第22話 サクラと学生
東方国からの初代大使として交易都市に滞在することが決まったコノエ・サクラ(16歳)。彼女の歓迎と、異世界での異文化交流を兼ねて、第1階層に設けられた総合教育施設――学校の運動場にて特別授業が開催されることとなった。
「えっ……あの綺麗なお姉さん、東方の貴族で薙刀の使い手なの!?」
「マジで!? リアル侍とかくノ一みたいな感じ!?」
集まった中学生や高校生たちは、背筋をピンと伸ばして佇むサクラの姿に興味津々だった。毎日の猛勉強や魔法の基礎理論で現実に打ちのめされていた彼らにとって、異世界の「本物の武芸者」との交流は久々の胸躍るイベントだったのだ。
サクラは、地球の日本の伝統的な袴姿に似た凛とした道着を纏い、集まった生徒たちへ向けて美しく一礼した。
「皆様、はじめまして。東方の国より参りました、コノエ・サクラと申します。本日は皆様と武芸および互いの国の文化について学べる機会をいただき、大変光栄に存じます」
16歳とは思えぬ落ち着いた所作と通る声に、生徒たちから「おおっ……!」と歓声が上がる。
「サクラさんは私より年下なのに、すごく凛としていて格好いいですね」
傍らで見守っていた志保が温かい笑みを向けると、サクラは少し照れたように微笑んだ。
「いいえ、志保様。私も父の病が治るまでは不安でいっぱいでした。この街の皆様の温かさに救われたからこそ、こうして前を向くことができているのです」
◇
交流会の前半は、サクラによる「薙刀」の演武から始まった。
サクラが背の薙刀を構えた瞬間、周囲の空気がピリッと張り詰める。無駄のない滑らかな足さばきから繰り出される一撃は、空を切り裂く鋭い風切り音を響かせた。演武が終わると、男子生徒たちから興奮した声が爆発した。
「すっげえええっ! めっちゃ動きが速い!」
「ねえサクラさん! 魔法を使わなくてもそんなに強いの!?」
サクラは薙刀を静かに納め、生徒たちに向かって優しく語りかけた。
「武芸とは、誰かを傷つけるためのものではなく、大切な人や自分自身の身を守り、心を鍛えるためのものにございます。魔法や強い力に頼る前に、自らの足でしっかりと立ち、周りを見る観察力を養うことが何より大切なのです」
その言葉は、異世界に来て「チート能力」や「無双」を夢見ていた男子生徒たちの胸に深く突き刺さった。アキラやタマモから教わってきた「知識と自衛の大切さ」が、同年代であるサクラの口から語られたことで、彼らは改めるように真剣な表情で頷いていた。
◇
後半は、学校の食堂に場所を移しての懇親会となった。
テーブルの上に並べられたのは、サクラが東方国から持ち込んだ特産の茶葉で淹れたお茶と、ダンジョン産の米や小豆を使って作られた地球のお菓子――「お団子」と「大福」だった。
「わあ……これ、地球にいた頃に食べたお団子と同じ味がする……!」
女子生徒の一人が、みたらし団子を頬張りながらポロポロと涙をこぼした。
サクラも一口頬張り、目を丸くして感動の声を上げた。
「まあ……! お米と小豆の甘みがこれほど引き出されているとは……。私の故郷の和菓子と非常によく似ておりますが、より洗練されていて大変美味でございます!」
「サクラさんの国でも、お米やお茶の文化があるんだね!」
「はい。我が国では四季の移ろいを愛でながら、お茶や甘味を楽しむ習慣がございます」
共通の食文化や話題を見つけた生徒たちは、一気にサクラとの距離を縮めていった。地球の学校生活の話、アニメやゲームの話、そしてサクラが語る東方の国の豊かな自然や武術の修行の話――。
最初は「異世界の人」として緊張していた生徒たちだったが、同じものを食べて笑い合い、将来の夢や不安を語り合う中で、サクラが自分たちと同じ「一人の少女」であることを心から実感していた。
「サクラちゃん、これからこの街にずっといるんだよね? 一緒にお買い物行こうよ!」
「私、東方の服のこととかもっと知りたいな!」
「ええ、喜んで! 皆様、これからどうぞよろしくお願いいたしますね」
生徒たちに囲まれ、花が咲いたような満面の笑顔を見せるサクラ。その様子を、物見櫓から見守っていた遠藤アキラとタマモは、温かいお茶を手に微笑んでいた。
「良い交流になりましたね、マスター」
「ああ。異世界だからって身構える必要はないんだな。美味しいものを食べて、笑い合えれば、どこだって同じ人間同士だ」
サクラというかけ橋を得て、地球から来た子供たちと異世界の人々との絆は、より深く、温かいものへと広がっていくのだった。




