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第2章 園外訓練最終日 Ⅲ


「任せろ!とは言ったものの、少し緊張するな.....」


「ちょっと...此処にきてそんな弱音吐かないでよ」


そんな突如弱気になったというより、道なりに進んでいくと現れた看板を見て弱気にさせられたグレイルにソロカが二の腕辺りを小突いた。


看板には血文字でびっしりと『呪』を表すこの世界の文字が書かれていた。


看板は見える様に置いたというより、技と気付かれるか気づかれないか程度の脇道に置き、それに気づいたプレイヤーに松明をかざさせ、能動的に恐怖心をくすぐらせるカイトの案は見事余裕だったグレイルの恐怖心を削った。


「ねぇちょっと...あそこ誰か」


「誰かいるのか?」


グレイルの背中にしがみつくソロカの声に右手に持った松明をその位置に向けると木の幹のみが映った。


「誰も...いないぞ」


「本当に?」


「あぁ...取り敢えず前に進もう」


そういった恐怖心の伝染と半分程進んでもまだなにも仕掛けられない事で更に恐怖心は増幅していく中、遂に2人は一つ目の課題ポイントへと到着した。


『度胸があるものは岩の中に手を入れ、鍵を探せ』


幅5メートル、高さ3メートル程の真ん中に削られた形で課題が彫られており、岩の下部を見ると丁度腕が入るくらいの穴が2本あった。


「よし、じゃあ此処はソロカに任せよう」


「嫌よっ...バカじゃない?あたしがやったら失神するに決まってるでしょ?良いからやってよ早く」


「あぁ〜...こんな暗闇の中でこれは流石に怖いな...」


松明をソロカに預け、両腕を穴の中にゆっくりと差し込む。


「中は空洞?...下も上も左右どこも空洞...もう少し」グワッ


上下左右に手を当てたが何にも触れられなかったので、腕をもう少入れた瞬間、冷たい手がグレイルの両手首を力強く引っ張り放した。


「う“ぁあああ”あ“あ”!!!!」


「きゃああああああああ!!!」


いきなり空洞に入れた手が掴まれただけでもグレイルの心臓は飛び出そうなところ、引っ張られた事によって恐怖心は絶頂に達し、意識なく腹から力一杯叫び声が漏れ、それを聞いたソラカはどういう状況かわらなくとも叫び声を聞いただけで呼応するかの様に叫び返す。


「うあああぁ...冷たい手に引っ張られた!中に誰かいるって!...うぅ...もう無理かも俺」


「き、急に大声で叫ばないでよバカ!死ぬかと思ったじゃん!」


「痛い痛いっ!不可抗力だって!」


「やだよ〜もう〜、ねぇ帰ろうよ〜」


それから前に進もうとしないソロカを何度も説得しようとしたが、結局諦める事になりリタイヤを申し出たグレイル。


「ん?おいなんだ?帰ってきたんじゃねぇか?」


カイトに誘導される形で戻ってきたグレイルとソラカに気付いて声をかけるジュラン。


「おいおいそれでも男かグレイル〜?」


「俺じゃなくてリタイヤを申し出たのはソロカだよ」


「そんなこと言って〜、情けない声で叫んだの此処まで聞こえてんだぞ〜?」


「なっ!もしかして全員に聞かれてたのか!?」


クラスメイト全員を見ると全員が頭を縦に振り少しばかり恥ずかしい気持ちになるグレイル。


「そ、そんな事は良い、次はお前だろジュラン?良いか?死ぬなよ?」


「へいへい、ったくこんなもんただのこけおどしだろ!いくぜメウィン!」


「.....」


「ん?あれ?」


「メウィンならさっきまで此処に...ってあれ?」


焚き火を取り囲む様に座っているクラスの中からルシータが自分の隣を指さすが隣には誰もいなかった。


「おいちょっと待てよ、相方がいないんじゃいけねぇ....ん?」


慌てるジュランの目線の先、女子の住むコテージに灯りが付いている事に気がつくジュラン。


「肝試しとか絶対無理無理無理無理...あんなのに参加するならまだ迷宮に1人で潜る方がマシだって....」


ガバッ!

「相方発見〜!いくぞー!」


「アバァッ!ちょっ...ジュランっ!レディの部屋に入るなんて失礼にも程があるわよ!」


コテージの中で毛布に全身を包みながら震えるメウィンの毛布を剥がし、抵抗を物ともせず担ぎ上げそのままスタート地点まで運ぶジュラン。


「じゃあ頑張って死なない様にねメウィン!」


「鬼っ!あれはセニカの皮を被った鬼よ!」


「気にすんな俺がいるから何も怖くねぇよ!」


「明るいねあの2人〜、意外とお似合いじゃない?あっ、もうちょっと右辺り」


「ここか?確かにうるさくてビビリなメウィンにジュランはぴったりな感じもするな」


一連のメウィンとジュランの明るいコンビをマッサージをしてもらいながらその様子を見て微笑むタリカとメルト。


(いや、カイトとセニカ以外だったらお前らがカップル筆頭候補なんだよ!)


タリカとメルトのやりとりを見ていたクラスメイトはそう心の中で叫んだのであった。


一方カイト達肝試し運営側は作戦を練っていた。


「次はジュランか〜、アイツは怖いもん知らずだから最初は変わらず予定通り動いて様子を見よう、そこで反応が悪かったら2つ目の課題ポイントで秘密兵器を登場させる」


「「了解」」


「師匠は引き続き魔物が出ない様に監視をお願いします」


「分かった」


マシュー、ニューロ、ヴァイスとの作戦会議を終え、それぞれが配置に戻り、カイトも最初の課題ポイントの岩の中へとテレポートで戻る。


「おっ、松明の灯りが見えてきたな!ふぅ、お化け役も簡単じゃねぇべ」


予め準備しておいた氷水に両腕を漬けて手を入れるのを待つカイト。


「うぎっ、なに!?何で止まったの!?」


「これは、、一つ目の課題っぽいな」


「ん?岩?」


目を閉じてジュランの背中にへばり付いていたメウィンの顔が突如立ち止まるジュランの背中にめり込み、何事かと片目だけ開けて見ると目の前には岩があった。


「ほらあそこ、血文字で指令が書かれてんぞ」


「ぎゃああああああ、血ぃぃぃぃ!勝手に映すな!」


「いちいち大袈裟だなぁ...まぁ要するにこん中に手を入れて鍵を取れば良いって事だろ?」


そういうとジュラン一息呼吸を整えると、目に捉えられない程のスピードで2本の穴に両腕を入れて、瞬時に取り出した。


「なになに!?何があったの?」


「指令に書かれてた鍵だよ、どこで使うのかわかんねぇけど、ひとまずこれで第一関門クリアか?ん?この岩壁から殺気を感じんぞ?まぁいいや」


「おわっ、ちょっと置いていかないでよ!」


「いちいちくっ付くなって暑苦しぃ.....」



ーー場面は変わり岩の中にいるカイト。


「んぐぬぬ...反応できたけどすぐ取りやがったアイツゥ....」


((ガァーッハッハッ!まぁゆっくりとは書いてねぇしな、一本取られやがってダセーの!))


「ふんっ!」


苛立ちを含んだ顔で岩から出ていき、血文字で書いた指令に何やら書き足すカイト。


『度胸があるものは岩の中にゆっくりと丁寧に手を入れ、鍵を探せ』


((あーあ、雰囲気台無しじゃねーかこりゃあ))


「うるせぃだまってろよい!運営は俺なんだから何でもありなんだよい!」


((キレるのは分かるが口調を変える必要あんのか?))


「こうなったら第二関門で潰してやるっ」

シュンッ


テレポートでその場から離れるカイト。


一方のジュランとメウィンは丁度第一関門を通り過ぎたあたりで現れた左矢印の標識に従い歩いていく。


ヒューーッ

「ねぇジュラン...さっきからなんだか寒くない?」


「ん?あぁ確かに肌寒くなってんな、そりゃあ日が落ちる寒くなるだろ!」


「そうだと良いけどね...ってか後どれくらいでゴール地点なのよっ...あー嫌だ嫌だ」


フッ


突然メウィンの首元に冷たい息の様な風が吹いた。


「きぃやああああああ!!!!でたーーーーー!!!!」


「なんだっ!おいちょっと待てどこ行くんだおい!」

バサンッ!


「ぐあっ!」


絶叫しながら走り出すメウィンの後を追いかけようと一歩踏み出した途端、通常なら押し上げる地面がくるのが妙に遅いと感じたが時すでに遅し、落ち葉などで綺麗にカバーされた落とし穴に見事全体重を乗せた足から落ちていくジュラン。


「ぺっ!口の中に土がっ!早く発狂したメウィンを追いかけねぇとへたすると場外まで走り出す可能性が...って深過ぎんだろどう考えても!」


それから何とか落とし穴を抜け出すも様々な罠にいく手を阻まれる事数分後...


「がぁーっ!やっと抜け出したぞちくしょー!」


足元の絡みつく蔓を魔法が使えないため全て素手で解き、少し歩き始めると何やら少し遠くに見える茂みの奥の方から啜り泣く声が聞こえたジュラン。


ゆっくりと茂み近づいていくと啜り泣く声の正体が女性だとわかり、そしてもう少し距離が縮まるとメウィンの声だと認識し、警戒心を解いて近づくと、頭頂部に僅かな衝撃を感じた。


「ん?何だ?」


衝撃を感じた辺りを指でなぞると何やら粘りっけのある液体だったため焚き火を当ててみるも、色はなく匂いを嗅ぐと液体の正体を理解したジュラン。


「...これは、油か?」


そして次の瞬間、肩から何かがのっかかるのを感じると同時に、粘りっけを感じ、同時にごく最近というより午前中に体験した記憶の奥底に封印したはずの悍ましい記憶が瞬時に蘇った。


「....」


「ジュランちゃんっ⭐︎」

スゥーーーーッ


視界が狭まり徐々に意識が消えてゆき、その場で倒れるジュラン。


ドサッ

「あ、気絶したでござるか?」


背後から物音が聞こえ、恐る恐る茂みから音の鳴った方を除くと、ジュランの上にベトベトの悍ましい何かの生き物が見え、丁度倒れているジュランが持っていた松明がその生き物の顔を写すと...


「ぎぃやあああああ!!!魔物ぉおおお!!」

『アクアキャノン』


「え?」


咄嗟にかざした両手から放出された直径2メートル程の水の玉が油神様と化したニューロを吹き飛ばし、衝撃音を聞いたカイトとヴァイスがすぐさま現れた。


「ありゃりゃ〜、驚かせ過ぎたか?」


「ジュランとメウィンは俺がキャンプまで連れていく、ニューロの手当ては任せるぞ」


「はーい、ほらニューロしっかりしろ!」


こうしてジュランチームはメウィンの魔法使用によるルール違反により失格となった。


その後連れ戻されたジュランとメウィンの様子をみると、ジュランは何かをずっと警戒している様子で、メウィンは小さな声でずっと何かをぶつぶつ囁いていた。


そしてその様子を見た他の生徒からは自然と笑顔が消え、僅か2名の脱落者しか出てないのにも関わらず、ルシータ×オーロンとモルス×オルグのグループが棄権を申し出た。


「あらら、2チームが棄権したから残るは2チームか、どっちにせよ次のチームはアルベルトとメイダだから頑張ってね2人とも!」


「こんな子供騙しの企画に恐怖するとはまだまだだなお前達」


「やっと私たちの出番だね〜」


めんどくさそうにしているが、何処かワクワク感が垣間見えるアルベルトと、余裕で笑みを浮かべるメイダの2人が早歩きで森の中へと消えていった。


「あの2人余裕そうだね...」


「アルベルトはともかく、メイダは無類の心霊好きだからな」


そんな2人を引き攣った顔で見送るルシータとオーロン。


チョンチョンッ

「なんだメイ...」


「ばぁっ!」


「...それくらいの事で驚きはしないぞ」


アルベルトの肩を突き、右手に持っていた松明を顔を近付けて落ち葉と枝で作った即興お化けの仮装を披露するも、クオリティが低すぎるのか、驚くそぶりは一切見せず軽くあしらわれるメイダ。


「そんな子供じみた真似をしてないで、ほら、着いたぞ」


「うぉーーーー!ここが第一関門!ねぇねぇ、私が挑戦してみて良い?」


「好きにしろ」


岩に書かれた血文字に従い、丁寧にゆっくりと空洞の中に両手に入れる。


「なにも〜、うわっ!」


「何かあったか?」


「ちょっと待って!これは何か生き物が...痛いっ!」


「どうした!?」


苦痛の表情を浮かべながら両手を引きづり出すとメイダの右袖からその先が無くなっている事に気がついたアルベルト。


「メイダ!なんて事だ...今すぐにっ」


そんな必死な自分とは違い尻もちをついたまま、見つめてくるメイダの表情は今にも爆発しそうな何かを堪えているような表情で、やがてそれは耐えきれなくなったのか、笑い声を発しながら悶えはじめた。


「あっはは!やっと引っかかった引っかかった!あーおもしろっ、流石に焦り過ぎだって!ハハハッ!」


右腕の袖を引っ張ると中から握られた小さな拳がひょっこりと現れ、焦っていたアルベルトの表情は暗闇でハッキリとは見えなかったが、きっと真っ赤になっていたと想像し、また笑い始めるメイダ。


「くっくっくっ...バカだ...」


気のせいか岩の中から声が聞こえた気もするが、ひとまず先に尻もちをついたメイダに腕を貸して立たせるアルベルト。


「全く、お前はいつにもまして気分が良いな」


「ハハッ、ごめんごめん次はちゃんとやるからさっ!」


「良い、俺がやる」

シュッ

パシッ


「あ、っておい」


「ん?また岩から声が...まぁいい、取り敢えず手に入れたから次に行こう」


鍵を手にし、アルベルトとメイダはその場から立ち去った。


「んぐぅぐぅっ!あのクソ野郎ぅ、ゆっくり丁寧に取れって書いてあんのにっ...」


((オメーが笑って油断してたからだ))


「わーったよ!じゃあもう鍵は俺が手を引っ張るまで手に届く範囲に吊るしませーん!」


((クソちいせぇ運営だぜこりゃあ))


((てかお前もさっきから色々言うんだったら手伝えっての!))


((....))


((なっ!お前こういう時だけ無視すんじゃねぇよ!))


そして場面は変わりアルベルトとメイダは現在落とし穴に引っかかったメイダをアルベルトが引き上げていた。


「いったた〜、肝試しに落とし穴ー?」


「足元に注意しないからだ、ほらっ!」


「いやー助かったー!」


「多分ここからは罠がいくつも仕掛けられているから慎重に進もう」


「ひえ〜、こんなのが後いくつもあるなんて気が滅入りそー...んお?あれは!?」


話終わるタイミングでメイダは自分の前方10メートル程にある道の側に生えている木の背後から手の様な見え、目を凝らしはじめる。


「何か見えたのか?」


「いま一瞬手の様な物が見えた気がする!ちょっと見に行こうよ!」


「ちょっと待つんだメイダ!そこには罠があるかもしれなっ」


走り出すメイダにアルベルトが注意するが、罠が発動した気配はなく、メイダと同じ軌道を辿って急足で追いかけようとするが...


ザサッ

ビュンッ!


「っ!」


メイダの軌道に沿って歩いて僅か3歩目で、何かが作動した様な微かな音が後方から聞こえ、次の瞬間冷たい風が目の前から通過し、思わず目を閉じる。


「ただの風...と思ったがこれはまずい」


吹いた風のせいで辿っていたメイダの痕跡が落ち葉で隠れてしまい、下手に動け無くなってしまったアルベルト。


「ちっ、こんな幼稚な罠など魔法があれば...」


ゆっくりと慎重に丁寧に一歩一歩罠がないかを確認しながら進む。


「くくっ...」


「誰だ?」


一瞬何処からか笑いを堪える声が聞こえ、周りを見渡すも暗闇で見えない。


(今の笑い声、誰だか分からないが、もしカイトであれば....)


瞬間、冷静に今の自分を第三者の視点で捉えた際ものすごく惨めっぽさを感じ、直後額に血管が浮きでて、居ても立っても居られなくなったアルベルトは全力疾走で真っ直ぐ走り始めた。


カチッ

チカッ

(目眩しなど効かん!)


カチッ

ブォンッ

(このくらい耐えてみせる!)


カチッ

ズボォッ

(こんなものただの足止め!)


眩しい光に当てられ、強風にさらされ、落とし穴にハマり、幾度の罠を食らうもその場その場で即座に対応して、何とか数分後にメイダの元へと到着したアルベルト。


「くはぁ...はぁ..はぁ...」


「あー、逃しちゃったかー」


「おい...何故お前だけ無事なんだ...」


「ん?何でそんなに息切れしてるの?」


「お前の所為だ...ふぅ、次から逸れる様な真似をすれば即座に魔法を使って失格にする」


「うぅ、すいません...でもほらここでしょ?2個目の課題?」


自身の真下を指差すメイダを見て、アルベルトも目線を下げると、落ち葉に木の板が埋もれていた。


『彷徨う数多の欲深き罪人の霊魂から、穢れなき霊魂を見つけ、祭壇に捧げよ。穢れなき霊魂は唯一...』


「どうやら次の課題は間違い探しみたいだな」


「霊魂...ますます心霊がかった内容!」


「今の所霊魂の様な物は見当たらないが...ん?」


霊魂の様な物が見当たらず、辺りを見渡していく中、丁度目の前に生えている木々で目線が止まり、木々の奥の方をよく目を凝らしてみると、一本も木が生えていない広場が見え、進んでいくと整地された円形の広場がそこにはあり、中心に一本の大きな十字架が建てられていた。


「十字架...なんだ?人が架けられているような...」


「目の前まで行ってみようよ、ヒントが隠されているかもしれないし!」


「あぁ」


そして十字架の目の前まで来ると、しっかりと肉眼で十字架に人が架けられているのが分かり、架けられている人の頭部には麻の袋が被せられており、両手・両膝・首には固定するための木の杭は刺さっており、血が体を伝って足の下にある石の桶に溜まっていた。


「グロいね〜、あ!麻袋になんか書いてあるよ!」


「罪人の魂は穢れし血と同化し、穢れなき魂は血を浄化する...という事はこの血の中に魂を入れて確かめれば良いって事で、ここが祭壇なのだな」


トントンッ

「アルベルト...」


肩を叩かれ来た道を振り返っているメイダの目線の先をみると、それぞれ色の付いた光る球体が無数に浮いていた。


「成程、俺たちが十字架に気を取られている間に現れたのか」


「どうする?この数を一個一個試していたら日が明けちゃうよ」


「取り敢えずまずは必ず違うこれをとって罪人の魂を血に入れるとどういう反応をするのか見てみるとしよう」


そう言いつつ、アルベルトは目の前で浮いている手のひら大の緑色に光る球体を片手で掴み取り、桶の中へと落とした。


ブクブクブクブクッ

シューーッ


血とされる桶の中に緑色に光る玉が入ると、血中で瞬く間に泡を吹き出して、泡が消える頃には煙を出して血中で蒸発していった。


「不正解だとこうなるのか...」


「どう?何か分かりそう?」


「罪人の霊魂の中から、穢れなき霊魂....」


「取り敢えず考えて分からないんだったら、それっぽい霊魂を探しながら考えよう!」


そう言ってメイダは浮遊している数多の霊魂をじっくり観察しながら穢れなき霊魂を探し始め、アルベルトもそれに続いた。


しかし10分ほど探しては祭壇の桶に入れるが、どれも蒸発し、何一つ進展はなかった。


「あー、こういう頭を使うのって私苦手なんだよね...」


「文句を言ったって現状が良くなるわけでもない」


「えーー、アルベルトなんか冷たいー、そんなんじゃ彼女できないぞー」


「...俺には必要ない」


メイダに聞こえない程度の声で霊魂を探しながら呟くアルベルト。


「そもそも穢れのない霊魂と罪人の霊魂の違いって何ー!私だったら死んだ後こんな所にずっとはいないけどねー」


「地縛霊みたいにその場から動けない物ではないのか?」


「そこまでリアルには作れないでしょー」


「ん?...少し待ってくれ...要は穢れなき霊魂というのは言い換えれば罪を犯してない人の霊魂で、罪人の霊魂は言い換えれば、穢れた霊魂」


「何よ今更当たり前の事を...」


「つまり罪人と一般人の関係性を考えると、一般人は罪人を怖がるはずだ、それもこれほどの罪人の霊魂が集まっている場所では尚更怖いはず、だからこの今見えている霊魂はブラフで穢れなき霊魂はどこかに隠れている筈!」


「成程!でも一応周りも探してみたけど、どこにも無かったよ?」


「確かに俺たちは何となくで周りを探していたけど、一箇所だけ何故か見向きもしていなかっただろ?」


そういうとアルベルトはおもむろに祭壇の方へと歩み寄った。


「祭壇ねー」


「あぁ、そして俺の推測が正しければ、この十字架にかけられている奴が穢れなき一般人で、罪人に磔にされた設定なのかもしれない」


「でも何処に隠して...ってちょっと!そこ登って良いの?」


突如祭壇に置いてある桶に足を掛けて、十字架をよじ登るアルベルト。


「隠れるとしたら此処が最適だろう」


そう言ってアルベルトは頭に被せられていた麻袋を引き抜いた。


「あー!霊魂だ!!凄い!」


「一番俺たちが本能的に近づきたいと思わない位置に俺も作る立場だったらそこに霊魂を隠す」


そして麻袋に隠されていた霊魂を桶の中に入れると、眩しいほどの光を放ち、次の瞬間には桶の中の血は無くなっており、中には鍵だけが残されていた。


「やった!これで第2の課題ポイントクリアだね!」


「あぁ、なかなかに手の凝った課題だったが、俺にかかればこれくらい大したことない」


課題を攻略した嬉しさのあまり勢いで互いの両手の平を叩き合うアルベルトとメイダ。



=========================


ーー場面は変わり運営サイド。


「うおーすげぇなアルベルト!よく気が付いたな!」


「ぐぬぬっ!1番凝った第2関門まで突破されたぁ....」


「落ち着くでござるカイト殿、まだ最終関門があるではないか。ぐふふふ」


「....ふっ、そうだったなニューロ殿、お主も悪よのうあの様な課題を思いつくとは、デュフフフフ」


「ぐふふふふふふ、あぁーっはっはっは!!」


「デューッフッフッフ!!ケェーッケッケ!!」


「静かにしろお前らっ、バレたらどうすんだよ!」


下水笑みを満面に浮かべて、高らかに笑うカイトとニューロの口元を必死に抑えるマシューであった。



=========================



「何だこれは....」


「この中に入るの?」


2つ目の課題をクリアし、少し歩いた先にそれは姿を現した。


長方形の形をした岩魔法で作ったであろうただの岩に、正面には扉は2つ。左の扉には男用、右の扉には女用と書かれていた。


「取り敢えず鍵を使って中に入れって事みたいね」


「用心しろ、罠がある可能性もあるからな」


「うん」


「それと松明もお前が持っておけ」


「やっさしー、ありがとね」


「それじゃあ俺は先に入るぞ」


そう言ってアルベルトは鍵で扉を開け中へと入り、鍵を開けるのに手こずりながらも少し遅れる形でメイダも中へと入った。


(暗いがギリギリ見える)


岩の中へと入るとそこは一本の廊下の様な細さの空間のみで、左手には5メートル奥くらいにほんのり光る松明が掛けられていた。


うっすら肌寒さも感じる為早めに課題をクリアしようと、足早に罠を警戒しながら歩き始める。


カチッ


掛けられた松明を通り過ぎた瞬間、何かが作動した様な音が聞こえ、瞬時に前後上下を見渡すと、前方の道が降りてきた岩によって遮られ、後方の道も遅れて同様に遮られた。


(逃げ道はなく、壁には松明がかけられているのみ、何すれば良いんだ?)


そこから数分間閉じ込められた空間内で出口を探すも見つからず、それから少し時間が経つと作動音が聞こえ、前方の壁が上に登っていった。


(何だ?何がきっかけで壁が?)


思考を張り巡らせるも閉じ込められた原因と、解放された原因は分からないまま歩いていると、再び壁が立ちはだかり、手前まで近付くと少しばかり先ほどの壁とは違うことに気がつく。


3メートル大の壁の下側に高さ数センチ、横幅が自身の体がすっぽり入るくらいの細長い穴を見つけると、壁が徐々に光出した。


「壁が光出し...たというより文字を光で浮かべているな」


徐々に光が見慣れた形に光っている事に気が付き、文字を読み上げる。


『3つ質問に答えてもらう、回答が曖昧だったり、無回答だった場合失格とする』


『では第一問、本日のパートナーに対して、頼りになると思うか?』


「...何だこれは」


『第二問、パートナーを見てると少しドキドキする?』


「....」


『第三問、ぶっちゃけパートナーに対して好意を抱いた事があるか?』


「おい出てこいゲス運営共、こんなくだらない質問を聞いて何になると言うのだ?」


『....』


突然正面の壁を見て右側の壁が光出し、よく見ると壁に凹みがあり、凹みの中にはペンと紙が置いてあった。


「はぁ...くだらない、俺は降りるぞ」


突然雰囲気を壊すどころか、明らかに肝試しとは関係のない個人的な質問に対し、呆れながら棄権を口にしたアルベルト。


するとすぐに正面の壁が光出し、文字を浮かべた。


『因みにパートナーは先ほどこの質問に答えた事によって、お前はあそこから脱出できたと言うわけだが、脱出を助けてもらった恩人を蔑ろにするどころか、己が小さきプライドの為にその者の楽しみまでも奪おうとするとは、私達は少々君を過大評価していたようだな、では棄権を認めるので入口へと戻るが良い』


「待て....」


壁に記された文字を読み切るなり、紙とペンを取り出し、殴り書きにように勢いよく書き始めるアルベルト。


ーーメイダ視点


建物に入りウキウキ気分で進んでいると前方の天井から岩の壁が道を塞ぎ、浮かび上がる光の文字に戸惑いながらも答えるメイダを更に待ち構えていたのは同じく岩の壁であったが、最初の壁と違うのは光の文字もなければ、前方だけではなく、後方の道も塞がれてしまい、現在脱出口を探しているメイダ。


「...あの質問の意味は分かんなかったけど、さすがに見られないよね?ていうかこの壁っ全然開かないじゃんか...っ!あ、開いた!」


閉じ込められてから少し時間が経つと進行方向とその反対側の壁が天井へと戻っていき、引き続き前へと進んでいくメイダ。


数メートル歩くと今度は扉があり、開くと暗くて少し広い空間があり、同じタイミングで左側から扉を閉める音が聞こえ音の鳴った方へと松明をかざすと...


「あ、アルベルトだ」


「っ...どうやら別れ道はここまでのようだな」


一瞬動揺した様なそぶりが伺えたが、すぐさまいつもの冷静な顔に戻るアルベルト。


チカッ


そこから間も無く空間に何かが作動したのか、天井の中心に設置された石が光を発し、暗い空間をうっすらと照らした。


「何もない部屋...壁に何か書いてるね」


明かりの点いた部屋の壁に刻まれた文字をメイダが発見し読み上げる。


「んーと?最終関門、指定の場所で互いを1分間見つめよ?」


「尚1分間の間少しでも目を逸らしたりすれば、失格とする」


メイダの後にアルベルトが読み上げる。


「よくもまぁこの様なくだらない事が思いつくな、1分のみでいいのならすぐに始めよう」


「ちょちょちょちょっと待って!!じゅ...準備が必要だから一旦深呼吸させて!」


突如早口でで動揺を見せたメイダは、気持ちを落ち着かせる為に部屋の中を周り続ける。


ーーー


「え!メイダってアルベルトの事好きだったの!?」


「バカ!声がデカいよ!良い?これは絶対に内緒だからね?今まで一生懸命バレない様にメイダは隠してたんだから、絶対にバラしたらぶっ飛ばすからね!」


「分かった分かった...てかそんなこと言ってるけど、俺にバラしてよかったのかよ...」


「あんたは比較的他の男子と比べたらまだ口が軽そうに見えて硬いでしょ?それに私はメイダから聞いたんじゃなくて、自分で気付いたのよ」


「ふーん、まぁでも安心しな、流石にそんな最低な事はしねーよ」

(ビッグスクープだぜこれは!!)


待機場所で話すタリカとメルトに、周りはまるで早くくっつけと言わんばかりの視線を向けていた。


ーーー


「気持ちは落ち着いたのか?」


「...無理、今回だけは流石に...」


「だったの1分互いを見るだけだぞ?」


「...」


「そうか、なら棄権するか...」


そんなハッキリと訳を言おうとしないメイダにアルベルトは気を使ったつもりで棄権を申し出ようとしたが、それに対してメイダは焦って棄権を止めた。


「待って!...その今準備できたから!」


「今度はどうした...はぁ、だったら早くこの不快な肝試しを終わらせるぞ」


そう言ってアルベルトは真っ直ぐメイダの目を見つめ始め、それに対しメイダも何とか視線を外さない様に努力する。


10秒...20秒...30秒と着々と時間が経過し、途中から目線を離そうとしていた無意識な抵抗も徐々になくなっていき、このまま時間が過ぎ去る事を願っていたメイダに悲報が訪れた。


ガラガラ


(っ...誰だ?)

(え、なんの音?)


突如天井が横にスライドし、天井からカイトが2枚の紙を手に持ちながら、薄気味悪い表情で頭だけを出した。


「えーっと?先ほどアルベルトに聞いたメイダの印象はっと...えー、第1問のメイダが頼りになるかについてだが、『頼りにはなる』と書かれました」


(まさかあそこで答えた回答をここで朗読するきか!?)


(え、どうしよどうしよ、なんか急に始まったんだけど!)


互いに目を離さない様に注意をしながらアルベルトは考えを張り巡らせ、メイダは戸惑った面持ちになった。


「そして2問目でメイダを見ているとドキドキするかについては、『ドキドキというよりハラハラする』と回答」


(え!ハラハラ!?...それって...?)


(罠があると知りながら走り出したら見ていてハラハラするだろ!)


極力良い方に推測するメイダに対して、そのままの意味のアルベルト。


「そしてお待ちかねの3問目!メイダに対して好意を抱いた事があるかに対してアルベルトはなんと...」


(なになに!?勿体ぶらないで教えなさいよカイト!!)


(おのれ芋虫!やめろぉぉ!!)


「『少なくとも悪意は無いから、どちらかというと好意の方がある』と答えましたぁあ!!」


カァァァァッ


カイトの放った言葉の直後顔が今にも沸騰しそうな程に、見事な真っ赤で染まり上がり今にも顔を両手で覆い尽くしたいのをギリギリ踏ん張ったメイダ。


「続いてはメイダの回答ですが、1問目・2問目は残り時間も少ないという事で割愛しまして、いきなり3問目から!ズバリ!アルベルトに対して好意を持っているか!?」


(えっへへー...え!ちょっと待って!いきなり!?)


(まだ1分経過していないのか?)


「『好意があr』」

「いやあああああ!!!」


ズゴォンッ!!!


カイトの言いかけた言葉に対し、予測で真っ赤にしたメイダは、魔力の籠ったビンタをアルベルトの頬に力一杯打ちつけた。


「え?...あれ?おいバカベルトー、生きてんのかー?」


「はぁ...はぁ...はぁ....カイト」


「ん?っおい!」

ビリビリッ

ボッ!


息を荒くしたままメイダはカイトに近づき、両手に持った紙を奪い取り徐にちぎり始めて火魔法で灰にした。


「クラスのみんなに言ったら殺すから!」


「うっ...はい、それとー言いづらいのですがー...一応失格です」


「...え?」


「目、時間内に逸らしたんで、というより魔力禁止のルールも破っちゃってます...」


「...」


こうしてメイダ・アルベルトのペアはルール違反により失格となり、ヴァイスとカイトによってキャンプ場へと送られた2人。


「アルベルトの奴死んでなくね??」


「メイダも一点を見つめながら何かボソボソ言ってるよ...」


ヴァイスの背に全身をぐったりとさせて気絶しているアルベルトと、アルベルトを殴り失格となってしまった事によって情緒をコントロールする事ができなくなってしまったメイダを見て、鳥肌が浮かぶメルトとタリカ。


「ここには2人を連れてきただけだから、引き続き進行してくれ〜セニカ〜!」


「わかったー!じゃあこっちは始めとくねー!....って事で準備はいい2人とも?」


「うっし!俺はいつでも平気だぜ!」


「あー、やだなー」


靴紐を結び直して準備万端なメルトに対し、ホラーが少し苦手なタリカはいまいち乗り気じゃない様子の中、メルトを先頭に2人は暗闇の中消えていった。


そこから1つ目の関門はメルトが手を入れて冷たい手が触れた瞬間すっ転び、タリカが見かねて代わりに鍵を取った事でクリアし、その先で設置された罠を全て潜り抜けて、現在2人は2つ目の関門で丁度麻袋に書かれた説明を読み終えた所であった。


「きゃあああ!!お化けぇえええ!!!」


浮かぶ無数の霊魂を模した光魔法の球体を見て、メルトの背後にいたタリカは急いで背中にしがみつき微生物一匹も通さないほどに目を力強く閉じる。


「うああああ!!急に叫ぶなよ!こえーだっ...ちょっ離せっうぉあっ!!」


そんなタリカの叫び声に驚いたメルトは一瞬よろけ、そして運悪く道に転がった小石に躓き、目の前の祭壇に力いっぱい頭をぶつけた。


ゴンッ


「痛ってて...闘気がなかったら絶対たんこぶどころじゃなくて頭蓋骨...あぁぁっ!ちょっと待ってって!あぶないっ!」


「きゃあっ!」


ガシャャャッ!


頭を手でさすりながら顔をあげ、今も尚背中に顔を埋めて一緒に倒れたタリカの体重に反発しながらうつ伏せで上半身を反り上げた瞬間、今度はメルトがぶつかった勢いで十字架を支えていた古い木の支柱が壊れ、これも運悪くメルト達に覆い被さるような形で倒れてきて、それをメルトは強引にタリカと自分の位置を入れ替え、代わりに下敷きとなった。


「痛ってー...何でこんな連続で...」


「ごめん!大丈夫メルト!?」


「闘気のおかげでさほど痛くねぇよ!ほらさっさと立てよ!もう変にしがみつくなよ重てーから」


「何よ...ちょっとくらい怖がっただけで」


メルトが差し出した手を掴み、あえてこれでもかと体重を乗せて起き上がるタリカ。


「重い重いっ!逆に引っ張んなよっんぐっ!」

「ほら手を伸ばしたんだから紳士っぽく最後まで起こしてよね!」


「俺は紳士じゃねぇ....ん?」

パッ


「きゃあっ!」

ドスン


「もうバカ!ほんとに離すなんて最低っ!」


突然何かに気が付き手を離したメルトのせいで、勢いよく地面に尻餅をつくタリカに、メルトは徐に視線の先へと歩みよる。


倒れてきた十字架に架けられていた罪人の頭部、正しくは麻袋がかけられている部分にあるはずの麻袋が無くなっている。


しかしメルトの視線の先はそこではなく、真っ直ぐにその首元から数センチ離れた麻袋、でもなくその中に入っている光だった。


「なぁ、あれ魂っぽくね??」


「んもうっ、どれよ?」


バサッ


「おぉ!ほら!」


尻餅から立ち上がると同じタイミングで麻袋を引っ張ると、中からそこら中に漂っている霊魂と同じ色味の霊魂が姿を現した。


「絶対これだろ!ほいよっ!」


「ちょっと急に投げないでっ...っと!」


下から掬い上げるフォームでタリカに霊魂を投げ、難なくそれをキャッチした後、祭壇に設置された桶の中に霊魂を入れると、ジュラン達と同様に眩しい光を放ち、それから光が収束するとその場には鍵のみが残った。


「ひとまずクリアだな、ってて、まだちょっと痛てーな」


「終わったらカイトに回復魔法かけて貰うしかないね」


...


......


「...解せん、非常に不愉快だ」


木陰から一連の状況を見ていたカイトは非常に硬い表情で一点を見つめていた。


「あの2人をくっ付かせるとしたら、やはり最終関門しかないか...」


そんな硬い表情のカイトの傍で同じく一点を真剣な眼差しで見つめていたニューロ。


「ええい!こうなったら他の事はどうでもいい!最終関門の質問やら何やらは抜きだ、愛の形を見せなかったらクリア出来ない仕様に変更だ!作戦は向こうで話す、飛ぶぞニューロ」


こうしてカイトとニューロは最終関門へとテレポートで飛んでいき、建物内の仕掛けを弄り、メルトとタリカを待ち伏せ、そこから数分後2人は建物の扉へと到着した。


「扉が2つあって鍵も2つ...ここからは別ルートになるのかな?」


「見た感じそうだろうな、大丈夫か?本気で怖いなら無理する事はないぞ?」


「...ううん、せっかくここまで来たし、それに私達が最後のグループだから攻略したい!」


「そか、、おっしゃ!やったりますか!松明は渡しとくぞ」


「うん、ありがとう」


こうして2人は鍵を開けて、建物の中へと入る。


「おーい!タリカー!聞こえるかー??」


「...」


返事はなく、壁に耳を当てて耳を澄ませるが何も聞こえず、ひとまず奥に壁掛けられた松明まで歩く。


左手に壁掛けられた松明を手に取ると、右手側の壁から文字が光を放ちながら浮かび上がった。


『無数の仕掛けを潜り抜け、覚悟を示すべし』

ボッボッボッボッ


文字を確認した後、10メートル間隔で設置された松明が一つずつ灯りを灯し、やがて200メートル程の遠さで灯りが止まる。


(うわー、結構奥まで続いてんだな...でもよく見たら結構地面に罠っぽい紋章が幾つかあるし慎重にいけば問題なさそうだな)


そして一歩二歩とゆっくりと慎重に進んでいくと、何かが作動した気配を感じ警戒レベルを引き上げてその場に立っていると、妙に廊下が明るくなっている感覚がし、加えて温度の上昇も感じた。


(明るくなって...まさか)


嫌な予感を感じ、背後を振り向くと来た道から炎が徐々に燃やす範囲を増やしながら、押し寄せてきていた。


「ははっ、こいつは罠とか気にしてる場合じゃねぇ....」


少し足早に歩き始めるも、今度は罠の警戒が疎かになり、地面から岩がメルトの大事な大事な子メルトに直撃した。


「うほぉっ!...ぅくっ、股間はダメだろ流石に」


止まって痛がっている余裕もなく、再び歩き始めるも、2歩目で罠が作動し、今度は右の壁から岩が勢いよく押し寄せ、メルトの横腹に直撃する。


「ぐっ!闘気がなかったらやばかった...てかなんで股間の時は闘気が出なかったんだよ...」


そして3歩目、4歩目と連続で罠が作動し、立て続けに起こる不運に対してなのか、はたまた自身の運の無さに対してなのか、いずれにせよ運の無さに変わりがない事に対し堪忍袋の緒が切れるメルト。


「あぁ!もうしらねェ!こうなったら突っ走ってやらぁ!!」


拳大の石、体を浮かせるほどの突風、膝の位置までハマるぬかるみ、一瞬息ができなくなるほどの冷たい水、落とし穴、迫り来る壁と天井、エトセトラ....迫ってくる猛火から逃げるように幾十もの罠に襲われながらも、少しだけ余裕を持たした状態で広い空間がある所まで走り切ったメルト。


「びしょびしょだし...痛いし、前が見えねぇ....こんなのタリカに見られたら」


「見られたら何??」


「んぐっ無事だったか!?腕はあるな!?足もある!耳も鼻も全部ある!....っ!胸が..ぶごぉっ!!」


「いきなりテンション高いのよ...ってか何でそんなにボロボロなのよ...」


いきなり背後から現れたタリカに先ほどの独り言が聞かれた事に動揺し、誤魔化すように罠による傷がないか試しながらついでにいつもの弄りを入れ、傷を増やすメルト。


「いってて...相変わらず容赦ねぇな」


「あんたが悪いんでしょ変態」


「そんな事より火はどうだ?...ふぅ、消えてるな」


「もしかして罠でもあったのそっちは?」


「あったのってそっちはなかったのか逆に?」


「うん」


キョトンとした顔をするタリカを見て、ため息と共にその場に座り込むメルト。


「そりゃあ俺のルートは壮絶だったぜー、なにせ...」


メルトの苦労話が始まろうとした途端、急に辺りを見渡すタリカに思わず黙り、タリカのかざす松明の火を頼りに空間内を見渡すメルト。


「今何か音がしたと思う」

ブォンッ


「えっ!」


「出口を探さないと!」


タリカの言葉がまだ終わりを迎えていない段階で空間の四隅から炎が噴き上がり、徐々に炎が中心へと狭まっている事に気が付いた2人は急いで出口を見つける事にした。


「あった!炎が現れたお陰で壁に書かれていた

文字が見える!」


出現した炎の明るさで明るみになった天井に刻まれた文字を読み上げる2人。


「「愛の証を示せ、さすれば扉は開かれる」」


「え?」


「愛を示すのか?ここで?」


「ちょっと待ってそれってどういう示し方!?」


「ど、どうしたよおい、急に焦り始めるなって怖いだろ...」


意味を理解したタリカと、未だに状況がつかめていないメルトに対し、タリカは俯きながら小さい声で呟いた。


「...た、多分キスとか...そういうのを...しないと...」


そんなタリカから出た言葉に普段はおちゃらけて、不真面目なメルトでさえも迫り来る炎のせいか、若干顔が熱くなり、僅かに胸が高鳴り始める。


「ちょちょちょ...ここでは流石に無理があるだろ!見ろよびしょびしょだぜ!?たんこぶだらけで服も汚れてるし!場所も場所だし!そもそもいきなりキスって過程を飛ばしすぎだろ!」


「た、確かに...よく考えたらここでは...でも折角ここまで来たし...」


「無理無理!ここでは絶対無理!あいつら見てんだぜ!?」


「でも早くしないと炎が来ちゃうよ!あんたも男なんだからさっさと!」


「違う違う!俺は元々卒業したら告白するつもりだったんだ!なのにここでは流石に!」


ブォンッ!

「っ!い...いいじゃない別に今でも!このまま示さないで全てが無駄になって丸焦げになるよりかは!」


「そんなもん嘘で言いたくねェよ!これくらいはちゃんとしときてぇんだ俺は!第一お前が俺の事を好きかどうかもわかんねぇのにいきなりこんなとこで告白して嘘の返事だけ貰った所で告白損じゃねぇか!」


ブォォォッ!!


「バカね!そんなの好きに決まってんだから早くしなさいよ!汚くても濡れてても、原型が分からないくらい顔が膨れ上がってたとしても、あんたが影で人一倍努力してる事だって、明るくて面白い事も全部含めて好きだから早くしなさっ.....え?」


「え?」


火の手が迫り来る緊迫した状態で、無我夢中で胸の奥にしまい込んでいた気持ちをひたすら叫び続けたタリカは、突如冷静になり、同時に今にも爆発しそうな感情になると同時に、お互いの目が合った。


恥ずかしさのあまり松明を落とし、両手で顔を塞ごうとしたところにメルトが両手を掴みそれを止めた。


「ごめん...俺がしっかり男らしくしてればそんな事言わせずに済んだのに」


「離してよ....今めちゃくちゃ恥ずかしいから...それと分かったんだったら早くしないと」


「うん、でもやっぱりできない」


「...っ!」


「あぁ、そういう意味じゃなく適当にこういう状況に追い込まれたから告白するんじゃなくて、俺は今から本心で俺の気持ちを伝えたいって事」


「....」


一瞬恥ずかしい気持ちが少しばかり苛立ちに切り替わろうとしたところだったが、続けたメルトの言葉に苛立ちは消え、恥ずかしさが残り、同時に心臓が高鳴り始めたタリカ。


「俺も一生懸命で人一倍努力をするタリカが好きだ、ご飯を食べてるとこも好きだし、ちゃんとバカな俺に勉強も教えてくれるし、そういう献身的な事してくれてる間にいつの間にか好きになってた。今は状況が状況だから手短に済まさないとだけど、本当はもっといっぱい好きなところはあるし、嫌いな所は今のところないけど、タリカに対してだったら嫌いなところまで好きになれそうな気がするんだ。さっき言ってくれた気持ち、本気で嬉しかったし俺も好きだ、だから俺と付き合ってくれ!」


僅か50cm未満程までに迫り来る炎の中、真っ直ぐに1ミリも視線を動かさずただタリカの顔だけを見つめて、思いのままに言葉を並べた。


そして気になるタリカの返事はというと。


「んむっ!」


言葉ではなく、メルトの首を両手で引き寄せ、唇を交わした事で返事をあげる。


ガコンッ


「うわっ!」

「なに!?」


天井が開き、2人が立っていた地面が盛り上がり、やがて空間の開いた天井を突き抜けピタリと止まった。


「クリアって事でいいのか...?」


「そう見たい...」


先程までの緊迫した状況から物静かな夜の森へと景色が変わった事に少しばかりの違和感を感じつつも、前方に下へと降りる岩の階段が見えたので、真っ直ぐ降りる。


「ねぇ、私達..」


「うん、付き合ったんだな....」


感情と状況の緩急が激し過ぎたあまり、友達以上の関係にステップアップした事に対して現実感を感じられない2人。


「ぷっふふ、それにしても酷い顔だったね」


「...ははっ、もう何が何やら訳が分かんねーけど、タリカが俺の彼女になったんだから結果オーライだな!」


「うん、ひとまず先に進もっか!松明は無くしちゃったけど、何とか見えるし」


そして2人はみちなりを少し進んでいくと、小さな丘を見つけ、丘を登った先の平地の中心にあった攻略者を褒め称える石碑に嵌め込まれた琥珀色の魔石を取ると、来た道とは別の脱出ルートを進んだ。


そんなメルトとタリカが攻略する5分ほど前...


「うがぁああああ!!まさかこんな事になるとはぁああああ!!」


「メディィィィィック!!!ニューロがリア充によって生み出された光によって消失してしまいそうでぇぇぇす!!!」


「まさかあの2人が付き合う事になるとはな〜、ってか何してんだお前達?」


「マシュー殿、拙者はもうここで息絶えるであろう...可愛い妹達の面倒を...」


「ぬぉおおおお!!!ニューロがぁああ!!!マシュー!!」


「お前一人っ子だろ、早く魔法を消して俺たちも撤収するぞ!」


そこからカイト、マシュー、ニューロの3人組はタリカとメルトが拠点に帰るよりも一足先に片付けを済ませ、拠点へと戻った。


「あれ?先生は?」


「師匠は2人の子守だ、それよりセニカ」


「ん?どうしたの?」


耳打ちしようとしてくるカイトにキョトンとした顔で耳を傾けると頬にキスをされたセニカ。


「何があっても俺たちがウルミストのナンバーワンカップルだ」


「もう、いきなりどうしたのよ」


「ははっ、あの2人が帰ってきたら分かるって、あ!ほら!」


2本の松明の光が森の方から僅かに輝いているのが見え、徐々に2人の姿が露わになった。


そんな2人に周りがクリアしたかどうかでざわつき始めていると、10メートルほど先から大きい声でメルトが叫んだ。


「クリアしたぞー!!!」


「「「うぉおおおお!!!」」」


男性陣から歓声がなり、女性陣はタリカを囲むようにより始めた。


「へぇ〜、あの2人が魔石を取ってきたんだ〜!」


「それだけじゃないぜ〜ほら見てみろメルトのあのバカらしい顔」


側から見ているセニカとカイトの会話が終わるタイミングでメルトが大きく咳払いをした。


「えー、今回の肝試しクリアしたんですけども、それ以上に剣術科の皆様にご報告したいことがあります!」


「「「うぉおおおおお??」」」

「え、なになに!?」

「まさかあんた達!?」

「なんだなんだ、付き合ったとかって言うんじゃねぇだろうな」


歓声や色んな憶測が飛び回る中、天色の生徒の声にメルトがジト目で睨みつける。


「え!?まさかホントに付き合ったのかお前ら!?」


「「「えーーーー!!!」」」

「「「キャーーーーー!!!」」」


「キャー!メルトとタリカが!?」


セニカの驚きにカイトは無言で頷く中、男子生徒の驚きと、女子生徒の高い歓声にメルトはタリカの手を取って声高らかに宣言した。


「付き合ったどーーーー!!!」


「ぶふっ!!」


前世で聞きなれた言葉に思わず含んでいた水を噴き出してしまうカイトであった。


こうして園外訓練の最終日はタリカとメルトが付き合った事で幕を閉じ、後日午前中にテレポーターでウルミストへと帰り、そこから解散し、その日は終わりを告げた。

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