第2章 園外訓練最終日 Ⅰ
ーー園外訓練最終日
「ひとまず全員揃ったな、お前達も分かっている通り本日で園外訓練は終わりだ、まずは現時点での各チームの得点を改めておさらいすると」
【ジュランチーム】 3個
【アルベルトチーム】 5個
【セニカチーム】 6個
【カイトチーム】 7個
「そしてこれに加えカイトの陣地にはまだ未発見の魔石が3つある上、一昨日の一位報酬で得た縄張りへの侵入禁止がある」
「うっほほー、ほぼほぼ勝ったみたいなもんじゃん?」
ドヤ顔で隣の彼女ではなくそのまた隣にいるアルベルトにドヤ顔するカイト。
「ここで作戦言っちゃおうかな〜〜〜???まず昨日の襲撃で魔物も殆ど居ないからおれらは魔石を好き放題探れるだろ?ほいで俺がセニカ以外の縄張りに入って魔石を探索しますぅ仮に見つけるとしますぅ、そこで出くわすとしますぅ、残念テレポートで陣地に逃げれますぅ、もうほぼ勝ち確ぅ〜」
「おいカイトー、さっきから黙って聞いてたら随分と余裕そうだな〜、お前んとこの残りの魔石が本当にお前らの陣地にあるかなんて保証はあんのかー?」
次々と作戦をドヤ顔で明かすカイトにジュランが横槍を入れる。
「あぁ?なんだよその言い方?」
「へへーん、訓練開始が楽しみになってきたね〜こりゃあ」
「最終日だから昼くらいには訓練は終わる予定だが、このまま終わっても何も面白く無い。そこで始める前に1つ追加事項を発表する」
(追加事項!?最終日に来て追加事項はもう嫌な予感しかない!どうせクイズ番組みたいに正解すれば1万点みたいなオチだろこの展開は....)
突如ヴァイスの口から出た言葉に嫌な予感を感じるカイト。
「この森林の何処かに10点の魔石を隠した」
「えぇーーーー!!やっぱそういうオチかよーー!!」
ヴァイスの突然のルール追加に一番不服を表したのはカイトだった。
「仕方がない、先日の魔物の襲撃で不利なチームの形勢逆転できるチャンスが無くなった、報酬の効果も一応無効にしようとしたがそれでは流石にどのチームにとっても不公平だしな」
「まぁ俺としちゃあまだまだ逆転の可能性が残ってるからありがたいんだけどねぇ〜」
「ふっ、さっきまでの威勢はどうした?自信を無くしたのか?」
「あぁん?現状有利なのは変わってねぇんだよタコが、お前が10点狙っている間にお前んとこの魔石全部奪ってやろうかぁ?」
「はいはい、もうそこまでにしてよね2人とも」
「それとカイト」
一触即発のカイトとアルベルトの間にセニカが入り、今度はヴァイスが少し困った様子で口を開く。
「実は昨日ジュラン以外のチームの生徒達がお前のテレポートだけはナシにしてくれと苦情がきてだな、それが...」
「あぁー、言われてみれば確かにズルいっちゃズルいっすもんね〜」
「ん?お前の事だしもっと駄々をこねると思っていたが」
「もー俺は師匠にどんだけガキに見られてんすかー」
「まぁお前が納得してくれれば俺としても都合がいい」
「いや、1つだけ譲れないものはあります!禁止じゃなくて制限っていう形で手を打ちましょう!確かにテレポートが強すぎるってのは分かりますけど、これは俺が頑張って習得した歴とした魔法です、この点においては師匠も俺に気まずそーにしてたんで分かっていると思うんですけどーー」
「どう言った制限を?」
「相手エリアには侵入しないですけど、自分の領地内なら好きに使う事だけは許してください」
「....確かにそれだと昨日来ていた話の内容には何も関係していないな」
「要は俺がテレポートですぐに現れて、逃げていくのがダメだったんでしょ?」
「話が早くて助かる」
「お前らもこれでいいかぁー?」
「すまねぇなカイト、、」
ヴァイスとの話が終わりジュランのいるチームに向かって語りかけるカイト。特にマイナスな感情で言ったわけではないが、申し訳なさそうな顔で手を合わすグレイル。
「んだよっ!そんな顔すんじゃねぇよグレイルー、そんなに急に現れたのが怖ったか?」
「あれのせいで一昨日殆ど寝れなかったんだぞ?」
そんなカイトの肩組みにまるでトラウマを思い出したかのような表情で震え始めるグレイル。
「よし、お前達そろそろ配置につくんだ」
そしてそうこう話している内に訓練開始の合図がヴァイスの放つ火球によって放たれ、一斉に全チームが森へと入って行き、園外訓練の最終日が始まった。
「作戦はどうするでござるかカイト?」
「まずは魔物もいないし、入られる心配も無いから各自で残りの魔石を探す方向でいこう、それが終わったら相手陣地に侵入するか、10点狙うか決めよう、2時間後に拠点集合で!」
「「「了解」」」
こうして各自魔石を探す事になる中、カイトは走る方向を180度変え、来た道を戻り始めた。
ザザッ
「ふぅ、、まだ誰もいないみたいだな」
茂みを抜けコテージに戻って来たカイトは真っ先に男子用と女子用の間の空間にある訓練3日目に作ったキャンプファイアーにいる人物の元へと向かった。
「どうして分かった」
今はもうほとんどが炭と僅かな火しかないキャンプファイアーの跡地に薪を焚べているその人物はカイトの足音が気付くなり、振り向きざまに口を開いた。
「いやいや、師匠その言い方怖すぎますって、まるで今から殺される被害者じゃないですか俺」
「気付くのが早すぎだカイト、俺はもう少ししてからそれぞれの陣地内に攻め込むつもりだったが...」
「すいませんね感が鋭くて、っていうよりこれ以外考えられなかったすけどね」
「そんなに分かりやすかったか、、」
どうやらカイトに思っている以上に早く自分が10点の魔石を持っている事を勘付かれた事に落ち込んでいる様子のヴァイス。
ヴァイスなりに考えたつもりなのだろうが、カイトからすれば今の状況を考えると、10点の魔石を何処に隠すかによって各チームの有利不利が変わる。
そうなるとゲームバランスは崩れるため、生徒達からの不満も挙がるので、それだけを考えると自然と何者かが持っていると推測するカイト。
そこから後は誰が持つのが相応しいと考えた結果、森林の主であるエギネスには倒した際に任意の相手チームから3点を奪えるのでエギネス1体を3点と考えた際、10点だとエギネス以上に強い相手が持っている考えるのが自然で、そう考えた場合この森でエギネス以上に強い存在が居るとすればヴァイス以外カイトには思い付かなかったのだ。
そんなカイトの推察を聞いたヴァイスは顔の表情は何一つとして変わっていないが、2年程も知り合ってくるとカイトには顔色1つ変わらずとも少し凹んでいる事が分かった。
「っとまぁこんな感じで、言い当てたのが俺だけじゃないってのがこれまた難しいよねぇ、なっセニカ!」
そういうとカイトはヴァイスではなく、その背後の木の陰に隠れているセニカに向かって話しかける。厳密にいうとセニカの横にいたチームのメイダの髪が木から風ではみ出たのが見えていた。
「....えっへへー、バレちゃったー」
イタズラがバレて見つかった子供の様な仕草で出てくるセニカに一瞬胸が縮こまるもすぐさま平常心を取り戻す。
「戦ってるところに横からバサっといっちゃいたかったのにこれじゃあ作戦失敗ねセニカ」
「そうね、仕方ないからここは強行突破よみんな」
そういうとセニカチームのタリカとオーロンも木の背後から現れた。
「4人、、そうなるよな〜」
セニカチーム4人に対し、カイトは1人ましてや10点の魔石の所持者であるヴァイスとなると明らかにカイトの手に余る状況。
そんな様子を伺っているカイトに再び悲報が舞い降りる。
「よぅよぅ、お前らも俺とおんなじ考えだったかぁ〜」
「はぁ、、セニカとカイトが先生を追い詰めている隙にいいとこ取れば良いものの」
今度は大きな声を張り上げたジュランとその横で頭を抱えるグレイルとメウィンとモルスがカイトの左側から現れた。
「セニカはまだ分かるが、貴様達バカと同じ考だったのは気に食わないな」
そして次にアルベルトがカイトの右側から憎らしい声を上げながら、ルシータとメルトとオルグを引き連れてやってきた。
「おいおい、俺だけ1人なのは流石にやっべぇな〜」
(まっ!これでコイツらの陣地には誰もいない事が分かったし、、ってやっぱそうなるかー)
自分以外全員がチームで行動している事を知ったので、すぐに別の作戦を立てようとしたが、それぞれのチームの何人かがこの場から去り始める。
アルベルトチームからはオルグとルシータが居なくなり、4強以外だと1番腕の立つメルトを残し、セニカチームは同じく2番目に腕が立つメイダを残し、ジュランはその余裕からかカイトと同じく誰も残さず耳打ちだけをして全員下がらせた。
1対1対2対2対1の五つ巴というべき状況が出来上がり、全員愛剣を取り出し魔力を密かに練りあげる。
ビュンッ
そんなそれぞれが出方を伺う中、真っ先に動いたのはカイトだった。
『紫電』
ヴァイスの眼前まで一瞬で近づき拳を放つ動作にヴァイスは迷わず頭を鷲掴みにし、地面に勢いよく叩きつける。
一瞬生徒に向かって放つべきではないレベルでの攻撃に体罰を疑うべき所だが、叩き潰された瞬間カイトの体は四散した。
(やっぱりバレてるか!)
『撫雷』
叩きつけると同時にヴァイスの背後にテレポートしていたカイトは高出力の電流を纏った斬撃を放つ。
パシッ、グワッ!
そんなカイトの不意打ちにヴァイスは振り向き様にカイトの手首を掴み、距離を詰めに来たジュランチームにカイトを投げ飛ばす。
「邪魔だよっ!」
『焔浄刀』
飛んでくるカイトを技とジャンプして踏み台にそ、両手に生成された炎の刃をヴァイス目掛け上空から放つ。
ガシッ!
「ぬおっ!カイトっ、テメッ」
「俺をタダで踏み台にして行けると思うなよっ!」
「いつもなら仲良く協力し合えと言っている所だが、今はかえって都合がいい」
右足をカイトの伸ばした闘気の腕で掴まれ、ヴァイスの手前で地面に倒れそうになる所をヴァイスが背負い投げでジュランを地面に投げつける。
『御劔の舞』
『鬼威』
そして今度は真正面からアルベルト、それ以外の全方向からセニカの魔法剣が一斉にヴァイスに斬りかかった。
「剣がないと厳しいな」
そう言ってヴァイスは薪割りに使っていた斧を地面から拾い上げ、起き上がり様にアルベルトの刺突を斬りあげて弾く。
ブゥンッ
バキィン!!
そしてそのまま背後を振り向き斧を払うと、風圧で斬りかかってくる魔法剣を全て砕いた。
「剣風だけで壊すって...やっぱ師匠さすがだなぁ」
フッ
『エレメントスラッシュ』
キィンッ!
ヴァイスが振り向き斧を払うと同時に、今度はメイダがヴァイスの背後にテレポートし、微精霊の力を宿した剣撃を放つが、これも弾かれる。
『御劔の舞』
パシッ
渾身の不意打ちを弾かれるも一切動揺せず、天歩で体制を立て直し、もう一度ヴァイスに向かって走り出すメイダの背後にセニカの魔法剣が4本出現し、その内の一本を手にするメイダ。
『ブレイドダンス』
二刀流による華麗な剣捌きに、セニカの魔法剣によるアシストが同時にヴァイスに襲いかかる。
シュッ
キィン!
ダァンッ
キィン!
メイダの攻撃を避け、反撃しようにもセニカの魔法剣に遮られ、メイダの攻撃から距離を取ろうとしてもまたも魔法剣に遮られるヴァイス。
「成程、メイダの俊敏さを活かした良いコンビネーションか、だがこうしてしまえばどうだ?」
シュンッ
パシッ
そう言ってヴァイスは背後から斬りかかってくる魔法剣を最小限の動きで躱し、魔法剣を掴んだ。
「えっ...あれっ!」
「4本もの魔法剣に力を分散させてれば集中力も操作する魔力も分散される」
そう言ってセニカの魔法剣操作を力技で制し、自分の剣の様に扱い始めた。
(まずい!まさか魔法剣を取られるなんて!)
セニカの魔法剣を構えるヴァイスにメイダは躊躇わず向かう。
そしてメイダに向かって斬りはらおうとするヴァイスだが、魔法剣を振りかぶる瞬間、音を立てて魔法剣が四散した。
「解除すれば良いだけの話」
「それが狙いだ」
「いやっ、ちょっと止まんなtっ!」
魔法剣をセニカが解除するもはなから使えない物と認識していたヴァイスは消える魔法剣に動揺するどころか、寧ろ魔法剣を攻撃の直前で消されると確信していたメイダのカウンターを狙っていた。
「攻撃中はセニカのアシストはないだろ、どうするメイダ」
「参りましたぁ〜!」
「よし」
ポフッ
「普段なら気絶をさせている所だが、代わりに5分間その場で止まってもらう、まぁ攻撃したければ止めんが、次は容赦しない」
空中で剣を払いながら降参するメイダを優しく受け止め、その場に置いた後、体制を立て直したアルベルトが背後から再び奇襲を仕掛けるアルベルトの方を向く。
「悪いがお前に手加減出来るほどの余裕はない、多少攻撃は許せ」
『鬼威』
『残身』ブゥン
ドォンッ
斬りかかってくるアルベルトを前に身体を3重程にブレさせた後、警戒して動きが鈍くなるアルベルトの肩に予備動作なしで蹴りを放ちアルベルトを吹き飛ばす。
『刹界』
蹴り飛ばしたアルベルトの下をすれ違いでヴァイスにクロスをさせた腕に握った愛剣と闘気の刀を一斉に払う。
ブゥン
ガシッ
「ちょっ、、」
クロスさせた腕を払おうとした瞬間、ヴァイスは距離を詰め、腕が払われる前にカイトの両腕を掴む。
ダァンッ
『漆ノ劔・陽炎』
そして何かされると歯を食いしばって闘気で体をガードしていると、ヴァイスは何かに気づきカイトの腕を離し、すぐにバックステップでカイトと距離を取る。
そしてその直後ヴァイスの元いた位置に真っ赤に燃え盛る魔法剣が地面を抉った。
「もういっちょ!」
『刹界』
バックステップで取られた距離を雷走で近づき、再び腕をクロスさせ斬り払う。
しかしまたも直前で両腕を押さえ付けられるが、カイトの表情に先ほどの焦りはなかった。
「良いんですか?両手を使って?」
『闘砲』
押さえ付けている両腕の下から伸びた筒状の闘気から圧縮されていた魔力が放たれる。
魔力が放出される直前にバックステップで距離を取ろうとするも、衝撃波で後方に吹き飛ばされるヴァイス。
そしてカイトは吹き飛ぶヴァイスの羽織っている上着の内側、丁度左胸の位置に光る何かが見えた。
(成程、そこだな)
『紫電』
一筋の紫色の雷光が吹き飛んでいるヴァイスの元へと一瞬で追いつくと同時に、空中でヴァイスは天歩で体勢を立て直す。
目の前にはカイトが剣を構えている中、ヴァイスの背後、真上、左側から更に殺気が飛んでくる。
『悉皆』
『鬼哭啾々』
『皆剡』
血走る剣閃に4本の魔法剣、そして迸る灼熱が同時に襲いかかった所でヴァイスの口角が上がった。
「まさかここまで生徒に追い詰められる事になるとはな....」
追い詰められる中、状況に似つかわしくないまるで我が子の成長を喜ぶ親の様な暖かい表情になるヴァイス。
しかし柔らかい表情のまま放った次の一言に、4人が一斉に身震いし始める。
「そういえば本気で攻撃するのは今回が初めてだったな」
全身の毛が逆立ち、先ほどまでは包み込んでくれる様な、引き寄せられる空気とは真反対の相手を寄せ付けない、近寄りたくない気持ちにさせるほどの威圧を放つヴァイス。
そんな放ったプレッシャーで動きが僅かに鈍った4人の隙を見て、ヴァイスは天歩で空を蹴り、カイト達と距離を取り全員を前方に捉える。
それからすぐに右手を振りかぶり、力一杯振り下す。
『威剣』
斬撃は見えない、しかし歪んだ空間が徐々に押し寄せて来ているのが見えた4人はすぐさま追撃を中断し、散開した。
歪んだ空間はカイト達の後方にあった木々を次々と押し潰していき、やがてそこには幅4メートルほどの道ができていた。
「やっば、あんなの闘気なしで食らったら死ぬぞ絶対....」
ゾワッ
ヴァイスの手刀によってできた道を振り返って見ているカイトは瞬間、背後から凄まじいプレッシャーを浴びる。
『雷走』
一般人なら蛇に睨まれたカエルの様に動けなくなる所だが、放たれた圧より更に深く、悍ましい物を経験した事のあるカイトはヴァイスの背後へと回る。
『雷貫』
パシッ
「うっそ!それされると...」
グワッ
「この4人の中だとお前が1番厄介だからな、少し寝ていろ」
((アッシ.......))
背後に回って放った渾身の突きは、見事に刀身を闘気を纏った素手で掴まれ、その後引き寄せられると同時に顔にまるで岩が飛んできた様な衝撃が顔中に走り、最後は自身の精霊の名前を呼ぼうにも目の前の視界が消える。
「やっべーなこりゃあ、どうやって取れってんだ」
「カイトが一瞬でやられちゃったよ」
「来ないのか?だったらそのまま動くな、元々各チームの縄張りにこっちから侵入して見つけた俺を3回触れれば魔石を渡す段取りだったからな、お前達4人の相手は段取りにない為少し強引な手を取らせてもらった」
「って事は別に倒す必要はなく、3回触れる事ができればクリアという事ですか?」
「あぁ、だから10点が欲しければ俺が縄張りに入るまで待つ事だ、それ以外の場合は俺を倒す事を条件にする」
「て事は今倒せば10点貰えるけど....」
状況を整理するセニカは、先程のヴァイスの戦いっぷりを思い出すと剣を鞘に戻す。
「絶対無理だよあんなの、3人で協力したって行けるかわからないんだから、私はパス、行こメイダ」
「セニカちゃん脱落か....やるか?アルベルト?」
「セニカが拠点に帰るなら侵入される恐れがある、俺も今回はやめておこう」
「あんだよ...だったら俺も帰らねーといけねぇじゃんかよ.....かぁ〜本気になった先生と一回手合わせしてみるのも悪くねぇと思ったのによぉ〜」
こうしてカイトを残してそれぞれが縄張りへと姿を消していく。
(後はカイトが目を覚ます待つか)
ブワンッ
ヴァイスがカイトを担いで焚き火の元へと連れて行こうとしたその時、カイトの肩から光の球体がヴァイスの目の前に現れ、球体から徐々に160cm程の人型へと変形していく。
「精霊か、主が気を失っている状況で何しに出てきた?」
『んーーーーはぁっ!やっぱ外の空気は最高だぜ』
「.....」
『っし、そんじゃあ闘うか!』
「戦う?カイトの身体の中でルールを聞いていなかったのか?」
『あぁ、要は今戦っても良いんだろ?』
「そうだが、1人でか?」
『戦うっつったらつべこべ言ってねぇでかかってきやがれよっ』
ダッ
先に仕掛けるのはアッシュ。
闘気の腕を4本生やし、1ステップでヴァイスの目の前まで距離を詰める。
『天烈拳』
ブォンッ
右側の3本の腕から放たれた全力の突きを敢えて懐に入り避けるヴァイス。
懐に入り1発目を避けるも、眼前には既に2発目の左側の3本腕から放たれた突きが迫っていた。
しかし身体を左斜めに仰向けに、まるでイナバウアーの様な体勢でギリギリ躱しながら、地面に手を付き、付いて手を起点に勢いをつけアッシュを蹴り上げる。
『威剣』
それから流れる様な動きで体勢を戻し、右手を振り上げ、手刀から放たれる斬撃を放つ。
『輪圡』
放たれた斬撃に対しアッシュは4本の腕を分離させ、それぞれの腕を4つの球体に変形させると斬撃に向けて飛ばした。
『所詮はただの衝撃波....ちっ、風を纏ってやがったか』
1つずつ球体の闘気をぶつけて衝撃波の威力を弱めていく目論みだったが、最初の闘気がぶつかったのではなく、真っ二つに割れた事に対し即座に魔力探知を使って原因を突き止める。
『刀旋脚』
勢いを衰えさせる事なく真っ直ぐ迫ってくる風の刃にアッシュは空中で闘気を足場にして刃の方へと自ら落下する形で向かって行き、同時に回し蹴りを放ち風の刃を蹴り潰した。
「流石だな、だが2つ目はどうする?」
『へっ、余裕に決まってらぁ!』
『闘砲』
ドォンッ!!
両腕を前に突き出し、闘気で極限にまで一瞬で圧縮した魔力の衝撃を迫り来るもう1つの斬撃に放つ。
そんな2度のヴァイスの斬撃を真正面から打ち砕いたアッシュの目の前からヴァイスの姿が消える。
背後から左手を右肩あたりまで大きく振りかぶっているヴァイスに、アッシュは振り向き様に闘気の腕をヴァイスの左肘に伸ばし、ヴァイスがカイトの刹界を止めた要領で、腕を払う前に押さえつける。
ズォンッ!!!
『んぐっ!.....んだとっ』
突如頭上から衝撃が全身を叩きつけ、地面にめり込んだ後、クレーターが出来上がる。
『くっ....背後に回る前に一回跳んでやがったか』
「まだ俺の攻撃は終わってないぞ」
ブゥンッ!!
言葉を発しながらヴァイスはアッシュの阻害が解除された左腕を横ではなく、下から掬い上げる形で立ちあがろうとするアッシュに放つ。
『んなもん!』
放たれた掬い上げによる手刀に対し、今度は両腕をクロスさせた後、闘気を全身に纏い防御体勢を取る。
咄嗟に取った防御の体勢ではあるものの、一度アッシュが見たあの衝撃波レベルであればギリギリ防ぐ事ができるものの、ヴァイスの腕の距離が徐々に狭まる度に、アッシュの中で何か引っ掛かり、それが次第に大きくなる。
メキッ
最初に聞こえた音に嫌な予感がさらに増幅する。
そして抵抗、勢いを消す、防御、そのどれもが該当しない程に、まるで相撲の力士がペットボトルを全力で張り手した様に、アッシュの防御は虚しく、防御とは言えないほどに軽々と宙へと吹き飛ばされた。
『腕がっ....』
纏っていた闘気が意味をなしていたかというと、抜け殻の様に垂れ下がった両腕を見るなりその答えは明らかであった。
警戒していたのは衝撃波であったが、その衝撃波を放つ元をそっちのけて計算した事による大きな誤算。
通常ならそこまで考慮は出来ることだが、明らかな実力差のついた者との戦いの中で、危機に瀕した際、選択を一瞬で迫られた際の視野の狭窄はアッシュも例外ではなかった。
天高く森の辺境まで見えるほど飛ばされた所で勢いは止まり、そこから落下する。
『ここまで差があるとはな....流石だぜ』
落下している中アッシュは静かに目を閉じる。
(まだ1割も力は戻ってねぇが試してみるか)
アッシュの腰にぶら下がる喜び怒り哀しみの3つを表したお面が1つに重なりやがてそれは無表情を表したお面となった。
『三相・無常』
お面を右手に顔の前にかざすとアッシュの目が静かに開かれると、またも両肩から4本の闘気で生成された腕が生えてくる。
そして落下の延長線上に闘気の足場を生成し、1つ1つ蹴る事で落下速度を更に上昇させるアッシュ。
やがてヴァイスとの距離が狭まってくると、6本の腕を全て前に突き出し、そのままの勢いで落下した。
ドゴォォォォンッ!!!
衝撃で巻き起こる爆風に加えて、森全体が僅かに揺れる。
『天烈脚』
砂埃が立ち込める中、アッシュの落下攻撃をジャンプで躱していたヴァイスに、4本の腕を伸ばしてヴァイスの四肢を掴み、力一杯引き寄せた所に仰向けのドロップキックで迎える。
渾身の蹴りがヴァイスの腹部に命中し身体がくの字に曲がるも、ヴァイスの表情を見ると表情は何一つ変わっておらず、よく見ると腹部を突き破る勢いで放った蹴りは分厚い闘気で守られてた。
「返す」
くの字に曲がった身体を背中と腹筋の力だけで弾き返した後、両腕を掴まれていた闘気を逆に利用してアッシュの身体を引き寄せ、同じくドロップキックでアッシュの腹部に命中する。
『輪圡』
引き寄せ切られる直前に闘気に4本腕を分離させ威力を最小限に抑えつつ、分離させた闘気で球体を生成し、その中にヴァイスを閉じ込める。
『威剣』
ドゥポンッ!
放った手刀に闘気は柔らかいゴムの様にしなびやかに伸びた後、再び元の形状に戻る。
『闘砲』
右手から伸びる闘気を球体状の闘気にくっつけて、右手から圧縮した魔力を放ち、球体状の闘気の中で爆発を起こす。
しかし防御の姿勢を取ったヴァイスの体に傷は付いておらず、身に付いていた服装が僅かに破けていただけだった。
そんな無傷のヴァイスにアッシュは表情ひとつ変えず、今度は闘気を破ろうとしているヴァイスに飛びかかり、拳を放った。
ドゥポンッ
「っ!」
アッシュの拳が球体状の闘気に当たった瞬間、当てた箇所から闘気の腕が伸びて、ヴァイスは間一髪それを防ぐ。
『皕輪手』
防いだヴァイスに対し、反対側に移動し拳を放ち、それを目にも留まらない速さの連打と共に何度も繰り返す。
『はぁ...はぁ....っ!?』
『威剣』
10秒程で放った都合100数回の連打を放ち終えた後、息を切らしながら砂埃が舞う球体の中を見ると、手に何かを持ったヴァイスに人影が見え、瞬きをして瞼を上げると視界の真ん中に黒い空洞が見え、それが徐々に広がっていき、それが自身が真っ二つに斬られたことで生じた視界を分割だった。
見えたヴァイスの人影が既に剣を振り下ろした体制だったと気が付けなかった事に、改めてまだまだ足元にも及ばないと思い、構えていた拳と闘気を静かに下す。
『ちっ...やっぱやりやがるな』
徐々に体の力が抜けていき、やがて意識も落ちそうになって身体が光の粒子となっていく中、最後に何かに気が付いて嬉しそうに笑いながらカイトの肩の中へと戻っていったアッシュ。
「ここまでとはな...」
一見無傷のように見えるヴァイスだったが、僅かに切らした息と1発だけ防ぎきれなかった拳の形をした薄紫色の横腹を手で押さえながらカイトを担ぎ上げるヴァイス。
それからカイトを縄張りの入り口の木の上に下ろした後、その場を後にするヴァイス。
それから数分後....
....
.........
...............「ん〜〜〜〜」
朦朧とした意識の中、目を擦りながら身体を起こすカイト。
「はぁ〜、ダメだったか〜」
最後に見た景色とは違う場所で目が覚め、周りを見渡すと見覚えのある縄張りの景色に状況を理解し、すぐさま気を取り直して現在の状況を整理し始めるカイト。
「ひとまずダメだったし魔石探しでもするか...」
((アッシュ、俺何分くらい気絶してた?))
((10分くらいだ))
(ならみんなと解散してから大体20分くらいか、まだ時間あるし俺も魔石探す事にするか)
それからカイトはヴァイスが所持している10点の魔石を諦めて、魔石を探す事に専念し、道中でアッシュからヴァイスの所持する魔石の獲得方法を聞かされた。
結局カイトの探索した縄張りの南側では魔石を発見する事ができず、集合地点の拠点で3人が来るのを待つ。
そして事態は思わぬ方向へと進んでいった。
「え!?一個も見つからなかった?」
「途中で北西側を探索してたソロカ殿と合流してもう一度探索してみたのでござるが、見つからなかったでござる」
「俺も隅から隅まで2往復ぐらいして入念に探したけど全然見つからなかった」
魔石が1つも発見できなかった報告をそれぞれが終えた後、カイトは訓練前にジュランが言ってた言葉を思い出した。
「ちっ...一昨日俺らの縄張りにいたのはそう言う事だったのか」
「一昨日ってジュランがうちの縄張りに来てた事?」
「あぁ、多分あん時俺らがジュランの縄張りに攻めてると同時に、ジュラン側も2人で縄張りに入って魔石を取りに来てたんだ」
「あぁなるほど!それをジュラン達は魔石の確保を報告せずに自分達の陣地に隠してたって事か!」
カイトとソロカの会話のやりとりに状況を察した後、すぐさま推理したマシューにカイトが無言で頷く。
「だからその日の夜に探知機をペナルティで差し出したのでござるな」
「まずいな、もう一度作戦を立て直す必要がある」
そう言ってカイトは改めて状況を整理し始める。
【ジュランチーム】 6個
【アルベルトチーム】 5個
【セニカチーム】 6個
【カイトチーム】 7個
「こんな感じで本当の各チームの持ち点は今こんな感じだ、この状況を打破するには2つしか方法はない」
「10点の魔石...」
「あぁ、まず一つ目が師匠の持っている10点の魔石だ。これを取るには師匠を見つけて3回タッチ...じゃなくて触れないといけないけど、運の要素が絡んでくる、いつ何処で師匠が現れるのかも不明だし、待っていたのに現れなかったらそれだけで時間の無駄だ」
「諸刃の剣でござるな」
「2つ目が相手陣地からの略奪だ、今の所俺らの陣地には全チーム侵略不可能だから1番危険性も低いし、相手の点数を無くすことも出来るから一石二鳥だ。俺はこっちが1番現実的な気がするから略奪で行きたいがどう思うみんな?」
「ん〜、カイトはどうなんだ?一位になりたいのか、最下位になりたくないのか?」
マシューの質問にカイトは顎に手をやり考え込む。
「勿論狙うは一位だけど、いきなりこんな形で用意された10点っていう理不尽に正直納得いかないから、なんだろうな...他のチームに10点取られて尚且つ一位なって両方ねじ伏せたいが願望かな」
「うっ...それはかなり大変そうな内容だね....」
「ははっ、相変わらず無茶苦茶な考えだなカイト」
「10点は諦めて略奪で奪うでござるか」
カイトの回答に全員が賛同し、そこからすぐさま作戦を立て直し始めたカイト達。
そして10分後...
「どうだったでござるか?」
「ひとまず全チームの縄張り偵察してきたけど、どのチームも動く気配が無いからプランBでいこう」
「「「了解」」」
それから数分待っているとカイト達の縄張りから東の方のセニカ達の縄張りで爆発音が聞こえ、足早に音の鳴る方へと向かった。
「師匠がいるって事は、追いかけ回してんな、メイダ以外ってことは拠点にはメイダしかいないから、拠点を見つけ次第交戦して火球で知らせてくれ」
ヴァイスを魔法剣に乗って追いかけまわすセニカとオーロンとタリカ。そんな追いかけまわしている所を避けて隠れながらセニカ達の縄張りへと手分けして侵入していくカイトチーム。
そして縄張り内で拠点内を探している事数分、近くで火球が上がりすぐに、上がった火球の位置へと移動するカイト。
「やべっ!」
『双火突』
セニカ達の拠点に到着すると、マシューの剣をガードした後に足払いでバランスを崩し、両手に握った2本の愛剣を今まさに突き出そうとしていたメイダ。
『紫電』
キィンッ!!
そんな危機的状況にすぐさまマシューの元へと駆け寄り、2本の剣から繰り出された刺突を下から斬り上げて弾くカイト。
「うっそ!カイトも!?」
「いいや、全員でござる!」
『モラスバインド』
驚くメイダの声に応えたのは背後から両手を地面につけたニューロだった。
ニューロの声が聞こえ振り向こうとすると、地面が泥沼に変わっており、足を抜き出そうにも膝の位置まで引き込まれて身動きが取れなくなる。
「よし、ナイス確保ニューロ!」
「後は魔石の居場所を吐いてもらうか」
「絶対に言わないわよ!」
ぬかるみにハマっているメイダから普通に聞き出せないと判断したカイトはニヤリと目を光らせて笑い、ゆっくりとメイダに近づいて耳打ちをする。
「今魔石の場所を話すか、後から魔石を場所を懇願して話したくなるかどっちがいい?因みに俺だったら懇願して魔石の場所を吐きたくなる前に大人しく場所を言うけどな?別に全部教えてくれって訳じゃないんだぞ?半分教えてくれればいいんだぁ、1分だけ待ってやる、ぬかるみにはまって身動き一つ取れない現状をちゃーんと考えるんだぞ?駆け引きは無しだ、1分後に聞きたいのははいかいいえのどちらかだ、いいな?」
「.....分かったわ」
カイトの耳打ちに諦めの表情が少し伺えた所で耳打ちをやめ、1分待っているとメイダは素直に魔石の場所を教える事にした。
「襲撃に備えて場所はこの拠点には1つだけ置いてあって後は散らばらせているわ」
「さすがセニカ、どうだ?俺の彼女賢いだろ?」
「はいはい分かったよ...んで残りの魔石は何処に置いてあるんだ?近い所から教えてくれ」
カイトの惚気を適当にあしらい、メイダをぬかるみから出して、腕と脚を岩魔法でロックし、そのままメイダを担ぎ上げるカイト。そして丁度そのタイミングでソロカも合流した。
「ちょっと場所を教えるだけじゃ!?」
「ん?口で教えたら嘘つかれるかもしれないだろ?直接案内してもらった方が手っ取り早くて確実だ、嘘ついたらその場でお仕置きすれば良いしな、ぐへへへっ」
「絶対セニカに言いつけてやるっ!」
「ぐへへへへへっ」
「あんたほんとセニカに嫌われるわよ」
それからまずは拠点内の魔石の居場所を案内させ一つ目を確保した後、カイト達はセニカ達が戦っていた拠点の西側とは真反対の東側にある魔石を案内させた。
そして拠点から5分走った辺りに全長400メートル弱の池が出現し、メイダから池の中央に隠してあると言われ、カイトは闘気を全身にコーティングして池に潜り魔石を見つけ出した。
そんな順調に魔石を見つけていく中、南側にある3つ目の魔石を探しにいく所で問題が発生した。
パキッ
「しっ!」
木々の中を歩いてる道中、進行方向から木の枝が折れる音が聞こえ、カイトの合図で全員が足を止めて屈む。
(セニカ達か?でも戦闘音はまだ聞こえている、あるとすれば魔物か南側を拠点にしているアルベルトのチームか)
「ソロカとマシューは俺の合図で音の鳴った方に攻めるんだ、ニューロは2人が攻めたタイミングで木の上にいって援護を。戦闘が長引きそうなら作戦通りメイダを捨てて拠点に向かう、捨てる前にメイダ、3つ目の魔石の居場所を吐くんだ」
「...3つ目はこの先にある捻れた木々の中に一本だけ反対方向に捻れた木があってその根本にあるわ」
「一応俺はメイダを守るから後は任せたぞ」
そして音の鳴った方の出方を見るも動きがないので、カイトが目配せで合図を行うとマシューとソロカが音の鳴った方へと走り出した。
「ーー?」
マシューは真っ直ぐ走り、ソロカは木々の上から走って同時に音の鳴った方へと到着するとそこには誰も居なかった。
状況を報告しようとカイトの方へと振り返る瞬間、地面から手が伸びてマシューが地中へと引きずり込まれていった。
「敵襲よ!マシューが引きずり込まれた!」
「ちっ、一体誰なんだ?」
パキッ
40メートル先で引き摺られたマシューを確認したカイトは急いで応援に駆けつけようとした時、目の前の木から再び木の枝が折れる音が聞こえ、そこに意識を向けた途端、背後から気配を感じ振り返るとメルトとルシータが空中と足元に分かれた状態でカイトに斬りかかってきており、刀身は既に目の前までに迫っていた。
パシュッ
ズォンッ
そんなルシータとメルトの不意打ちを木の上からしっかりと捉えていたニューロは空中にいるルシータの目に泥を放ち、メルトの足元を泥に変形させた。
ニューロの援護にルシータはカイトへの攻撃を泥の回避に切り替え、メルトは天歩で地面についていない足で空を蹴り何とか泥沼を回避。
しかしその一瞬の後手に回った行動をカイトは見逃さず、剣を取り出す時間を省いて雷走でルシータの手を掴んで、空中にいるメルトに投げ付けようと行動しようとルシータの手を掴んで投げようとした所、背後から鬼気迫る気配を感じ、全部の行動を中断し、上空に力一杯ジャンプした。
そんな10メートル程ジャンプしたカイトに、地面から一瞬でカイトの位置まで近づいてきたアルベルトが剣を振り上げ、それと同時に剣を抜いていたカイトが迎え撃った。
『鬼威』
『千切り星』
空中で天歩を使い勢いをつけて至近距離から放った巨大な斬撃に徐々に押されていくアルベルト。
『漂水』
しかし押し戻される前にいなす方向に切り替えた後、瞬時に天歩でカイトの頭上へと移動し、今度は逆の位置関係でアルベルトが刀を構える。
『鬼突』
『黒闘っ!漂水』
シュインッ
「お前に出来て俺に出来ねぇ事はねぇよ」
(さんきゅーミドラ)
ミドラとの練習の成果を発揮し、アルベルトの刀身を背後へといなすし、両足を闘気で掴み真下へと投げつけるがーー。
(投げつける前に斬り落としやがったか...)
アルベルトが地面に衝突し土埃が舞い上がるが、投げた後にくっつけていた闘気の先端がなくなっている事に気が付き、もう一度土埃の舞い上がっていた位置を見るとアルベルトの姿は無くなっていた。
着地しマシュー、ソロカ、ニューロと順番にそれぞれの位置を確認した後、木々に身を隠しながら高速で近づいてくるアルベルトに意識を集中させる。
シュッ
ブゥンッ!
そして10メートル程にまで近づいてきた辺りで木の根っこより少し上の位置を真横に両断し、根と切り離された木をカイトに向かって蹴り飛ばす。
そんなアルベルトの木を利用した飛び道具に、正面から斬り込んで両断し、予め2撃目があると予想しながら、次の攻撃に備えていると地を這う一本の斬撃が放たれていた。
(また隠れやがったか)
『斬破』
放たれた斬撃の先にアルベルトが居なくなっていることに気が付き、適当に同じ技で相殺しようと技を放ったその瞬間、背後から気配を感じる。
『鬼威』
放たれるアルベルトの斬撃に、カイトは素早く剣に込めていた魔力を増加させ、アルベルトの放っていた地を這う斬撃を無視して、後ろ半身を闘気でコーティングしつつ振り向き様に斬破を放った。
「っとぉ...」
闘気で分厚く纏った背中に斬撃が当たるとカイトは少し前方によろけ、地を這う斬撃は四散していき、攻防一体の一手は成功かに見えたが、カイトの放った斬破はアルベルトの剣を止めれず、一瞬で破壊され、2撃目がカイトの頭上から振り下ろされる。
『烈刀』
右手では間に合わないと判断し、左手に闘気と魔力で生成した刀でタイミングを合わせて、側面から剣を叩き払った。
ズゥンッ!!
「ーーっ!」
叩き付ける事に成功したが、アルベルトは叩きつけたカイトの攻撃の反動を逆に利用し、その場で2回転した後再びカイトに向かって斬り込み、カイトもそれに反応し、両手に握った刀を即座に構える。
『鬼扇』
『刹界』
アルベルトの斬り払いを2本の刀で斬り上げて止めると衝撃波が発生し、木々が2人を中心に反り始める。
「んのぉらぁっ!」
拮抗していた鍔迫り合いに、もう一歩前に足を出して気合いでアルベルトを退け、互いにもう一度体制を立て直すと、ソロカがカイトの横に上空から着地し、アルベルト足元からメルトが這い上がってくる。
「ルシータは倒したけど、こっちもマシューがやられちゃってるわ」
「状況は拮抗してるか...よし、当初の予定通り一旦引くか」
「分かったわ、ニューロ!マシューを連れて退却よ!」
「了解でござる!」
ソロカの報告を聞き、埒が明かないと判断したカイトは一旦当初の目的通り退却する事にするも、アルベルトがその行く手を阻む。
「させるか!」
「あぁ?これ以上やったって時間の無駄だっつーのにまだやろうとしてんのか?おぉ?」
「まてアルベルト!カイトの言う通りこれだと当初の計画がオジャンになる」
「いや、メイダが連れ込んでいる辺り状況としては脅して魔石を案内させているからあいつらの元に魔石がある可能性が高い」
「何を計画してるかわかんないけどカイト達はこっち陣地の魔石を今2つ持ってるよふっ....んー!」
アルベルトとメルトの会話にメイダが大声でカイト達が魔石を所有している事を話し切ったところでニューロが岩魔法で口を塞ぐ。
「だそうだ、アイツらから奪っても良さそうだがどうだメルト?」
「はぁ...そう言う事ならやるしか無いでしょ!」
「ほんとに?私たちと戦って勝ったとしても決して無事じゃ済まないでしょ?仮に2つ魔石を手に入れたとしても、消耗した後にあんた達をセニカ達が狙うに決まってるでしょ?そうなったら2つの魔石の代償に全ての魔石を狙われるって考えられない?」
「セニカ達も先生との戦いで消耗してる筈だろ?」
「それは先生が攻撃してこない状況で魔力と体力だけを消耗した形でしょ?まぁどうしてもやるならいいけど、ここで心中するくらい本気でやり合ってあげるわ、それが嫌ならメイダをここに残すからメイダに魔石の道案内して貰えば?一個はこの先の捻れた木々の中に一つだけ逆方向に捻れた木があってその根本にあるらしいわ」
「おい、それ言ったら当初の目的とーー」
「いいの、今は私に合わせて」
ソロカの放った言葉に慌てて小声で止めようとするも、冷静な表情でカイトを手で抑止して言い放ったタソロカの言葉通り一旦任せる事にするカイト。
「どうする2人とも?俺はここで戦うよりメイダから直接聞いた方が安全だと思うけど?」
ソロカとメルトの会話を聞き、ルシータを担いで土から現れるオルグにメルトとアルベルトが同時に目を合わす。
「ちっ...」
「あぁー、分かった分かった!メイダを置いてけ、何もしねーから!」
諦めた様にアルベルトとメルトが同時に剣をしまい、メイダを置いてカイト達を行かせる事にしたアルベルトチーム。
それからカイト達はすぐさま自分たちの拠点へと移動し、回収した魔石を石机の上においた。
「よいしょっと!」
「んん!?」
2つの魔石を置いた後、ソロカは懐からもう一つ魔石を取り出し、机の上に置いた。
「何で魔石がもう一つ!?」
「マジかソロカ!もしかして拠点探してる途中に見つけたのか?」
驚くマシューに、得意げな表情でソロカが眉を上げ両手でピースサインを見せる。
「そうよカイト、つまりこれで私達は10点でセニカ達は3点、当初の目的完遂よ!」
「流石ソロカ殿でござるーー!!!」
「ちょっ!近いよニューロ!マシュー!」
「ハイハイ、落ち着けってお前は」
「ひとまずこれでミッション成功だな、引き続き同じ作戦で行こうか、師匠の最初の襲撃地はセニカのとこだったから順番通りだと次はアルベルトかジュランだと思うからどうしようか」
「ひとまず先生の次の襲撃地がアルベルトの拠点だったら待っとくのが無難だと思う」
「ふむ...確かにアルベルト殿が次の襲撃地だとすればセニカたん達とぶつかり合う可能性も高いでござるし、アルベルト殿が警戒している可能性も十分にあると思うでござる、マシュー殿はどうでござるか?」
「俺も2人の意見に賛成だ、なんなら2:2で分かれてセニカ達がアルベルトの拠点に入っていればもう一回魔石を探しにいく部隊と、アルベルトチームが全員で先生を追いかけた場合にアルベルトチームの拠点を探しに行く部隊で分けるにもいいと思うけど...」
「どうするカイト?」
「ん〜そうだな、マシューの作戦で行ってもいいけど、そうなるとセニカ達の動きも見ないといけないし、その前にセニカ達を探さないといけないだろ?その上でアルベルト達が全員で師匠を追いかけたら一石二鳥を狙えるけど、セニカ達の拠点で魔石が見つかる保証もなければ、仮にセニカ達が防衛に専念して、アルベルト達も同じ様に師匠を追うのをやめて防衛に専念したら、それこそ分かれているとどっちにも手を出せなくなる」
「難しい所ね、でかいリスクで一攫千金狙うか、最低限のリスクで確実に近い確率で儲けるか...」
「俺的には現時点で勝ってる状況だから、でかいリスクを取らず確実に近い方を取った方が今の状況的にはいいと思うな」
「そうだな、勝ってるし無理に大きく狙いに行くより確実性の高い方を選ぶか」
「では無理にアルベルト殿にターンでは攻めに行かず、ジュラン殿ターンで攻める形でいくのでござるな?」
「あぁ、ジュランチームの縄張りで音がしたら全員で動こうか、それまで一旦飯食って力蓄えておーー」
作戦が固まり、決行までに時間もあるので一旦食事を取ろうと岩で生成した椅子から立ち上がると同時にあまり良く無いタイミングでその人物はカイトの目線の先にある茂みから現れた。
「邪魔だったか?」
「まさかの次は俺達ですか...」
「追いかけるもよし、何もせずにしていても良し、全てはお前達の自由だが、目の前に置かれた魔石を見ると奪いたくもなるな」
「うげっ、まさかこっちの魔石奪ってくるとか言うんじゃ無いですよね...」
「このままだと俺は誰にも触れられることも無くお前達が優勝する事になるからな、それでは面白くないから奪いたくなったと言った方が正しいな」
「捕まえに来ないなら魔石を奪う...2つにひとつって事すね」
「あぁ」
シュンッ
返事と同時にテレポートでヴァイスの左に瞬間移動し、斬り込む。
そんなカイトの一瞬の攻撃に反応し、カイトの反対側へとステップで距離を取る。
バチッ
『ボルテックス』
元々対魔物用と侵入者用に仕掛けてあった雷魔法のトラップが作動し、一瞬動けなくなった隙に大量の電流をヴァイスの頭上から被せる。
しかし闘気で分厚く全身をコーティングしていたヴァイスにダメージも無かったが、それ以上に驚いたのは目の前の光景だった。
雷光を全身に浴びせられ、視界が真っ白となり、光が消えるとニューロ、ソロカ、マシューがヴァイスを囲う形で剣を構えていた。
『フォーステレポート』
指定の相手の位置を強制的にテレポートさせるテレポートの応用である無属性極級魔法を見事成功させ、一気にヴァイスを追い詰める。
そんな一瞬の囲い込まれた状況にヴァイスは力づくで姿勢を低くし、正面の空中にいるソロカの足元を抜けようとすると、目の前にカイトが現れる。
がしかし表情を変える事なく強引に持てる力の全てを足に集中させ、最速で抜けようとした所でヴァイスには聞き慣れない言葉が耳に入るともに、足に何かを感じる。
「タッチ!!!」
言い慣れた鬼ごっこの掛け声を無意識に叫び、ヴァイスの右足に一瞬触れたカイト。
「よしっ!」
「ナイスでござる!」
「これであと2回触れれば10点...案外いけそうかもな」
目をギラつかせてまるで獲物を狙うかの様な目線になるカイトチームを見て口を綻ばせ、静かに魔力を練り、身体能力を上げるヴァイス。
「遊びはここ迄だ、捕まえてみろ」




