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第2章 園外訓練Ⅳ


ーー園外訓練6日目


「さっさと首を!」

スッ


「カイト!後ろ!」


仰向けでぐったりと倒れているエギネスの首に狙いを定め、剣を振り下ろそうと一歩踏みだしたと同時に、背後から叫ぶセニカの声を聞き、瞬時に動きを止める。


「っ!」

スパァン!!


耳に響く叫び声を脳が言葉として処理をし、意味を理解して後ろを振り返る時にはすでに遅く、一本の紺色の細い棒状の物体が横腹に深くめり込んでいるのが見え、次の瞬間には背中と後頭部に衝撃が走り、自身が勢いよく吹き飛ばされたと認識する。


シュルルルルルッ

ブゥゥゥゥゥゥン


立ち起こる砂煙からわずかに見えるシルエットから風魔法にも似た音が聞こえ、次の瞬間羽の様なものを大きく羽ばたかせると、同時にその姿を表した。


「な...んだこいつ?」


『ギシャアァ』


空色と黒に近い紺色を含んだネオン色の甲殻に身を包み、4本腕の細い前腕からは隠し鎌を出し入れしながらセニカ達の方を振り返り、プレッシャーを放つのは、なんと色違いのエギネスだった。


「放ってくる威圧が普通じゃねぇな...」


突然現れた紺エギネスの放つプレッシャーに、顔を引き攣らせながら緋剣と焔剣を取り出すジュラン。


一瞬トドメを刺されかけた所でエギネスが、奥の手を使ったと思ったものの、よろけながら立ち上がる赤エギネスを見たアルベルトは即座に最悪の状況の方に思考を変え、静かに腰を落とす。


「エギネスと似た見た目だが、あの異様な存在感は赤色とは格が違う」


よく見ると体格も赤色のエギネスと比べるとひとまわり大きく、放つ羽音の重厚感や、隠し鎌の形状などの細部の違いを見つけるアルベルト。


「そんな事より急いで助けに行くわよ2人とも!」

『八十八夜』

ビュイン!!


そんな未知との接触に、出方を伺おうとするジュランとアルベルトに、背後からセニカが魔法剣を放ちながら、全速力で2人の前に走る。


『シャアアアッ!』

パキィン!


魔法剣を放つセニカに続き、咄嗟にアルベルトとジュランが走り出すと、青エギネスが右腕の鎌を襲いかかってくる魔法剣が届く前に振り下ろすと、魔法剣が音を立てて砕けた。


(簡単に潰された...ならこれで!)


『スピリットソウル』×『陽炎』


精霊レオの持つ光炎属性の魔力を引き出し、7本の魔法剣に光と火の2属性の魔力を魔法剣に融合させ、青エギネスに向かって放つ。


『ジィシャァイ!』

シュシュシュンッ!!


(微かだけど空間が歪んでいる...見えない斬撃を飛ばしてたのね)


エギネス紺色に輝く鋭い鎌から放たれた空間を揺るがす斬撃に対し、キレのある魔力操術で放たれた透明の斬撃を掻い潜る魔法剣。


「「セニカ!」」

「私は大丈夫!こっちを見ている隙に早く!」


両脇から走り出したジュランとアルベルトにも透明の斬撃は空間が歪んでいる形で見えており、セニカに向かって放たれた透明の斬撃を魔法剣で相殺せず、無視したセニカに対しジュランとアルベルトがセニカに向かって忠告するも、余裕の表情のセニカ。


『一ノ劔・辻斬り』


ヒュッ...ズヴォンッ!!


「うぉっ!」

「前に集中しろ!」


生成した一本の魔法剣が、セニカの頭上から縦にに振り下ろされ、斬撃同士がぶつかり合った瞬間、セニカの魔法剣が相殺される事なく、まるで初級魔法を斬るかの如く易々と相手の斬撃を破壊し、余った勢いで地面を割ってしまい、横目で驚くジュラン。


しかしすぐにアルベルトに催促され、目の前で鋭い鎌を構える青エギネスに集中し、セニカの魔法剣の後に続く。


『ギシャアッ!!!』


パシュッ!!!


「は?」


放っていた7本の魔法剣が、突然2人でも捉えきれないほどの速度で加速し、反応した青色のエギネスが腰を落として避けようとしたが、それよりも早くセニカの魔法剣がエギネスを捉え、眉間と身体の6箇所を貫いた。


「えっ..ちょっと待って..なんで!止まんない!」


背後で魔法剣の制御を突如失って焦っているセニカが、咄嗟に魔法剣を地面に突き刺す形でなんとか魔法剣を止める。


バタンッ


力なく倒れる青エギネスを見て、アルベルトが咄嗟にセニカに駆け寄る。


「なにをしたんだセニカ?」


「え...ごめん、ちょっと私にも分かんない...魔法剣が急に制御できなくなって...」


「おい2人とも、パニクってるとこ悪いが、嫌な予感がするぜ」


ブゴォゴォ


地面に倒れている青エギネスの貫かれた胴体と眉間から、沸騰した水の様にブクブクと赤い液体が膨れ上がり、そこから数秒間の沈黙が続いた後、背中の羽を広げて、耳に響く五月蝿い音を立てながら飛び上がる青エギネス。


「眉間を貫かれて死なねぇ魔物なんて聞いた事がねぇ」


「相手は未知の魔物だ、弱点の位置が他の魔物と違うのだろうな、セニカいけるか?」


「うん、大丈夫」


ブゥゥゥゥウォンッ!!


羽音の音を更に分厚く上げ、襲いかかってこようとした途端、2本の腕の形をした淡い光が、空中で浮遊している青エギネスの右足と、右羽の付け根を掴んだ。


『ギャイィ!』

スパンッ


掴まれて空中でバランスを一瞬失うも、脇下から生えた2本の腕が180度回転し腕の形状をした淡い光を難なく切り裂く。


『ギィッ!』

スッ

「こっちだバカ」


自身のバランスを崩した淡い光の出所を振り向いた瞬間、タイミングよくカイトがテレポートで振り向いた紺エギネスの背後から現れる。


『烈刀』

ガッ!

「硬っ...けど、今度はお前が吹っ飛ぶ番だっ」


ズガァンッ!


カイトの声を聞いて即座に振り向き返す間もなく、腹部に闘気で生成された刀状の光が音を立てて甲殻にヒビの入れた後地面に吹き飛ばされる。


「カイト!無事だったの?」


「ギリギリな...っつてて」


「いきなり1人で飛ばしすぎだっつうのお2人さんは」


「構えろ、来るぞ」


「大丈夫?カイト?」


「んあぁ...ヒールでなんとか治せる範囲だ」


右手で横腹を抑えながら横腹に光を放ち、回復魔法で治療するカイト。


『ギィ...シャギィ』


羽音を出しながらゆっくりと起き上がる紺エギネスのそばに赤エギネスが真横に同じく羽音を出しながら並ぶ。


「横に並んで見ると親子みてぇだな」


「軽口を叩く余裕はない、さっさと終わらせるぞ」


「ほんとマジメ君だね〜アルベルトは」


軽口を叩くジュランの横で静かに刃こぼれの酷い刀を取り出すアルベルト。


「それがお前の愛剣?ボロボロじゃねぇか!」


「アイツらの首は俺がもらう」

ダッ!


アルベルトの愛剣を見てツッコむカイトに対し、無視して赤黒いオーラを放ちながらエギネス達に向かって走りだすアルベルト。


『ギシャア!』

シャキィン!シュシュッ!

ブゥンッ!


剣も構えずジグザグに向かってくるアルベルトに隠し鎌を自慢げにかかげあげ、鎌同士で2回研いだ後、目に見えない速度で素早く2本の腕を振り下ろすと同時に、アルベルトに飛びかかる。


「迎え撃つまでもない」

『鬼踊り』


僅かに歪んでいる空間が迫ってくるのが見え、足を止めて2つ目の斬撃を避けながら、向かってくる赤エギネスを迎え撃つ準備をする。


『鬼卸し』

ブゥンッ!


斬り上げの動作から放たれた3本の地を這う斬撃の隙間をすり抜け、再び斬撃を放とうと鎌を下ろそうとするも、顔と顔がスレスレの距離まで近づいているアルベルト。


『シャアッ!!』


眼前のアルベルトを見て、翼を大きく広げ、すぐさま4本腕を用いた上下左右からの挟撃に切り替える。


「距離を取るべきだったな」

『鬼穿』


鋒を赤エギネスの腹部に向け、挟撃より速く剣を突くアルベルト。


ズボッ!!

ガシッ!


「なにっ!」


赤エギネスの腹部に鋒が当たる寸前、腹部から出現した腕に刀を握られ、思わず声を上げる。


(新しい腕?...いやこれは!)


思わず止められた攻撃に驚くアルベルトに、背後から後を追っていたジュランが答えを叫ぶ。


「青野郎だ!...ったくどいつもこいつも勝手な行動しやがって」


赤エギネスの腹部から抉られて出てきた腕の正体が紺エギネスだという正体よりも、刀を握られ動けないアルベルトの一瞬の動揺のうちに赤エギネスの挟撃は止まる事なく続いていた。


『灰燼』『紫電』『辻斬り』


攻撃が当たる寸前、上下左右それぞれの攻撃を防ぐどころか、腕ごと斬り落とすジュラン、カイト、セニカ。


「ありがとうございますは?」

「左下だけ落とし損ねちゃった!」


パァンッ!


先程の制御の効かなかった魔法剣の事もあり制御がままらなかくなってしまったセニカが斬り落としきる事ができなかった左下の腕が突如吹き飛ぶ。


『赤地四海』

「これくらいお前と違って自分で対処できる」


「青野郎が構えてる!くるよ!」


ジュランの呼び方が移るセニカを見てジュランを睨むカイトに、申し訳無さそうに笑って誤魔化すジュラン。


ズボォッ!

ジャキッ


アルベルトの刀を持ったまま赤エギネスの腹部から腕を戻すと、今度は左右に大きな鎌を広げる紺エギネス。


「左右からくるよ!気をつけて!」

「貴様ら2人で俺のお膳立てをしろ」

(背後の青を隠すためにわざと翼を広げたのか...小賢しい)


「あぁん!?」

「剣もねぇ奴が偉そうに!」


アルベルトの一言にブチギレるカイトとジュランを他所に紺エギネスが仕掛ける。


シュインッ!

キィンッ!!


「へっ!バーカバーカ!てめぇで解決しろってんだ!」


アルベルトに向かって中指を立てながら紺エギネスの払う左からの鎌を避けるカイト。


「んなっ!ふざけてる場合じゃねーぞカイト!俺もやっとくんだったなくそ」


鎌をしっかりと片腕の手刀で止めるジュラン。


「ちっ...」

『崩拳』


一方カイトが避けた鎌は真っ直ぐとアルベルトの首を目掛けるも、屈んで避けた後鎌の側面にアッパーを放つアルベルト。


それによって鎌を振る勢いが更に強まると同時に軌道が僅か上にズレ、赤エギネスが自身の首を切り落とす。


「刀ごと吹き飛びやがれぇ!」


鎌を避けてすぐさま赤エギネスの正面まで屈んだ姿勢で近づき両腕を構えるカイト。


『闘砲』

ズゴォンッ!!


限界まで圧縮された魔力を放出し衝撃波で赤エギネスを吹き飛ばす事で、同時に背後にいた紺エギネスごと吹き飛ぶ。


(誰もいないから全力で!)

『星回不天』


上空から魔法剣に乗っていたセニカが、6本の魔法剣を高速回転させた手裏剣を放ち、吹き飛ばされながら甲殻が削られる紺エギネス。


スッ

『天烈脚』


闘砲を放った後、紺エギネスの背後にテレポートで回り込み、勢いの強いセニカの魔法剣との挟撃を狙い、助走をつけてドロップキックを放つカイト。


『ギシャアッ!!!』

バキンッ

スッ


「んなっ!」

ズガァン!!


カイトの蹴りとセニカの魔法剣に挟まれたエギネスは翼を勢いよく羽ばたかせ、4本腕の鎌で強引にセニカの魔法剣を粉砕した後、カイトの両脚を掴み地面に叩きつける。


「ガハッ」

『グギギ』


肺から空気が抜けて、動けないでいるカイトを見て、次の獲物を仕留めに振り返ろうとするも、カイトの脚を掴んでいた両手がカイトの脚から闘気で固定されており、離れない事に気がつく。


「んぐっ...まだ終わらせねぇよ」


エギネスを見上げるカイトの目にはエギネスの真上から降ってくる人影が見えていた。


『鬼哭啾啾』


4本の魔法剣と共に上空から天歩で空を蹴って勢いよく飛来してくるセニカに対し、紺エギネスは逃げるのを諦め、まるで抱き付こうとする様な勢いで4本腕を広く伸ばす紺エギネス。


「せあああっ!」

『アギィシィッ!』


ギィンッ!!!


重なる金属音が鳴り響くと共に一瞬凄まじい衝撃が生じた後、カイトが頭上を見上げると、なんとセニカの4本の魔法剣を素手で受け止め、セニカの持っていた純白の剣を口で受け止めている紺エギネス。


「うそ...」


あまりの出来事に動揺し、次の動作への移行に遅れが生じ、剣を伝って炎を吹き出そうと魔力を込めようとしたタイミングでエギネスがセニカを蹴りつける。


「んぐっ!」


咄嗟に反応してガードするも空中にいる事もあって衝撃が強すぎてすぐに吹き飛ばされ、テレポートでカイトがセニカの吹き飛ばされている先にテレポートし自身とセニカの間に風魔法のクッションを用いることで無事受け止める。


「怪我はないかセニカ!」

「ナイスキャッチカイト!」


「体勢を立て直そうか」


「うん」


「そこでゆっくり見ときなお二人さん」

『焔浄刀』


間髪入れずに今度はジュランが2人の横から紺エギネスに向かって走りだし、刀の形に圧縮した炎の魔力でエギネスに斬りかかる。


ブォォォォンッ!!


「風で飛ばそうたってそうはいかねぇぜ!」

『影落ち』


羽を力強く大きく羽ばたかせ、突風でジュランを吹き飛ばそうとするも、自身の影に落ち地中に潜る事で回避するジュラン。


『八斬夜蠎』


ジュランが地面へと姿を消した次の瞬間、紺エギネスの周囲から八つの黒い影の柱が現れ、紺エギネスを中心に激しぶつかり合う。


影同士がぶつかり合い、まるで生き物の様に激しく蠢いた後、影が消えるがエギネスの姿は見当たらない。


「上よ!」


一瞬粉々になるまで押し潰されたのかと思ったカイトの想像をセニカの一言でどこかホッとするも、上を見上げると再び先ほどの心配が湧き上がり始める。


バシュンッ!

「へっ、待ってたぜ?」

『灰燼』


まるで飛んでくる事が最初から分かっていたように、頭上に飛んで回避した紺エギネスの背後に現れたジュランは、両手に纏った焔の刀を両肩目掛けて振り下ろす。


ブンッブンッ

ドゴォッ

「んぐっ!」


しかし空中で背後を取られるが、紺エギネスはトンボの様にジュランの頭上まで急発進で上昇し、急停車した後、再び急発進して頭上からジュランの背中に降下する勢いを利用した蹴りを放つ。


『エアプレス』

ブフォンッ


逆『くの字』に曲がったジュランはそのまま地面に向かって蹴り飛ばされるも、途中でセニカの風魔法によって真下に蹴り飛ばされた勢いを真横に吹き飛ばされる事で勢いを殺してもらい無事に地上へと着地するジュラン。


『シャアアアッ』

ブゥンッ


叫び声と共に姿を消した紺エギネスに一斉に構える4人。


しかし次の瞬間、紺エギネスが姿を現した場所は4人の内誰でもなく、頭と腹部が欠けた赤エギネスの死体だった。


そして片手にはいつ拾ったか分からない赤エギネスの頭を抱えている。


瞬間、カイトは紺エギネスが赤エギネスの死に対し、魔物ではあるが何かしら敬意を示そうとしている様に見え、何故か邪魔をしては行けない気がし、同時にセニカ、ジュラン、アルベルトもその隙だらけの一連の動きを見ているだけだった。


赤エギネスの死体を見つめる事数秒が経つ。


そしてゆっくりと両膝を着き、なんと徐に赤エギネスの死体を貪り始めた。


「食っ...てるのか?...まずいお前ら!止めるぞ!」


捕食している事に気が付いたカイトはすぐさまその様子を見て叫び出すと同時にテレポートで紺エギネスの頭上まで飛ぶ。


しかし紺エギネスは捕食を続けながら赤エギネスの身体を抱き抱え空中へと飛んでカイトの攻撃を回避する。


それを見たセニカは急いで魔法剣で空中にいる紺エギネスに向かって追撃を始めるも、不規則な動きで攻撃を全て回避される。


「だったら!」


6本の魔法剣を生成し、エギネスの周りを大きな球体を描く様に高速で飛翔させる。


やがて球体を描く6本の魔法剣は徐々にその描く球体の面積を狭め、最終的にはエギネスの上下左右1メートル迄狭まる。


ギシュッ


最後に残った四肢の内右腕を丸ごと口に入れ込み、まるで果汁を絞る様な音を立てながら無我夢中で咀嚼する。


ゴキュッ


そして通常の人間なら明らか喉に通らない量の物を無理やり喉に通し、今度は穴の空いた胴体を食べるのかと思いきや、胴体を一目見た後、セニカに向かって投げつけた。


ベシャッ

ヴヴヴンッ


勿論投げつけた胴体がセニカに向かって飛んでいく筈もなく、魔法剣に当たり木っ端微塵に切り裂かれていく。


『ヴルゥゥゥ...ギャアッシィ!!』

ヴンッ!!!パキィン


そしていよいよエギネスを球体状に囲んでいた魔法剣の一本がエギネスの羽の先端と接触した瞬間、今まで発したどの叫びより巨大な咆哮とも言える巨大な声を上げ、羽を羽ばたかせただけで魔法剣を全て粉砕する。


「生まれ変わったとこ悪いがすぐに退場して貰うぞ!」


『紫電』


魔法剣が粉砕されると同時に、一本の紫色の閃光が地上から空中のエギネスに向かった伸びる。


キィンッ!

「うおっ!硬っ!」


ポケットルームから純白の刀を取り出し、すれ違う寸前に袈裟斬りで体を両断するつもりで全力を出して斬りかかるが、突きつけられた現実は僅かな擦り傷のみであった。


「フッ、殺気のない弱々しいお前の剣では傷を付けるのが精一杯か」


『鬼威』


今度は血色の赤と僅かな黒いオーラがエギネスへと向かい、すれ違いざまに胸部に斬りかかった。


ブシュ

ブクブクブク


「くっ」


「ダァーハッハッハ!一丁前な事言っといて出血かよ!こりゃあ俺が殺気込めたら殺しちまうなぁ!」


アルベルトの渾身の一撃で胸部から緑色の液体が勢いよく吹き出すもすぐに泡状の液体が傷口に広がり元通りになる。


そして効いてないとはいえ2度も攻撃してきた相手に怒りを覚え、カイトとアルベルトの方を振り返り威嚇する。


『カァァァァシィ』


「掛かってくるか!?」

「いや、バカも来た」


エギネスが羽を強く羽ばたかせ、攻撃を仕掛けようとすると同時に、今度はエギネスの背後から光炎のオーラを放つジュランがテレポートで現れた。


「おうおう、苦戦してるねぇお二人さん?硬い相手には熱で溶かすのが基本だぜ?」


『灰燼』


手刀を払うのではなく、貫手で腹部を貫通させるジュラン。


ガシッ

『ギシィ?』


しかし腹部を貫かれたにも関わらず、表情があるのかは分からないがまるで表情ひとつ変えずジュランの貫手を放った腕を掴み、もう一本の腕でジュランと同じ様に貫手でを放つエギネス。


すると貫手が放たれる寸前でスパンっと音が鳴り、次の瞬間にはカイト、アルベルト、ジュランがその場から居なくなっていた。


「うぉ〜、魔法剣で腕を野菜の如く斬り落としたぞ?流石俺の彼女〜」


「うおっとっと!助かったぜセニカちゃん!」


「すまないセニカ」


「ちょっとみんなさっきから私を置いていきすぎよ?取り敢えず全員私が助けたから言う事聞いてもらうから!良いね?」


「俺は何でも言う事聞くぞセニカ」


「まさかセニカちゃんあいつを独り占めしようと?」


従順なカイトの横でジュランが抗議しようとするがセニカから返ってきた返事は別の内容だった。


「全員で協力して叩くよ?この際首を取ったらポイントが貰えるなんてナシにして目の前の魔物を倒す事を優先する事!いいね?」


「えぇー?こいつらと一緒に戦うのー?」


「何?文句があるならもうデートしてあげないよ?」


「おいお前ら!俺の足引っ張るなよ!全力で協力してあいつを倒すぞ!いいな!?エイエイオー!」


「お前は自分の意志ってもんはねぇのかよ...」


「ただのバカが意志を持ってるとおもうかジュラン?」


「セニカの意志イコール俺の意志だぜ?」


「もう左腕が再生してる...来るよ!」


腕の再生が終わると、セニカ達に向かって低空で飛翔するエギネス。


「多腕には多腕だ...むんっ!」


腰を落とし、闘気を纏った両腕を振り下ろして構えると同時に、肩甲骨から魔力を通して闘気の腕を形成する。


「よしこいっ!」

シュンッ


テレポートで飛翔してくるエギネスの前に立ちはだかると、目の前に現れたカイトを見て更に速度を上げそのままぶつかり合う。


「ぐっ...おんもてぇ...」


身体同士の衝突では無く、両腕の鎌を前にして飛んでいたエギネスの手首を掴むと、すぐさまもう2本の腕を振り上げる。


ガシッ!

「腕の数はおんなじだよ!」

『ファグッ!!』


振り上げた2本の鎌も呆気なく防がれても、息を吐かせてくれる暇もなくすぐさま噛みつきを行うが、カイトも同様に腕が動かせないなら真っ先に頭と判断し、噛みつきに合わせて闘気で充分に頭部をコーティングし、噛みつきに対し、フルスイングのヘッドバットを合わせる。


「気が合うなっ!」

ゴンッ!!


「頭がダメなら!?残念もう遅いです!」


頭部同士がぶつかり、まるで除夜の鐘の様な厚みのある重厚音が鳴り響き、同時に次の技に突入するカイトはエギネスを確認したところ腕を引き剥がそうとしたので、今度は正面式のドロップキックをすると同時に両腕を力一杯引き、蹴りの勢いで腕を捥ごうと試そうとするカイト。


「ぬあっ!勢いが強すぎた!」


しかし渾身の力で放った蹴りの勢いが思ってたより力んでいた為4つの手からエギネスの腕がスッポリと抜けて吹き飛んでいった。


バサンッ...ブゥン


2メートル吹き飛んだあたりで、羽を強く羽ばたかせ、体勢を即座に立て直しカイトに向かってもう一度飛んでいくエギネス。


「はっや!」


吹き飛ばしたのを確認するも、即座に体制を立て直して向かってくるエギネスに思わず声を上げ、仕方なしに尾てい骨あたりから闘気を地面に伸ばしそれを支えに体制を立て直そうと集中する。


「頼む...力む位置が尻の辺りだから余計な物は出ないでくれよっ...」


そう心に願うが、目の前の光景を見たカイトはすぐにその必要がなくなった事を悟り、流れに身を任せ、そのまま地面に落下する。


エギネスがカイトに向かってとんでいくと同時に頭上から赤黒いオーラを纏った人物と、エギネスの影から伸びてくる白炎の剣が同時に襲いかかる。


ビュンッ


上下どちらの攻撃も防げないと判断したエギネスはスピードを維持したまま止まる事なく背後飛ぶ事で回避する。


「くそっ!すばしっこいなぁ!」


「任せて!」


しかし事前に逃げる方向を読んでいたセニカの一本の魔法剣がエギネスの飛翔速度を上回る速度でエギネスの羽を捉え、空中で制御が効かなくなったエギネスは地面に倒れていく。


「今よ!」

『紫電』


セニカの掛け声と共に一筋の閃光がアルベルトとジュランの横を通過する。


『フギィ、ギィーシ』


よろりと立ち上がるエギネスに高速で近づき、今度は全力で走った勢いもつけ力一杯胸に狙いを定め切先を放つ。


『雷貫』

ズォンッ


迸る青い雷光がエギネスの胸に直径20cm程の穴お開け、止まる事なく背後に聳え立っていた複数の木も同時に貫いた。


(助走付けて本気で突いてこの威力だったら!)


回復される前に再び剣を構えて今度は3度つくイメージで最初の1発を放つ。


ズシュンッ


右膝を狙った一撃目は見事命中し貫通する。


(今度は左膝っ!...っ!)


2発目を放とうと剣を構える瞬間、空高く飛翔するエギネス。


「くそっ!セニカ!おれをっ...」

「カイトも続いて!」


止まらずひたすらに上昇するエギネスにカイトがセニカの名前を叫び、何かを伝えようとするもセニカの方を振り向くと既に魔法剣が足元にあった。


ブゥンッ!

「おっさき〜!」


ブゥンッ!

「やはり仕留め損なったか、ふんっ」


魔法剣の上で癪に障る言葉を残してエギネスへと飛んでいくジュランとアルベルト。


「んのやろぅぅぅ...セニカ、あのバカ2人を追い抜かす勢いで頼む」


「追い抜かすんじゃなくて、追いつくスピードでね、歩幅揃えないとダメ!」


「うっ...はい」


「魔法剣と足ちゃんと自分で固定しててね、よしそれじゃあいくよ...ほい!」


「おっけぇぶほぉっ!」


セニカの魔法剣に乗り込み魔法剣と足を闘気で固定すると、次の瞬間物凄い勢いで飛び始め、身体が魔法剣に置いていかれそうになる。


それから数秒も経たないうちにジュランとアルベルトに追いつく。


「最高の乗り心地だぜセニカちゃん!」


「追いついたか...ちっ」


「うへー、マージで身体持っていかれるかとお思ったわー、にしても最高だなー!まさかこんな形でホバーボードを体験するなんてな!」


「ほばーぼーどが何かわからないけど、取り敢えず魔力の消耗がすっごく激しいから、私はみんなの足場を作ってサポートの方に徹するから後は任せるね」


「見ろ、変形し始めている」


アルベルトの刺した指の位置を見ると、今尚上昇を止めないエギネスの身体からぶくぶくと泡状の液体が膨れ上がり、その姿がみるみると大きく変化していくエギネス。


『ギャアアアアアァァァァ!!!!!』


「んぐ、うるさっ....」


「これだと、近づけれない」


まるで巨大な突風の様にカイト達の前進を止める咆哮に身動きを封じられ。


ヴヴヴヴヴヴヴ


そして風圧が収まると今度は身体中で直接振動を感じる程の重低音が鳴り響き、音の鳴る方を見ようとするも太陽と重なった姿に目を一瞬眩ます。


「ぐふっ!」


そう音の鳴らない声というより空気の漏れた音と共に腹部に強烈な痛みが走っている事に気がつくカイト。


(いってぇ...絶対折れたわ)


腹部を抉るというより拳を握って放たれた突きに身体がくの字に曲がるも、なんとか防衛本能で腹部に現れた闘気をそのままエギネスの拳にまとわりつかせ、固定して動きを止める。


「ふぅ...骨折に見合った動きしろよっ」ガシッ


固定したかと思ったエギネスの腕はまるで沼にはまった片腕を引き上げる様に容易に闘気による固定化を剥がし、今度は片手でカイトの顔を掴み、背後から接近するアルベルトに投げつける。


「んぐっ!邪魔だっ!」


アルベルトの顔にカイトの背中が直撃し、すぐさまアルベルトに投げ捨てられるカイト。


「ちょっ!おいっ!今のは流石に酷過ぎねぇかバカベルト!」


そんなカイトに構う暇もなく、カイトを投げると同時にアルベルトの頭上に飛んでいたエギネスに反応するアルベルト。


『漂水』


水の魔力で極限にまでいなしやすさを上げた刀でエギネスの鎌を背後へといなし、距離を眼前まで近づける。


ボゴッ


そこからすぐに鈍い音を立てながらくの字に曲がるエギネスに赤いオーラを纏った拳がもう1発今度はエギネスの顎を横に一閃する。


『ギシャ?』


疑問の様な音を上げると羽音がゆっくりと止み、同時にぐったりと落下していくエギネス。


「もらいっ!」

『灰燼』


落下していくエギネスにアルベルトが赤黒いオーラを纏わせ、追撃しようと魔法剣から飛び降りると、視線の先にニタリと笑うジュランが見えた。


首を目掛け力一杯振り上げる。


殺意の込められた渾身の一撃を揺れる視界の中でありったけの力を振り絞り焦点を合わせるエギネス。


そしてそれを躱わすもしくはガードしようにも身体に力が入らないと理解した瞬間、森の主は初めて死を悟る。


そして同時に...


バキィィィッ


「んなっ!」


「あれは...知った事か、勝機に変わりはない!」


全身に淡い光が現れ、焼け落ちる筈の首は甲殻が割れた程度。


そして驚いたその一瞬の間にジュランの腕を掴むエギネス。


「くそっ!もう意識が戻り...いや本能で掴みやがったのか!」


「そのまま掴んでおけ賊ネズミ」

『一の条・悉皆』


全身から血飛沫が僅かに飛び、その血を浴びたボロボロの刀身の刃こぼれが僅かに回復する。


そしてその場から消え、次の瞬間にはエギネスの目の前に刀を振るい終わった姿勢で現れていたアルベルト。


ブシャッ


次々と見えてくるアルベルトの動きよりワンテンポ遅く動きの結果が現れ、エギネスの上半身と下半身が分断される。


ブクブクブクッ


しかし離れた上半身と下半身から泡状の液体が現れ、2箇所の泡が近づいていく。


「再生がはぇなチクショウ、だったら灰にしてやるよ!死にたくなかったら離れてろお前ら!」


ブォンッ!


ジュランを掴むエギネスの片手が突然一瞬で焼け落ち、同時にジュランの左手には白炎を纏った剣が握られていた。


『皆剡』


横に白炎を振り払うと、瞬く間に炎がエギネスの全身を一瞬にして埋め尽くす。


「死ぬまで燃えてろ!」

『ギシャアッ!!』


炎がエギネスの全身を埋め尽くすと同時にエギネスの意識が僅かに戻り、なんと体の内側から闘気を放出し、一瞬で全身の炎を跳ね除けた。


「なっ!」


しかしまだ僅かによろけているのと、上半身下半身は未だ完璧に再生されていない事に、もう一度仕掛けようとジュランとアルベルトが仕掛けようと試みるも、横から物凄いスピードで接近する何かに気がつく2人。


「お前らじゃ火力不足だよっ!お手本を見せてやるよ!」


『一天四海』


4本の腕から放たれる自信の尊敬する師匠をも追い詰めた必殺技とも言える1撃がエギネスの身体を更に8つに分ける。


ブクブクブク


「はぁ!?首繋がってねぇのにそんなのアリかよ!!」


8当分に切り裂かれた体から再び泡状の液体が出現した事に流石の3人も理不尽さを感じる。


『レオソード』


しかしその再生を防ぐジュランとは違う真っ赤に燃える炎の獅子に頭部がエギネスを呑み込む。


ブォォォォォッ


切り刻まれ燃え盛る中、再生を上回る速度で身が焼かれていく。


「どうだ?」


「見た感じセニカちゃんの炎が再生速度を上回っている様に見えるが...」


燃えるエギネスを囲む様にアルベルトとジュランがその様子を見ている中、突然再生速度が上回り瞬く間に元の形に戻ったのち、ジュランの炎と同じ容量で闘気を放出し炎を弾く。


『ヤバいなありゃあ、分解された各部位と炎の間に闘気を挟んでそこから再生を続け、そこから今度は各部位と闘気を繋げて闘気の内側で部位同士を繋げやがった、見たところ魔力もまだまだ余裕ある見てぇだし、このままだと埒があかねぇどころか、ますます進化していくぞ』


....


『ん?おいカイト聞いてんのか?』


アッシュの解説に反応をしないカイトは、ゆっくりと再生し切ったエギネスを見つめ、刀を構える。


同時にジュランとアルベルトも剣を構え、セニカは魔法剣でエギネスの頭上に移動し、魔法剣から飛び降りる。


そして同時と言っていいほど全員が同時に攻撃を開始すると同時に力一杯叫ぶ。


「「「しつけぇ(こい)よ!」」」


『千切り星』

『皆剡』

『鬼哭啾々』

『悉皆』


同時に放たれた全員の必殺技とも言える高火力の技に一瞬にして身体が散り散りになり、瞬く間に頭部のみが残り、首から泡状の液体が吹き上がるも、それ見た4人には火に油を注ぐ様な行為であった。


『冥城天下』

『刹界』

『鬼卸し』

『灰燼』


そんな再生も虚しく、瞬く間に頭部も一瞬にして塵となり消失する。


「んのぉらぁ..次はどの部位だぁ!!!ここまで来たらナノ単位まで潰してやらぁ!!」


「はぁはぁ...こんなに腹が立ったのリアンナ戦以来よ...」


「灰になってもゆるさねぇぞ畜生!もっと燃やし尽くしてやるぞ糞虫!!」


「ふぅ...あの程度に手こずるなんて..腹立たしい」


それぞれ発散しきらないストレスをひたすら空気中に発散する4人。


そしてイライラが収まらないまま4人は他の魔物を対処している生徒たちと合流し、荒れ狂う津波の如く一瞬にして魔物群を壊滅させた。


...


......


「へぇ...へぇ....」

ガチャッ


「おーい4強どもー、夕食持ってきたぞー」


男子用のコテージの真ん中に敷かれた寝袋に横たわるカイト、ジュラン、アルベルト、そして男子用コテージだが一応セニカの側に器用に4つのプレートを持ってやってきたメルト。


なぜ4人が横たわっているかというとエギネスとの戦いで不完全燃焼していた4人は残りの魔物の襲撃に加勢し、そこで苛立ちを魔物達にぶつけていたのだが、苛立ちで消耗していた魔力の事も考えずただひたすらに魔力を浪費した結果重度の魔力枯渇に襲われ気を失っていた。


「まさかお前ら4人でも苦戦しちまう相手だったとはなー」


「メルト、目を覚ましたばかりの患者に不快な相手を思い出させるな、また暴れたくなる」


「へっ、コレばかりはアルベルトに賛成だぜ」


「なんであんなにムカついたんだろ、そのせいでこうやって倒れるハメになって、ほんっと恥ずかしい」


「あー、もう何も考えたくねー、魔力枯渇辛いよセニカー、あーんしてくれー」


「ごめんねー、怠さが今ピークを達してるからなにもしたくなーい、息するのもめんどくさー」


「メルトー、しょうがなしに俺にアーンをする権利を贈呈しよーう、あ、そうだ、いつもお世話になってるからそのお礼だ、ほれ遠慮するでない、ほれほれ、あーーー」


「そんだけ冗談が言えるってことはまぁ心配しなくても大丈夫だなこれは」


ぐったりと寝込んでいるそれぞれの顔の真横に夕食を置いていくとメルトはコテージを後にした。


「おー、いい匂いだなー、昼食ってなかったしいざ飯の匂い嗅ぐと一気に腹が空くもんだな」


「そうだ!こういう身体がだるくて動きたくない時ってあるよね?そんな時にはーー?」


そう言ってカイトは大きく目を見開いてテレビショッピングで良く聞く宣伝文句の様なセリフを唄うと、丁度広背筋の位置に闘気を風船の様に膨らまし、リクライニングベッドの様に上半身を持ち上げた。


「ただ闘気を放出して維持するだけなので実質魔力は...へぇあへぇあぁ....」


「そりゃあ魔力枯渇の状態だと集中力も無いからね...よいしょっと」


セニカの言う通り魔力枯渇による集中力欠如の状態では闘気を維持する事は不可能なので、すぐさま膨らました闘気はみるみる萎んでいった後カイトの体の中に戻り、それを傍で見ていたセニカは体を必死に起こし、それに続いて全員起き上がる。


こうしてこの日は結局最後までベッドに寝たきりの状態で且つエギネスの討伐報酬も消し炭に終わったので、最終的には珍しい魔物による軍団侵攻を経験できたという事で授業的には美味しい状況となり、園外訓練6日目は終わりを迎えた。

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