第17話 交易都市完成
大森林の一角に突如として姿を現した、圧倒的なスケールを誇る「星型要塞都市」。日本の伝統的な武者返しの曲線を備えた石垣と、幾重にも張り巡らされた最新鋭のインフラ・防衛システムを擁するその巨大都市が、ついに完成の時を迎えた。
本番の本格的な交易開始を前に、この日はダンジョン住民や地球から保護された人々をお披露目兼ねて招く「プレオープン式典」が執り行われていた。
「――これより、外部交易都市のプレオープンを宣言いたします! 本日に限り、城郭内全域での自由行動を許可いたします!」
ダンジョンゲートが開放されると同時に、集まっていた人々から「おおおっ!」という地鳴りのような歓声が巻き起こった。
要塞の城郭内は、三重の同心円状に広がる美しい街並みが完璧に整備されている。第一区画の広大な市場エリアには、ダンジョン内の各階層から集まった商店や露店が所狭しと軒を連ね、色とりどりの旗や装飾が風に揺れていた。
「すっごーい! 本当にお祭りだ!」
「おい見ろよ! 露店で魔法の道具とか見たことないフルーツ売ってるぞ!」
「リアル異世界市場じゃん! チートアイテムとか売ってたりしないかな!?」
小中高生たちは目をギラギラと輝かせ、憧れていた「異世界の市場」の空気に大興奮しながら広場へと駆け出していく。学校での毎日の猛勉強や、あのトラウマ的な虫歯無痛治療で現実を突きつけられてきた彼らだったが、まだまだ「異世界冒険へのロマン」で頭がいっぱいだった。
「私、異世界の可愛い服とか雑貨が見てみたい!」
「買い食いしようぜ! 地球の焼きそばやたこ焼きの屋台もあるぞ!」
車椅子から完全に回復した志保も、幼い花菜とサチの手を優しく引きながら、嬉しそうに露店を巡っている。
「ふふ、二人とも、夢中になって迷子にならないでね」
「うん! 志保お姉ちゃん、あのかき氷食べてみたい!」
賑わう街並みを少し離れた高台から見下ろしながら、遠藤アキラは温かいお茶を手に、感慨深そうに息を吐いた。
「いやあ……本当に作っちまったんだな、こんなすごい街を」
「はい、マスター」
隣に立つタマモが、九本の白い尾を誇らしげにパタパタと揺らした。
「自動工兵ドローン群の総力を結集し、予定通りの日程で設営を完了いたしました。検疫プラント、自動浄化水路、そして例の『永続重力デバフ網』もすべて正常に稼働しております」
「これで、外からどんな怪しい集団が攻めてきても、一滴の血も流さずに門前で武装解除させられるわけだな」
「左様でございます。まさに戦わせないための絶対要塞にございます」
ふたりが笑い合っていると、広場の中心に設置された特設のお立ち台から、一際大きな歓声と賑やかな音楽が響き渡った。
『はーい! みんな入ってる〜!? 待ちに待った交易都市の完成だよーっ! 今日は無礼講! 飲んで食べて踊って、思いっきり盛り上がっていってねー!!』
派手な神々しい後光を背負い、お立ち台の上でマイク(魔導音響システム)を握りしめてポーズを決めているのは、ダンジョンワールドのNPC神――お祭り大好きな「太陽の女神」だった。
陽気で前向きな彼女の煽りに合わせて、集まった獣人、ドワーフ、エルフ、そして地球の人々が一斉に拳を突き上げて歓声をあげる。日没前だというのに、すでに片手には日本酒の樽を抱えている始末だ。
「……あいつ、相変わらずノリノリだな」
「お祭り好きの神様でございますから。なお、本日の式典用に納入された極上日本酒の三分の一は、すでに太陽の女神様によって確保されております」
「呑んべえ過ぎるだろ……」
アキラは思わず苦笑した。
「ですが、アキラさん」
声をかけてきたのは、元商社マンの佐々木と、元会社社長の大河内だった。二人も焼き鳥の串を手に、満足そうな笑顔を浮かべている。
「これだけの活気と笑顔があれば、プレオープンとしては大成功ですな。ダンジョン内の安全を完全に保ちつつ、外の世界を迎える最高の舞台が整いました」
「ええ。数日間のこのお祭り騒ぎが終われば、いよいよ魔王国をはじめとする近隣諸国との試行取引が始まります。地球の知識と異世界の技術がどう合わさっていくか、今から楽しみでなりません」
アキラは頼もしいお年寄りたちの言葉に深く頷き、改めて眼下に広がる祭りの熱気を見つめた。
誰かを踏みにじるためでも、戦争をするためでもない。
ただ人々が安心して暮らし、美味しいものを食べ、笑い合える場所を守るための交易都市。
「よし……それじゃあ俺たちも、買い食いに混ざるとするか!」
「はい、マスター! 一緒に参りましょう!」
タマモの嬉しそうな笑顔とともに、数日間にわたる交易都市の賑やかなお祭り騒ぎは、どこまでも楽しげに続いていくのだった。




