第2章 再契約
風に吹かれ靡く木々から漏れる隙間風の音に心を静かに落ち着かせる。
パキ
時々聞こえる落ち葉に隠れていたであろう木の枝を踏み折る音が耳を打ちつけることで、再び緊張の糸が紡ぎ直される。
ザザッ
距離は僅か数メートル、位置は座禅を組んでいる自身の背後。
徐々に距離を詰めてくるその存在の放つ隠しきれていない圧というべきか、ひしひしと伝わってくる何かに対し、カイトはギリギリまで何もせず、その存在が自身の体に触れかける瞬間を待つ...
シュンッ
「うわっ!ぶむっ」
走ったままの勢いで両手を開きながら衝突しようとしたが、目の前の人物が突如一瞬にして消え、次の瞬間両頬が何かに圧迫され、同時に作戦が失敗した事に気がつき眉を顰める。
「こらーエリーゼ、にーにの修行を邪魔しにきたのかー?」
「むにむにしないでにーに、せっかくじゃましよーとしたのにー」
「あっさり邪魔した事を認めた上に不服そうなその態度...そんな悪い子はにーにが喰ってやる!バウバウッ!」
「キャッハハ!くすぐったいよにーに!キャッハハハハハ!」
そんないつもと変わらない妹のイタズラにお仕置きと称した妹への愛情表現に夢中になっている最中、もう1つの足音がエリーゼとは違い、ゆっくりとこちら側に近づいてきている事に気がつく。
「もうーエリーゼったらママを置いて1人で行っちゃうなんて」
「キャッハハ!!ママー!たべられちゃうよーたすけてー!」
「グルルルル...今日はここまでにしといてやるかぁ、今日もお弁当届けにありがとうございますぅ母上様」
「ちゃんと残さず食べてよね!ほらもうお弁当届けたし行くわよエリーゼ、今日はママのお料理をお勉強したいんでしょ?」
「はーい!じゃあねにーに、よるはアルちゃんとアッシュとあそぶおやくそくしてるから、ぜったいにかえってね!」
「はいはーい」
((そんな約束した覚えねぇぞ俺様は...))
こうしてエリーゼとカミラが弁当を届けてくれた事で、魔力感知の修行にひと息つく事ができたので、昼休憩にするカイト。
園外訓練から1週間後、カイトはいつもの家の近くにある森の中で1人魔力感知の修行を行っていた。
「にしてもやる事いっぱいだな〜!」
シュインッ
そんなカイトの愚痴に応えるように、肩の契約印からアッシュが現れる。
『闘気、魔力感知、魔力吸収、精霊術、光魔法...ぐらいか?』
「まぁ目下それらをどうにかしたいってとこだけど...元々ファミル先生には精霊術を先にやってから魔力吸収って言われたけど、今のところ精霊術は何回試してもパッと来なかったし、自分的に見えてる致命的な課題は魔力感知だと思ってるし、魔力吸収はできれば全体的な能力の向上に繋がるしな〜、闘気は魔力がなくなった時にめっちゃ便利だし、光魔法かな〜優先度一番低いのは...」
『魔力吸収でいえば一つ気になってたんだが、お前の愛剣には確か貯まった魔力を補充する事ができるんだったよな?』
「うん」
『その愛剣から吸い上げる魔力吸収とはちげぇのか?』
「それは俺も気になった事があったけど、俺の体感で言うと愛剣の魔力吸収の時は『刀』という媒体を通じて手と魔力が接してるから魔力を感じやすい、だから自然と魔力を吸い上げるだけでいいって感じだけど、大気からとかだと一気にそれが抽象的な感じになって魔力の存在を捉えにくくなるから吸い上げにくくなるんだなこれが...」
『魔力が感じにくいってのはお前が異世界から来たことと関係はありそうだけどな』
「関係あるかそれ?んー、でもまぁでも確かに前世では【魔力はないもの】として20年間生きてきて、そこで形成された既成概念の所為で魔力が感じにくいってのはあると思うけど、魔力の存在自体はなん度も戦闘中に感じた事があんのに、どうしてそれが何も無い状況の時は逆に感じられなくなるのかがわからんのよなー」
『不便なもんだな転生者って奴も』
「まぁとりあえずその話は置いといて精霊術に関して1個考えてたんだが、俺はずっとルフトみたいに精霊と体を1つにするもんだと思ってたが、多分その認識自体が間違ってたんだと思うんだよな〜」
『...お前今更それに気が付いたのかよ』
カイトの精霊術に対しての新たな気づきについてアッシュは苦虫を噛み潰した後のような顔で、カイトをジト目で睨みつけた。
「は?もしかしてお前は最初から知ってたっていうか気付いてたのか?」
『逆に今まで気付いてねぇ方がおかしいだろ?セニカは魔法剣と同化させてんだからその時点で多種多様なもんだって普通は考えんだろ』
「...まぁ俺も万能な人間じゃないってことが証明されたってことで話を戻すけど、もっと自由に発想を巡らせて考えていいんだったら精霊術、つまり精霊と心を一つにして同化する術は同化が目的であってそれするに当たっての前提はなんでもいいもんだと俺は考えた。そして行き着いた先に出した答えは...」
『...何だよ、早く言いやがれ』
もったいぶって何も言わないカイトの視線が、アッシュの目から徐々に下へと移動し、腰掛けられた3つの喜び、怒り、哀みを表したような表情のお面で止まった。
「それってさ、たまにお前が付けてるけど、なんなの?ずーっと気になってたんだけど」
『これは...まぁ俺様のー...わかりやすくいえば全てだ、今の俺様を形作ったと言っても過言じゃねぇ3つの大事なもんって感じだな...多分』
最後は記憶が完全に回復していない状態なのか、朧げな喋り方になるも、3つのお面を触りながら喋るアッシュの表情とその声質から色んな感情が伺えたカイトは、まるでこれだと言わんばかりに目を見開き、指を指した。
「それだ!お前にとって縁があるそのお面に変身してもらって、俺がそれを顔に嵌めることによってその間俺達が同化してる形にしよう!んで問題の...」
『おいおい先に進むんじゃねぇ、そんな簡単に言ってっけど、俺様が面になるだと?お前なんだ俺が道具に変身できる能力があるとでも思ってんのか?』
「んーーーーー、そうかー、物に宿る事くらいだもんな....あ!お面になれないは分かるけど、自分のお面に宿る事はどうだ!?変身じゃなくてそのお面に『宿る』だ!」
『...それだったらあながちいけそうな雰囲気はありそうだが、一回試してみるか?』
「おうおう頼む頼む!」
食い気味のカイトに少しばかり気が乗らない様子のアッシュは言われるがまま自身の3つのお面を両手に乗せ、静かに目を閉じた。
ブワァン...
スゥッ
目を閉じて少しすると、アッシュの身体だけが光だし、光体となったアッシュをまるで掃除機の様にお面が吸い込み、やがて喜・怒・哀どの表情でもない、安らかに目を閉じている表情だけの1枚のお面となり、地面へ落ちた。
「え、成功??」
『...』
アッシュから念話もなく、お面に近づき手に取るカイト。
(なんだこれ、寝てる表情か?)
何となしにそのお面を被るカイト。
「真っ暗で何も見えねぇ...っ!」
直後後頭部を引っ張られたかの様な感覚に落ち入り、後ろに倒れながら意識が遠のいていった。
...
......
........「んぅ」
意識が戻るというより、眠った状態から起きるように身体を起こし、なぜか全身の筋肉が僅かに痛んでおり、色々な思考が頭を駆け巡る中、なぜ自分がここにいて、どう言った経緯でここにいるのかを思い出そうとする。
「...そうだ、お面を被ってそっから意識がなくなって...って何だこれ」
俯きながら一つ一つ記憶を整理していきながら、頭を上げ周りを見渡そうとした時、意識が無くなる前の景色と今見ている景色との差に驚くカイト。
周りの木々はまるで木の幹からちぎれたものから、根っこがあらわになりながら倒れているものと周りの木々の殆どが見るも無惨な状態で破壊されており、そして驚いたのは自身の背後の景色に存在していたはずの幅5メートル程までにみっしり生えていた木々がまるで何かが通った後のように一直線に破壊されていた。
そして起きてから右手で何かを持っている感覚に意識が向き、見てみると目を閉じた表情のお面を右手に持っていた。
「おいアッシュ...」
((おい!))
((うがぁっ!ちっ、人が気持ちよく寝ている時にうるせぇんだよ!))
((お前直前までの記憶あるか!?周りを見てみろ!))
((あぁ?あー、確かお面に意識を集中して....そっからはー...ねぇな))
「ねぇなじゃなくて見てみろこの景色、俺らが意識を失ってる間に多分俺らが起こしたもんだ」
((...嘘だろ?何も覚えてねぇのかお前?))
「何一つ覚えてねぇよ...面をつけて意識がなくなって、そっから起きたらもうこれだ」
((...おかしいな、俺様でもなくお前でもなければ誰かが乗り移った可能性か?それとも自我だけが失った状態で...))
「ひとまずこれはもう何が起こるかわかんないもんって事だけは分かったし、明日ファミル先生の授業で見てもらおう」
((にしても随分と派手に暴れやがったな、お前がやったんだから片付けとけよ、んじゃあ俺様は昼寝の続きでもすっか〜))
「おいっ!お前そう言う時だけ...はぁ、これだけの大木をどうやって、燃やしたら町の自警団に捕まるし、まぁ一応片付けるだけ片付けよう」
試作精霊術の暴走によって破壊され尽くした森に散らばった木々を一箇所に集めるだけ集めたあと、思いつきでドーム城の岩魔法で木々を囲い、ドーム状の岩の中に炎を生成し、煙は全て闘気で隙間なく囲い、やがて木々が塵になった後、夜まで待ってから風魔法で一気に黒煙を放出する事で自警団にバレず木々を燃やしたカイト。
「塵は地面に適当にバレないように埋めれば....よしっ!っとこんなもんかな」
((見事なまでの証拠隠滅だな))
「こんなのはバレなきゃいいんだよ」
シュッ
証拠の隠滅からすぐにテレポートで家の前まで移動し、そこからいつもと変わらない1日の終わりを迎え、次の日。
カイトは剣術訓練を終えると真っ先にファミルのいる教室へと走って向かった。
「わお、カイト君今日は早いわねぇ」
「お!今日は珍しくレイゼンさんより早いですねファミル先生!」
「今日は里のお仕事を他の人に任せて、急いで来たのよぉ、それより」
相変わらずの艶美な雰囲気と、魔性を感じさせる語尾に危うく本題を忘れ、世間話をしそうになるもなんとか早く来た目的を思い出し、早速本題に入るカイト。
「...なるほどぉ、新しい精霊術を試そうとして、お面を被った途端記憶が無くなったのねぇ」
「そうなんですよ...だから装着した途端から自分の身に何が起きてるのか分からないんで、ファミル先生に分析して欲しいと思ったんです!ファミル先生だったら強いし、周りに被害を出さずとも俺の事くらい制圧できると思うので!」
「それじゃあ早速見せて貰おうかしらぁ、悪い子のカイト君を」
直後予備動作も何もしていないのにも関わらず周りの景色が一変し、白い空間へと変化した。
「一応聞いとくんですけど、ここなら暴れてしまっても大丈夫なんですよね?」
「えぇ、何をしても誰にもバレないわよぉ」
含みのある笑みを浮かべるファミルに対し、少し不安げな表情でアッシュを呼び出し、先日と同様の手順でお面へと変身してもらい、ゆっくりと顔に近付ける。
「一応離れた方が」
「大丈夫よ、先生を信じなさい」
直前のおちゃらけた雰囲気から、カイトの不安そうな様子を見て、いつもの頼り甲斐のある先生の顔に変わるファミルに対し、息を整える。
「ふぅ...行きます!」
(今回は俺の方でも意識を失わないよ..う....n)
視界が狭まり、白一色の世界から黒一色の世界へと意識が落ちていくカイト。
「ん?雰囲気が変わったわねぇ、起きてるかしら?カイト君?悪戯しちゃうzっ!」
バキィン!
お面をつけたまま静止したカイトに、目の前にいたファミルは魔力も何も感じなくなったカイトの顔を無警戒に覗き込もうとしたその瞬間、目の前の空間にヒビが入った。
「あら、いきなり攻撃してくるなんて可愛げがないわね」
空間ではなく、予め展開していた2重防壁魔法が砕かれた事に驚きもせずに、唇に下を這わせて戦闘体制に入るファミル。
「見たところ魔力を感じないのが不思議ね、言葉は喋れるのかしら?」
ドォンッ!
太ももから足部位を形作った闘気がファミルを踏み潰すも、そこから少しズレた位置からカイトに歩みかかる。
スッ
「三、いや四ね」
瞬時に目の前から消え、次の瞬間には背後からファミルの首元を狙った蹴りが放たれるも、ファミルはしっかりとカイトを捕捉したのち、四重に防壁魔法を首元のみに展開する。
バキィキィキィ
ブゥンッ
「どれも命を取りに来る攻撃....うーんカイト君からだったら嬉しいのだけどねぇ」
パシッ
しっかりと4つ目の防壁でしっかりと勢いが止まるも、今度は軸足を捻ることで360度回転した踵蹴りを放つが片手で止められる。
「それ以上暴れると、やさしくできなくなっちゃうでしょ?」
掴んだカイトの足首を力強く握ると同時に魔力の一部を技と出して威圧感を与えるファミル。
ブォワァッ
「やん!そこまで拒絶されると悲しいわ」
一瞬放ったファミルの威圧感に本能が危機を察知したのか、急いでるそぶりはないがその様に動いているように見える速度で掴まれた足首とファミルの手の間に闘気を生成し一気に風船のように膨らまして、ファミルから距離を取るカイト。
「なるほどね、精霊との同調率が100%、いきなりそこまでの深さで同調しちゃうと流石に自我も持っていかれるわ...実験はした事ないけどクハンの言ってた事は実証されたわねぇ、ふふっ」
ブゥンッ
掴んだ足首に魔力を流し、相手の魔力の状態を探る無属性魔法でカイトの体に流れているカイト自身の白色と無色の魔力と、アッシュの無色の魔力が殆ど融合した状態の無色の魔力色になっている事に気づき、同時にクハンの仮説が立証された事に悪い笑みを浮かべている所、突如視界が淡い光で覆われている事に気がつくファミル。
シュッ
ブゥンッ
テレポートで即座に脱するも、テレポートした先には既に円形の闘気で囲われており、そんな脱出しては捕まりを3回ほど、ファミルが様子見で行っていると、4回目のイタチごっこで今度はテレポートでファミルのテレポート先にカイトが待ち伏せており、そのまま頭上より上に掲げた右足を振り下ろす。
「先回りをしたって事は苦手な魔力感知ができるようになったのかしらぁ?」
『エアスマッシュ』
振り下ろされた脚とファミルが接触する寸前、右手に生成した風属性の魔力を纏った球体をカイトが振り下ろしている脚とは逆の脚に投げ、それが脚と接触した途端、衝撃が生じ、身体が縦に回転した事で、当初振り下ろす筈だった地点より少し手前に踵を振り下ろす羽目になり、振り下ろされたカイトの踵はファミルの鼻先ギリギリを通り過ぎた。
そしてそのままの勢いで足の次に今度はカイトの顔がファミルの目の前に通り過ぎようとした所を止めて、両手を優しくお面越しではあるが両頬にそっと当てるファミル。
「お面からは魔力は感じ取れないしねぇ、精神阻害の類じゃないとすると...」
ブンッ
「ちょっとだけじっとしててねぇ」
両手から重力魔法をカイトの全身に流した後、頬に当てていた両手を頬から肩にスライドさせ、そのまま肩から下を一瞬にして氷漬けにするファミル。
「お願いだからじっとしててねぇ」
再び両手を頬に当て、今度は目を閉じて集中するファミル。
(お面からは異常な魔力は何も感じない...カイト君の全身の魔力系統にも支障は何も生じてないし...だとすれば考えられるのは精霊術を発動した際の精霊との魂による共鳴に問題があると仮定するしかないわね...魂自体が乗っ取られているとすればアレでどうにかなるかしら)
「ちょっと痛いかもしれないけど我慢してねぇ?」
『パージ』
光属性の魂を浄化させる下級魔法の光をカイトに当てる。
(動きが鈍った....って事はさっきの仮説は正しいと考えて)
今度は氷越しでカイトの胸の位置に手を当て光属性の魔力をカイトの全身に流し込む。
『エクソシスム』
ブァッ....シュゥゥゥ
次の瞬間、カイトの全身が発光し始めると同時に、お面からは黒い煙が上がりはじめ、煙が消えるとお面もまた消え目を閉じた状態のカイトの顔が露わになった。
「あら、これだと解除しちゃうのねぇ」
ドサッ
氷を光へと四散させ、重力魔法も解除し、ゆっくり落ちてくるカイトを受け止める。
「うぅ...先生」
「もう起きたのぉ?こう言う機会は滅多にないからもう少しこうしてていいのよぉ?」
「....んふー、何があったか全然記憶が無いですけど、ありがとうございます....っし!」
力が入らなかった足に力を入れて、なんとか体を全部預け切る前に踏ん張り、心地よいファミルのふた房の柔らかくて人をダメにする極楽浄土から一旦離れるカイト。
(んぅ...あのままだと鼻血が出るとこだったぜ...)
「それで...どうでしたか?まぁ周りを見る限り暴れたのは分かりましたけど、怪我とか大丈夫ですか?」
「見ての通り大丈夫よぉ」
無傷のファミルを見てホッとする気持ちもあるが、少しだけ無傷だという結果に対して同時に実力の差を痛感するカイト。
「結果から言うとカイト君は魂を乗っ取られている状態ね」
ファミルの言葉に表情ひとつ変えず、取り敢えず診断結果を引き続き聞く。
「精霊術は精霊と契約者の魂を同化させる術だって話は前したと思うのだけれど、この同化の仮定でどちらか一方の力が強すぎたり、精霊側の意識が強すぎると、普通は不発だったり失敗に終わってしまうの」
「...その普通に今回は当てはまらなかったと言う事ですね」
「そうね、精霊側と契約者側で50:50の比率を維持したり、精霊の種類やいろんな場合によっては60:40の比率で同化したりする場合もあってそこは多種多様なのだけれども、カイト君に同化中の記憶喪失や無意識の症状が見られるから、これに関しては先程の比率で例えると100:0でアッシュ君側が100になるのが普通なんだけど、聞いた話だとアッシュ君の記憶も消えてるから第三者の介入があるって考え推理が浮上してもおかしくはない...」
「え...第三者って怖っ!!」
「もしくはアッシュ君の無意識にカイト君が呑み込まれている可能性も候補には上がってくるかもしれないわね」
「それってなんでですか?アイツにそんな...」
(いや前世が前世でよく分かんねー死に切れない奴だから有り得るっちゃ有り得るのか?いや、でもなんの無意識が俺の意識を乗っ取って...)
「何か思い当たった節でもあるのかしらぁ?」
気がつくと俯いて考え込んでいたカイトの顔を覗いてきたファミルに、意識が戻り改めて解決策になり得る情報を聞くことにする。
「先生、まぁ今は言えないですけどアッシュの無意識に俺が乗っ取られている方向で仮定した場合、何かそれを防ぐ術ってありますか?」
カイトの質問に今度はファミルが俯きながら少し考え、何か思い当たったのか、目を見開きながらカイトに近寄り胸の辺りに手を当てて魔力をカイトの全身に流し始めた。
『ソウルプロテクト』
「うぉっ...あったかけー」
「光属性の上級魔法ソウルプロテクト、ゴースト種の魔物意外に使う場面はあまりないのだけど一応魂を乗っ取ってくる攻撃から身を守る魔法なんだけど、これでどうかしらぁ?」
「へぇ〜そんな魔法もあるんですね!一応聞いとくんですけど、魔力感知ができないと難しい魔法ですか?」
「体に纏わせる魔法だから必要はないわよぉ」
「よしっ!それじゃあこれが効果的であれば今日はこの魔法教えてください!」
「ふふっ、まずは試して大丈夫かどうかを見てみましょ」
それからアッシュは再びお面の姿でカイトの両手の上に出現し、それをカイトが再び身に付ける。
「どうかしらぁ?」
スッ
キィンッ!
仮面を付けたカイトの様子を見ようと一歩踏み出した途端、闘気を纏ったカイトの拳がファミルの顔を捉え掛けるも、落ち着いたファミルは片手でカイトの拳を迎え、そして2人の手が接触した途端カイトの全身が一瞬にして氷漬けにされた。
「ダメだったかぁ」
シュッ
そうため息混じりに言葉を吐きながら、氷漬けになっているカイトの顔を人差し指でフリックすると、氷の中で見事に身に付けていたお面だけが横に真っ二つとなり、同時にカイトを閉じ込めていた氷も魔力の光となった。
「...んんっ、失敗でしたか」
「えぇ、でもまだやりようは幾らでもあるわ、少し休憩しましょ、もうすぐ授業も始まるし、続きはまた授業でね」
再びファミルへと体を預ける形で目を覚まし、それからカイトは授業が始まるまで教室で待つ事にした。
ガラガラ
「やぁ〜!午前の訓練しんどかったー!」
「もぉ、動けない...誰か..たすけ..て」
授業開始10分前、教室の扉を開けるなり、元気そうな見た目とは逆の言葉を口にしながら入るラゼッタと今にも干からびて死にそうな表情のルフト。
「遅刻常習犯が10分前行動って明日は学校に竜でも降ってくんのかー?」
「えぇ〜、今回はあたしが最初に来てみんなを驚かそうと思ってたのにー!」
「あれ?セニカちゃんは?カイト?」
「今日は先生に聞きたいことあったから訓練が終わってすぐに1人で来た」
振り向きざまに挨拶がわりの軽いブラックジョークを放つカイトに驚くルフトと、一番乗りを逃して少ししょんぼりするラゼッタ。
そこにちょうどお手洗いから帰ってきたファミルと教室に戻る途中で合致したスカーレットが教室へと入ってきた。
「先生おはようございま〜す!」
「おはようラゼッタちゃん、ルフト君」
「おはようみんな」
「今日も一段と美しゅうございますねファミル先生っ!」
ズシッ
「ったた...おはようスカーレット」
「...あらラゼッタ?しょんぼりしてどうしたの?」
いつものようにファミルに対して隙あらば口説くルフトに対し、無言で足を踏みつけながら前を素通しつつ、珍しく落ち込んでいるラゼッタに声をかけるスカーレット。
「あたしの初めてをカイトが...」
「へっ?おいラゼッタ?その言い方だと結構誤解...が...」
カイトが事情を説明しようとしたその瞬間、背中から凍てつく様な気配を感じ、全身に悪寒が走り、恐る恐る振り向くと、無表情に指の骨を鳴らして近づいてくるセニカがそこには立っていた。
「足早に何処かに行ったと思ったら、ラゼッタのはじめてをなんですって?」
「おい...落ち着けって、そんな事する訳がないって分かってんだろ?」
立ち上がり後退りをするカイトに近づき、やがて背中に壁がぶつかり逃げ場を無くしたカイト。
「自分で言ってたよね?『浮気は絶対にしない、俺のアレに賭けて誓う』って?賭けには負けたからほら?出すもん出さないと?」
「お、おい!ルフト!こういう場合ってどうすればいいんだ!」
「ひぃぃぃぃぃ!!セニカちゃんがカイトのアレを斬り落とそうと!」
目を閉じて机の下に隠れるルフトに、周りを見渡すもセニカの後ろに悪どい笑みを浮かべるラゼッタと、追い詰められているカイトを見て楽しそうに微笑んでいるファミルを見て、諦める様に目を閉じながら、ほんの少しばかりの抵抗として大事な宝が入った包み袋をキュッとさせる。
そしていよいよ鼻と鼻が触れ合うギリギリまでセニカが来たにを感じたその時...
トンッ
「冗談もその辺で勘弁してあげなさいセニカ」
手にしていた本の背をセニカの頭上に置いてスカーレットが止めに入ると、セニカの足が止まり、次の瞬間無表情から徐々に堪えきれなくなったのか、突如笑を吹き出し始めるセニカ。
「ハハハッ、冗談なのに驚きすぎだよもうー!」
「うぅっ、マジで寿命が縮んだし、アレも縮んだと思う...」
「セニカちゃんもいつの間にあんな怖い冗談を言う様になったんだ?にしてもあの顔...カミラおばさんソックリだったな...」
笑うセニカに対し、冷や汗を額に浮かべながら包み袋の力みを解きながら両手で優しく包み込み緊張を緩和させるカイトと、机の下から目だけを出しながらどこか見覚えのある人物とセニカを重ね合わせ、体を震わせるルフト。
それからいつもの様に談話しながら、授業の時間が来るのを待っていると、突如ハッとした表情になるラゼッタ。
「そういえばシエルちゃんは?」
「ほんとだ、そういえばいつもは1番誰より早く来てんのに今日は珍しく遅いな」
「何かあったのかしらぁ?」
いつもは1番に教室で待機しているシエルに一同はいつもの様に居るものだと勘違いしていた事に今更気が付きくと、何故か全員揃って教室の入り口を振り向く。
すると突然静かにした事で気付かなかった慌てた様子の足音が徐々に大きくなっていき、やがて入口の扉の前まで来ると音は止み、「ふぅ」と小さい声で呼吸を整えたのが聞こえた後、入口の扉が開かれた。
「皆さん今日は少しおっ...え?...もしかして遅れました?」
呼吸だけ整えたのか、走った後だとすぐに気付ける程に前髪が入り乱れた状態で、入室一番に放ったその言葉に目線を向けていた全員が突如笑い始める。
「ドタドタドタッって走って来てたよな、ハハッ」
「ハハハハッ、シエルちゃん前髪前髪!」
「ほんといつも元気だよなシエルちゃんは」
直前の出来事を振り返りながら笑うカイトに、笑いながらシエルの乱れた前髪を直しに向かうセニカに、1人だけ優しく見守る様な笑みでシエルを見ているルフト。
そんな直前の自身の慌て様と、それを気付かれない為に整えた呼吸も全て聞かれていた事に噴火寸前の火山の様に顔を紅潮させるシエル。
そして運がいいと言うべきか、誰かからイジられる前にタイミングよく授業開始の鈴が鳴り響き、一同は席についていつもと変わらないファミルの分身魔法による、魔法訓練を開始した。
そして教室とは別空間にカイトと消えるファミル達は、引き続き精霊術を使う事で起きる意識の喪失について調査した。
「それじゃあ先程言いそびれていた、幾つかの解決策の内1番有効そうな手段から取っていきましょう、まずはアッシュ君にも出て来てもらって」
ファミルの言葉に反応して、カイトが意識するより早くアッシュは自分から姿を現した。
『早くしろよ?』
出てくるなり欠伸をかましながら、気だるそうに出て来たアッシュに対し、少しばかり頭に来るものもあったが、一旦今は抑え込みファミルの次の指示を待つ事にする。
「やる事は簡単、精霊との契約を上書きするのよ、んー名目はどうしようかしら?」
「契約の上書きですか?」
「そうよぉ、契約に条件を追加してそれを上書きするの、本来なら精霊との関係性がうまくいかない場合だったり、契約者を傷付けてしまう精霊や言うことを聞かない精霊に対して行う事が多いのだけれど、大抵精霊の問題に関してはこれで概ね解決することが多いわ」
契約の上書きと精霊術との結び付きが思いつかず、頭を?で満たしたカイトにファミルが説明する事で、少しは結びつきが見えるも、まだ完全には理解しきれていない様子のカイトにファミルが説明を付け加える。
「精霊と人間との契約の力って誰の手にもよって介入することが出来ないほどに強力な物なの、カイト君が以前アッシュ君の肉体蘇生の所為で契約を一方的に破棄させられかけても結局は破棄できなかったでしょ?わかりやすく言うと精霊と人間は契約した段階から一つの生物になる様な物で、その関係性を引き剥がす事って難しいでしょ?」
「なるほど...一つの生命体になれるほどに強力な力が契約って事ですね?」
「そうよぉ、だからその強力な契約の力を利用して、アッシュ君の中にある無意識がカイト君を意識を乗っ取る事を封じさせる契約をすれば、大丈夫じゃないのかなっていう算段」
「それじゃあやってみましょう...おい!こんなとこで寝てんじゃねぇよこの時限爆弾!先生の前なんだからしっかりしやがれっ」
「それじゃあ2人とも座って、カイト君の両手にアッシュ君の両手を乗せてちょうだい?」
「ほら」
『あいよぅ』
「それじゃあ2人とも意識を集中して意識を統一してみて」
ファミルの指示通り2人は目を閉じて、互いに意識を集中させる。
「んーー....」
『っち!そっちじゃねぇよこっちだ』
(繋がったわね、ふふっ、なんだかんだで仲良しなんだから2人とも)
意識が統一されたのを魔力感知で確認したのち、ファミルは両手でカイトとアッシュの片手を包み込み、同じように意識を集中させ目を閉じる。
「今から再契約を私を通じて行なってもらうけど、2人とも準備はいい?」
「はい」
『あぁ』
「それじゃあカイト君、まずは再契約を遂行する上で、あなたの望む条件を教えて、何を言うべきかは慎重にね」
「うーん、そうですね...じゃあまずは意識を乗っ取るにしても俺の許可が無い場合は無効とする事、それが無意識にせよ、無意識でないにせよ、あ!意識を乗っ取るとかって言ったけど、俺の意識を無くす事も禁止」
「アッシュ君、今カイト君が提示した条件については意義はないかしら?」
『...その前に、これは俺からも何か条件を追加してもいいのか?』
「厳密には禁止ではないけど、お利口さんの精霊が多いから最上位精霊でもなければ、精霊から条件を提示する事は滅多にないわ」
『へっ!だったら俺様はお利口になるつもりもないから俺の条件を聞いてくれりゃあその条件のんでやる』
「なっ!おぉい!お前が掛けてる迷惑で再契約とか言うめんどくさい事をする事になってんだから大人しくそこははい分かりましたって言えやボケェ!」
『あぁん!?俺様じゃなくて、俺様の無意識様がやった事だろぉ!?第一テメェがしょぼい精神力してっから乗っ取られんだよ!』
「俺様“の”って事は結局オメェも関係してんだよ!バーカ!人に精神力弱いって言ってっけどオメェも意識失ってんじゃねーかマヌケ精霊!」
『あーあ!そんな事言っていいんだな!?やーめた!今すぐ目開けちゃおっかなー!?』
「んがぁあああああ!!!!死ねバカクソ精霊!さっさ条件言いやがれや!」
『くっくっく....1日2時間俺様に自由を寄越せ、お前の体ん中もそろそろ飽きて来た頃だし』
「は?そんだけか?」
『あぁ、お前の体は自由に出入り可能だが、戦闘以外だと、一定の距離以上からはオメェかえあ離れなんねー様になってやがっから、それを1日数時間で良いから確保しろ、勿論魔力は俺の体内から消費させっからお前に負担はかけねぇ、それと追加だが授業中は無制限で出させろ以上だ』
「...」
「どうするのぉ?カイト君?」
「支障がきたさない程度にするんだったら了承する」
『へっ!契約成立だ!』
「契約成立ね、はいっ」
ファミルの手から紫色に光る魔力がアッシュとカイトそれぞれの腕を伝って最後に体の中へと潜り込む様に消えていった。
「これってもしさっきの条件を破るとどうなるんですか?」
「まず意識を乗っ取ろうとした段階で、カイト君の意識に何か変化が生じるはずよ、そこでカイト君には先程自分で言った様に意識を乗っ取る際の許可、拒否の選択肢が与えられると思うわ、どう言う感じで出てくるかわわからないから考えるより実践に移したほうが早いわ」
「うぅっ...なんかファミル先生の眼差しが俺のことを実験対象としてみてる様な....」
外見的にはなんの変化もないが、なんとなくソワソワしている様な感じがして、冷静に考えるとファミルにも不確かな部分がある段階で少し実験をしている様な感覚になり、鳥肌が全身を駆け巡る。
「ふふっ、勘のいい子は好きよ」
「やっぱそうだったんだ...」
『ほらさっさと終わらせんぞ』
アッシュに催促され、再びアッシュが慣れた様子でお面に変わる。
「一応ソウルプロテクトもかけておいたからいつでも始められるわよ」
「ふぅ...よしっ!」
一息ついたのち、顔にお面を着けると...
ズンッ
(んぅっ!後頭部が引っ張られる様な感覚っ!)
学校に入学してから幾度となく気絶してきたカイトにとって、気絶寸前の感覚は感じ慣れた内容だったので、自分が意識を失いかけている事に気がつき気を引き締め直す。
「なんか意識が無くなりそうな感覚です先生!」
.....
..........
ファミルに呼びかけるも返事はなく、カイトの声のみが空間内に響き渡る。
「そういえばお面を付けてる圧迫感がない」
顔に付けているはずのお面に触れようと手を伸ばすも、お面の感触はなく、それを通り越したのか顔を触っている感触を手と顔の両方から感じ取る。
「お面がない...でも視界は暗いって事は...別空間に飛ばされたってことか?」
後頭部を引っ張られる様な感覚はもうない事に、もしかするとあの一瞬で意識を今いる地点に移されたと推測しつつ、暗闇内を歩きながら考える。
「無限に続いてそうだし、なんか変な感じだな」
((アッシュ〜、聞こえるか〜?))
アッシュとの念話を試みるも無反応なので、意識を集中しアッシュの位置を探しようとしたその瞬間だった。
ーーっ!
ドスッ!
突如前方から敵意を感じ取り、カイトは反応で両腕をクロスさせると、見事に両腕に殴られた際に生じる衝撃が両腕を走った。
「誰だ!?」
『イルミネイト』
すぐさま光魔法で生成した光の球体を打ち上げ、空間全体を照らし、襲いかかってきた敵意の正体を暴くと、其の者の正体は見慣れた真紅色の髪と、鍛え抜かれた上半身を露わにし、下半身は中国拳法着に、3つのお面を腰にぶら下げたアッシュだった。
(見た目はまんまアッシュだが場所が場所、敵というよりアッシュの中の無意識って考えであってるのか?)
「おい、いきなり何すんだ?ご主人様に手を出していいと言った覚えはねぇぞ?」
*『示せ』
フッ!
一言発したのちその場から消え、次の瞬間にはカイトの懐まで低い姿勢で蹴り上げの動作で現れたアッシュに、拳で迎え打つカイト。
『烈拳』
魔力は込めず、闘気のみで放つカイトの拳とアッシュの闘気を込めた蹴りがぶつかり合った後、衝撃で吹き飛ぶカイト。
『寄手』
スッ
グワッ
吹き飛びながら慣れた動作で、魔力を通した闘気の腕を吹き飛びながらも、アッシュに放つも軽く避けられ、伸ばした闘気の手首の部分を掴まれ、背負い投げのフォームで投げられるも、寸前の所で、トカゲの尻尾のように闘気と腕を切り離し即座に受け身を取る。
ダンッ!
受け身を取った後、間髪入れずに背後に回ってきたアッシュは振り向こうとするカイトの右肩を片手で押さえて振り向きを阻止しながらもう一方の手で左の脇腹からカイトの右肩を持ち、地面に投げ飛ばす。
「ガハッ!っ!」
(反撃する暇もねぇし、武器もねぇ)
地面に投げつけられ、肺の空気が全て逃げていき、息を吐く暇もなく今度はアッシュの踵がカイト視界をものすごいスピードで塞ぎにきたので、それを両手で掴んでガードしながら、剣があればと一瞬だけ思考を巡らせるも、此処が自身の意識だという思考がカイトの希望をすぐさま打ち砕いた。
ーーかと思われたが
踏むつけながらカイトの事を見下ろしていたアッシュの頭上より高い位置から、見慣れた愛剣改め、愛刀が降ってきたのを確認したカイト。
(え!マジ!?)
「どけっ!」
仰向けで倒れている状態で、片足で勢いをつけて、もう片方の足でアッシュに蹴りを入れるも、ガードされるが狙いは攻撃ではなく、意識を一瞬だけ攻撃だと思い込ませる事で、見事に生じた一瞬の隙にテレポートで自分から落ちてくる愛刀を空中で受け止め、魔力を込め刀を振り下ろす。
『千切り星』
頭上から発せられた巨大な斬撃にアッシュは4本の腕を生成し、見事カイトの斬撃を受け止め、最終的には振り払った動作で斬撃を掻き消した。
「ふぅ、やっぱり刀を持ってた方がしっくり来んな〜!」
*『....』
「よ〜くもお前のご主人様をめっためたに殴ってくれやがったな〜?そんなバカ精霊には本気のお仕置きを施してやる!」
カイトの言葉が発せられた後、その場から突如消え、次の瞬間空中で剣と拳がぶつかり合い、第二ラウンドの火蓋が切られた。




