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第23話 魔王国使節団の来訪

大森林の街道に事前通知されていた「10人ルール」を厳格に守り、8人の整然とした隊列を組んだ訪問者たちが、完成したばかりの交易都市・第一区画の外門へとやってきた。


漆黒の重厚な衣を纏い、頭部に立派な角を生やした魔族の男たち。彼らこそ、アンドロイド商人が持ち込んだサンプルと「救荒作物サツマイモ」の噂を聞きつけ、魔王国の外交・農務・商務の各部署から派遣された正式な試行取引使節団であった。


「これが……噂の交易都市か……」


使節団の代表を務める農務部署の高級官僚、魔族の男・グラディスは、死角を排した幾何学的な城壁と、澄み切った水が流れる幅15メートルの巨大な水濠を見上げて息を呑んだ。魔王国の防衛城塞に勝るとも劣らない無欠の威容。しかし、門をくぐり抜けた先に広がっていたのは、不気味な軍事色の欠片もない、異次元の清潔さと活気に満ちた市場であった。


「ようこそ、交易都市へ。遠いところをよく来てくださいました」


第一区画の管理奉行所にて彼らを迎えたのは、街の管理者であるアキラと、九本の白い尾をゆったりと揺らすタマモ、そして元商社マンの佐々木と元会社社長の大河内であった。


「……お初にお目にかかる。魔王国農務部署全権代表のグラディスと申します」


グラディスは丁寧だが緊張を崩さぬ面持ちで一礼した。魔族という種族ゆえ、人族の領域では常に偏見と警戒の目に晒されてきたからだ。しかし、目の前のアキラたちの瞳には、恐怖も差別的な色も一切浮かんでいなかった。ただ一人の「取引相手」として対等に向き合う温かな目線があるだけだった。


「挨拶を省き、単刀直入にお伺いしたい」


グラディスは手元の革袋から、アンドロイド商人から渡されていたサツマイモの試供品と、高純度な鉄製軽量鍬(くわ)を取り出し、机の上に置いた。


「我が魔王国の領土は粘土質で痩せた土地が多く、従来の農具では刃がすぐ零れ、深刻な食糧不足が続いております。この農具の耐久性と、痩せた土地でも育つという『サツマイモ』の栽培結果……真実でございますか?」


アキラは穏やかに微笑み、隣のタマモへ視線を送った。


「ええ、すべて事実です。百聞は一見に如かずと言います。言葉で説明するより、実際に当都市の農業技術と試作農場をご覧になりませんか?」


◇


案内されたのは、第一区画に併設された広大な試験農場であった。


そこには、魔王国の土壌環境を再現した実験区画が用意されており、青々と茂るサツマイモの葉と、軽量農具を使って手際よく収穫作業を行う擬人アンドロイドたちの姿があった。


グラディスは膝をつき、土から掘り起こされた大きく丸々と太った紫色の根菜――サツマイモを両手で持ち上げた。


「……おお……なんとみずみずしく、密度の高い果肉……! これほどまでの収量を、あの硬い粘土土壌で……!?」


農務担当者たちが群がり、持参した軽量鍬で土を耕し始めた。


「刃が……刃が一切曲がらん! 力を入れずとも土がサクサクと起こせるぞ!」

「この肥料……土の成分が瞬時に変化していく……奇跡だ……!」


感極まる使節団に対し、元社長の大河内が穏やかに語りかけた。


「グラディス殿。私たちの取引方針は『現地の適正価格・正規相場に基づく物々交換、または売買契約』に限定しております。私たちの過剰な生産力で相場を破壊し、魔王国の既存の農家や商人を廃業に追い込むような真似はいたしません」


元商社マンの佐々木も手元の資料を開き、笑みを浮かべた。


「ええ。まずは小規模な試行取引として、魔王国側から提示されている『高品質な鉱物資源や希少魔導素材』と、こちらの『最新型農具・サツマイモの種芋・高効率肥料』との等価交換から始めたいと考えております」


「なんと……」


グラディスは言葉を失った。自分たちの経済を脅かすことなく、深刻な糧食問題を根本から解決するための完璧な配慮と誠意。


「……誰かを踏みにじるためではなく、お互いの生活を豊かにするための交易です。魔族だから、人族だからという区別は、この都市にはありません」


アキラが力強い目で語りかけると、グラディスは深々と頭を下げた。


「遠藤殿……! 感謝いたします。我が魔王国は、この提示された条件にて正式に試行取引協定を締結いたしたい!」


こうして、交易都市と魔王国との間で初となる歴史的な試行取引協定が締結された。


武力や紛争ではなく、豊かな実りと対話によって――大森林の交易都市は、また一つ世界の歴史を新しく塗り替えたのだった。



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