第1章 中途半端
季節は1月の中旬。カイト達はバハラからエリュードに帰還した後、2日の休みを貰った後、学校生活を再開する。
ここでの学園生活で特に変わっている事が、夏休みや冬休みがない事だ。何故なら大体その時期に闘技大会が開催され、全学園生がその準備に励む為である。
そして時間は朝の剣術の授業が終わり、魔術の授業が始まる前。
「それじゃあここで待っていて下さい」
カイトがウルミスト学園の私有地にある廃墟にソクラスを連れて来ると、布が覆いかぶさったテレポーターの前で、足を止める。
バサッ
「おぉ〜!何ですかこれは!」
「場所と場所をつなぐゲートです」
布を取り、中から現れた物体の姿を見て、思わず感嘆の声を上げるソクラス。
「ほぉ、、これは興味深い」
「いずれモルバトにも設けようと思っています」
「その時はぜひわたくしにお声掛け下さい!」
「それを決める為の今日ですよ、もう少し待てそろそろ」
そして待つ事5分後。テレポーターが僅かに光を放ち、やがて扉の真ん中に光の粒子が集まり、空間が出現する。
「おぉ〜!綺麗で暖かい光ですね」
コツン
コツン
カンッ
「お久しぶりです、ムン婆様」
「いつ通っても慣れんのぉ、久しぶりじゃなカイ坊」
ムン婆と久しぶりに会い、握手を交わし、礼をするカイト。そして背後でソワソワしているソクラスをムン婆に紹介する。
「こちらがバハラ行商団銀員のソクラスさんです、ソクラスさんこちらの方がエルグランド総族長、ファムンさん、通称ムン婆様です」
「よろしくのぉ」
「こちらこそよろしくお願いいたします!」
2人が軽く握手を交わした後、ファミルがゲートから現れる。
「あ、ファミル先生!」
「久しぶり」
「ぬぉっ!、、カイト様あの美しい方は〜?」
ソクラスがファミルの妖艶さに少し酔いしれながら、カイトに耳打ちをする。
「こちらがエルグランドの女王ファミル・エルグランドです、あの三賢王が1人です」
「よろしくねソクラスさん」
ソクラスが慌てて手に浮かび上がったであろう汗を服で拭き取り、差し出された片手を両手で迎える。
「こちらこそ本日はよろしくお願いします」
「それじゃあ行きましょうかカイトくん」
「ん?何方に行かれるのですか?」
「言ってませんでしたね、ファミル先生は女王ですけど、基本的に外交などの裏でのやり取りはムン婆が仕切っているのです」
「めんどくさいからねその辺」
「あぁ、、なるほど、、」
「悪いねぇ、老いぼれが相手で」
「んな!そんな事はございませんよ!ファムン様も十分お綺麗ですよ!ささっ!バハラより最高級のお菓子と紅茶をお持ち致しましたので、お話いたしましょう!」
「それじゃあソクラスさん、また放課後にお会いしましょう」
「ありがとうございますカイト様!」
そう言ってカイトはファミルと共に授業へと向かい、ソクラスはムン婆と共にエルグランドへと向かった。
「あ、ファミル先生ー!おはようございまーす!」
「今日も1段とお美しい!」
「おはようございますファミル先生」
「、、、、」
いつもの顔見知りの3人の生徒に挨拶をされ、横にいたもう1人の赤髪の生徒に目がいくファミル。
「あら、この子は?」
「俺から紹介しますね、この子は文学科のスカーレットです」
「あら、学科系の生徒さんはサブクラスでは魔法や武術系のクラスは取れないのじゃないかしら」
「スカーレットの家がこの学園の融資者でして、ある程度の融通は効くらしいです」
「よ、よろしくお願いします」
「緊張しなくていいのよ、これからは共に頑張りましょ」
「は、はい!」
ファミルと会う前にセニカ達から正体を聞いたスカーレットが緊張で下を俯く。
「まぁ明日になれば緊張は解けるし大丈夫だよスカーレットちゃん」
「それじゃあ早速授業を始めようかしら」
「「「「はい!」」」」
ファミルが今日の課題を全員に伝え、スカーレットの実力を測るテストをしに行こうとするファミルをカイトが一旦呼び止める。
「あのファミル先生、、ちょっとお話したい事があるのでいいですか?」
「どうしたの急に?いいわよ?」
「悪いスカーレット、ちょっと先に先生借りるわ」
「分かったわ」
カイトとファミルが教室から出る。
「話したい事って何かしら」
「話というより相談です、、最近色々とどうしたらいいか分からなくて」
「何で相談したいの?」
「色々考えたんですけど、2年生からは魔法の授業は一旦やめようかなと思ってます」
「それは寂しいね、なぜか聞いても?」
「大陸大会での敗北です。決勝で負けたんです俺。相手の選手は自分と同じ剣を使う選手だったんですけど、魔法やら剣やら闘気を色々工夫して使ったんですが、それでも勝てませんでした」
「それと魔法の授業を一旦休む事とどう繋がるの?」
「中途半端なんです今のままだと、、最初は剣と魔法を同時に勉強して、両方極めれればいいやと思っていました。でも決勝で戦った相手は剣の腕は俺より洗礼されてて凄かったし、魔法も申し分ない程強かったです。自分は闘気で何とかカバーして正直付いていくのがやっとでした。2年になれば向こうだけでなく、他の学園生も闘気を使える様になります。自分が今の地位を確立出来たのは殆んどが闘気のおかげだと思っています」
「闘気が他の生徒にはまだなく、自分にはあったから多少の負荷のかかる事だって出来たし、無茶もできました。2年になって闘気をみんなが扱えたら最初から何もなかった俺なんかすぐに追い抜かされます。俺は剣を志望してこの学園に来ました。なのでまずはちゃんと剣という物が何かを知って、闘気がなくともまともに戦える様にならないとダメだと思ったんです」
「つまり負けてから今の自分を見つめ直したら、剣と魔法を極めるどころか、両方が中途半端だと」
「はい、、それに闘気の所為でって言ったらおかしいですけど、頼りっきりで危機能力なども落ちている気がします。助かった部分もありますけど、こればかりに頼ればいつか必ずダメになってしまうと思ったんです」
「そうね、見方を変えればカイトくんは中途半端ね、ただそれはあなたを負かした人とカイト君を比べた場合そう見えるわ。でもウルミスト学園内では貴方の成長には目を見張る物があるわ、私としては中途半端には見えないし、ちゃんと両方できている様に見えるわ、でもちゃんと考えて決めたんでしょ?」
「はい」
「だったら何も言うことはないわ、自分の信じた道を歩みなさい。ただ一つだけ今後気を付けて欲しいことがあるわ」
「何でしょうか?」
「あまり大差のある他人と自分を比べて、マイナスに考えてはダメよ、ちゃんと段階を踏んでゆっくり焦らず強くなりなさい。今のカイトくんからはその様な兆候が見えるから言っておくわ」
「折角手に入れた強さなんだから、焦って転けて全部こぼしたら勿体ないでしょ?先生はそう言う人やエルフを何人も見てきたら、カイト君にはそうなって欲しくないわ」
「心配してくれありがとうございます!本当にファミル先生が先生でよかったです!」
「ん〜もう〜可愛いわね本当」
ボフンッ
豊満な体に抱き寄せられ、息が出来なくなるが、色んな意味で嫌ではないカイト。
それから授業に戻り、新しい魔法の開発をファミルと共に行い、授業の時間が終わる。
「んふぅ〜っ!はぁっ!疲れたー」
背筋を伸ばし、机の上に体を倒すラゼッタ。
「闘技大会の準備はどうなのみんな?」
セニカがラゼッタの横の席に座り、横にいるカイトとルフトに質問をする。
「俺はボチボチかな」
カイトがラゼッタの隣で天井を見つめながら答える。
「俺もボチボチだね〜」
「あたしも2人と同じー」
続けてルフトとラゼッタも何処か上の空でセニカに返事する。
3月に行われる闘技大会に向けて、全員が着々と準備を進めていて、疲れが溜まっている一同。
「明日からは個別授業を開始するからみんな気合いを入れてね、それじゃあまた明日」
「「「「はーい」」」」
ファミルが教室を出た後、帰宅の準備をするカイト。
ガラガラッ
「あ、今終わったのねスカーレット」
少し遅れて、スカーレットが個別授業から戻ってくる。
「ふぅ、、本当に色々とびっくりさせられる事だらけだったわ」
「スカーレットは闘技会には出るのか?」
「私は文学科だから出られないわ」
「大陸大会には出られても、闘技会には出られないのか?」
「闘技大会は4科目の生徒のみで競い合う大会で、大陸大会は学園同士で競い合う大会だからね、申請すれば出れなくはないけど、今のままじゃ準備不足なの」
「そういえばアルベルトが不参加だって言ってたよな」
「え?アルベルト君が?学校を休んでいるのと何か関係があるのかな」
大陸大会の帰りの馬車でアルベルトと2人になった機会があったので、興味はないものの聞いてみたら、思いがけない返事が返ってきたのを思い返しながら話すカイト。
「今回はジュランも参戦するからな、流石に連敗するわけにはいかないぜ!」
「いきなりテンション上がるねカイトって」
「そういえば今日からヴァイス先生のとこで合宿だったんだ」
「あ!そうだった!私荷物持ってきてないや」
セニカがカイトのひとり言で今日が合宿だと思い出し、慌て出す。
「そんなパニクるなって、家まで送ってから先生の家に一緒について行くから」
「ごめんねカイト〜」
「いいって事よ、んじゃあセニカは先に校門で待ってる先生に伝えといてくれ、俺は軽い用事を済ませたらすぐ向かうから」
「はーい、それじゃあみんなお疲れ〜」
「うぃ〜」
「バイバーイ」
「お疲れ様」
セニカが急いで校門に向かい、カイトは廃墟に向かった。
廃墟に着くと誰の姿も見当たらなく、少しだけ筋トレしながら待とうとした瞬間テレポーターが光りだし、中から満面の笑みでソクラスだけが現れた。
「どうでしたか?」
結果は分かっていながらも一応結果を聞いてみるカイト。
「手応えバッチリです!これも全てカイト様の仲介があってこそです!感謝します!」
「良かったです、それじゃあ朗報が聞けたので、僕は失礼します、、あ!そういえばイーグスタに頼まれてた木材ですが、お渡ししておきます」
カイトは焦げ茶色の電柱程の丸太の様な木材をソクラスに渡す。
「これが先ほどお見かけした神木、ユグドラから採った木材ですか?」
カイトから渡された木材を見てソクラスは渡された木材が先程目のあたりにした神木とは程遠かった為、カイトに確認する。
「はい、確か枝の部分です。色や神々しさは、切って頂いたときはまだ残っていたのですが、今はこんなんになっちゃいましたけど、素材としては最高級で、売れば超高額らしいです」
「いいですねぇいいですねぇ!」
ソクラスの目が完全にお金のマークになっている。
「ただこれは僕が命懸けであの里を助けたお礼として受け取れたので、商売用としては使えないかと」
わかりやすくしょぼくれるソクラス。
「、、そうですか、、取り敢えずお預かりしておきますね」
ソクラスはカイトからもらったそこら中に生えている木と同じデカさの木の枝を空間にしまう。
「それじゃあ僕は今から帰らないと行けないので、次は武器が完成した時にまたお会いしましょう」
「はい!何度も言いますが、本当にありがとうございますカイト様!」
ソクラスが大きなおでこを膝にピシッとつけながらカイトが廃墟から出るのを見送る。
シュンッ
「悪い悪い、それじゃあいこっか」
「うん」
セニカをテレポートで家まで送り、その後徒歩でヴァイスの家まで向かう。
コンコンッ
ガチャ
「あ!カイトさんとセニカさん!」
「よっ!シエルちゃん」
「久しぶり〜」
出迎えたシエルに軽く挨拶をした後、カイトはヴァイスと、セニカはシエルと特訓する。
キィン! ガキィンガキィン! スパァン!
「くっ!まだまだ!」
「踏み込むまでの速度が遅いぞ」
バキィン!
ヴァイスがカイトの剣を受け止め、そのままカイトの体ごと押し飛ばす。
「うぅ、、」
「大丈夫か?」
「うっす!」
すぐさま体を起こすカイト。
「剣の動きは各段に良くなってきている、しかし動きがまだまだ荒いし繊細さが足りん」
「はい!」
「もう一度行くぞ」
「お願いします!」
カイトは剣を中段に構え、ヴァイスの出方を伺う。
ブゥン
ガキィン!
ヴァイスは震残で体をブレさせた直後、カイトの目の前に瞬時に移動し、斬りあげる。
カイトはヴァイスの速度に反応し、斬り上がってくる剣を、剣で振り下ろし受け止める。
「よしっ!」
「まだ喜ぶには早いぞ」
ヴァイスが再び体を高速に震わせ、体を右に回転させ、勢いのまま斬り払う。
スッ
ドガァッ
すぐさまいなしも受け止めも出来ないと判断し、しゃがんで避けた所を、顔を蹴られ吹き飛ばされるカイト。
「いって〜!」
「剣にばかりに気を取られ過ぎだ、この前も言った筈だ、武器は剣だけでなく、体全てだ」
勿論それを忘れたわけではないカイト。ただ単に、ヴァイスとの実力がありすぎるあまり、剣だけに意識するので精一杯なカイト。それに踏まえ、ヴァイスが意識を全て剣に向けさせる様にミスディレクションの使い方が上手いのである。
「くそー、、もう一回だ!」
しかしそれをいちいち口にしても仕方のない事。そんな言い訳を考えて、言う時間があれば、ヴァイスの攻撃の攻略を考えるカイト。
(集中だ、、何か攻略の糸口があるはず、一つ一つ師匠の動きに注目しろ!)
「危ない!避けて!」
少し遠い所から突然セニカの大声が聞こえたので振り返ると剣が飛んできていた。
「まっ!」
気付いた時には目の前まで来ていたので、避けようとするも、間に合わない。
バキィン!
すると後ろにいたはずのヴァイスがカイトの目の前に現れ、飛んできた剣を斬り壊した。
「悪い悪い、怪我はないかカイト?」
シェインが慌てた様子でカイトの方へ駆け寄る。
「すまないカイト、シェインが最近シエルに異能の譲渡を行ってな、コントロールがうまく掴めなくなってきているのだ」
「そうだったんですね、俺は大丈夫ですので続けましょう」
「あぁ」
引き続き訓練を始めるも結局この日は何も掴める事が出来なかったカイト。
この日の晩は、カイトが予め買っておいた食料で、自慢の手料理を披露し、絶賛を受けた。
そして2日目、今日はシェインがカイトの相手をする事となった。
「まずは一本目だ」
シュインッ! キンッ シュインッ! キン!キン!
シュンッ
バキィン!
カイトは自在に飛翔する一本の剣を何とか受け止め、破壊する。
「よし、では次だ」
シェインは二本の剣を宙に浮かせ、カイトに放つ。
ガキィン!
二本の剣が同時に降り下され、剣を横に構えガードするカイト。
(重っ!)
シェインの放った剣の重みが徐々に強くなっていくのを感じ、すぐさま前にステップし、何とか逃れも、二本の剣は既に次の動作に入っている。
カイトが鍔迫り合いから逃れた事によって地面に突き刺さりそうになった剣は90度にカクンと曲がり、地面すれすれに真っ直ぐカイトの方向へ飛んでいく。
(目の前のは絶対に囮、わざと釣られておびきだすしかない)
ダァンッ
カイトは地面を蹴り上空に飛ぶ。
シュインッ!
すると先程消えた剣が空中のカイトの真上から振り下ろされると同時に、地面すれすれを飛翔していた剣もカイトの元まで放たれていた。
(ここだ!)
『風円斬』
空円斬に風の魔力を纏わせ回転力を上げた技で、二本の剣を同時に叩き壊すつもりだったが、タイミングが合わなく、真上の一本だけが破壊され、もう一本は速度を上げ、カイトの方へ飛翔する。
天歩を使うには少し体制が悪く、使う前に剣が先に到達する。
咄嗟の判断で、カイトは右手から風魔法を大出力で放ち、剣が当たる前に横に大きずれる事に成功し、着地するも納得のいかない表情のカイト。
「んん〜、魔法使っちまったー!」
「今のお前ならあの方法しか無かっただろうな、悪くないと思ったがそれほど魔法を使わざる負えなかったのが気にくわなかったのか?」
「はい、、出来るだけ魔法に頼らないで行こうかと思いまして」
「確かに魔法は便利で戦闘においては必須だが、更なる強さを手に入れるにはその便利さは時として邪魔になる事に気が付いた様だな」
「そうです、不便な状態でまともに戦えないと自分の為にならないと思ったので」
「その歳でそこに着目出来る奴は多くはない、私はヴァイスと命懸けの戦いを繰り広げていた最中に気が付いたからな」
「そうなんですね、てっきりみんなもっと早めに気が付いているものだと思ってました」
「ハハッ、カイト、お前は自分では気が付いていないと思うがかなりの速度で成長しているぞ?工夫の仕方やその発想は天性の物だ、大事にするんだ、焦らなくてもお前は着実に猛スピードで私達に近づいていっている」
「ありがとうございます!今日はせめて三本は身体強化だけで凌いで見せます!」
「ではそれが出来ればこれからは半分の加減まで引き上げて修行してやる」
「おぉ!それは何がなんでも凌いで見せますよ!」
シェインの半分の力加減での訓練を掛けて再び操剣を凌ぐ修行が始まる。
場所は変わり、カイトがいつも秘密の特訓で使っている森の中でルフトが目を瞑り佇んでいる。
ブゥンッ
ブゥンッ
高速で何かがルフトの周りを飛翔する。
ブゥンッ
ガァン!
「っし!」
飛翔していたのは頭大の石だった。それを寸分の狂いもなく槍で破砕する。
ガサガサッ
「遂に3回目で捉える事が出来たな」
茂みの中から現れたのは、大陸最強のギルド黎明の劔のメンバーの1人ソーマだった。
「はい!ソーマさんに教えてもらった風の音を感じるってのが何とかく掴めました」
「その調子だ、経験済みだと思うが戦闘では常に本命の攻撃の隙を狙う為に相手は色んな技を駆使して崩れた所を狙ってくる。お前に教えた技はその本命を感じ取る事が出来る様になる最初の一歩だ」
今している技の説明をした後、ソーマが何やら思い出す。
「そういえば学園から自分の適性魔法は聞かされてるか?」
「はい、風属性す」
「なるほど、、だったらこの技との相性はバッチリだな」
「どういうことっすか?」
「風属性の適性には他の属性にはない特性みたいなのがあるんだ」
「特性?」
「あぁ、それは風属性適性の人間はみんな揃って感知能力が優れている事だ」
「へぇ〜、それは授業でも教えてもらえなかったすね」
「最初は目を閉じて動きを捉えられるようにして、慣れれば本物と偽物の感知、そして最終的には相手の攻撃の初動を感知できるようなれば問題ない」
「死角がなくなって、相手の手鼻を挫けるようになるって事ですね」
「わかりやすく言えばな、そこまで行くのに俺は4年かかった、それもギルドに入る前に命懸けの戦いを毎日繰り広げて自然に身についた物だ」
「4年って滅茶苦茶かかるじゃないっすか」
「安心しろ、それを俺が工夫して出来るだけ早く、1年以内に極めさせてやるから」
「さすがソーマさん!頼もしいっす!」
また場所は変わり、竜の装飾が所々装飾された大きな屋敷の広間にて。
「姉貴ー!遊べよ俺とー!」
「もー!今から修行しに行くから大人しくしときなさい!」
屋敷の中にある大きな広間で、ラゼッタと弟のリフトが口論になっている。
「どうしたのですかお嬢様?」
「メイさんちょうどいい所に!今からパパと稽古があるからリヒトを何処かへ連れて行ってほしいの」
「左様ですか、リヒト坊っちゃま行きますよ」
「ちょっ!離せよババァ!」
強引にリヒトを抱え上げ連れて行くのは、スレイニル家屋敷のメイド長のメイ、昔孤児で戦場を彷徨っていた所をラゼッタの祖父に引き取られ、今では屋敷のメイド長を務めていて、ラゼッタの父曰く、滅茶苦茶強いらしい。
「あら、お年寄りに対しての口の利き方がなっておりませんわね坊っちゃま、私が直々に言葉遣いを御教えしなければいけませんわね」
ニッコリとリヒトに向かって微笑むも、ラゼッタにはその笑顔が竜より恐ろしい事を知っている。
「あぁ、、御臨終だねリヒト」
「何言ってんだよ姉貴!」
その後メイに連れて行かれ、そのまま3日間リヒトの姿を見た者はおらず、帰ってきた頃には姉貴ではなくお姉様とラゼッタの事を呼称し、生意気な態度もさっぱりと消え去っていた。
「父さん!今日こそ稽古付き合ってよ!」
ラゼッタが家の外の稽古場で立っている男に話しかけると、ラゼッタの方を振り向き優しく微笑みかける。その人物はスレイニル家現当主、ゼル・スレイニル。ラゼッタとは違い水色の髪をしており、オールバックで額の右端には黒い爪痕がある。
「今日も修行か、偉いねラゼッタは」
「もうすぐ闘技大会があるからね、今度こそは優勝して、この竜紋の力を2割は引き出したいの」
「よし!じゃあ今日こそはライネル君じゃなくてパパが相手してあげるよ」
「本当に!?よっしゃー!」
スタ
スタ
ギィィィィバタンッ
大きな木の扉が軋みながらゆっくりと開かれると、扉の内側から木材の香りが抜けていく。
ガラガラッ
扉の奥にたたずむ古びた屋敷の扉を開け、中で座禅をしている老人にアルベルトが声をかける。
「お久しぶりですお爺様」
「んぅ?アル坊か?父の許可もなくこんな所に来てええのか?」
「孫が祖父に会うのに許可はいりません」
目の前で座禅をしている男性はアルベルトの母方の祖父セグルス。今はアルベルトの父に追いやられ、山奥でひっそりと暮らしている。
「何の用でここに来たんじゃアル坊?」
「もう一度、俺に剣を教えて下さい」
「そうか、教えてやりたいんじゃがのぉ、、老い先がもうそこまで長くない、今では剣もまともに握れんのじゃ」
「そこを何とかお願いしますお爺様」
頭を下げ、再びお願いする。
「はぁ、、仕方ないの、それじゃあ口頭のみでの説明になるがいいか?それをいかにアル坊が忠実に再現できるかにかかっておるがそれでもいいのかえ?」
「はい、剣鬼と謳われたお爺様です、口頭のみでの説明でも充分でございます」
「、、よし、それじゃあまずは剣を握って構えてみせい」
剣を構えるアルベルト。
セグルスはアルベルトの構えを体ごと振り返り見るも、ため息をつく。
「はぁ、、これじゃあまだまだ先が思いやられるのぉ」
場面は戻り、ヴァイスとセニカの稽古。
キィン!!
セニカの突きをヴァイスが受け止める。
シュインシュイン!
ヴァイスの背後から二本の魔法剣がヴァイスに勢いよく向かって襲いかかる。
バキィン!!
その二本の魔法剣を振り向きもせずに、タイミングよく当たる寸前に体を捻らせながら斬り落とす。
『星回不天』
ヴァイスが体を後ろに捻らせた瞬間に、セニカがヴァイスに近づき、右腕を上げ、高速に回転する五つの魔法剣をヴァイスに放つ。
ヴァイスは口角を上げ体を捻らせた勢いを殺さず、更に加速させ、そのまま放たれた魔法剣を正面から叩き壊そうとするが、ヴァイスの剣と魔法剣が触れ合う瞬間、魔法剣が消滅し、セニカがヴァイスの背後に魔法剣を二本生成し回り込む。
『三ノ劔・八十八夜』
しかしあと一歩のところでヴァイスがギリギリ体を捻らせ剣を払い魔法剣を斬るが、セニカは咄嗟の判断で剣を後ろに引き再び、刺突攻撃を繰り広げる。
『黒閃』
ピタッ
「はぁ、、、はぁ、、」
セニカの剣先はヴァイスの胸の手前で止まっている。
「見事な切り替えだ、よくやったな」
「、、はぁ、、って事は、、」
「一本取られたぞ」
「やったぁあああ!!」
すぐさま剣をしまい飛び跳ねて喜ぶセニカ。その喜ぶ声を聞きつけ、カイトとシェインがセニカの元に現れる。
「まさか一本取ったのかセニカ!?」
「えっへへ〜!やったよカイト!」
「うわ〜!マジかー!流石セニカだわ〜!悔しー!」
喜びと悔しさが混じりつつもセニカを称賛するカイト。
「一本取られる前、一瞬だけセニカとあの頃のお前が重なって見えてな、何故か見惚れてしまった」
「ふんっ、教え子に一本取られるとはまだまだ修行が足りないんじゃないのか?」
「お前もその内取られる筈だ」
「まぁ先ほどからカイトの剣捌きが上手くなってきているのは確かだが、私は卒業までは一本も取らせんつもりだぞ?」
「え?今なんか言いましたシェインさん」
「ん?私が何か言ったか?」
「とぼけないで下さいよ〜俺に一本も取らせるつもりもないってどういうことすかー」
「聞こえてたのか、まぁそういう事だ」
「んぬぬ〜、、こうなったら意地でも一本取ってやる、、セニカに先を越されたし、覚えておけよダブル師匠〜」
こうして各自闘技大会に向ける者もいれば、自分と再び向き合い、一から強くなる事を選び、次の学年生に向けて準備を進める者もいる中、時は経ち1ヶ月後、今年最後の闘技大会が開幕する。




