11.公爵家へ3. コンラートの事情2.
ローザがヴァールトイフェルの後継者であり、なおかつ自分の叔母であることを語ると、ハーラルトたちは目を剥いた。
驚きはわかる。血縁関係があるジャレッドだっていまだにローザを叔母だと思えない。年が近すぎるせいか、それとも未だどこかで認めることができないのか。
母が生きていれば、また違ったかもしれないが、残念なことに亡くなっている。
「……色々な意味で驚いてしまいましたが、ジャレッドさん」
「はい」
「仮にですが、コンラートの妻となるのでしたら、ヴァールトイフェルの後継者になることは辞退してもらいたいのですが、可能でしょうか?」
「――はい?」
「て、テレーゼ?」
困惑の声があがる。一瞬、冗談でも言っているのかと思ったが、テレーゼは至極真面目な顔をしていた。
「いえ、その、俺はヴァールトイフェルの関係者ではないのでローザが後継者を辞退できるのかはわかりません。申し訳ありません」
「謝らないでください。こちらこそ気を急いてしまい申し訳ございません。そうですね、できれば一度、ローザ・ローエンさまとお話ができればいいのですが……」
ジャレッドはもちろん、テレーゼの言葉を聞いていたオリヴィエたちも驚きを禁じ得ない。
これではまるで――結婚を前向きに検討しているように思えてしまう。
「あの、テレーゼさま、まさかとは思いますが、コンラートとローザを結婚させてもいいとお考えなのですか?」
困惑した様子で恐る恐る尋ねたオリヴィエに、テレーゼは微笑み肯定する。
「はい。私は悪い話ではないと思いました」
「そ、そうですか……差し支えなければ、理由をお聞きしても構わないでしょうか?」
「もちろんです。公爵家の息子――そう耳にすれば聞こえはいいのかもしれません。しかし、実際爵位を継ぐのは兄の誰かであり、息子ではないのです。成人してしまうか、もしくは旦那さまの後継者が決まれば、あの子は自分の未来について今以上に考えなければなりません。ですので、結婚くらいは好きにさせてあげたいと思うのが母心です」
「それは、そうかもしれませんね」
「もちろん、公爵家の人間であるコンラートが爵位を継げないからとはいえ、貴族でなくなるわけではありませんが、しらがみは軽くなるでしょう。今の息子を見ていれば、自然と騎士か魔術師を目指すはずです。そうであれば結婚にもそれほど不自由はないでしょう」
確かに、とジャレッドは思う。
自分のような男爵家の人間と違い、公爵家の子息であるコンラートの場合は、家督を継げないからといって貴族でなくなるわけではない。実際、ジャレッドだって平民になるにあたって、成人すれば自由になれるわけではないのだ。あくまでも国の許可を得て、貴族ではないと認められることで初めて平民になれる。
男爵家はさておき、これが伯爵家以上になると難しい。
貴族ではないが権力を持つ人間はいる。商家などがいい例だ。彼らは貴族になりたいと願う者が多く、そのために爵位を継げない貴族と縁を結ぶことで少しずつ貴族の血を取り込み、縁を結んでいく。
コンラートが商家などに取り込まれることをハーラルトが許すとは思えないが、可能性がないわけではない。
望まない結婚をするだけではなく、利用される形になるのであれば、いっそ想い人と幸せになってほしいと願うのはテレーゼの母心なのだろう。
「――テレーゼ、少し待ちなさい」
「どうかなさいましたか?」
「言っていることは理解できる。私もコンラートには幸せになってもらいたいのだが、その、なんというかな……」
なぜか困った顔をしているハーラルト。よく見ればトビアスも冷や汗を流し、ぎこちない表情をしていた。
やはりヴァールトイフェルの後継者が想い人であることを受け入れることができないのかもしれない。
とはいえ、コンラートがローザに想いを伝えられたものの、彼女が承諾する可能性だってわからないのだ。まんざらではないとしか見えなかったが、実際どうなるかは推測することは難しい。
「ローザさまには、先日、母子そろって命を助けていただきました。あのとき垣間見た強さは、戦闘者ではない私でも見事としか言いようがありませんでした。言わずともわかるかもしれませんが、公爵家の妻となれば危険もあります。たとえ将来的に他の兄弟が爵位を継いでも変わりません。ですが、あの方なら自分の身は自分で守れるはず――」
「それは、そうかもしれないが……オリヴィエ、ジャレッド……」
意見を求められた二人は、しばらく考えると、
「テレーゼさまのおっしゃる通り、ローザなら間違いなく危険から自分の身を守れるでしょう。わたくしは戦闘についてはわかりませんが、それでもローザが強いことだけなら存じていますわ」
「はい。狙った相手が不憫な結果になると思います。正直、単純な実力なら俺以上ですし、コンラートさまのことも守ることができるくらいの力を有しているはずです」
「まあまあ!」
高い評価を得たローザの戦闘力に、テレーゼが破顔した。
おそらく自分の身だけではなくコンラートも守ることができると聞けたことが好印象だったのかもしれない。
「ですが、テレーゼさま。コンラートに比べて少々年上ですが、構わないのですか?」
「……オリヴィエさま、それはちょっと」
「黙っていないさいジャレッド! 念のためにお聞きしているだけよ! それとも年上の女性に対してなにか思うことでもあるというのっ?」
「……なんでもありません」
年の差など気にしなくてもいいのにと思うジャレッドだったが、先日のことがあったため婚約者が怖くて口を噤んだ。
宮廷魔術師に選ばれようと、怖いものは怖いのだ。
「そうね。五歳ほど離れているくらいなら、私は気にしませんよ。コンラートは少し気弱なところもありますので、年上の方のほうがつりあいもとれてちょうどいいのではないでしょうか?」
想像以上にローザに対して好印象のテレーゼに、ジャレッドは言うまでもなくオリヴィエも、そしてハーラルトたちもただただ驚きを禁じ得なかった。




