第2章 園外訓練 Ⅰ
「ふぅ、そろそろしんどくなって来たなぁ」
新学期1日目から一月が経過し、現在学園の保有する迷宮50階層目のボス、6本の鋭い鎌を持ったカマキリの様な魔物を見事倒し、次の階層へと向かうカイト。
「まぁ後1階層は行けそうだし、行っとくか」
((やめとけ、明日は園外学習があるんだから早めも帰ったほうがいいだろ))
「...ん〜そうだな、明日に備えて早めに休むか」
セニカの個人記録をいち早く抜かす為、もう1階層進もうとしたものの、アッシュの助言通り、迷宮内で使える迷宮用テレポート魔道具に50階層を記録させ、迷宮から出て行くカイト。
「園外訓練って何すんだろうな、やっぱり前の世界でもそうだったけど、学校の外に出る行事ってテンション上がるなぁ」
((ヴァイスの話じゃサバイバル訓練見たいなもんだろ、そんなテンションの上がる話じゃねぇよ))
「前の世界?」
迷宮の入り口に出た途端、前方から先程の会話を聞かれていたのか、セニカが現れた。
「うおセニカ、どうしてここに?」
「私も今から迷宮を攻略しようと思ってね、カイトに記録抜かされない様にしないと」
「そっか、因みに俺は今日50階層まで行けたからセニカの記録までもう少しだぜ〜」
「たった1日で5階層も突破したの!?これは負けられないわ!」
慌てて話を逸らし、セニカも先程聞こえた事が自分の聞き間違いかと思ったのか、深掘りはせず、進んだ階層をセニカに教え、それを聞き慌てて迷宮の中へと入っていった。
「はぁ、、あぶねー」
ホッと胸を撫で下ろし、そのまま帰宅して次の日に備えて早めにねるカイト。
...次の日
訓練着のまま朝教室に集合した後、各自準備した着替えや必需品の入った鞄を背負い、テレポーターのある場所へと向かった。
廃墟のあった場所はいつの間にか綺麗に改装されており、前世で言う教会の様な外観と内観の作りになっていた事に、驚くカイト。
「うわ〜、変わったなぁー」
「元々は教会があった場所なんだって、それをカイトが留学行ってから元通りにしたみたい」
「あぁ〜、教会の様な建物だと思ってたけど、実際に教会だったのか!もっとなんかあっただろ?」
「多分だけど、テレポーターって結構な機密事項だし、カモフラージュの目的もあるんじゃない?」
「なら納得、じゃないとなんだかおかしい...ん〜おかしくもないか、なんだか地味にマッチしてるな」
教会の中に設置されたテレポーターに何故か違和感を感じない事を不思議に思ってセニカと話しているとヴァイスがテレポーターを起動した。
「入るぞ、場所はエリュード東北部に位置するゾルカナ森林だ」
「ゾルカナ森林、なんかワクワクしてきたな」
そしてヴァイスに続きジュラン、アルベルト、セニカ、カイトのチームの順番でテレポーターへと入っていく。
テレポート先は薄暗い建物の中で、正面の奥から光が見えそのまま真っ直ぐ前に歩いて行くヴァイスに付いていく。
「うわ、まさかのもうスタート地点か?」
建物を抜けると湿ったコンクリートの様な匂いから木の匂いに変わり、目の前には緑の海が広がっていて、日が一切差し込んでいない程木々が密集していた。
「それでは昨日も言った様に、4人1組でチームになって動く様にするんだ、初日は俺が先頭を歩き色々と教えて行く、説明を一つも聞き漏らさない様にしろ、いいか?」
「「「「はい!」」」」
「まずはこの森の真ん中にある仮設キャンプ場へ向かう、忘れていないと思うが魔物も出る、各チーム警戒を怠らない様に、それでは向かうぞ」
こうして園外学習の1日目が始まった。
小枝や茂みを掻き分けながら前へ進んでいると、突如ヴァイスが足を止めた。
「静かに...聞こえるか?」
ヴァイスの一言ですぐに全員が足を止め、耳を澄ませる。
ザザッ パキッ ザザザ
右方向から小枝を踏みつける音や、茂みの音が聞こえる。目視で確認しよう木々が邪魔で姿が捉えられない。
「足音からするに一匹、僅かにこちら側に近づいてきている」
ザサッ! ガサガサ パキッ!
突如スピードを上げたのか、茂みの音が激しくなり、次第に足音も聞こえてくる。
「構えろ!魔物だ!」
ヴァイスの声にカイト達はそれぞれ武器を取り出す。
「先生!こっちから迎え撃ってもいいですか?」
「あぁ、任せる」
「よしゃ!」
ガサッ
「やられんじゃねーぞカイトー」
「気を付けてねカイト!」
ヴァイスに許可を貰った後、嬉々として足音のする方へとカイトが走っていき、それを見たジュランとセニカが心配する。
パコン!パコン!パゴォンッ!!
馬の足音にも聞こえるその独特な地面を蹴る音はみるみる大きくなり、もうすぐで出くわすと感じたカイトは一旦その場に止まる。
「足音が止まった...」
足を止めた瞬間と同時に向こうの足音も聞こえなくなり、警戒するカイト。
ザザッ!
「上か!」
ガキィン!!
頭上の木の枝の音が鳴り、即座に見上げると生い茂った樹冠の葉から目の前に顔程の大きさの丸い木の様な物が迫っていた為、即座に剣でガードする。
グッ!
剣と木の様な物体が重なった瞬間、目の前の物体は押し付ける様に力を入れてきた為、カイトは体を捻らせて、力を背後へと受け流す。
ザスンッ!!
落ち葉と柔らかい土が衝撃を吸収し、いなされた物体の正体が露わになった。
まず最初にカイトの眼前に迫っていた木の様な物体の正体は樹冠から伸びた足だった。一見見ると鹿の様な生物だが、その大きさは前世で見た様な小さな鹿とは違い、赤い毛皮と白い斑点模様が特徴的で、緑と茶色しか無いこの景色では一際目立っていた。それと体格は普通の鹿と比べてひとまわり大きく、身体を支えている四肢は競走馬の様に強靭で太く、鉤爪の様な物も見える、そして後ろ向きの無数に枝分かれしている鋭利な角にも気を付けなければいけない。
『ブフゥーールゥルゥー!!』
向こうの先制攻撃をいなしたにも関わらず、鼻息を荒くさせ臨戦態勢を取っているので魔物で間違いない。
前日の授業でヴァイスは動物と魔物の違いを簡単に説明しており、大きさや数が向こうより多いのにも関わらず迫ってくるのが魔物で、動物は自分達が不利だと分かっている状況ではまず逃げて行くとの事だ。
『雷走』
(姿が捉えられればこっちから攻めてやる)
目の前まで近づき、技とスピードを落として姿を捉えさせ攻撃させる。
そして向こうが攻撃した瞬間に残身で惑わせ、相手が困惑したその瞬間の隙にトップスピードで跳躍し、背中に一撃を入れて真っ二つに身体を裂いた。
「うっし、こんなもんかな」
「倒せたかカイト?」
「はい!今終わりました!赤い毛皮と白い斑点模様のよく分かんない魔物でした」
「メラルーだな、この辺りに生存している魔物だ、迷宮で言えば20階層あたりの強さ、後ろ足の蹴りと角での突進を警戒すれば問題のない相手だ、そのまま進むぞ」
それから魔物の襲撃はなく、前に進むにつれ景色も段々と木の長さが高くなり、茂みの数も小さな細い木々も見えなくなり、視界が良くなって行く。
「あともう少しで仮設キャンプに着くはずだ、視界も良くなってきた事だし、ひとまず休憩をしよう」
ヴァイスの一言で皆が一斉に大きな木の根元に背負っていた荷物を地面に置き、その上に倒れながら休憩する。
「も、もうヘトヘトででござる、、マシュー殿」
「おい!重たいからもたれかかんなってニューロ!」
「カイト、流石に休憩中なんだしゆっくりすれば?」
「こうやって休憩してる時が1番危ないんだよソロカ、俺は全然疲れてないから気にすんな!」
来た道から見た木の左側にカイトチームが休憩をしており、背面はジュランチーム、右がアルベルトチーム、そして来た道の正面の方向にはセニカチームが休憩をしている中、カイトは元気に木の周りを走り回りながら周りを偵察する。
「目障りだ、他所で走れ」
「あん?なんだよアルベルト、そんなとこに座り込んで?さては疲れたのかぁ?俺はまだまだ余裕だけどなー」
「バカは体力だけ立派だな」
「よく疲れないよねカイト、結構重い荷物持って長い時間歩いたのに」
「ポケットルームは便利だぞセニカ〜、日常生活を快適に過ごす為の魔法は殆ど網羅してあるからな〜」
「こんなに大きな荷物入らないよ〜、剣を入れるだけで精一杯なのにー」
「その分他の属性に適応があるからいいじゃんいいじゃん」
「あれ?オルグが居ないぞ?」
突如アルベルトチームのオルグが先程居た位置から居なくなっている事に気がついたメルトが突然声を上げた。
「オルグならそこに...あれ?居ないわね」
アルベルトチームの中で1番木から近い位置にいたのを最後に見ていたルシータが自分の後ろを見てもいない事に気がつくと、少しざわつき始めるクラスメイト。
「どうした?」
「先生!オルグが見当たりません」
「トイレに行ったとかではないのか?」
「いえ、真っ先にここで休憩していたのを最後に私が見ました」
ルシータの指挿した木の根元にヴァイスが違和感を感じた様子で後退する。
「お前ら離れろ、コイツは木に化けた魔物バオムマンかもしれない」
スパァン!!
ヴァイスが剣を横に払うと、目の前の大きな木の幹が綺麗に真っ二つに割れ、中から茶色の液体が血飛沫の様に舞い上がり、樹冠が右向きに地面へと倒れた瞬間、聞き慣れた呻き声がした。
「うっ!」
一斉に声の聞こえた樹冠へ全員が駆け寄ると、全身蔓に巻かれたオルグが倒れているのを発見したジュラン。
「いたぞ!ちょっと熱いけど我慢しろよ!」
『蒼燈』
ジュランが剣を斬りあげると青い火柱が蔓を包み込んで焼き尽くした。
そしてすぐに焼き焦げた蔓を掻き分け、オルグを救出する。
「ごめん、助かったみんな」
闘気で全身をカードしていたオルグは何処も負傷しておらず、何とか大事になる前に救出する事ができた。
「バオムマンは木に擬態する魔物だ、その擬態精度はかなりのもので見分け方は根を張っているか張っていないかしかない、すまないオルグ、そこを注意していたが向こうの擬態能力が1つ上を行っていた」
「て事はこのバオムマンは根を張っていた事になるから、見分け方は分からなくなったと」
「あぁ、なので次から木の側へ近づく時は互いの事を見張って慎重に動き、休憩をする場合は一度剣を突き刺す様にしておくんだ。もしかしたらこの森の魔物は変異している可能性があるからな、ではオルグに何も無ければすぐに出発ーー待て」
ヴァイスが説明を終え、進行方向に向いた途端異変に気が付く。
「もう1つ授業をしなくてはな、お前達自分達が来た方向はどっちか覚えているか?指を指してみろ」
ヴァイスの質問にクラスメイトの半分以上が斬り倒されたバオムマンを正面に見て右の方角、アルベルトチームが休んでいた方角を指した。
そしてもう半分以下はセニカチームが休んでいた方角、木が正面に向いていた方角だった。
「景色で覚えていたら倒れたバオムマンを正面に見て右、アルベルト達が休んでいた方角を指す、そして状況を覚えていたら正解のセニカ達が休んでいた方向を指す。因みに進行方向はバオムマンが倒れた先のジュラン達が休んでいた方角」
「でも先生、来た道の景色をちゃんと見ていたんですけど、こっちの景色と全く一緒ですよ」
そうヴァイスの問題に疑問を頂いたのは、木の正面で休んでいたセニカチームの1人メイダであった。
彼女は休憩中にしっかりと来た道の景色を記憶していた為、ヴァイスの言う正解方向の景色が違う事に意見した。
「確かにメイダの言う通り来た道の景色はお前達の指した方向で間違いない。だが状況を思い返せ、木の右側にいたアルベルトチームのオルグが消えた後、俺が来て異変に気が付いて木真っ二つに斬り倒したな?」
「どの方向に倒れたか覚えているか?」
「確か右に倒れました」
「つまり右向きという事は木の背面で休憩していたジュランチームの方角に倒れた事になる、後はもうわかっただろ」
「成程!つまり私達が指したのは木を正面にした右側ーーだったら?」
「間違えた殆どの生徒は周りの景色を確認して答え、正解していた生徒は倒れた木を見ながら状況を思い出していた、そしてメイダお前が今感じた違和感を言ってみろ」
「じゃあ私が正解だと思っていた景色は一体?」
「お前達!休憩していた木の方角にチームで配置しろ!囲まれているぞ!」
メイダとヴァイスの感じた違和感が一致し、クラスメイトもその一連の話を聞き理解した様子で、ヴァイスの掛け声に瞬時に反応し、木を背中に配置についた。
「おうおう、やっとイベントが始まったなぁ!」
「マシュー殿!行くでござるよ」
「背中は任せろ」
「みんなあまり無茶したらダメだよ」
クラスメイトが配置についた瞬間、目論みがバレたと気付いたのか、次々と周りの木々がうねりだし、その正体を露わにした。
地面に張っていた根を抜き出し、畝りながら前に進んで来るのを見て、真っ先にカイトが突っ走る。
「やり切れなかった分は頼んだぞ!」
「任せるでござる」
(ここは闘術の実践訓練で!)
『烈拳』
バキィッ!!
まずは1番近い一体が蔓を伸ばしてきたのを、跳躍して避けた後、天歩で空を蹴り、木の幹を殴りつけてへし折る。
シュルルルッ
パシッ
しかし左右から来た2体が地面から伸ばして来た蔓をカイトの両足と両手に巻き付け、自由を奪い、走り寄って来る。
(集中...イメージはゴム人間の放つ拳銃...)
『烈拳』
左の肩甲骨辺りから伸ばした1本の闘気の腕が左から迫って来ている一体に伸びて、くの字に殴り飛ばした後、左足と左手の自由が戻る。
ガサッ! ブォーンッ!
枝と葉が擦り切れる音が聞こえ、右から迫って来ているバオムマンを見ると、樹冠を大きく背後に振りかぶった後、勢いよくカイトに振り下ろす。
「ふんっ!」
左手半身に闘気を全て集中させ、片手で渾身のフルスイングで放ったバオムマンの頭突きを片手で止める。
ズゥンッ!
衝撃が左半身から地面へと流れ、土が僅かに盛り上がる。
ガシッ
グワッ!
「とう!」
バキィッ!!
片手で受け切った後、1番太い枝を掴みとり引き下ろすと同時に膝で迎え入れる。
「絡まりすぎだろ...」
そのまま動かなくなったバオムマンを見て、両腕に絡み付いた蔓を全て炎で焼き尽くす。
シュルルルッ!!
「あぐっ!」
突如地面から一瞬で全身に蔓が巻きつく。鼻だけが残る。
ブォォォンッ!
「はひ?(なに?)」
炎を全身に纏い焼き尽くそうとするも、全く燃えない事に気が付くカイト。
「ひかはふふへ!(力づくで!)」
バキィ!
体の表面に闘気を纏わせ、風船の容量で内側から魔力を流し込み一気に膨らませる。
バキバキバキィ!!
巻き付いている蔓が体より硬ければカイトの体が逆に押し潰されるかもしれない賭けではあるが、一応試して見ると向こうの耐久値が先に根を上げたので結果オーライと考える。
「本体はどこだ?」
周りを見回すと景色が変わっていた事に気がつくカイト。
「ほぉ、これで俺を撹乱したつもりかも知れねーけど、場所さえ覚えていればこっちはいつでも移動できんだよ」
「ま、それよりもお前らの挑戦を受けてやるけどな」
『烈刀』
闘気に魔力を流した刀を生成し、刀身を10メートル程まで伸ばす。
ある日伸縮自在の剣を思い付いたカイトはすぐさまそのアイデアを行動に移し、魔闘術を利用してそのアイデアを再現した物の、伸ばした刀身を維持するのに、魔力をかなり消費するので長期戦には向かず、一瞬で且つ殲滅を目的とした戦闘においては有用なので、躊躇わず使用する。
『回天』
ブォンッ!!
バキバキバキバキバキィ!!
半径10メートルの木を次々と薙ぎ倒していく回転斬りに、思わず少し離れた位置にいた残りのバオムマンの同類達はすぐさまその場から逃げ出した。
「え?今ので終わりなの?」
((追わねぇのか?))
「いろんな方向に散らばって逃げたしめんどくさい」
そしてすぐにテレポートでみんなの位置まで戻るカイト。
「カイト!?どこ行っていたのよ?」
「悪い悪いソロカ、拉致られたんだよ、ほい!」
バキィ!
クラスメイトの位置まで戻ると、ソロカが2体のバオムマンの蔓に巻きつかれていたので、蔓を紙をちぎる様に力尽くで引き剥がす。
「ありがと、、右は任せるね」
『鬼哭』
解放された後、その場からジャンプして一体のバオムマンを樹冠から縦に斬り裂く。
ソロカが倒すのを見た後、右にいたバオムマンが逃走を試みようとしていたので、寄手で枝を掴みこちら側に引き寄せた後、勢いをそのままにソロカに投げつける。
「ソロカ!もう一丁!」
「ふえっ!?ちょっと!」
『黒閃』
ズガァンッ!!
投げつけられたバオムマンに、驚き情け無い声を漏らすも、すぐに落ち着いて渾身の刺突でバオムマンの幹の部分を砕いた。
「ちょっとー!いきなり危ないでしょ!」
「へっへ!やれたから良いだろ?それよりあれ助けに行くぞ」
そういたずら顔で微笑んだ後、カイトの指した指の先を見ると、通常より一回り大きいバオムマンにニューロが蔓で全身を巻きつかれ、マシューが何とか救出を試みようとしている。
「マシュー!背後に回ってそいつの気を逸らしてくれ!」
「ん!?カイトか!、、分かった!」
「出来る様になったか?」
「まぁ自信ないけどやってみる」
「ニューロを任せるぞ」
そう言ってバオムマンの正面に立っていたマシューは距離を取り背後へと回ろうと走り出すと、バオムマンがマシューの方向に身体を向き続ける、背後を向いたのを見たカイトとソロカは雷走で走り込んだ。
『火円斬』 バキィ!
『烈脚』 ドォォォォン!!
ソロカがニューロを巻きつけている蔓を斬り離したのを確認し、根本の部分を力一杯蹴り上げて5メートル程浮かせた。
「マシュー!合わせろ!」
「あいよ!」
『炎刃』
『風刃』
カイトの放った炎の斬撃とマシューの放った風の斬撃が、空中でぶつかり合い巨大な炎となってバオムマンに直撃し、全身を焼き尽くした。
「大丈夫かーニューロ?」
「危なかったでござるカイト殿...」
「マシュー、みんなが休憩した所にニューロを連れて行ってやれ、ソロカもしんどかったら休憩してこい、後は俺が全部片付けとくから」
そう言って奥の方から更に現れてきたバオムマンにカイトは単身で突っ込んでいき、全て薙ぎ倒していった。
ーーバオムマンの群れの襲撃から10分後
「よっと!ふぅ、、これで最後か?」
最後の一体を仕留め、クラスメイトが休憩している場所へと向かうカイト。
「あぁ〜、結構な数いたな〜」
「カイト殿〜、無事でござるか〜?」
「お〜う、、楽勝楽勝!」
ヴァイスが最初に倒したバオムマンの木の根本に着くとクラスメイトの殆どが息を切らしながらカバンの上で倒れていた。
「そっちは片付いたか?」
「はい師匠、楽しかったです」
「クラスメイトが息を切らしてる中、楽しいっ...いよいよ背中が見えないくらい離されたな...」
ヴァイスとカイトの会話を聞いて、メルトが荒い息を吐きながら、更に開いた実力差を痛感する。
「セニカは無事かな〜」
セニカを探しに木の周りを一周回ると、森の方からセニカが丁度帰ってきていたのが見え声を掛けに行く。
「おかえり〜、大丈夫だったかー?」
「ふぅ、結構魔力使っちゃった」
額に浮かんだ汗を見たカイトは、氷魔法と風魔法を合わて冷たい風を両手からセニカに放つ。
「ふあ〜涼し〜、、もうちょっと温度上げて〜」
「イェスマム!」
右手に流している氷魔法の魔力出力を下げて温度を調節する。
「はぁ〜涼し〜」
「おいジュラン勝手に入ってくんなよ」
「喋ってないでちゃんと集中しろ」
「なっ、バカベルトお前まで」
「あ、カイト動かないで」
「ソーリーマム!」
サイドからやってきたアルベルトとジュランを見て、範囲をセニカのみに狭める。
「だったら」
「小賢しいぞカイト」
セニカの背後に立ち、一列になるジュランとアルベルト。
「お〜、セニカいい匂いだな〜、ミレンの香りがする〜」
「そういうお前は汗臭いぞジュラン、俺がセニカの後ろに!っておいカイト、何故やめる!?」
『ロックドーム』
無言で魔法を中断して、ドーム状の岩にアルベルトとジュランを閉じ込めた後、火属性と風属性を片手に纏い、空けた穴から熱風を絶え間なく注ぎ込み、セニカには涼しい風を送り続ける。
「俺の彼女って忘れてんのかこの野郎、干からびちまえ」
「匂いくらい別に良いのに、ジュランにも香りが分かるんだね〜」
呑気に褒められた事を喜ぶセニカにムスッとすると同時に、熱風の火力を更に上げる。
「...俺だってシャンプー匂いくらい分かるし」
口を尖らせゴニョゴニョ対抗心を見せるもセニカは気付いていない様子。
それから少しすると出発の合図がヴァイスの口から放たれ、一同は再び仮設キャンプへ向けて足を運んだ。
...
.......
..........「着いたぞ、ここが仮設キャンプだ」
「へ?」
仮設キャンプと聞いて、てっきりコテージや少なくともテントがある物と考えていたカイトだったが、ヴァイスの声を聞き後ろの列からワクワクしながら走り抜けて見えた光景は、一本の木も生えていない大量に落ちた落ち葉のみの、仮設キャンプとというよりただの開けた場所であった。
「何も...無いですけど?まさか師匠、俺がガルナロート行ってる間に冗談を覚えました?」
その場で膝から崩れ落ちるカイトの話を無視しながら、開けた場所の真ん中で止まり、落ち葉を足で退かすと、大きな石で囲んで作られた焚き火の後があり、それを見つけたヴァイスの口からカイトにとって悲報が放たれた。
「ふむ、此処で間違いないな」
「師匠!1つ質問です」
「何だ」
「まさかここで野宿するんですか今日は?」
「そうだ」
「「「えぇ〜〜〜〜!!!」」」
クラスメイト全員から悲鳴やら泣き声やらありとあらゆる悲しみを含む声があげられた。
「まぁ、野宿と言っても夕暮れまでのお前らの頑張り次第では、快適にはなると思うが」
「それってまさか私達が自分自身でキャンプ場を建てるって事ですか?」
「そうだ、全員で力を合わせて今夜の寝床を造って貰う」
セニカの質問に真顔で答えるヴァイス。再び悲鳴と泣き声が上がる。
「はは〜、いきなりとんでもねぇ事になったなぁ、、だが俺は屈しないぞ!」
そう言ってカイトは鞄を下ろして、クラスメイトみんなの前に立った。
「まず2つ質問を師匠」
「言ってみろ」
「先生は手伝いますか?」
「魔物の襲撃時と同じ、簡易キャンプの設営を教えるだけだが」
「ほう、ではその簡易キャンプで無ければダメだというルールはありますか?」
「無いが、できるのか?」
「そこはご心配なく、では2つ目の質問です。ズバリ魔法は使用しておーけー?」
「使用禁止とは聞いていないな」
「だったらイージーだ!野郎ども!先生ではなく俺のアドバイスに従えば最高のキャンプ場を作って、快適な暮らしを保証してやる!どうだ!?」
「カイトォーー!!頼むぞー!」
「あなたが最後の希望よカイトォー!」
「お願い!魔物のいる場所で野宿は絶対に嫌よ!」
カイトの自信満々な目を見て、クラスメイト全員が希望をカイトに託す。
「お前達の希望は確かの受け取った、ではまずチーム毎に別れてもらうぞ!」
こうしてカイトの指揮の元、元々の4つのチームに作業担当が分けられた。
まずアルベルト、ジュランチームは木材担当。
セニカチームは木材加工を担当。
カイトチームは土台担当。
アルベルトチームとジュランチームには出来るだけ木を切って集めて貰い、セニカチームには集めて貰った木をカイトの指示通りに切断して加工し、カイトチームはキャンプを建てる場所の土台を作ってもらう。
建物の建設知識は何一つ無いが、此処は異世界。クラスメイト1人1人が身体能力向上によって、前世の人間の十人分程怪力であり、作業の正確さも剣術で期待上げられているため、何とかなるだろうと見切り発車で作業を始めたものの、これまたクラスメイトの意地でも野宿したくない思いが強いからなのか、作業がかなり捗った。
魔法で岩を生成して、そのままそこに住めばと考えたが、魔法で生成すると形を維持するだけで魔力を消費してしまう為不安定なので、出来るだけ本体の部分は魔法に頼らないようにして、実際にある物で建てる事となった。
問題は崩れない様に木を組み立てる事だった。しかしその問題も建築関係を親に持っていると初めて知った、グレイルとメルトのおかげで直ぐに解決と迄は至らなかったが、貴重な意見を聞けて、何とか完成させる事ができ、男女で分かれた2つのコテージを作る事に成功した。
「完成したぞー!!!」
「「「「うわあああああ!!!」」」」
最後の装飾部分を終え、カイトが叫ぶとそれに続き他のクラスメイトも叫び出した。
作業時間僅か3時間。前世ではあり得ない速度での完成だ。トイレも窓もなく、ただ寝る為だけのコテージなので、それだけの時間で済んだ。
「お前達...本当に完成させたのか?」
カイト達が建設に励んでいる間、ヴァイスは周囲の様子を見て用事があると出かけ、丁度完成した所で戻ってきた。
「凄いでしょー?殆どメルトとグレイルのおかげですよ〜」
「此処まで来ると訓練と言うより、キャンプをしに来たと間違われるな」
「まぁ1日ならまだしもこれから1週間は流石に簡易テントでは僕たちゆとりには暮らせないですよ〜」
「まぁ出来たならそれでいい、集合だ!今後の予定について詳しく説明する!」
日の僅かに暮れだし、焚き火に火をつけ、その周りにヴァイスが皆を招集する。
「今日から此処を拠点に皆で生活してもらう。言っておくが此処にきたのは遊びではなく訓練だと言う事を忘れるな。その上でルールを幾つか設けさせてもらった。まずは食事についてだ」
「この森には魔物だけでなく動物もいる。狩りの仕方についてはお前達は問題無いと思うがまず1つ目のルール。食事は各チームで自給自足で賄う事。別のチームに自分達で取った食材や調理した食事を他のチームに与える事は禁止する。見つけ次第俺がその場で食材を破棄する」
「「「えぇー!」」」
「協力し合いましょうよ師匠ー」
「1人1人が成長してく為のルールだ、いつまで一緒にいるわけではないだろ?お前が今何もかも助ければ、最終的の困るのは助けられた奴の方だ。自分で全部できる様になれ」
「はーい」
「それと次のルールは各チームの縄張りについてだ。各チームにはこの拠点と、建物の裏側にある小川とは別で、東西南北に縄張り地点を設定した。縄張りの境界線には俺が設置したロープがあるからそれを目印にしろ」
「まずルールその1自分達の縄張りに入った途端、魔法の使用を一切禁止する。ただし一部の場合を除いては魔法の使用を許可する」
「まず1つ目は動物や魔物と遭遇した場合にのみ身体能力向上の魔法だけ許可する。そして2つ目は縄張りに他のチームが侵入し、戦闘になった途端全ての魔法の使用許可を許す」
「ん?他のチームの縄張りには入っても良いんですか?」
「あぁ、それがこの訓練の最も重要なポイントだ。お前達は明日から各自の縄張りで日中を過ごしてもらう。縄張りでやる事は主に3つ。1つ目は食事の確保。2つ目は俺が各自の縄張りに仕掛けた6つの魔石を見つけ出す事。そして3つ目はこれに関してはやってもやらなくてもどちらでも良い。それは各チームが見つけた魔石を奪う事だ」
「魔石を奪うか...やらないと何か罰はあるんですか?」
「無いが、報酬はある」
「なんですかその報酬というのは」
「それは貰ってからの楽しみという奴だ。いいか?1日の終わりに1番多く魔石を所持していたチームには報酬がある。そして魔石が1番少ないチームには...これもなってからの楽しみと言う事でいいな」
「えぇー!!結局罰ゲームあるじゃ無いですかー!」
「お前達はそもそも仲良しごっこをする為に学園に入ったわけでは無いだろ?自分が強くなる為だったら他者を蹴落とすぐらいの事をしないと、この先生きてはいけない、説明は以上だ、各自支給された食事を食べ終わったら自由行動だ、明日に備えろ」
「「「はい!」」」
「さてさて〜、寝るまでの時間なーにしよっかな〜」
「カイトー!ちょっと良い?」
各自解散した後、セニカが遠くからカイトを呼びかけた。
「ん?どうしたー?」
「コテージを作ってるときに思ったんだけど、お風呂がないじゃん?だから...その...」
「あぁ〜、そういえば忘れてたな、、そうだな、簡単な奴だったら今すぐにでも作れるから作るわ」
「ごめんね折角の休憩の時間に、お詫びに今日の服は私がカイトの分洗うから」
「まじ?それはちょっと恥ずかしいけど、面倒だったから良かったよ」
「それじゃあ完成楽しみにしてるね」
「あいよ〜」
それからカイトはクラスメイトが焚き火を囲んで談笑している中、風呂のアイデアを模索していた。
「そういえば此処の近く灯り1つもないからめちゃくちゃ星綺麗だな...そうだ!」
何かアイデアを思い浮かんだ様に、すぐさま残っていた木材を使って、建設を始めた。
隙間が出ないように残っていた木材を組み立てていき。すぐに小さな正方形で3人くらいが同時に入れる湯船を2つ作り上げた。
それをそれぞれのコテージの横に丁度湯船が入る穴を土魔法でくりぬき、湯船をはめ込んだ。そして後はコテージからアクセスしやすい様に、コテージの横をくり抜いてドアを作り、道も舗装して、装飾も施した。
「名付けて、簡易露天風呂の完成だ」
「「「うぉ〜」」」
「これずっと1人で作ってたの?」
「まぁな、すげぇ楽しかった〜」
「もうここまで来ると何でも1人で出来ちゃうよね」
「後は此処にあいつら狼共が除けないように壁を作れば完成だ、天井は開けといた方がいい、こんな綺麗な星見ながら入る風呂は絶対に気持ちいいからよ」
「ありがとうねカイト」
クラスの女子から感謝を贈られる中、男子達に冷ややかな目で見られるカイト。
「ちっ、裏切り者が」
男子のコテージに入ると、メルトが目と眉を顰め小さい声で呟いた。
「何が裏切り者なんだよ、お前らにも風呂作ってやったじゃねぇか」
「んな事で意見があるんじゃねぇよカイト!!」
いきなり気持ちを昂るメルトは、突然カイトの胸ぐらを力強く掴む。
「ちょっ...なんだよ」
「何故だ...何故...仕切りをつけたぁ...お前の事は友達だと思っていたのに!」
「んだよそんな事かよ、全くお前らは...いいかお前ら耳を貸せ」
円陣を組み、小さい声で話し始めるカイト。
「たしかに仕切りは付けた、付けないとおかしいだろ普通に考えて...でもな1箇所だけ空いている部分があるんだ...天井だ」
「此処らは灯りがないから星が綺麗だろ?それを口実に星を見ながら入る風呂は絶対に気持ち良いって俺がロマンチストぶって言ったら、天井を付けない事に賛成したんだよアイツら、つまり!っんむっ!」
「皆まで言うなカイト...どうやら俺たちはお前を誤解していた様だ...すまない!」
「良いって事よ、ただセニカの裸見たら殺すけどな」
「それだけは約束しよう同胞よ!」
そしてこの日アルベルトとカイト以外の男子は何とか風呂を覗こうと、必死に模索し、見つけた方法は女用のコテージによじ登って上から覗くといった至極シンプルな方法だったが、覗ける一歩手前の所でニューロが興奮の余り鼻血を出してしまい、パニクった所を風呂上がりにタオルで身体を巻いて出てきたタリカにバレてしまい、全員整列させられ1人ずつボコボコにされたのであった。
「ぁんでほへまへ?(何で俺まで?)」
関係の無いカイトとアルベルトまで顔中膨れ上がるまで殴られ、初日はこうして終わった。




