第54話 学校~転校生がいっぱい
これまで静かだった校内に、怒涛の勢いで活気が満ち始めていた。
現在の生徒数は、
小学生クラスが八名(男子五名、女子三名)
中学生クラスが十四名(男子八名、女子六名)
そして高校生クラスが五名(男子三名、女子二名)
という構成だ。そんな学校のホールに全校生徒が集まり、新しく編入してくる仲間たちを迎える対面式が行われていた。
壇上に並んだ面々の多彩さに、既存の生徒たちは目を丸くする。
「魔王国より参りました、ティロッセ、ミュゼット、シュティトと申します。こちらの最先端の学びと文化をしっかり吸収したいと考えておりますわ。どうぞよろしくお願いいたします」
魔王国の三姉妹が華やかに一礼すると、男子生徒たちから「おおっ……!」と大きな歓声が上がった。続いて、ハーフエルフの兄妹であるトゥーンとシェニー、東方国のサクラ、シスターのリゼ、さらには海洋都市の商家の子女や、元奴隷だった過去を持つ子供たちが次々と挨拶を述べていく。
なお、元奴隷だった子供たちについては、まずは文字の読み書きや算術といった基礎からじっくり学ぶ方針となり、全員が小学生クラスからのスタートとして温かく迎え入れられた。
対面式が終わり、それぞれのクラスで新しい学校生活が始まった。
小学生クラスの教室では、体格的には少し大きめの元奴隷の子供たちが、最初は身を小さくして緊張した面持ちで席についていた。しかし、そんな彼らに地球出身の小学生たちが屈託のない笑顔で駆け寄っていく。
「この文字はね、『あ』って読むんだよ! こうやって書くの!」
「こう……ですか? あ、上手に書けた……!」
「すごいすごい! じゃあ次は数字の数え方やってみようよ!」
年齢の垣根を越えて、素直に教え合い、無邪気に笑い合う姿があちこちで見られた。かつて辛い境遇にいた子供たちの表情が少しずつほぐれ、教室内には温かで優しい時間が流れていた。
一方、中学生・高校生クラスの教室では、生徒たちを苦しめる現実的な試練が立ちはだかっていた。
「……はぁ、今日も逃げ場なし、か」
年齢も学力も進度もバラバラな生徒たちを効率よく指導するため、この学校が採用したのは「生体アンドロイド」を多用した完全マンツーマン授業だ。教える側が完璧なアンドロイドだからこそ、居眠りも無駄話も一切許されない。息を抜く隙すらない過酷な環境に、生徒たちの精神はすり減っていた。
だが、そんな死んだ魚のような目をしていた男子生徒たちに、劇的な噂が駆け巡る。
「おい、聞いたか……!? 一般の授業でも『理解度が近ければ二人組やグループで一緒に授業を受けられる』らしいぞ!」
「マジで!? じゃあ、留学生の女の子と同じグループになれる可能性もあるってことか!?」
男子たちの目の色が瞬時に変わり、色めき立った。
「先生! 俺、留学生の進度に合わせたいんで、理解度判定のテストやってください!」
鼻息を荒くした男子生徒がアンドロイド先生に申し出ると、無表情なアンドロイドは淡々と端末を操作し、隣に座っていた海洋都市の商家出身の少女と男子生徒のデータを照合した。
『判定結果を表示します。現在の上級算術における理解度――留学生:98%。あなた:34%。同席授業の基準を満たしていません。まずは基礎計算ドリル100ページを完了させてください』
「さんじゅうよんパーセントぉ……!?」
無慈悲すぎる数値の突きつけに、男子生徒は膝から崩れ落ちた。今回編入してきた留学生たちは、王族や貴族としての英才教育を受けてきた者や、幼少期から厳しく計算・実務を叩き込まれてきた商家の子供たちばかり。地球の一般的な学生である彼らとは、端から学業の積み重ねと向き合う姿勢が違いすぎたのだ。
「くそっ、座学が駄目なら……実技(合同授業)で格好いいところを見せてやる!!」
諦めきれない男子たちは、魔法や護身術、倫理といった数少ない「合同授業」の時間に賭けることにした。可憐な魔王国の三姉妹やハーフエルフの少女たちが近くの席に座るという強烈な刺激に、男子たちは背筋をビシッと伸ばし、キリッとした表情で木剣を構えたり魔法の詠唱に入ったりする。
(ここでサクッと魔法を成功させて、良いところを見せてやる……!)
そう意気込んだ男子生徒の横で、魔王国の三姉妹の一人がちょこんと手をかざした。
「『フレイムアロー』」
瞬時に無詠唱で放たれた高密度の炎の矢が、正確に的の真ん中を穿ち、爆音とともに標的を粉砕する。
「……え?」
「あら、少し威力を抑えすぎましたかしら?」
圧倒的な魔力と技術の差を見せつけられ、男子生徒の手から木剣が力なく滑り落ちた。格好つけるどころか、異世界の英才教育と実力差を見せつけられ、「学園ファンタジー」の過酷な現実を叩き込まれる結果となったのだった。
「なんでだよ……っ! 転生ラノベなら、俺たち地球人が知識チートで無双したり、ちょっと親切にしただけで可愛い留学生と甘いイベントが発生したりするもんじゃないのかよぉぉ……! 現実は厳しい学習ドリルと圧倒的なスペック差だけかよ……っ!」
地面に両手をつき、血の涙を流さんばかりに打ちひしがれて絶望を叫ぶ男子生徒たち。
そんな彼らのあまりの落ち込みぶりに、留学生の少女たちは何が起きたのかさっぱり解らず、パチパチと目を瞬かせながらキョトンと首をかしげていた。
「あら……あの方々、急に倒れ込んでどうなさったのかしら?」
「解りませんわ……急に気合いを入れられたかと思えば、急激に体力を消耗されたのでしょうか……?」
困惑する留学生たちをよそに、教室の反対側では女子生徒たちが素早く行動を起こしていた。異世界から来た少女たちと仲良くなるべく、休み時間に合わせてお茶会へ誘おうと声をかけたのだ。
「みんな、もしよかったら放課後に一緒にお茶しない? この街特製のお菓子があるんだ!」
「まあ、お茶会ですの? ぜひご一緒させてくださいな」
女子生徒たちが案内したのは、日当たりの良いテラス席。テーブルの上に広げられたのは、地球の技術とダンジョンワールドの豊かな素材が融合して作られた、見たこともない色鮮やかなお菓子の数々だった。
ふんわりと焼き上げられたロールケーキ、宝石のようにツヤツヤと輝く季節のフルーツタルト、そして冷たくて口の中でシュワッと溶ける不思議なパフェ。
「まあ……! なんて可憐で美味しそうなお菓子ですの……!」
「こんなに綺麗で甘い香りのするケーキ、見たことがありませんわ!」
普段から豪華な料理に慣れているはずの魔王国の三姉妹や商家の少女たちも、その洗練された見た目と繊細なデコレーションに目を輝かせた。一口頬張るや否や、夢心地のような表情でうっとりと頬に手を当てる。
「美味しい……! スポンジが雲のようにふわふわで、クリームも全然重くありませんわ!」
「こちらの冷たいお菓子もすごいです! 甘くてフルーティーで……どうやって作られているのかしら!?」
見たこともない極上のお菓子を前に一気に緊張がほぐれ、女子たちの間では「このお菓子はどうやって作られているのか」「故郷にはどんな甘味があるのか」と大はしゃぎで話題が弾んでいった。
その楽しげなティータイムの笑い声を背景に、女子たちの容赦ないツッコミと冷ややかな視線が、まだ床でいじけている男子生徒たちへ向けられる。
「……急にシャキッとして張り切るからこうなるのよ」
「貴族教育とか魔王国の英才教育受けてる子たちに、付け焼き刃で勝てるわけないでしょ……」
「知識チートどころか足元にも及ばないって、これで少しは身にしみたかしらね」
女子たちの呆れ声に打ちのめされながらも、留学生という眩しすぎる刺激を得た男子たちの「学園ファンタジーへの夢」は、まだ潰えたわけではなかった。
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引き続き『俺のスローライフどこいった?(旧題ダンジョンワールド)』をよろしくお願いします。




