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第2章 示せ


剣と拳が迫り合いを起こす度に分厚い闘気を纏った拳が、徐々にカイトの刀を押し返していく。


僅かに自分が押されている状況に、カイトは咄嗟に力を抜き、勢いのまま前屈みになったアッシュを2度斬りつける。


「くっ!通んねぇ...」


通常なら斬った後、刀身を押し付けながら引くようにして斬るのが刀の斬り方だが、カイトの斬ったアッシュの闘気の感触は、まるで分厚く滑るゴムの様に、斬り込みが吸収され、加えて引いて斬る事はできなかったので、すぐさま思考を切り替え、短距離テレポートで距離を取り、刀を握っている反対の手に刀を闘気で生成する。


『刹界』


着地からすぐさま雷走で駆け出すと共に、勢いを殺さず乗せ切って斬りかかる。


スッ

「うおっ!」

ドォンッ!


そんなカイトの斬り上げと斬り下げから成る連撃は、アッシュに初撃を軽々と躱され、2撃目を放つ間もなく回し蹴りによる反撃を脇腹に喰らい吹き飛ぶ。


グワンッ


吹き飛んでいる最中、頭の中で次の動きを模索していると、突如右足に違和感を感じ目線をやると、闘気の腕で掴まれているのに気が付き、振り解こうとするなんてもってのほか、振り解くという手段を取ろうと脳が思考する間もなく、方向感覚を失う程のスピードで振り回されて、地面に叩きつけられた。


「ふぐっ!急いでうおあっ!」


方向感覚を見失った瞬間に、全ての思考を切り捨て、闘気で全身を分厚くコーティングする事のみに集中し、見事無傷で叩きつけられるも、今度は足を吊るされた状態で更に上から叩きつけられる。


シュンッ

「んぐっ、痛ってぇ」

『ヒール』


『皕輪手』


叩きつけられる寸前、一か八かでテレポートを使いなんとか掴まれた状態から脱する事に成功し、回復魔法で累積してきたダメージを癒する。


しかしそんな隙を与える間も無く無数の放たれる陶器の腕が前方から飛来してくる。


キィンキィンッ!

「くっ!凌いでいるのがやっとだし、ずっと後手に回らされてる!んでそこから後ろだろっ!?」


次々と放たれてくる闘気の腕をいなしながら、戦況を打破できない状況に腹を立てながらも冷静に背後から迫ってきていたアッシュの拳を振り向き様に刀で受け止める。


シュンッ!パシッ

ダダンッ!!


「ぐっふ!」


刀と拳がぶつかり合うも、まるで自身の攻撃がカイトが止める事を予測していたかのように、無駄のない動作と、捉えきれない速度で受け止められた逆の手とその自身の肩部から生成した闘気の腕でカイトの脇腹を殴る。


『刀旋脚』

『漂水』


「ここだぁっ!」

『雷貫』


アッシュの攻撃をモロに喰らい、両膝から体勢が崩れていく中、トドメを刺す勢いで回し蹴りを放つアッシュに対し、カイトは剣に纏わせた水属性の魔力を利用して攻撃をいなし、背中を見せることになったアッシュの心臓の位置に迸る雷光を纏った鋒を突き放つ。


プシュンッ


そんな空気が抜けたような音が空間内に鳴り響くと、胸に穴を開けた状態のアッシュが両膝から倒れていく。


「ふぅ...今のうちに回復しとかねぇと...」


倒れるアッシュから目線を外さないまま脇腹に回復魔法を当てて、出方を伺っているとアッシュの胸に開いた穴が徐々に塞がっていくのが見え、そして最後には何事も無かったかのように立ち上がり、再びカイトを正面に拳を構えた。


「見たところリセットされた感じがするけど、ずっとこれが続くのか?」


ダンッ!


地面を蹴り体を丸めた状態で回転しながら、カイトに向かって落ち、数十センチ近づいたのち丸めた体から一本の右足を伸ばし、回転の力を利用した勢いでそれを振り下ろす。


『雷走』

ズィンッ!

『撫雷』

ズンッ


振り下ろされる前に雷走で背後を取りつつ、背中目掛けて剣を振り払うも、闘気でコーティングされたアッシュの背中に刃は通らず、切り傷も与えられず、なすすべなくステップバックで距離を取る。


(もうこれで斬撃が通らないのはわかった...しっかし一点に集中させるってなるとまた蘇生されるしな)


(やれやれどうしたもんか....)


『天烈脚』

『漂水』


『皕輪手』

ドドドドドドッ


思考を張り巡らせる中、飛来してきた闘気の足に落ち着いて受け流し、前に進もうとした所今度は無数の腕が飛来してくるがジグザグに避けながらアッシュとの距離を詰めていく。


(一か八かに加えて、残酷すぎてやりたくないがやってみるしかねぇ....)


数メートルほど上空に浮遊していたアッシュに飛びかかる形で跳躍する。


『輪圡』


しかし跳躍した先でアッシュの目の前に展開されていた無数の球体となった闘気がカイト目掛けて飛んでいく。


そして球体とカイトの体が触れるようとしたその刹那ーー


シュンッ

『雷貫』


テレポートでアッシュの頭上に瞬間移動し、頭部目掛けて渾身の突きを放つ。


パシッ


しかしそんなカイト奇襲はアッシュの背中から生えた闘気の腕で白刃どりをされ失敗に終わる。


ザスッ

「これはあいつにも見せた事ないから刺さってくれたな」


突如頭上のカイトを見上げるアッシュの背後から雷の魔力を纏った本体であるカイトの貫手がアッシュの腹部を抉った。


『闘砲』


それから腹部を抉った腕に纏っている雷の魔力を解除し、腕の周りに闘気を纏ったのち、風船に空気を送るように魔力を一瞬にして限界まで放出し、圧縮させアッシュの体内で爆発させる。


「ぐあああっ、、痛ってぇ!!」


そんなカイトの騙し討ちは見事アッシュの上半身と下半身を木っ端微塵に切り分け、おまけに即席で思いついた上に、一瞬で成功させないといけない事もあり爆発の調整などができずに自身の腕もボロボロになってしまう。


「頼むから起き上がってくんなよ...」


そうボロボロになった制服から顕になった片腕に回復魔法を与えながら、分けれたアッシュの上半身と下半身を睨みつける。


そして事態はカイトの想像より斜め上を行く事となった。


「....それはねぇよ流石に」


分けられて上半身からは下半身が、下半身からは上半身、つまり2つに分けられた身体からは足りない部分が補われていき、目の前には2体のアッシュがカイトの前に立っていた。


「1体でも手こずってんのに2体ってなると厳しいもんがあんぞ...それに加えて一生再生しやがるし、こっちだって魔力ももう底をーー」


言葉を言い終える直前に、違和感を感じその場で静止するカイト。そんな隙だらけの状態のカイトに2体のアッシュも攻撃を仕掛けに走り出す。


『天烈拳』

『天烈拳』

シュンッ

シュンシュンシュンシュンッ


2体から同時に放たれた拳があたる直前、カイトの姿が消え、次の瞬間無造作に瞬間移動を繰り返し始め、2体のアッシュもなす術なく、ただただカイトの連続瞬間移動が終えるのを待っていた。


瞬間移動を連続で繰り返していく中、普段なら感じる身体の疲れを全く感じる所か、疲れがたまる気配も無く、先ほど感じた違和感の正体に驚きと興奮のあまり口を両手で塞ぎ、その仮説を恐る恐る口にする。


「....え!?もしかして魔力を消費してない...のか!?」


ダンッ


そんな一瞬の隙を見逃さなかった1体のアッシュがカイトに向かって走り出し、殴りかかってきた。


スッ

『ウィンドバースト』


走ってきたアッシュに気が付き、我に帰った所で片手を向ってくるアッシュに向け、全魔力を込めた風の衝撃波を放つ。


ズバァンッ!!!!


「ふぉおおおお!!!なんじゃこの威力!!!」


いつもなら相手を吹き飛ばすレベルの風力だが、アッシュに向けて放ったのは、まるで風に質量が加えられて、それをぶつけられたようにアッシュが一瞬にして見えない所まで吹き飛んでいった威力だったのに、興奮で思わず声を上げた。


「無限の魔力!!!ん?この場合だと魔力が消費されないって考え方の方が良いって事なのか?」


精神世界で起きている出来事なので、何が起きても不思議ではないと勝手に思い込み、無限に満ち溢れた可能性に頭がパンクしそうになるが、試してみたいことを全て試す事にワクワクし始めるカイト。


「まずはこの暗すぎる場所に...擬似太陽!」


そう言って遥か上空に巨大な光の玉を発生させ、空間内を全て照らし、漆黒に包まれた周りの景色は瞬く間に、白い世界へと姿を顕にさせられた。


「へぇ〜精神世界の地面って透明なんだな〜、みた感じ果てしないくらい広がってるけど、今はそんな事より目の前の奴を全力で懲らしめるか〜」


『ロックロック』


走ってきていたもう一体のアッシュの周りに出せるだけの岩を出現させ、アッシュの顔だけが出てくる様に一気に押し潰して地面に固定させた。


「もう一体は....あれどっちの方向に飛ばしたんだっけ?まぁいいか、おーい!さっき言ってた示せってなんの事だ?言わないと分かんないからもっと具体的に教えてくれよ」


『...しめ..せ』


「だから示すって何を?」


『非天の...如き...ちか、らを』


そんな地面に岩で固定されたアッシュの周りに纏っていた淡い光を発していた闘気はみるみる紅色へと変化していくと、アッシュを抑えていた岩が徐々に音を立ててひび割れていき、最後には自力で脱出したアッシュ。


『非天への道...一辻にあらず』


「なにを言ってっ!?」

シュンッ


徐々に歩み寄りながら話している内容に耳を傾けている最中、突如呼び動作もなく気がつくと目の前に赤い何かが見え、反応でテレポートを使い距離を取った。と思っていたがーー


『刹波掌』


テレポートした先で1番最初に見えた景色は手のひらだった事に、反応できず反射で両手をクロスさせ咄嗟にガードするも、腕の骨は一瞬にして砕け、身体ごと吹き飛ばされるカイト。


シュンッ


そして吹き飛んだカイトに追い打ちを掛けようとしたところで、カイトの姿が消える。


「...っ!テレポートする先を読んだのか!取り敢えず一瞬で距離を取れない上空に飛んだが、さっきより何倍も強くなってやがるしこれからが本番って事か?」


『ヒール』


一瞬にして傷付いた箇所を元通りに戻し、風の球体で自分を隠し、その上に炎を纏わせ、落下していく。


「まだまだこれで終わりじゃねぇぞ!」


ボボボボボボッ!!


炎を纏った風の球体が落下しながら別で10個出現し、加えて球体の中にふんだんに魔力を分けたクローンを中で待機させ、そのままカイトはテレポートで11個ある球体のうちの一つへと入っていった。


そして球体がアッシュへと数メートル程まで迫ってくると、アッシュは一つ一つ迎え撃って破壊していった。


ドォンッ!!!ドォンッ!!!


勿論球体の中で待機していたクローンには仕掛けを施しており、球体が破壊されると自動的に自爆させる様にしているものの、どれもアッシュにはかすり傷も与えられず、しまいにはカイトが入っていた球体まで全て無傷で破壊していった。


「当たり!!」

『千切り星』


目の前の球体を蹴りで破壊した瞬間、中から現れた巨大な斬撃に空を蹴って避けようとするも、背後にテレポートしたカイトがそれを許さなかった。


「こっちからも!」

『千切り星』

シュンッ!


「まだまだ!!」

『千切り星』

シュンッ!!


「ラストぉ!」

『千切り星』


上下左右に高速で瞬間移動しながら放たれた4つの斬撃に挟まれ、なす術がないと感じたのか、空を蹴りアッシュは、1番最初に放たれた斬撃を正面にして拳を振り払って破壊した。


「残念!」

『千切り星』


破壊した斬撃の先に、得意げに笑いながら再び斬撃を放たれ、今度こそ逃げ場が無くなり、背中、左右と順番に斬撃が直撃し、最後は正面からの斬撃で身体が木っ端微塵となった。


「どわっ!...ふぅ我ながら見事な衝撃!」


4つの斬撃がぶつかり合って発生した衝撃波によって身体が吹き飛ばされ、片膝をつきながら立ち上がる。


「後は、最初に吹っ飛ばした奴だが...あそこか?っ!」スッ

ブゥンッ!


立ち上がり、風魔法で吹き飛ばしたもう1体のアッシュを探していると、途端に背後から途轍もない威圧感が全身に襲いかかり、咄嗟の判断でしゃがむと、頭上から風も発生していないのに重たい風切り音が聞こえ、振り向くとーー


『手羅刀』

ガァンッ!!!!


赤い闘気で染め上げた右手を丁度振り下ろそうとしており、バックステップで回避するも衝撃が強すぎて地面が揺れる。


「喰らったら間違いなく死ぬぞあれ...」

ビュンッ


雷走でアッシュの周りを走り出すと同時に、無数の罠を設置し、再びアッシュの前に現れるカイト。


「バチこい!来れるもんなら来てみやがれよ?」


人差し指を自身の方向に曲げながら、挑発をするカイトにアッシュは赤い闘気を放出しながらまっすぐカイトの方へと走り出した。


ズガァンッ!

ブォンッ!!

ドゥポンッ


雷が降り注ぎ、劫火が燃え盛り、水が、風が、岩がそれぞれの性質で四方八方から襲いかかるも、全て表情ひとつ変えず、それも無傷というより分厚い闘気によって、体に届くことすら許されない状況のまま、目と鼻の先まで距離が縮まったその時だった。


プシュウゥゥゥ


最後に踏んだトラップから発せられた水蒸気に視界が遮られ、腕を一振りで水蒸気を払い除けるも目の前にいたはずのカイトの姿が消えていた。


「こっちだぜぇ!」


背後から消えた叫び声に振り向くと、最初に距離を取られた時と同じくらいに離れた位置にカイトがいた。


しかし今度は、先ほど見せた走りより数倍の速度でカイトに向かって走り出す。


そして同じようにトラップを同じように掻い潜り、迸る炎が全身を包んだその時だったーー


ドゥオンッ!!!


全身を包んだ炎の所為で視界が遮られていたのを良い事に、全身に衝撃が走る程巨大な斬撃に体ごと吹き飛ばされるアッシュ。


バキィンッ


空を舞う中、現在進行形で自分を吹き飛ばす斬撃に、アッシュは両手を添え、力一杯押し始め、斬撃を破壊した。


「たんとお食べ!」

『千切り星』


そう言って無限の魔力という特殊な状況以外ではほぼ実現不可能と言って良い程に、自身のありったけの魔力を乗せた闘気の斬撃、それも普段調整して放つ大きさの数倍の大きさを誇る斬撃を、無数に放ち続けた。


そして全力で剣を数十回振り続けていた時だった。


数百メートル離れた位置で巻き起こっている衝撃音が徐々に大きく聞こえ始め、それがやがて放っている斬撃を全て打ち壊している音だと認識し、破壊音とその衝撃がどんどん大きくなっていく。


「...ありったけの魔力を込めた斬撃だぞ?化け物かよ...」


斬撃をこれ以上放っても意味がないと感じ、最後の斬撃を正面から拳で叩き割りながらこちらへ向かってくるアッシュに少しばかりか、恐怖すら感じるカイト。


「手数じゃ押し切れないなら、正攻法しかないな、集中!」


一瞬ではあるが諦めが頭を過ぎるも、すぐさま気持ちを切り替え、愛刀を正眼に構えなおす。


『天烈拳』


牽制で放たれた赤い闘気による拳を掻い潜る形で避け、走ってくるアッシュを迎え撃ちに雷走で瞬く間に目の前まで駆け寄り突きを放つ。


ガシッ

「いーらね!」


シュンッ


刀身を両手で掴まれると、即座に刀から両手を放し斬りかかる動作をさせると、次の瞬間刀だけが目の前から消え、カイトの手の中に現れた。


「本気で思ってねぇけどこれで死ねぇ!」


視界に映る物体をテレポートさせる無属性極級魔法であるフォーステレポートによって振り下ろす手の中に瞬間移動させられた刀は見事アッシュに命中ーー


が結果は文字通り“当たった”だけであった。


「ゼロ距離千切り星ぃ!」


そこから当てて引いて『斬る』動作をするのではなく、当てた後にそのまま押すと同時に、魔力と闘気を一気に刀身から放出し、後方に吹き飛ばすのではなく、地面へとそのまま叩き込んだ。


「ぐおあっ!」


真下の床へと叩き込んだ為、至近距離で発生した衝撃波で自身も吹き飛ぶが、全身にコーティングした闘気によってダメージは最小限に抑え、受け身で着地する。


すぐさま立ち上がりアッシュの方を振り向くと、既に立ち上がっているが、全身を分厚くコーティングしていた真っ赤な闘気が、胸から腰にかけての位置が割れており、割れた肉体からは淡い光が漏れ出していた。


ボゴボゴボゴォォッ


しっかりと闘気を貫通させ本体にダメージを与えられたものの、再び赤い闘気がマグマの様にぶくぶくと泡立ち、破損していた部分を修復していった。


「ダメージは与えられたが、効いてる様子はないか」


「まぁさっきの一合で成長することはできたし、まだまだとまんねぇアイデアの練習台になってもらうぞ!」


それから幾度となく新しい魔法のアイデアや、既存である魔法を応用した新しい実戦訓練、無限の魔力という特殊な状況を利用して様々な発想をひたすらアッシュに発散し続ける事数時間。


「こんだけ動いてんのにスタミナも消費しねぇし、本当にどうなってんだ此処は?....まぁ倒せたからいっか」


そう言って息切れ1つする事なく、大の字で倒れ、全身から光の粒子が空に漏れていくアッシュを見下ろすカイト。


「くはぁ〜!疲れてねぇけど、疲れたー!」


そう言って自分も地面の上に大の字で寝転がり、やっとの思いで終わらせた戦いに満足する。


「結局示せって言われたけど、なんのこっちゃわかんないままだったな〜....もしかして示さないと出られないとかってパターンではないよな?」


ふと思い出したアッシュの呟いた一言に、慌てて上体をひじで支えた体勢で思考を張り巡らせるカイト。


そして考え抜いた結果、倒したのにも関わらずなんの変化もない空間に、徐々にカイトの中でフラグが立っていくような感覚がして、視線をアッシュのいた方向にやると感じたフラグは見事立っていた。


「あー、居なくなってるー」


無表情に感情のないカイトの怠そうな驚きと共に、目の前に突如とそれは姿を現した。


ペタッ


素足が地面と接触した独特の音ともに、着地したアッシュがーー否、アッシュ達が見えた。


「まだ終わんねぇのか?...」


上から次々と、5体が降り立ち、10体、20体と増えていくのを見て、段々とこの数だったらという考えから、もう辞めてくれと現実逃避したくなる様な数にまで増えたところで、増殖が止まった。


そして最初に降り立った一体のアッシュがゆっくりとカイトの目の前にまで歩み寄り、目の前までの距離まで近づき止まった。


『示せ、己が怒りを』

ズパァンッ!!


話し終えるタイミングでカイトの振り払った右足がアッシュの首元にクリーンヒットし吹き飛ばした。


「此処まで理不尽だと流石にムカつくだろ」


肩甲骨から生やした4本の腕、それぞれに持たせた闘気の刀を構え、吹き飛ばされたアッシュを見て一斉に襲いかかってき始めた百体近くのアッシュの中に、自ら走り出すカイト。


「こうなったら死ぬまで殺し続けてやらぁ!!!」


...


......


............


およそ数百体近くの倒れているアッシュの中、真ん中にただ1人だけ立っている人影。


幾度となく虐め抜かれて出来上がったであろうその見事な上半身の筋肉に、一本の淡い光がその全身を覆う赤く漂う闘気を貫通していた。


そして数秒後、力無く倒れる体を支える為一歩踏み出そうとするが力尽きたその脚力では虚しく重力によって地面にいる、動かない自身と同じ見た目の死体の上に重なって倒れた。


「ぶはぁっ!...ちくしょう漸く最後の一体を片付けたぞ!」


隠れていた死体の中から、手で死体を掻き分け顔をのぞかせ空気を吸うカイト。


「はぁ..はぁ...おらぁ..あと何体だ?いくらでもかかってきや..が...ぇ」

バタン


話している途中で本人のやる気とは裏腹に、既に限界を超えた身体ではなく精神も限界に達し、視界が暗転していくと同時に全身の力がフワッと抜けていき、積み上がった死体に体が吸い込まれる様に倒れる。


「んむっ」


「あらぁ、もう終わったのぉ?」


体を酷使した後の疲労感を感じて落ちた次の瞬間、疲労感が体から消え去り、目をパチクリさせてケロっと先ほどまでの死闘が無かったかの様に起き上がるカイト。


「...あれ、疲れてない」


「んふふ、どうやらもう大丈夫みたいねぇ」


起き上がったカイトの身体を魔力眼で見回すと、面を被った瞬間に全身を覆っていた赤い気が全て消えており、加えて同調率もしっかりと100:0から50:50に落ち着きを見せた魔力の色をしていた。


それからカイトは意識を失っている間の出来事を事細かくファミルに話し、もう一度お面を取り出し、精霊術を試すことになった。


「ふぅ....よし」


目を瞑った無表情の面を顔の前に当てた瞬間


「...あー」


まず最初に変化がったのは聴覚だった。


まるでノイズキャンセルのイヤホンをつけた様に、一瞬にして先ほどまで無意識で拾っていた周りの音が一気に聞こえなくなり、試しに声を上げる。


「あらぁ?」


無表情になったと思ったら突然音を発したカイトの顔を覗き、ファミルが不思議そうな顔で見ていると同時にファミルの声もしっかりと聞こえる事を認識した。


(周りが静かだけど、会話はしっかりと聞こえる、後なんだろすげぇ落ち着くというか、驚いてる筈なのに、驚かねぇ)


「先生、なんか変です、さっきから異様に静かでなんだか集中力が上がったんですかね、感情がなくなった気分ってこういう事なんですかね」


「なるほどぉ、感情の抑制が働いてるわね、目や表情からはまるで生気が感じられないわぁ、可愛くないわねぇ」


感情の起伏が起きず、まるで感情の出し方を忘れたかの様な状況にも関わらず焦りという感情もなく、ただ物事を認識して行ってるだけの状態に違和感と気持ち悪さを覚え、面を外す。


「うっわー、なんだこれすげぇ変な感じ...酔ってる感じなのか、感情が抑制されてる感じでとりあえず変な感じで気持ち悪くてなります...」


「本来との自分とお面を付けた自分との状態があまりに乖離した事で起こる精神状態ねぇ、コレばかりは慣れるしかないわぁ」


とファミルはカイトに起こった状態を言語化したおかげで、しっかりと自分の身に起きた事を脳で理解する。


「なるほどですね、じゃあ多分感情の起伏をあえて無くすことで、戦闘での無駄な思考を省くことができそうですね」


「えぇ、ただ短所もあるとしたらぁ...制御が効かない所為で人を殺しちゃう事も起きそうな諸刃の剣ねぇ」


「確かにそうですね、感情のブレーキが効かないと何しでかすかわかったものじゃないですね、そういう時ってどうすれば良いんですか先生?」


カイトの純粋な疑問にファミルはただ微笑み、真っ直ぐカイトの両目を見て両手を頬に添える。


「感情がなくなればその人に残るのは大事な物だけよ、お友達に家族、目に見えて触れる存在でも、意志や信念、矜持みたいな触れられない物まで、自分が心の底からしたくない事はしないとちゃんと心に誓えれば大丈夫じゃないかしらぁ」


そんなファミルの言葉に胸を熱くしながら心の中で大事なものを浮かべていく。


「そんなに難しく考える必要は無かったですね!ありがとうございます先生!」


「はっ!純真無垢な生徒の笑顔....」


ただ自分の心の底から込み上げてきた言葉を笑顔で投げかけると、その場で力を失った様に倒れるファミル。


そしてそのタイミングでレイゼンがクラスに現れ、いつもの調子で小言を言われ、子供の様に不機嫌になるファミルだった。


こうして精霊術の課題はこれを気に遥かに進んでいき、加えてお面を付けた際に今まで見えたり感じることができなかった魔力を感じる事ができる様になり、次第に魔力感知もお面を付けずにできる様になっていった。


そしておまけに意識の中で繰り広げた死闘の中で闘気の質と扱いに関しても上達していた。


めちゃくちゃ久しぶりの更新...飽きずに見てくれてる人いないだろうなぁ

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