『ミーティア』
背後からはバランの高速のラッシュ攻撃、頭上には直径5メートルの隕石が降り注ぐ。
ブゥンブゥンパシッ!
「舐めた口を聞いたお前は絶対に許さないから」
ガシッ!
ブゥン!
「んぐっ!」
捉えきれない速度で放つ高速の連打を1回、2回とかわし、3発目で見切りバランの拳を掴み、反撃の考えを与える隙間も見せず首根っこも掴み、頭上の隕石に向かって投げる。
『竜炎の灰咆』
扇状にではなく、太く真っ直ぐな一本の炎がバランに放たれ、頭上の隕石を瞬く間に貫通し破壊した。
ジュゥゥゥゥッ
『エリミネイトレーザー』
ズィンッ!!
燃えながら地面へと落ちていくバランを見ていると、横から一本の光線が放たれる。
ガァンッ!!
フッ!
腕を払い、容易く光線の軌道を逸らし、一瞬でレインの懐へと入るエイナ。
『竜炎脚』
側頭蹴りでレインを一瞬で吹き飛ばすも、手応えの無さから分身だと理解。
『サテライトレーザー』
次の思考を考える暇もなく、エイナの頭上に展開された魔本陣から一本の巨光線が瞬く間にエイナ包む。
『プロミネンスキャノン』
エイナの四方の地面から砲台が出現し、光線で包まれているエイナに炎の火球を追撃する。
側から見るとただのオーバーキルの様に見えるが、これですらまだ火力が足りていないと感じるレイン。
「ちっ、、本当にバケモンだな」
舌打ちし、光線の中から闘気を纏いながら歩いて現れるエイナに舌打ちするレイン。
ガシッ!!
「くそっ!、、気にくわねぇが俺ごとやれぇ!」
突如背後から現れたボロボロのバランに羽交い締めされ、レインが銃を構える。
『魔装・ネロイフリート』
レインの構える紅色の銃身が黒紫に変化し、右腕と合体した後歪な形になり、銃口が3つに増える。
『オメガキャノン』
銃口に黒い光が収束する。
「私の魔力も上乗せよ!」
キュインッ!!!
3人の六星が1人の六星を落とす為、やむなく強力し、黒い光が3倍の大きさに膨れ上がる。
「スゥゥゥゥ」
巨大な黒い光の玉が発射され、ゆっくりと目を閉じ、意識を集中させるエイナ。
『ドラゴンソウル』
瞬間、エイナが目を見開き、バランは自身が羽交い締めをしている存在が肥大化していくのを感じる。
それはオーラなどといった抽象的なものではなく、現実的に体の表面に纏っていた魔力が形作られ、肥大化していた。
「なん、、だよ、その姿」
それはラゼッタの扱う竜紋の様に、竜の身体の一部を部分的に似せたものでなく。両腕を地面に付け、四足歩行になり、まさに竜の様な姿となっていたエイナ。
そして肥大化した魔力が徐々に竜の鱗へと姿を変え、魔力で出来た角、尻尾、翼は徐々に本物と違いのない外観をし、瞬く間に3メート大の赤い竜そのものへと変貌した。
「グラァア!!!」
エイナの肺が光り、それが徐々に喉を通り、口から炎となって吐き出され、目の前の光景を全て炎に変えてしまった。
「炎でなんも見えねぇ、、それにあの姿、」
突っ込むのが正しいのかが分からないくらい、舞台上に現れた竜を信じられないでいるカイト。
数秒後すると炎が収まり、舞台には元の姿に戻ったエイナと、レイン、バラン、ミレイが横たわっていた。
「10秒が限界か、、やっぱり難しいわね」
グーとパーを繰り返した動作で、体に異常がないかを確かめるエイナ。
「まぁいいわ、それよりいつまでも隠れてないで出てきなさい」
フッ
エイナの目の前の空間がねじれ、ねじれた空間はやがて人の形をし、エリオルドの姿が露わになった。
「やっぱり強いね、エイナは」
にっこりと微笑み、不思議なほどに皮肉を感じさせない、親身とさえ感じるような穏やかな口調と表情でエイナを称賛するエリオルド。
ダァンッ!!
『竜炎拳』
地面を蹴り、目の前に移動したのち、炎の拳を大きく振りかぶり、勢いよく顔目掛けて放つ。
ドォンッ!
「今のはもう少し喋る場面だろ?ひどいじゃないか、いきなり攻撃なんて」
困った表情をするも、難なくしっかりと攻撃を受け止め、どういった方法かは分からないが、衝撃のみを背後に流した事に不快感と、苛立ちを覚える。
「あぁーもう!あんたと戦うといっつも調子狂うわ、、」
「ははっ、よく言われるよ」
「ちゃんと戦いなさいよね、こちとらあんたを倒す為に結構鍛えたんだから」
「本当に?僕の為に頑張ってくれたんだね、嬉しいよ!」
「そうじゃないわよ!何でそういう考えに至るのよ!」
「じゃあ違うの?それはそれでなんかショックだなー」
「もういい」
狂わされた調子を深呼吸で戻し、仕切り直す。
「いくわよ」
「カストル、ポルクス」
空間から2本の剣を取り出し、エリオルドの声に応える様に胸から2つの光の玉が出現し、やがて光の玉は2体の男女の青い小人の姿となった。
(精霊が2体、、)
「精霊の2体持ちって、できたのか」
「うん、でも魔力消費の効率が格段に悪くなるから、精霊の複数契約者っていうのは滅多にいないの、いたとしても消費コストの少ない下級精霊とか中級とかだと思う」
((だがあれは上級と中級だぜ))
アッシュが精霊感知を使い、即座に分析しカイトに伝える。
「え、アッシュが言うには上級と中級だって」
「だとしたらとんでもない魔力量がある人以外に考えられる事はないわ」
『竜炎拳』
『スピリットソウル』
上半身裸で海パンを着ているカストルと呼ばれる上級の水精霊が右手の剣に光となって溶け込み、ビキニ姿のポルクスと呼ばれる中級の水精霊が左手の剣に光となって溶け込むと、剣が変形し、柄尻にターコイズ色のロープが出現し、もう片方の剣と繋がる。
『霜斬り』
エイナの放った猛炎の拳が眼前に迫ってくるまで、ゆったりとした動作で剣を構えた刹那。エイナの目の前の空間が歪み、次の瞬間にはエリオルドが背後に立っており、背中に痛みが走る。
「っ!、、」
『竜炎の息吹』
痛みで膝を着きそうになるも、寸前で踏ん張り振り向きざまに、炎を吐く。
『流露』
左手の剣を離し、右手に握った剣を払い遠心力を利用した斬撃が、目の前の炎を真っ二つに斬り分ける。
ドォンッ!!
エリオルドが炎を斬り分けた瞬間に、エイナが地面を力一杯蹴り、シーソーの様にエリオルドの足元が隆起し、空中に投げ出される。
『飛炎拳』
ブォンッ!!
拳の形をした6つの炎がエリオルドに襲いかかる。
風魔法を使い、空中で体勢を直して、剣をヌンチャクの様に構える。
『篠突く雨』
ババババババンッ!!!
手先が見えない程の速度で剣を振り回し、間合いに入った炎の拳を全て斬り伏せる。
ガシッ
「ふんっ!」
最後の拳を斬る伏せた直後に、いつの間にか背後に回っていたエイナに羽交い締めされ、次に2人の体を岩魔法で固定。そして頭からそのまま地面に向かって風魔法を使い勢いよく落ちる。
ドォンッ!!
フゥン
着地の直前で離れ、エリオルドを見ると消えていた。
『霜斬り』
ガキィン
イラついた表情で背後から現れたエリオルドの攻撃を弾き、腰を落とし拳を構える。
「もっと早く、、」
ブゥンッ
ドォンッ!!
ここにきて更に加速したエイナの攻撃に目を見開くエリオルド。
『海嘯斬り』
いなせないと判断したエリオルドは2本の剣を地面に叩きつけ、巨大な波の壁を引き起こす。
ズパァンッ!
押し寄せる津波を1発で吹き飛ばそうと突きを放つも、風穴を開けるだけで精一杯。
しかしそれでも十分だと、空いた穴からエリオルドに潜ろうとした瞬間、エリオルドの口角が上がる。
『ウォーターロック』
「ふんっ!」
バシャンッ!
津波を操り水球へと変形させ、エイナを閉じ込めるも、体を僅かに振るわせた振動で水球を破壊するエイナ。
『飛炎拳』
フンッ
炎の拳がエリオルドを捉え切る寸前で、エリオルドがその場から姿を消し、空を切る炎の拳。
「ふぅ、、」
額から一滴の汗が滴り、僅かに疲労が現れたエイナ。
ブンッ
背後からの不意打ちを警戒する為、舞台の隅に走るエイナ。
『霞の辻』
走った先から6本の地を這う斬撃が突如目の前に現れ、エイナを襲う。
ダンッ
地面を蹴り、空中に跳んで躱すエイナ。が直後に自身の選択を誤ったと一瞬脳内をよぎる。
エイナが空中に跳んだ瞬間、僅かながらに冷たい空気が自身の頬を過ぎ去ったのを感じ、即座に顔を横に倒すと、頬に裂傷が浮かび上がった。
(元々上にいたのね!)
『竜炎の息吹』
ブォーンッ!!
上空一帯を炎で焼き尽くすも手応えは感じない。
ドォンッ!!
上空を眺めていたエイナの背後から静かに、音も気配も完全に消したエリオルドが剣を払おうとした瞬間、エイナが振り向き様に裏拳を放ち、ギリギリ剣で防ぐエリオルド。
「うわ、本当に当たった」
「いやいや、、まさか勘で攻撃したのかい?むちゃくちゃだよ〜」
剣を上段と下段に構え、走ってくるエイナを待ち構える。
『霜斬り』ドォンッ!!
姿を一瞬消し、背後に回って斬りかかった瞬間、ガードもせずに攻撃を闘気でガードして、そのまま拳を胸に打ちつけるエイナ。
「はぁ、、やっと捉えた」
「ごほっ、、ガードしないなんて、何処まで面白いんだよ」
口から血の混じった唾を吐き、もう一度剣を同じ様に構える。
『竜炎斧脚』
(はやっ、、)
ドォンッ!
一気に加速したエイナの踵落としを避け、同時に斬りかかるもガードをせずに、もう一度踏み込むエイナを見て、その執念に一瞬体が強張るエリオルド。
その僅かな隙を極限まで集中しているエイナが見逃すはずもなく、まずはみぞおちに一撃入れて動きを止める。
「ガハッ」
『竜炎拳』
ドォンッ!
顔に拳を打たれ、場外へ吹き飛びそうになるもなんとか堪えるエリオルド。
『霞の辻』
走ってくるエイナを見て、目の前に6本の地を這う斬撃を展開し、時間を稼ごうと考えるも、6本の斬撃の間から見えるエイナの目には、もはや目の前の斬撃は見えておらず、エリオルド一点のみに集中していた。
ザシュッ!
闘気を僅かに貫通し、体に裂傷ができるも、走る足を止める事はなく、真っ直ぐ走るエイナ。
『篠突く雨』
剣をヌンチャクの様に回し、貫通力を高めた無数の雨の斬撃がエイナの眼前まで飛んだが...
ジュッ
ジュッ
高温の熱を自身の周囲に展開し、雨の斬撃を全て蒸発させるエイナ。
「まじか、、ハハッ」
「あたしの勝ちよ」
「手加減してね」
『竜焔拳』
通常の竜炎拳より、更に濃密に魔力を纏った拳がエリオルドの顔を捉える。
ドォォォォォォンッ!!!
パリンッ
ドォン!!
エイナの拳がエリオルドにあたった瞬間に、拳から吹き荒れた炎が結界を貫き、観客席の壁を抉る。
ドサッ
『勝者!!!六星エイナ!!』
これ以上にない歓声が会場を揺らし、絶賛の声がエイナに向けられ、中には泣いている観客すらも現れた。
「はぁ、、いや、見てるこっちもしんどいぞ全く」
気が付けば席を立ち、舞台の戦いを見ていたカイトが、ぐったりと席に倒れ込む様に座る。
「私もいつのまにか手汗とか凄いよ」
「いや〜凄く強くなったねエイナ、ていうか普通動けなくなった友達の顔をあんな技で殴るかねー?やりすぎじゃ無い?」
舞台の袖で姿を最初から消していたエリオルドの本体が、見えない姿のままエイナを称賛する。
「僕の本気を出した分身すら倒しちゃうからね、間違いなく留学行ってなかったらやられてたかもね〜、いや〜行っててよかったな〜」
ひっそりと誰にも見られないまま舞台から去って行くエリオルド。
ブンッ!
ドォンッ!!
シュゥゥゥゥッ!
「え?」
進行方向に突如エイナが現れ、寸分の狂いもなく姿を消しているエリオルドの顔目掛けて拳を放ち、素手で受け止めるエリオルド。
同時に姿も現れ、どよめき出す観客席。
「あらぁ〜、今のでバレちゃったじゃん」
「手加減されて手に入れた勝利になんの嬉しさも感じないわよ」
『竜焔拳』
バッ
ジュゥゥゥゥ
エイナの拳から吹き荒れる炎に手をかざし、水の防壁を張り防ぐエリオルド。
ズパァン
吹き荒れた炎の中から現れたエイナが防壁を拳で破壊し、エリオルドの懐に入る。
「それ以上は入らない方がいいよ」
よく見ると目の前に僅かながらに歪んだ空間が見える。
「もう勝負はついたじゃん、やめようよ」
『竜焔斧脚』
「はぁ、、」
『水紋剣』
懲りないエイナの攻撃にため息をつきながら、腕を前に伸ばす。
ピチャンッ
ブォンッ!!
ガァンッ!!!!
水面に水滴が落ちた音が鳴り響き、目の前の空間に波紋が広がる、次の瞬間、エリオルドが剣を波紋の中に突き刺すと、8倍程巨大化した刀身がエイナに伸びて、エイナの踵落としとぶつかり合う。
ドォンッ!
しかしすぐにエイナの魔力が切れ場外へと吹き飛ばされる。
観客席では何がどういう事かわからず、実況席もあたふたしていたが、エリオルドが口を開く。
「六星闘技に勝ったのはエイナだよ、僕はただエイナと戦いたかっただけで、誰が1番なんて興味はない。勝者はエイナでいいじゃないか」
そういったものの、エイナを場外に吹き飛ばし、実力も出し切っていないので、結局の所どちらが勝者か分からない状態になり、ノイドも顔に手を当てた様子で、舞台にキョトンとした顔で立っているエリオルドを見ている。
『ごほん、、六星闘技のルール上勝者は六星エイナとする。先程の一戦は公式上の戦いでは無い故、勝者は変わりません』
「ごめんなさいね〜学園長〜」
手のひらを合わせ、ノイドに腰を落とすエリオルド。
こうして六星闘技は一応エイナの勝利となり、今回の闘技大会はこれにて幕を閉じたのであった。




