第2章 僅かなプライド
ガチャン!!
「帰ったぞ」
いつも通り大人数の使用人に帰りを出迎えられる中、2人の子供が帰ってくるなり此方に駆け寄り、挑戦的な眼差しで口を開いた。
「父上、もう一度手合わせ願えますでしょうか?」
駆け寄ってきた2人の内1人は自分の子。今まで自身が稽古をつけてやると言うたびに臆面していた子供だったが、友の頼み事と言うこともあってか、初めて自ら挑んできた、それもその顔からは昔のようにおどおどしていた様子はなく、真っ直ぐ自身の目を見つめて強く訴えてきていた。
そんな成長した姿だけでも十分頼み事を聞く価値はある、だが自分の先祖が決めた家訓を破る訳にもいかず、かと言って勝負となると手加減するつもりももうとうない。
シドウ自身も、まだミドラの祖父が在世していた頃、頼み事を聞いて貰えた事が無く、それはどの代でも同じだったと聞く。未成年が家名を名乗ってする事と言えば、大体家名に泥を塗る行為、それが先祖の代で起きた事があったからそう言った家訓が出来てしまったのか。考えても仕方のない事。只今は目の前で挑戦的な面構えをする2人の願いを聞き入れる。
「ふむ、諦めていなかったか、、良いだろう」
それから裏庭へと向かい、昨日と同じく再び正面から全力で叩きのめした。
「うぐっ、、」
倒れ込む2人を見て、昨日今日で強くなれる奇跡なんてないと思うも、その目にはまだ諦めは無く、闘志が宿っていた。
「もう一回!」
再び斬りかかってくるカイトとミドラを再び斬り伏せる。何度も何度も斬り伏せ、日が暮れるまで2人の挑戦は続いた。
「はぁ、、はぁ、、くそっ!もう一回だ!」
性懲りも無く再び立ち上がり、剣を構えるも、誰がどう見ても満身創痍。服はボロボロに破け、擦り傷や打撲の跡が見ていて痛々しく思える。
「万全な状態でも一本取ることが出来ていないのだ、そんな息を吹きかければ倒れそうな状態では触れる事すらできないと思うが」
シュンッ
『闘砲』
ドォンッ!!
瞬間移動で目の前まで現れたカイトは、両腕に纏った闘気をシドウの眼前に当て、一気に魔力を放ち爆発させた。
シュゥゥゥ
しかし上半身を横に傾けて避けるシドウ。そして目の前の景色がブラックアウトした。
「魔力切れを起こしてでも取りたかったのか、ミドラ!カイト君をベッドまで運んでやりなさい、その後食事にするぞ」
「はい!」
カイトをサバトと担ぎ上げ、ベッドまで運び、今日の挑戦は終わり、次の日...
シュインッ!
バァンッ
「うおっとっと!あぶねぇー」
剣をいなされバランスを崩し、その隙に放たれた刺突をギリギリ剣で受け止めるカイト。
ブブブゥンキィン!
「ちょちょちょ!」
ズバァンッ
次に正面からの袈裟斬りを何とか剣で受けた物の、次の瞬間、無数の連撃を高速で繰り出すシドウに、慌てて凌ぐカイト、しかし抵抗も虚しく最後の上段の攻撃を受け止めた瞬間、早送りをした様な動作で腹部に剣を当てられ、体ごと吹き飛ばされる。
ズザァーッ
「ってて、最後のなんだよあれ、、」
「ねぇミドラくん、、」
「あぁ、分かっている、この数日父との打ち合いでカイトの目が父上の剣速に慣れてきている」
ここ数日でのカイトの反射能力と剣捌きが格段に上昇して来ているのが目に見え始めたサバトとミドラ。
「おいミドラー!交代だぁー!もう身体中いてぇよ」
「今行く!」
カイトと交代で今度はミドラがシドウに挑みかかる。
「お疲れカイト」
「あぁ〜、結構太刀筋は見えて来たけどなぁ、決定打が見つかんねぇわ、隙なさすぎだろあの親父」
「かなり耐えられる様になって来たよね」
「お前も一回戦ってみろよ、もしかしたらいけるかもしんねぇぞ?」
「いや、ミドラくんですらあんなに恐縮する程の相手なんか絶対無理だから」
サッ
「いやだよ、見せても無駄だから」
すぐに拒否したサバトに対し、ドヤ顔でゴールドカードを取り出し、チラつかせるも乗り気じゃないサバト。
結局その日も2人してボロボロになる迄しごかれ、挑戦は終わった。
「くっそぉ、、ようやくあの馬鹿げた速度に目が慣れたと思ったら、また一段と早くなりやがって...」
「ぷはぁ!....剣に目が慣れただけでも、上達している。我はまだ父の圧に慣れない」
「そんなに親父が怖いのかミドラ?」
ここに来てからずっと疑問に思っていた事を口に出すカイト。
「昔父が一度だけ本気になったのを見た事があってな、無差別に放っていた圧に運が悪く我もその場にいてな、何週間か父の顔を見る度に泣いてそれからというもの、父の放つあの圧がトラウマになってしまったのだ。当の本人はもうすぐ大人になる我に対し、もう気にしていないがな」
「そっか、まぁでも殺しに来ないからそんなビビんな、殺気じゃないだけまだマシだよ、ほら、風呂入りに行くぞ」
「あぁ」
屋敷内に設けられた大浴場に入り、今日一日の反省をした後、ベッドへとダイブする。
(はぁ...1日の疲れは、風呂で落とすに限るなぁ〜)
目を閉じるとすぐさま眠りにつき、いよいよ最終日。
パンッ
「うっし!」
もし今日シドウから一本取る事が出来なければ、後のないカイト。気合を入れて裏庭へと向い準備運動をする。
「揃っているな、それでは早速始めようか」
「よしっ!それじゃあ〜いつも通り俺から」
そう言って前に出たカイトの腕を突然ミドラが掴み止めた。
「今日は我からいいか?」
「ん?おぉ、分かった」
「今日はいつもよりやる気みたいだなミドラ」
「後がないので、、」
剣を構え、シドウに自ら走り出す。
初めて自分から仕掛けに行くミドラを見て、昨日のアドバイスを心掛けたのかと思い、固唾を呑んで見守るカイト。
(通常通りの動きが出来れば、俺よりマシな動きができるんだ、頼むぞ)
『黒闘閃』
ブワァ!
「っ...」
技の射程範囲まで近づいた後、一気にトップスピードで距離を詰めにかかった瞬間、シドウの本気の圧がミドラの全身にのしかかり、技の精度と速度が一気に落ちる。
「出直せ!」
スパァン!!
「うぐっ!」
圧に慄いた一瞬の隙に、刀身の面の部分でミドラを叩き飛ばす。
「もう一回、、」
「昨日言った事思い出せミドラ!」
再び自分から仕掛けに出るミドラ。
今度は地を這う斬撃を放ち、斬撃の背後に隠れるように同じスピードでシドウに向かう。
『斬破』
ミドラの放った斬撃より、2倍大きい斬撃が一瞬でミドラの斬撃を消し飛ばし、背後のミドラも消し飛ばしたのか、金属音が鳴りよく見ると剣が宙を舞っていた。
『鬼哭』
キィン!!
「囮にしては幼稚だ」
頭上から振り下ろすミドラの剣を、片手で受け止め、今度は至近距離で圧を与える。
「うっ!」
剣を握る手が僅かに震え、それを見たシドウは剣を押し返し、魔力の斬撃を飛ばした。
キィン!!
着地と同時に受け流すミドラ。
しかし次の瞬間には本気で圧を出して背後に立っていたシドウ。
背筋が凍り動けなくミドラにシドウが剣を振り払う。
「ミドラぁ!」
『殺しに来ないからビビんな』
ふと何故かそれが頭に過り、次の瞬間。
クルッ
「んっ?」
スパァン!!
突然振り返り、何もせずただただ自分の目を見つめるミドラに対し、なんの躊躇もなく剣を横腹に当てて吹き飛ばすシドウ。
剣が横腹に当てられた瞬間、何故か口角が浮かぶミドラ。
「ふぅ、、」
「まだやるか?」
ゆらりと立ち上がるミドラ。その表情は何処か解放された様な顔立ちになっており、静かに剣を構えた。
「最後に一本お願いします」
何故かミドラの顔が気に入らなかったのか、剣を構えた瞬間に、目の前まで迫ってきたシドウ。
ブワァ!
全力の圧をミドラに放ち、剣を振り下ろす。
キィン!!
なんの躊躇もなくシドウの剣を弾くミドラ。
「おっ!?」
突然の事に思わず驚いて口から声が漏れるカイト。
「ほう」
圧が効かずおまけに剣を弾かれ、口角が上がり、今度は目にも止まらぬ速さでミドラに連続で斬りかかる。
『黙想六花』
キィキィキィキィンシュイン!!
今度は目を閉じて、連続の剣撃を全て弾き、最後の攻撃をいなした。
『破邪顕正・回』
バランスを崩した所を、無駄な動作1つもなく洗礼されたいつもの動きで技を繰り出した。
キィン!!
渾身の一撃をバランスを崩した状態にも関わらず、片手で受け止めるシドウ。
「なっ!」
「1つ成長したな、ミドラ」
受け止めながら優しい笑顔でミドラの成長を喜ぶシドウ。
そして一転...
ゾワッ!
今まで圧とは様にならない程の殺気を感じて、震え上がるミドラ。
「殺す気がないと言う考えで克服したのは褒めてやる、だけどそれは逃げだと言う事を理解しろ、根本的な解決には至っていない。泥濘みには浸からせんぞミドラ、次の壁だ、死ぬ気で克服しろ」
剣に膨大な魔力を溜め込み、振り下ろすシドウ。
一方のミドラは、放たれた殺気に体が強張り、動けない。
防がなければ怪我では済まない、下手をすると死ぬかもしれない程の殺気を込めた斬撃。
そんな強張って動けないでいるミドラを見て、カイトが助けに向かおうとしたのが目に映ったミドラ。
(助けてく...っ!)
「来るなぁあああ!!」
突然死に物狂いで叫び出し、放たれた斬撃に自ら迎え撃つミドラ。
「ぐっ、ぐぅおおおお!!」
ドォォォォン!!!
裏庭に置かれていたあらゆる花瓶などの装飾品が斬撃とミドラの衝突で吹き飛び、丁寧に整理された芝生も衝撃でめくれ上がる。
「がはぁっ!...はぁ...はぁ...」
正面から斬撃を受け止め、全身傷だらけになるミドラ。
そんなミドラを見て、急いで駆け寄るカイトとサバト。
「来るなっ!まだ終わってない..ぐっ....今お前に助けられると、我は2度と小心者から立ち上がれん」
最初に殺気と共に放ってきた斬撃で動けなくなっていた時に、心配そうな表情で此方に走ってくるカイトを見て、助けに来るというより、弱者を守りに来る様に見え、同時にその助けを心で願いかけた事に、怒りが湧き上がったミドラ。
無論カイトは弱者を守りに行くと言うより、動けなくなっているミドラに迫る斬撃をただ止めに向かおうとしていただけであった。
「見事!」
トンッ!
刹那、ミドラ背後にシドウが現れ、手刀でミドラを気絶させた。
「ミドラの言葉を悪く捉えないで欲しいカイト君、この子にもいくら私に敗北したとして、地面を舐めて死にかけたとしても、譲れない物があるんだ。だから気を悪くしないで欲しい」
「えぇっと、何故怒鳴られたかよく分からないですけど、そう言うなら...」
「それと試合だが、もういい」
「え!?それは困ります!入場券は明日が発売です、絶対に今日一本取るって決めないと!」
「ふっ、、鈍いな君も、合格だと言っているのだ」
「な、何がですか?ミドラはまだ貴方から一本も」
「それより重要な物をこの子から引き出せた、一本などそれで十分だ、今日伝書を飛ばし、明日自分達で買って行きなさい」
「おぉ、やったじゃんカイト!」
「あぁ、やったけど、なんかしっくり来ないな」
こうして一本は取れなかった物の、シドウの許可を貰い、精霊展への切符を手に入れる事ができたのであった。その日の夜、大浴場でミドラと2人キリになった所をサバトが質問を投げかけた。
「ねぇミドラ君、なんであの時、あんなにも死に物狂でカイトの助けを拒んだの?」
「答えん」
「ん〜、いいじゃんいいじゃん〜きーかーせーてーよー」
「しつこいぞ、、ただあれだ」
「何?あれって」
「あの一瞬、畏怖するあまり動けなくなった我にいち早く気が付いて、助けに来たカイトを見て、何を血迷ったのか、、助けを求めかけたのだ、あいつに」
「あぁ〜、だからあんなにも死に物狂いでねぇ」
「あいつに負けたと思って悔しいとかではなく、我はカイトの頼み事を聞いた身、それが連日の戦いで進歩もなく、挙げ句の果てに本気の殺意を向けられて、助けを求めかけたのだ、もしあの時言葉に出していれば我は一生弱小者になっていただろうな、自分の尻も自分で拭えず、友人が困っている時に、申し訳なさそうにしてきた頼みすら、叶えてやれない。最後に残された僅かなプライドと誇りが、我を繋ぎ止めたのだ」
「チャンスを貰えてだけでもカイトは十分感謝していると思っているけどなぁ」
「それはあいつの価値観だ、我の価値観は違う。あいつがそう思って無かったとしても、それだけは譲れないのだ」
「難しい話だね〜」
それから3人はミドラの部屋に集まり、屋敷にあるお菓子と飲み物をかき集め、小さな祝勝会
を始める。
「何はともあれ、ミドラの奮闘に乾杯〜!」
カイトの音頭で3人が勢いよくグラスをぶつけ、グラスの中にあるジュースを飲み干す。
「ぷはぁっ!、、いや〜正直あの手加減を知らない親父から一本取れないって思ってたぜ〜」
「ねっ、あんなに2人がなす術なくやられてるの、すごく貴重だったなぁ〜、帰ったらみんなに広めよ〜」
「おいサバト、広めるのはミドラだけにしろよ、俺の話をしたら渡してやんねーぞ」
「じゃあミドラ君だけー!」
「我の噂を広めたら、授業中手加減できなくなってしまうが、それがいいと言うなら」
「ちょっ!それだけは〜」
それから朝まで馬鹿騒ぎは続き、次の日の朝。
「あー、、全然寝れてねー」
「置いていっちゃうよカイトー!」
一足先に屋敷の敷地を出た門の前で止まっている獣車に乗っているサバトとミドラがカイトを待っている。
『キュア』
「ふぅん!コレさえあれば、朝の寝不足を解消!最高ー!」
状態異常回復魔法で寝不足を回復し、軽快なステップで獣車へと入っていくカイト。
「寝不足も回復できるって、本当便利だよね」
「まぁ1日が限界だけどな、取り敢えず思いついた可能性は全部試す主義なんで」
「あ〜、もし何回でも使えるとすれば、人の倍生きれることになっちゃうもんね」
「準備はいいか2人とも?」
「うぃ」
「うん」
「屋敷の事は任せたぞトマス」
「はい、坊っちゃま、いってらっしゃいませ」
「出発してくれ」
「はいよぉ!」
こうしてカイト達は精霊展が開かれるガルナロート中央都市ビレイクへと獣車で向かった。




