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弱火の魔女は、今日も馬車で旅をする ~万能魔法使いと始める、二人と一匹の移動工房~  作者: 風流


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第11話 食べられますよ

夕食の時間になった。

 レオナールは少し警戒していた。

 理由は簡単だった。

 フィリエンヌが調合台ではなく、小さな調理台の前に立ったからである。


「何を作る?」

「夕食です」

「それは分かる」

「スープにします」

「何の?」

「あるものです」

「…………」


 嫌な予感がした。

 フィリエンヌは棚を開けた。

 芋。

 人参。

 豆。

 干し肉。

 硬くなりかけたパン。


「普通だな」


 思わず口から出た。


「何がです?」

「いや」


 材料に問題はない。

 レオナールは少し安心した。

 フィリエンヌは芋を切り始める。

 大きい。

 次は小さい。

 その次は薄い。

 人参は斜めになっている。


「待て」

「はい?」

「大きさを揃えろ」

「どうしてです?」

「火の通りが変わる」

「最後には全部煮えませんか?」

「……まあ、煮続ければな」


 嫌な予感が強くなった。

 鍋へ水を入れる。

 野菜を全部入れる。

 豆も入れる。

 干し肉も入れる。


「味付けは?」

「塩です」

「他には?」

「塩があります」

「そうか」


 レオナールは黙ることにした。

 これは他人の馬車である。

 自分は患者である。

 食事を用意してもらえるだけありがたい。

 そう自分へ言い聞かせる。


 しばらくして、匂いがしてきた。

 悪くない。

 少なくとも食べ物の匂いだった。


「できました」


 器へ盛られる。

 レオナールの前にも置かれた。


「どうぞ」

「……いただく」


 匙ですくう。

 芋が一つ入った。

 口へ運ぶ。

 硬い。


「…………」


 次に人参。

 柔らかすぎる。

 豆。

 煮崩れている。

 干し肉。

 硬い。

 汁。

 塩辛い。


「どうです?」

「…………」

「レオナール?」

「食べられる」

「よかったです」


 フィリエンヌも食べ始めた。

 普通に食べている。


「お前はこれを普段から食べているのか?」

「はい」

「毎日?」

「同じものではありません」

「そういう意味ではない」


 フィリエンヌが首を傾げる。


「美味しくないですか?」

「…………」


 レオナールは考えた。

 嘘はよくない。


「美味くはない」

「そうですか」


 落ち込む様子はない。

 フィリエンヌはもう一口食べる。


「でも食べられますよ」

「食べられる」

「では問題ありません」

「問題はある」


 即答した。


「どこに?」

「食事は食べられればいいというものではない」

「そうなんですか?」

「そうだ」


 レオナールは再びスープを見る。

 毒から回復したばかりの身体へ入れる食事としても、あまり褒められたものではない。

 消化に悪い。

 塩も多い。


「これを食べ続けるくらいなら、俺が作る」

「患者ですよ」

「自分の身を守るためだ」

「毒はもうほとんどありません」

「別の危険が発生した」

「?」


 フィリエンヌは分かっていない。


「明日の朝まで待て」

「何をです?」

「経過観察が終わるんだろう」

「はい」

「終わったら厨房を借りる」

「調理台です」

「どちらでもいい」


 シュネリュがレオナールの器を見ている。


「食べるか?」

「キュ」


 顔を背けた。


「お前も食べないのか」

「シュネリュは好き嫌いがあります」

「好き嫌いの問題か?」


 フィリエンヌがパンをスープへ浸した。

 硬いパンが柔らかくなる。


「こうすると食べやすいですよ」

「生活の知恵みたいに言うな」


 レオナールは額を押さえた。


 翌朝。

 フィリエンヌは予定通りレオナールを診た。


「走査(サーチ)」


 レオナールはもう驚かなかった。

 フィリエンヌが目を閉じる。

 しばらくして手を下ろした。


「毒性反応はほとんどありません。魔力循環も正常です。内臓への負担もほとんどなくなっています」

「つまり?」

「経過観察は終わりです」

「そうか」


 レオナールは寝台から立った。

 ふらつかない。


「もう患者ではないな?」

「はい」


 フィリエンヌが頷く。


「では朝食を作る」

「もう?」

「もうだ」


 調理台へ向かう。

 保存食を確認する。

 卵がある。

 パンがある。

 乾燥肉。

 昨日の残りの野菜。


「これだけあれば十分だ」

「何を作るんです?」

「食事だ」

「それは分かります」


 昨日と同じ返事をされた。

 レオナールは振り返った。


「……わざとか?」

「何がです?」

「いや」


 鍋へ水を入れる。

 野菜を同じ大きさに切る。

 乾燥肉を少量。

 塩は控えめ。

 香草を少し。

 別の小鍋で卵を焼く。


 フィリエンヌが隣から見ていた。


「速いですね」

「普通だ」

「大きさが全部同じです」

「普通だ」

「卵が焦げていません」

「それも普通だ」


 皿へ盛る。

 パンを軽く炙る。

 朝食ができた。


「食べろ」

「はい」


 フィリエンヌがスープを一口飲んだ。

 止まった。

 もう一口。


「……美味しいです」

「そうだろうな」

「同じ野菜なのに」

「切り方と火加減と味付けだ」

「火加減」


 フィリエンヌが反応した。


「そこに興味を持つのか」

「はい」


 急に真剣な顔になった。


「何度くらいです?」

「温度で管理していない」

「どうしてです?」

「料理だからだ」

「でも火加減ですよね?」

「そうだが」

「弱火は何度です?」

「…………」


 レオナールは思った。

 この少女は、調合に関係する言葉を出すと急に面倒になる。


「食べてからにしろ」

「はい」


 フィリエンヌは素直に朝食へ戻った。

 シュネリュも横で何かをもらっている。

 馬車の中に、昨日までとは違う匂いが漂っていた。


 フィリエンヌはパンを食べながら言った。


「レオナール」

「何だ」

「明日も作りますか?」

「…………」


 レオナールは答えなかった。

フィリエンヌ、レオナールに胃薬も作ってあげて

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