『ドッペルライアー・ファンタズム』
誰かになりたかったんじゃない。
何者かに成りたかったんじゃない。
ただ一つ。
たった一つ。
私は、此処にいても良いんだと思える何かが欲しかった。
その為のたった一つを、あの日の私は確かに持っていた。持っていたのに、自らそれを手放してしまった。手放してしまった事すら、忘れてしまっていた。
それが自分にとって、唯一無二だと思っていたのに。
『あぁ、本当!つまらない話だわ!』
女王は言葉通り、心底退屈そうに吐き捨てた。
『唯一無二だなんて下らない!そんなもの、お前の様なただの人間にある訳がないじゃない!お前の才能も、人格も!どこにでもあって、何にだって代えられる。所詮その程度の代物でしかないというのに!』
——その通りだ。
『シジマも、あの伽藍堂も。忌々しい剣士も、口煩い魔法使いも!誰もお前に本当の事を教えやしないだろうから、私が言葉にしてあげる!——————だからお前は、私になりたかったのでしょう?』
——————
『この世界でただ一つ。唯一にして無二、〝テサウル〟を掌握するこの私……女王デケムこそが、お前の目指した理想の姿。何者にも侵されず、何人にも汚されない。伽藍堂の夢見た幻想』
——そう。私は、貴女の様に……貴女になりたかった。
美しく可憐で、気高く、自由で奔放。
世界を変える程の力を持って、それ故に方々から疎まれ、蔑まれ、傷付けられ——それでも揺るがなかった、貴女になりたかった。
貴女になれるなら、仙波星翠なんていらなかった。
何者でもないこんな空っぽなんて、欲しくなかった。
『——本当に、つまらない話。どれだけ望んだところで、人は自身以外の何者なんかになれる訳がないというのに!お前如きが私になるなんて退屈な嘘、つまらないばかりだわ』
——そうだね。私は結局、貴女には……貴女の様にはなれなかった。なれそうにも、なかった。
『当然ね』
でも、それでいい。もう、それでいいって、今は思ってる。やっと、思えた。思える様になった。
『…………』
私に価値が——意味があるのかは、わからない。
きっとこの先も、ずっとわからないままだと思う。
それでも、そんな私でもいいって……このままの私でも構わない、此処にいて良いって言ってくれる友達が居たんだ。
だから。
「私は、このままでいたくない。私は此処に居ていいんだって言い張れる強さが欲しい。今度こそ私自身の力で、私は私自身に価値を、意味を見出したい。私は、変わりたい——!」
全く。大言壮語も甚だしい、身の程も弁えない話!
その行く道は地獄で、これから先ずっとお前は傷付き続けるかもしれないというのに!
「……それは少し、怖いけど——けど、きっと大丈夫だと思う。傷付いた後の立ち上がり方を教えてくれる友達がいるから」
その先に何を得ることも出来ず、結局伽藍堂は伽藍堂のまま朽ち果てるかもしれないというのに!
「空っぽなままでも誰かを大事に出来るんだって教えてくれる友達も、いるよ——」
———それでも。そんな人達が永遠にお前の側にいる訳じゃない。いつか疲れ果てて、立ち上がれない程に傷付き果てて。その時、お前がたった一人だったら、その時は——
「——————貴女たちが、いるよ——!」
——————
「嫌いだなんて嘘だよ。好きじゃなくなったなんて嘘だよ。皆の物語は今でも、これからもずっと。ずっとずっとずっと、ずっと!大好きだから!大好きだから、だから——」
———
「……ありがとう、ごめんね」
—
「私、頑張るから!貴女みたいにはなれなくても!誰かみたいじゃなくても!私には価値があるんだって、意味があるんだって!たとえ嘘でも、ずっと言い張り続けてみせるから!そんな人間に、なってみせるから‼︎‼︎」
「興味も湧かないわ、全く。けれどもまぁ……精々がんばりなさい」




