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この度、公爵家の令嬢の婚約者となりました。しかし、噂では性格が悪く、十歳も年上です。  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
六章

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12.公爵家へ4. コンラートの事情3.




 休憩に入ったコンラートと一緒にテーブルを囲む一同。

 テレーゼは息子に、先ほどジャレッドたちに話した内容を伝えると、言うまでもなく彼は声を大にして喜んだ。

 ただし、そう簡単にはいかない。

 あくまでも母親であるテレーゼの意見であるだけで、アルウェイ公爵家当主であるハーラルトの意思ではないこと。ローザの気持ちもはっきりしていない以上、急くようなことはしないようにとコンラートは釘を刺され、冷静さを取り戻した。


 それでも母親に反対されなかったことは嬉しかったに違いない。

 ジャレッドはコンラートに魔術の訓練が確実に成長を促していることを伝え、剣術を含め継続して努力してほしいと願う。同時に、そろそろ個人だけではなく、週に一度できるかわからないが可能な限り一緒に訓練をしようと誘った。

 もちろんコンラートは喜んだ。まっすぐに言われた通り訓練を続けていた彼だが、やはり十四歳だ。いつまでも同じことを繰り返し続けるのは苦痛だったはずだ。しかし、成長を認められ次の段階へ進むことができるのだから、喜ばないはずがない。


「……すまないが、オリヴィエ、ジャレッド、君たちに少し話がしたい」


 ジャレッドとコンラートが魔術に関する話していると、ハーラルトが静かに割って入った。

 どこか焦りを浮かべているのは気のせいではない。


「構いませんが?」

「お父さま、どうかなさいましたか?」

「少し込み入った話になると思うので、私の書斎で話そう」


 もしかするとローザに関することかもしれない。ずっと公爵は息子の想い人に対して特になにかを言うことはなかった。反対はしていないが、賛成もしていないのだ。

 だが、ここにきて突然ジャレッドとオリヴィエだけに話があると言いだしたのだから、コンラートが不安そうな顔をした。


「そう心配するなコンラート。お前や想い人の件ではないよ」


 表情を変えた息子に気づいたハーラルトが一言告げると、はっきりとコンラートに安堵が浮かんだ。

 席を立つハーラルトに続き、ジャレッドたちも移動する。裏手から屋敷に入ると、書斎に向かうと言ったはずの公爵の足がぴたりと止まる。どうしたのかと伺うと、彼は明らかに困惑の表情を顔に張りつけて、


「困ったことになってしまった」


 そう言ったのだ。


「お父さま、なにがどう困ったのですか? まさかローザのことでは?」


 娘の問いに父は小さく肯定する。

 はぁ、とオリヴィエは呆れたように息を吐きだした。


「気に入らないなら気に入らないとはっきりとおっしゃればいいではないですか。気を持たせるようなことを言うなんて、コンラートがかわいそうです」

「そうではないのだよ」

「なら、なんだと言うのですか? ローザを気に入らないのかもしれませんが、コンラートが当主にならないと意思表明をしている以上、他家からあの子を欲する声が今以上に大きくなるはずです。コンラートは公爵家で唯一の魔力を持ち、魔術師になれるだけの才能を持っているんですよ」


 他の兄弟よりもコンラートを望む声は多いはずだ。


「言いたいことはわかっている」

「本当ですか? 魔力目当ての相手と政略結婚させるくらいなら、いっそ優秀な血を一族に取り込むと考えればよい縁なのかもしれません。意外――いいえ、幸いと言うべきかローザのほうもまんざらではなかったですし、わたくしは悪い話だとは思いません」


 オリヴィエは弟のために擁護するも、ジャレッドは両手放しで賛成はできなかった。

もちろんコンラートの想いが叶うのなら一番だと思う。しかし、最大の問題として、ローザがヴァールトイフェルの長ワハシュの娘であり後継者のひとりであることだ。

 おそらく、公爵がローザのことを気にしているのなら、同様のことではないかと推測する。


「違う、そうではないのだよ」

「でしたら、なにが問題だと言うのですか?」

「この際、二人だからこそ言ってしまうが、他言無用で頼みたい。いいね?」


 真剣な声に、そろって頷いた。


「今まで私の後継者に関しては曖昧にしていたのだが、実は決まっている」

「――もしや」

「私の後継者は――コンラートだ」

「――っ」


 オリヴィエだけではない。ジャレッドもまた言葉を失ってしまった。

 今まで公爵は、家督を息子の中から選ぶと公言していた。ゆえに、コルネリアを含め側室たちは我が子を後継者にと躍起になっていたのだ。

 しかし、まさか、すでにハーラルトが後継者を選んでいたとは誰が思っただろうか。


「お、お父さま……コンラートが後継者だというのはもう決まっているのですか?」

「私の中では決まっている。オリヴィエ、すまなかった。私がはっきりとさせなかったせいで醜い家督争いにお前とハンネを、そしてトレーネとジャレッドを巻き込んでしまった。謝って許されるとは思っていないが、心から申し訳ないと思っている」

「理由が、あると信じていいのですよね?」

「もちろんだ。知ってのとおり、今でこそハンネやお前に害をなそうとしていた者がコルネリアだとわかったが、今までは違っていた。私がもしコンラートを後継者だと誰かに言えば、間違いなくあの子もまた狙われていただろう。だからこそ言えなかった」


 オリヴィエが父親の言葉を聞き、納得できるかどうかはさておき、ジャレッドには公爵の気持ちが理解できた。

 苦渋の決断だったはずだ。

 もし、コンラートのことを明かせば、間違いなくコルネリア・アルウェイは彼の命を狙っただろう。後継者と知らずとも、父に目をかけられていたという理由だけで、後継者にならないと公言しているコンラートはドルフ・エインの一派に命を狙われてしまったのだから。


 コンラートのことを公言していれば、オリヴィエたちの苦労が終わっていた可能性もあるが、今となっては推測することしかできない。だが、あのコルネリアの狂気を考えれば、ハンネローネは標的から外れることはなかったはずだ。

 そもそもハンネローネが産んだ子はオリヴィエしかおらず、女子であるため後継者にならないと決まっていたのだ。どちらにせよ、正室という立場ほしさに命は狙われ続けていただろう。


「せめて成人するまでの間だけは、後継者を指名しないことでコンラートを守りたかったのだ」


 父の独白に、オリヴィエはただ言葉を失っていた。



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