第2章 一本
窓辺から差し込む光と、僅かな隙間から頬を撫で通り過ぎる涼しい風が、ぼんやりとした意識を覚ます。
「うぅん、、、」
目を半分開け、自室の空間ではない事を見て、此処が何処だか思い出したと同時に、隣で聞こえる静かな寝息がカイトの心を無性に満たし、どうしようも無い幸福感を噛み締める。
そして静かに布団から起こさない様に体を出し、セニカの顔を眺める。
(あぁ、、超可愛い、これでスッピンとかマジ天使)
勿論昨晩、樹楽の舞が終わりへとへとで帰ってシャワーを浴びた後、何も事は起こしていないカイト。
事を起こす欲求より、肉体の年齢の所為なのか何故かそういう考えには至らなかった、というよりよく考えれば、精神年齢は前世と合わせれば30を超える男が、14歳の女の子にそういう気持ちが芽生える事自体おかしい。
女性は好きだが、勿論そう言ったラインはキチンと守るカイト。
そして見ること数十分...
「んぅ、、、」
パチ
目を僅かに開くと、満面の笑みで此方を見ているカイトが目の前に映っている。
瞬時に状況を把握し、なぜかとても恥ずかしい気持ちになり、頬にリンゴの様な赤い点が2つ浮き出る。
「寝顔、、見てたでしょ」
「うん、可愛いすぎてもう30分以上見てた」
「さ、30分も?、、、うぅ」
「無茶苦茶可愛かったよ、もう抱き締めて起こそうと思ったけど、あまりにも幸せそうな顔だったからさ」
「恥ずかしいって、、、」
「取り敢えずおはよう!」
布団で顔を隠して蹲るセニカの髪に我慢していたキスを長めにして、顔を洗いに行くカイト。
「ふあああ」
グチュグチュ ペッ
「まだ眠たいか?」
「うん、ちょっとね、昨日の踊りでちょっと疲れちゃったみたい」
「今日は狩りの体験させて貰えるからな、もっと疲れるかも」
セニカに洗面台を譲り、後ろに立って顔を拭くカイト。
それから学園の運動着に着替え、時間が来るのを部屋で過ごして待つ。
「なぁ、、もし万が一俺とセニカが別れるとするじゃん?何が原因で別れると思う?」
「んー、、今はそんな事万が一にも起きない事だけは断言できるね」
鏡台の前で髪を梳かしながら、鏡越しでカイトの目を見て答えるセニカに、思わず頬が緩む。
「ふふん、、まぁそっか、お互いが死なない限り離れる事はねぇよな〜」
(って皆最初はそういう風にいうよな〜、でもいつの間にか、マンネリとかしちゃって?それから)「んむぅっ!」
ベッドの腕で仰向けになりながら、考え事していたら、突然セニカが視界に入ってきて、頬を両手で力強く挟んで来た。
「にゃんだよ、、しゃへりにくいだお?」
チュッ
突然セニカからのキスに目を見開き、驚くカイト。
「いちいち考えても仕方のない事考えないの!私がカイトから離れる理由なんてないから」
「そうだな、っそれよりセニカからキスされるのも悪くないな、、これから1日1回はお願い」
「やだよ、、たまにだけ積極的になってもいいけど」
ガチャ
「あら、お邪魔だったかしら〜?ほら、集合の時間だよ」
「「は〜い」」
ジルがタイミング悪くカイト達の部屋の入るが、すぐに気持ちを切り替え、集合場所へと向かう。
「よし、全員揃ったな!それでは出発だぁ!」
そう言って本日のカイト達の狩りの担当を受け持つ事となった第8隊の副隊長ライタスがジルの紹介で生徒達の前に現れた。
この日カイト達はライタス指導のもと、動物達の狩りを行った。
魔物と違い、命を失った瞬間に消える事がないので、命を身近に感じるカイト。命を奪う前に感謝の意を込める事が狩りをする上で1番重要という事を教わり、自らの手で殺めるその瞬間はかなり苦しい物があった。
そして昼食は狩場の近くにある広場で狩った動物達を食べる事となった。
「だめだ、、慣れねぇな、、」
感謝して口に運ぶも、つい先程まで生々と歩いていた姿を想像すると、一口でスプーンが止まる。決して味が悪い訳ではない、むしろかなり美味しい部類に入るが、どうしても想像が邪魔をして、手が止まる。
(こういった行程をやってくれている人に感謝だな、世の中分かっていれば、知らなくてもいい事いっぱいだな、、)
この日は1人だけ、暗いまま1日を過ごしたカイト。
ーーそして3日目
3日目は特に何もなく、ただ自由時間が与えられ、お土産を買ったり、里の人達と交流したりとそれぞれ自由な時間を過ごしている中、カイトは旅行前に本人の希望によって1日早く帰宅する事になっていた。
「折角の楽しい思い出なのに勿体ないよ」
「ごめんな、今日はどうしても外せない用事があってな」
「そっかぁ、、それじゃあまた今度学校でね」
「あぁ」
そう言ってテレポーターの前まで送ってくれたセニカと別れ、学園に戻ったカイト。
「テレポーターの場所、そろそろ変えないと行けないよな、、」
((早くしねぇと約束の時間に遅れるぞ))
「ふふっ、、あー楽しみだぁー!」
テレポーターの台に手をかざし、土、火、水、土と魔力を流すとテレポーターが光出した。
光の中へと軽やかなステップで飛んで入るカイト。
キュゥゥゥゥゥン!!
「とうっ」
コンクリートに似た地面に足を大きく一歩踏み出し、護衛にプラチナの通行証を見せた後、テレポートで高層ビルである商業ギルドへと飛んだ。
ギルドの中へと入り、受付の女性に予約証明と通行証を渡し、通してもらう。
背面がガラス張りの昇降台にのり、結構な高層まで行くと昇降台ふわりと止まり、目の前の扉が開いた。
「お久しぶりですソクラスさん!」
「これはこれはカイト様!!いつもご贔屓にどうもぉ〜」
カイトを見るなりいつものゴマすり姿勢でサービススマイル全開でカイトに近づく、バハラ行商団金員に改めてなったソクラス。
「これ、金員祝いでつまらない物ですが、どうぞ!」
カイトはポケットルームから丁寧に木箱に梱包した冷凍のポルプフの丸焼きをソクラスに渡した。
「そこまで気を使われるなくてもよろしいのにカイト様、、ありがたく受け取らせて頂きます!」
一連の挨拶を手早くささっと済ませて、本題に移ろうとするカイト。
「さぁさぁソクラスさん、勿体ぶらないで、、できたんでしょ?」
普段冷静にソクラスと接するカイトも今回ばかりは冷静さを欠いて、普段のソクラスの様にゴマすり姿勢でソクラスに近づく。
「はぁい!グラニエルから早めにできたと預かっております!」
ソクラスは急足で裏の事務室に入り、中から布から少し取り出した状態の縦長の木箱を持ってきた。
「どうぞ此方です!」
「ん〜!!なんかすげぇワクワクするぅ〜!」
目の前に置かれた木箱を見て、まるで買ってもらったおもちゃを開封する時のワクワク感を感じるカイト。
パカッ
「うぉおおおおおおおおお!!!!!」
木箱を開けると純白の刀身をした刀が、部屋の光を反射してカイトの満足度を最大まで引き上げた。
刀身の棟、刃先とは逆の方には切先の5寸手前まで藍味を帯びた墨色の相済茶色の木材が持ち手まで繋がっており、持ち手の部分はこれまた細工に拘りが見え、しっかりと滑り止めを、木の材質と交互でストライプ状に施されていた。
刀身が柄の近い位置で丸みを帯びた凹みがあるのが刀のカッコ良さを引き出しており、鞘はシンプルに持ち手と同じ相済茶色で、鯉口の近くには金色の線が2本間を開けて装飾されていて、間には何やら古代文字の様な読めない文字が一周して同じく金色で描かれていた。
「ふぅ〜!!!かっちょいいなぁ!やっぱ剣って言ったら刀だよな〜、鞘に入れてみようっと」
鞘に刀を入れると、シンプルな感じになるのもまたカイトのテンションを極限まで上げ、鏡の前に立って似合っているか、いろんな角度や姿勢を入れてみてみる。
「あぁ〜、やべぇ、シンプルにコレクションにしたいなぁ〜、あぁ〜もうカッコいいなぁ!」
気がつくと20分以上1人で盛り上がっており、いつのまにか消えていたソクラス。
木箱の横に何やらメモの様な物が置いてあり、開いてみる。
『カイト様へ、随分と楽しんでいらっしゃっている様なので、邪魔してはいけないので少し用事を済ませに行くことをご了承下さい。1つ言い忘れていましたが、木箱の裏面にグラニエルからカイト様への説明書の様な物と手紙がありますので、お手数ですが、確認してみて下さい』
「木箱の裏面?」
そう言って木箱をひっくり返してみると、2枚の紙が木箱に貼られてあった。
『元気してるか小僧?どうだ俺の自慢の新作は?かっこいいだろ?お前のデザインの改良を聞いた時はどうなるかと思っちまったが、案外俺の想像していた通りの能力は全部付与できたから説明書の方を読んで確認してくれ。みっちり書いてあるからちゃんと全部読む様にな。
それと、その剣は間違いなく俺が今まで打ってきた武器の中で群を抜いて1番の業物だ。それもこれもお前が俺の闘志に再び火を付けてくれたお陰だ。お前の型にはまらねぇ奇抜な想像力に正直ついて行くのに必死だったが、楽しかったぜ。また機会があったら俺の所に来な。半額で武器を打ってやる。武器のメンテナンスは勿論タダだ。じゃあな』
「おぉ〜、これって認められたって事か、、なんか嬉しいな」
そしてもう一枚の紙を開く。
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『武器名』: 未定
『素材』
①デーライト鉱石1400g : 世界で2番目の強度を誇る超希少な鉱石。特性は魔力の吸収と蓄積。貯められる魔力量は1000。改良可。
②ユグドラの枝300g : 神木ユグドラの枝。本体の木から離れた事により、本来の輝きを失ったが、材質は変わらず、木の中では抜群の強度を誇り。他の素材と吸着する性質がある。
③アダマス魔鉱石50g : 魔力を放出する性質を持つ魔鉱石。持ち手の大部分がこの材質。その上にユグドラと滑り止めをカバーしている。
④ライト魔鉱石70g : 一定の魔力を込めると青く光り軽くなる魔鉱石。刀身のデーライト鉱石と融合させた為、強度をそのままに、武器の軽量化に成功。1gで10gの重さを軽量化。
『性能』
①軽量化
②魔力の補給と補充
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「ほぉ〜、魔力を蓄えたり、蓄えた分を自分に補充できるのか、これは便利だな〜、それに貯められる魔力量が多いな、今の俺の魔力量が600〜700ぐらいだから、ざっと1.5倍分、、なんか一気に魔力が増えた感じでちょっと卑怯だな」
闘技大会でこの性能は使わないようにそっと心の中で決めておくカイト。
刀身を鞘にしまい、ポケットルームの中に大事にしまう。
「よし!取り敢えず用事は済んだし帰るか!」
こうしてカイトは早めではあるが、愛剣の課題をクリアし、エリュードへと帰っていった。
「準備はいいか?」
エリュードへ帰還した瞬間、カイトは無理を言ってヴァイスの家へ向かい、手合わせを願う。しかしヴァイスは何の躊躇も見せる事無く、いつもの様に2つ返事で承諾してくれた。
(今日こそ一本、、絶対に取って見せる)
ジリッ
「今日は本気で取りに行くので、殺すつもりで行きます」
「こい」
手に握るのは普段訓練で使う木剣。刀は切り札として使う。
ズィンッ
雷走で一気に目の前へと駆け抜け、足払いをかける。
ガッ
本来ならジャンプして躱すはずだが、カイトが空中に浮いた僅かな隙を狙ってくると分かっているヴァイスは、足払いを避けずに片足で止める。
ブォンッ
がしかし、カイトもヴァイスが出鼻を挫いてくるであろうと予測しており、肘に纏わせていた風魔法が止められた衝撃で発動し、カイトの足を勢いよく押し返し、その勢いを利用して剣を地面に突き刺し、剣を力点に回し蹴りを放つ。
ガァンッ
パシッ
カイトの一連の動作に眉一つ動かさず、即座に蹴りを避けながら、カイトを支えている剣を払い、空中でバランスを崩した所を腕を掴んで投げようとした瞬間。
「くっ!」
『闘砲』
ドォンッ!!
腕を掴まれた瞬間に、カイトは背中に生成した闘気の腕を2本ヴァイスの眼前に伸ばし、圧縮した魔力を放ち爆発を引き起こし、闘砲の攻撃に気を逸らした隙に掴まれた腕に電気を走らせ、距離を取った。
ブゥンッ
「ちっ、、やっぱり闘気の腕だと脆いから圧縮できる範囲が限られるな」
剣を払って爆風を払うヴァイス。傷付けるどころか、汚れを付着させただけの結果に不満を漏らす。
「いくぞ」
ヴァイスがその場から消え、次の瞬間には目の前で剣を上段に構えていた。
ブゥン!
グッ
上段からの剣を受け止め、押し返そうとするが、びくともせず、仕方なく受け流し。刺突の構えを取るカイト。
『雷貫』
ズィンッ!!
スッ
穿つ勢いで放たれた一本の雷光を、ヴァイスは軽々と避け、即座に反撃に出る。
ドォン!!
一歩前に出てきたヴァイスを見て、悪寒が走るり剣を握る力が緩まるも、グッと堪えカイトも一歩踏み出す。
ブゥンッ!!
ガシッ!
全力で左から放たれたヴァイスの剣を、闘気を全開にした右腕で受け止め、口を大きく開くカイト。
ブァンッ!!
一瞬で辺りが明るくなる程の光を、ヴァイスは直視し、目が眩む。
(ここだ!!)
『非天・千切り星』
全魔力と闘気を剣に込め、一気に放つ。
ガァンッ!!
しかしヴァイスは目が眩んでいるのにも関わらず、剣を構え寸分の狂いもなく、剣をカイトの斬撃にぶつけた。
グガガガガッ!!
斬撃を止めるヴァイスの足元が抉れるも、難なく堪えているのを見て、感心しながら空間から刀を取り出すカイト。
予め溜め込んであった魔力を、吸収し。青く光り放つ刀からもう一度斬撃を放つカイト。
「っ!」
気配でもう一本巨大な斬撃が来ている事に気が付いたヴァイスは、この瞬間初めて焦りを見せ、全力を出して目の前の斬撃を力技で斬り伏せ、もう1本の斬撃に備える。
ガァァァァァンッ!!!
再び斬撃を止めた瞬間、カイトはヴァイスの方向ではなく、背後を向いて木剣と刀を宙に投げる。
ブゥン!
両肩から闘気の腕を生やし、1本ずつ宙に投げた剣を握らせ、カイトの両手には闘気の刀が握られていた。
「すぅぅぅぅ」
『非天・一天四海』
ブゥンッ!!
剣を振ったタイミングで、ヴァイスの背後へとテレポートし、ヴァイスの背中に4本の剣を打ち付ける。
「ぐっ!」
正面の斬撃と、背後の斬撃に挟まれたヴァイス。
「うぉらあああ!!!」
打ちつけた4本の剣を払うと、4本の斬撃が剣から放たれ、ヴァイスの目の前にある千切り星ごと吹き飛ばした。
ドォンッ!!!
ヴァイスの家の目の前にある複数の木を薙ぎ倒していき、3本目で勢いが止まった。
ハッ!
「やばっ!ついつい力み過ぎた!!」
「何事だ!?」
家の中から珍しく昼寝をしていたシェインが慌てた様子で飛び出してきて、焦ったカイトは涙ぐんだ顔でシェイン謝る。
「ついつい力み過ぎて、師匠を殺しちゃったかもしれないです、、うぅ、すみませんシェインさん」
「訓練をしていたのか、、」
カイトを見て事情を理解したシェインがほっとした様子で家へと入ろうとするのを見て、更に慌てるカイト。
「ちょっとシェインさん、、師匠が」
「落ち着けカイト、ほら」
シェインが指を刺すと、頭から血を流し、ぼろぼろのヴァイスが木の後ろからよろよろと歩いて出てきた。
「あぁーーー!!!師匠ーーー!!俺てっきりーー!!!」
『ヒール!!!』
バタン
カイトが急いでヴァイスに駆け寄り、全魔力を使い果たした事を忘れ、ヒールを最大出力で放とうとしてその場で気絶するカイト。
「、、全く、、勝ったのに騒がしい奴だな、、ふっ」
気絶したカイトの目の前で立ち止まり、涙と鼻水で汚れた顔を見て、思わず笑みを浮かべるヴァイス。
「よく俺から一本とったな、、流石俺の弟子だ」
カイトを抱え上げ、家の中へと入るヴァイス。




