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第25話 聖堂教会の焦燥と勇者たち

交易都市が「魔王国」「エルフ国」「海洋都市群」「東方国」との間で着々と平和的な交易網を築き上げていた頃、大陸東部に位置する人族の大国――「聖人国」の大聖堂では、重苦しい静寂とピリついた緊張感が支配していた。


大聖堂の奥深くに置かれた円卓の周りには、宗教勢力「聖堂教会」の最高幹部たちが顔を揃えていた。その中心で、豪華な司教服を身に纏った男が青ざめた顔で報告の書状を握りしめている。


「……信じられん。大森林の奥地に突如として現れたというあの謎の要塞都市……一体どこから現れたというのだ!?」


「報告によれば、幾何学的な星型の城郭を備え、我が国のどの魔法技術とも異なる強力な防衛網を完備しているとのこと。さらに……魔王国やエルフ国、海洋都市の商人どもと次々に独自の交易協定を結んでいる模様です」


幹部たちから次々と上がる動揺の声に、大司教は机を激しく叩いた。


「バカな! 魔族と取引を行うなど正気の沙汰ではない! 教理に対する不敬であり、人族の脅威とならんとする暴挙ではないか!」


彼らが何よりも恐怖していたのは、教会の権力と絶対性の揺らぎであった。聖堂教会はこれまで「魔王=絶対の悪」「教会=人族の救世主」という対立構図を掲げ、民衆からの多大な信徒と寄進を集めてきた。だが、もし大森林の交易都市が魔族と平和的に交易を行い、飢餓を克服する「サツマイモ」や高品質な農具、高度な医療技術を人族諸国へ拡散させれば、「魔討伐の正当性」そのものが崩壊してしまうからだ。


「……召喚した勇者どもの育成状況はどうなっている!?」


大司教が鋭い眼光で尋ねると、召喚を担当した神官が冷や汗を拭いながら答えた。


「は、はい……! 森で回収いたしました若き『勇者』『聖女』『賢者』の候補者たちには、教会の聖騎士団のもとで厳しい訓練を課しております。『魔王を倒さねば地球へ帰ることは叶わぬ』と叩き込み、洗脳と育成を進めておりますが……」


「だが、何だ!?」


「……召喚の際、大森林に置き去りにした役立たずどもの消息が、一切掴めておりません。それどころか、噂によればあの交易都市を治めているのは……我が国が切り捨てたはずの地球人であるという未確認の情報も……」


「何だと……!?」


大司教の顔が不気味に歪んだ。自分たちが「無能」「ゴミ」と切り捨てて森に打ち捨てたはずの者たちが、神の権能すら凌駕する圧倒的な要塞と交易圏を築いているという皮肉。


「……許されん。教会の教理を脅かす不確定要素など、存在してはならんのだ。密偵を送り込み、あの都市の弱点を探れ! 必要とあらば……勇者たちを『魔王討伐の遠征』と偽って大森林へ差し向け、あの都市ごと抹消する!」


教会の欲望と保身から発せられた不穏な言葉は、暗い大聖堂の闇へと溶けていった。


◇


一方、交易都市の執務室。


アキラとタマモは、ホログラムモニターに映し出された聖人国の内部映像と音声ログを静かに眺めていた。衛星軌道上に配備された量子通信型偵察衛星と、光学迷彩を纏った超小型密偵スフィアによって、教会の密談はリアルタイムで筒抜けになっていたのだ。


「……なるほどな。やっぱりあいつら、連れ去った高校生たちに『魔王を倒さないと帰れない』って嘘を吹き込んで叩き込んでるのか」


アキラは苦い顔で淹れたてのお茶を口にした。


画面には、大聖堂の訓練場で重い剣を振り下ろし、疲れ果てて膝をつく高校生たちの姿が映し出されていた。「地球へ帰るため」と信じ込まされ、教会の都合の良い道具として扱われている若者たち。


「マスター、いかがいたしますか?」


タマモが九本の白い尾を優雅に揺らしながら尋ねる。


「当ダンジョンの【次元干渉型・位相崩壊砲】を用いれば、聖堂教会の本拠地および幹部層のみを数秒で痕跡もなく消滅させることが可能でございますが……」


「やめろやめろ! そんな物騒なもんぶっ放すな!」


アキラは即座にツッコミを入れ、思わず苦笑した。


「俺たちは戦争をしに来たんじゃない。……だけど、教会の嘘に騙されて、挙げ句の果てに俺たちの街や魔王国に攻撃を仕向けてくるようなら、黙って見てるわけにもいかないな」


「左様でございますね」


タマモは可愛らしく首を傾げ、悪戯っぽくにっこりと微笑んだ。


「教会の密偵が当都市の街道に足を踏み入れた瞬間、例の『永続重力デバフ網』によって持っている金属装備が512倍に重くなり、武装解除される手はずとなっております。一滴の血も流さず、廃品として回収させていただきますね」


「まあ、ゴミも資源だからな。荒らしに来るなら迷惑料代わりに装備をもらうさ」


アキラは笑うと、真面目な顔でモニターの高校生たちを見つめた。


「教会の連中が攻めてくるなら返り討ちにするだけだ。だけど……あの連れ去られた高校生たちが自分の意思で真実を知り、助けを求めてきた時は……ちゃんと手を差し伸べてやろう」


「畏まりました、マスター」


タマモの九本の尾が、嬉しそうにゆったりと揺れた。


愚かな野心と焦燥を募らせる聖堂教会。だが、絶対的な技術と情報力、そして揺るぎない温かさを持つ『ダンジョンワールド』の前に、その企みが届くことはない。


平和な交易都市の日常を守りながら、アキラたちの新しい挑戦は、次なるステージへと向かって静かに続いていくのだった。




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