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第1章 不審者



本日から1週間迷宮の攻略は一時休止し、トレーニング週間初日。


「ぐぬぬぬっ!!」


皮膚が重力の重みによって垂れ下がり、爛れたような顔になるカイトは現在、重力の耐久テストの真っ只中であった。


「8倍...よし、次は8.5だ」


ズゥンッ


「んぐぅ!」


セニカが片膝を着き、その場で倒れる。


「やっぱり残ったのはこの3人か、、」


7倍で脱落し、重力場の袖でカイト、アルベルト、ジュランの3人を見上げるオーロン。


「9倍....」


ズゥン!!


「んぉ!っぐ!」


重力が切り替わった瞬間、ジュランの膝が曲がる。


「ふんぐぐっ!しゃい!」


9倍にもなると、耐えるだけでも十分しんどい筈が、ジュランはなんと曲がった膝を真っすぐに戻したのだ。


「よ、よゆーっ」


「「、、、」」


額に汗を垂らしながら、カイト達に余裕を見せるジュランに、言い返す余裕のないカイトとアルベルト。


しかしその余裕も長くは持たなかった。


「9.5倍」


ズゥン!!


「うがっ!」


ジュランの膝が再び曲がり、地面に伏した。


「がぁああ!畜生!」


悔しがるジュランを尻目に、そろそろ限界のアルベルトとカイト。


「10倍」

ズゥン!!


ガクン

ガクン


ほぼ同時に膝を崩す2人。


「がはぁ、、はぁはぁ、、俺の勝ちだな」


四つん這いになりながら、アルベルトを見て、勝ち誇った顔をするカイト。


「いいや、、俺の、、勝ちだ」


勿論アルベルトも譲らない。


「はぁ?、、、どう見てもお前の方が先に崩れただろ!」


「いいや!、、、お前が先に諦めた顔してたぞ!」


「なんだとぉ!それなら!」


スタッ


カイトが立ち上がり、腰に手を当てる。


「俺が先に立って余裕かましたから、俺の勝ちだ!」


「なっ!ずるいぞお前!」


「ほんと言い争える余力があるだけ凄いね」


セニカが2人に水を持って来ながら、2人のやりとりを見て微笑む。


「セニカ!今の俺の勝ちだよな!?」


「いいや!俺の勝ちであってるだろセニカ?」


カイトに続きアルベルトもセニカに問い詰める。


「んー、、水取りに行ってたし、見てなかったかなー、、」


なんとか誤魔化すセニカの背後から、ヴァイスがやってきて一言。


「同時に膝を付いていた、5分後に次の訓練始めるぞ」


「ぐぬぬっ!」

「ふんっ!」


それから5分後にカイト達は重力場で筋肉トレーニングをやり終え、授業を終えた。


「くぅ〜、、絶対明日筋肉痛になってんだろうな〜」


「もうヘトヘトだよ〜」


修練場からヘトヘトで食堂へと向かっていると、校門あたりにあたふたしている男の子をセニカが見つける。


「見てカイト!校門で明らか困ってそうな人がいるよ」


「んん?なんだー?めちゃくちゃきょどってるな、、おーい!何してんだそんなとこで!」


校門であたふたしている男の子にカイトが呼びかけると、猛スピードでこちらへ走り掛けてきた。


*「シーッ!今隠れている途中です!」


暗緑色の髪を眉まで伸ばし、頭のてっぺんには白色の癖っ毛が一本くるっと立っていて、学生服でなく、貴族の様な服装をした男の子がカイト達の腕を引っ張り、校門の袖に生えている木の後ろへとカイト達を引っ張る。


「いきなりなにすんっ!」


話終える前に口を塞がれるカイト。


*「お願いですから音を立てないで、気配を消してください!今僕は悪い人達に追いかけ回されているので!」


小さい声で、目をギンギンにした男の子は、小声でカイトを制する。


すると間も無くして、校門の方からこれまた礼装で身を包んだ、男性4人が息を切らしながらカイト達の隠れている木の目の前で立ち止まった。


「はぁ、、はぁ、、全くどこ行ったんだ?」

「このまま4人で探しても仕方がない、散らばって探すぞ!」

「わかった!」

「あぁ」


息を整えもせずに、そのまま校門と逆側に走って行く男性達。


*「ぬあっはっはっは!甘いなあいつら!」


「おい、状況を説明しろよ、なんであんな礼装したおっさんらに追いかけられてたんだ?」


「見た所王族の礼装だったけどまさか王族相手に何かしたわけじゃないでしょうね、、」


*「ち、違いますよ!聞いてびっくりしすぎて慌てて跪かないでくださいよ〜!何と僕がその王族でしたー!」


「、、、、は?」


「確かに着ている服からして身分は高そうだけど、雰囲気とかは王族とは程遠いかもね、、、」


男の子の言った言葉に疑いの眼差しで男の子を見るカイト達。


*「失礼ですね!僕の言うことが信じられないと言うのであれば、えーっと、、どうだ!」


そう言って男の子は胸ポケットかたを弄り始め、取り出したのは白金の中に金色が見ずに滴った絵具の様に混ざった鉱石でできた球体と、それを掴む鷲の様な生き物の装飾品のネックレスであった。


「うーん、正直こんなん見せられてもわかんねーな」


「カイト、、これ本物よ!ほらこのアクセサリー!王族のみにしか身に付ける事を許されないと言われている、この世で1番高価な鉱石であるノーライト鉱石で出来た玉に、エリュード国を象徴する空の王と言われるリオウの翼の装飾」


セニカの説明を聞くも、それでも何故か納得のできないカイト。


「王族ってもっとこう堂々としてて、威厳のある感じじゃねーのか?小さい頃、建国祭の時に遠くから見てたけど、あの感じがどうも全くしないんだよなぁお前からは、、」


カイトが王族と聞いて納得のできない理由、それは目の前の男のオーラの無さもあるが、口では言い表せないような品というべきものか、王族に備わって当たり前の何かがこの男の子から感じられないからだ。


そしてふと何かを思い浮かべたカイト。


「もしかしてお前それ盗んだ物だろ!それであのおっさんらに追いかけられてたんだな!?」


「あ、それの方が信じられるね確かに」


*「ちょちょちょ待って下さいって!僕は本当に歴とした王族で!第16代エリュード王国ルイノルド・エリュードの次男であるアウラン・エリュードです!」


「そんな国民の誰もが知ってる名前名乗ったところで信じるかってんだよ!オラ!このままエリュード城まで連行してやるこの盗っ人め!」


カイトが男の子の腕を掴み、連行しようとする。


「し、失敬な!ここここの僕に対して盗っ人などと汚名を着せた挙げ句、その無礼な態度!後悔するぞ!」


と言った脅しがカイトに通用する筈もなく。


「今のは王族らしかったぜ、こっち来いオラァ!」


「なんでそんなに張り切ってるのカイト?」


カイトが手招きでセニカの耳を自身の口元に近づけさせる。


「そんなの当たり前だろ?こんな大罪人を王様に引き渡したら、そらぁもう報酬でお金はガッポガポ!一緒に美味い飯でも食べに行こうぜ!」


「滅茶苦茶聞こえてますし、連れて行ったところで大罪人でもなければただの身内の引き渡しになりますけどね」


「うるせぇ盗っ人!そんな大きく出た所で連れて行くことには変わりはねぇぞ?」


「とは言ってもこのまま黙って連れて行かれる訳にはいきません!」


そう言った後アウランと名乗る男の子はカイトに掴まれていない方の腕を胸ポケットに入れ、丸い何かを取り出した。


『拘束魔導具起動』


丸い装置に僅かな魔力を男の子が込めると、魔導具が光だし、カイトに向かって銀色の糸が伸び、たちまち体をぐるぐる巻きにした。


「ふんぬーっ!!!くそ!動けねぇ!」


その隙に男の子が学園の中に入っていき、セニカが追いかける。


「アーーーーッシュ!ヘルプミー!」


((やだよめんどくせー、油断してる奴が悪りぃんだよ!))


「そんな事言ってる場合かバカ精霊!あいつを捕まえればプリンだって食べ放題だぞ!」


((ふんっ!今更俺様をプリンで釣ろうなんて意味ねぇよ))


「散々釣られてきた癖に何急に一丁前にカッコつけてんだよ!んがーっ!」


何度力ずくで解こうとしても、びくともしない。


((じゃあな、用がなかったら昼寝の邪魔すんな))


それからカイトがなんて呼びかけても反応しなくなったアッシュに、カイトは見た目どうり毛虫の様に這うしかなかったのだ。


(んのやろぉ、、絶対に見つけてしばき倒してやる、、)


一方逃げた男の子は現在校内を逃げ回っている。


(どこだ!?、、ここは2年生の教室だし違う!もっと上か!?)


「あの!すいません!学園長がおられるお部屋は何処にあるのでしょうか!?」


男子生徒を通り過ぎて行った所で急ブレーキし、戻って質問をする男の子。


「ん?学園長?それならこの棟じゃなくて、この棟の裏だぞ?転校生か?」


「ありがとうございました!」


男の子はすぐさま走り去っていき、そのすぐ後に男の子が来た方から息を切らしながらセニカが走ってきた。


「マシュー!さっきここに緑色の髪の、くるっとした癖っ毛の貴族っ子来なかった!?」


「それならさっき学園長の居場所聞いて走って行ったぞ?」


「ありがとう!」


すぐさまセニカも学園長室へと走り出した。


それから男の子が学園長室に続く階段へと向かうと、上にセニカが待ち伏せていた。


「悪いけど学校の規則を破らせて貰ったわ、観念しなさい!」


「そこをどいて下さい!どうしても学園長殿にお話があるのです!」


男の子が魔導具に手を掛けた瞬間、セニカの魔法剣がそれより速く男の子の首元に当てられた。


「その手を離しなさい!何が目的か知らないけど、誇りある王族を名乗った罪は重いわよ!」


「だからその王族が僕だって何度言ったら分かるんですか〜」


セニカが男の子の両手を背後で掴み、連れて行こうとした瞬間...


ガチャ

「なんじゃ?さっきから騒がしいのぉ」


「あっ!学園長!」


セニカは咄嗟に魔法剣を消し、事情を説明した。


「不法侵入者が学園長を狙っていたので止む負えず学園の許可された敷地外で魔法を使いました。すみません」


「ワシを狙った人物?どれどれ?」


セニカが男の子の顔を見せる為、体ごと学園長の方に振り向かせる。


「はぁ、、また性懲りも無く城を抜け出してきたのかアウランよ」


男の子の顔を見るなり、いつも明るくニコニコしているノイドの顔が一気に疲労感が漂い始める。


「お知り合いなのですか学園長?」


「あぁ、セニカ君もその手を離しておいた方が身の為じゃぞ?何せその子は次期王に成られるかも知れないお方、アウラン・エリュード王子じゃ」


男の子ではなく、ノイドが言うのなら本当だと思ったセニカは、すぐさま手を離す。


「すみません、、」


自分の今までの数々の無礼、処刑とまでは行かないが、王に対する非礼、並びに暴行は厳重な処罰の対象になる。


「いやいやそんな畏まらなくてもいいですって!ね!?僕が言った通りでしょ?」


「、、、、はい、すみません」


地面を見る事しか出来ないセニカ。


「所でワシを探しに来たというのはまさか、、」


「はい!僕をウルミスト学園の生徒にして下さい!」


「その話は何百回と聞いたぞアウラン、良いのは良いんだが、お主にはもっと大事な務めがあろう、、次期王選も3年以内に行われると聞いておる、その間民たちに自身を売りつけておいた方が王に近付けるのではないのか?」


「今までは文通のみでしたので、今日は直接お邪魔させて頂きました!確かに王選も大事ですけど、僕は父上の様にと言ったら失礼ですけど、国民に守って貰う王にはなりたくないのです!民の為に力を振れる王になりたいのです!それには此処で武学を習う必要がどうしてもあるんです!お願いします!」


アウランがノイドに向けて土下座をし始めた。


「こらこら、一国の王族がワシの様な平民に頭を下げるでない!何度も言ったであろうが、お主がウルミストに入りたいのはワシも度々了承しているが、お主は特別なんじゃ、ワシの判断で決められん、せめてお主の父上の許可でもない限り」


父上の許可と聞いたアウランは、此処ぞとばかりに得意げな表情でノイドの言葉を遮り、一枚の紙をノイドに渡した。


「まさかこれは?、、、ほぅ、、ふむ、、、」


手紙らしきものを、ノイドが受け取った後苦虫を噛み潰したような表情でノイドが口を開く。


「この印と書式はお主が真似た物でないのなら入学を認めよう」


「やったぁあああああ!!!これで夢への一歩へ近づけられます!ありがとうございます学園長殿!」


「しかしこれだけでは信用に足らん、後日直接お主の父上に話をしに行く、今日はもう城に戻るんじゃアウラン、、、お前が来た事によって色んな厄介ごとに巻き込まれたくないからのぉ」


城に戻るアウランに最後の一言は聞こえていなかった。


一方その頃...


「ふんぐっ、、ふんぐっ、、」


学生棟の入り口でカイトは這っていた。


「何してるんだお前?」


突如背後から声が聞こえ、体を仰向けに頭だけを起こすとアルベルトが立っていた。


「ちょうど良いとこに来たなバカベルト!この糸解いてくれねーか?学園に侵入者が入って来てだな!」


「ふっふっふ、、実に似合っているぞカイト、ぷふっ、もう少し這う時のお尻を突き上げればもっと前に進めるのではないのか?ぷふっ!」


アルベルトはおちょくる様な顔で、カイトを見た後、憎たらしい顔でアドバイスを言い渡すアルベルトに、カイトの頭の中で何かかがプツンと切れた。


「このやろぉ糞ベルト!テメェの父ちゃんデーブース!バーカバーカ!うんこ踏んで死んじまえ!」


何度も大人気ない子供の様な悪口を浴びせるも、ちっとも悔しそうにしないアルベルトは、笑いながらその場を去っていく。


「ちょっ!嘘だって!お願い解いて下さいまし〜!」


その後急いで駆けつけてくれたセニカに解いて貰ったカイトであった。




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