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ドッペルライアー・ファンタズム  作者: ほたて
『蒼穹の汀、星翠の微睡』
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『選ばれた生き方』

 現実的な脅威として。

 この世ならざる膂力、倫理……そして異能。

 それら派手派手しい、表面上ばかりに気を取られ、考えるに至らなかった、当事者達の想い。計り知れぬそれらを軽やかに受け入れるその様は、余りにも楽観的すぎる様にも思えた。だが、それと等量……あるいはそれ以上に。言い切ったその姿には、諦観や受容とは根本から異なる、なにかとても強い意志が感じられたのも、また事実。


「……申し出有り難く、恐悦至極ってやつだ。けど、わっかんねーな。アンタらが俺らに与するメリットなんざありゃしねーだろ。どういう心境なんだよ、勇者一行」

「それを君が言うか、少年!」

 ラキエスの……幼く、あどけない顔にはとても似つかわしくない、豪快な笑い声が青空に吸い込まれていく。

 敵意も、悪意もない。ただただ愉快そうに笑うその姿に毒気を抜かれてしまって、静は今一度眉を顰めるしか出来なかった。


「損得だけで生き方を選べる程、人間は単純じゃない……私に言われるまでもなく、君はもう、それをよく知っているだろう、シジマ」

「……知った様に言ってくれるじゃねーかよ」

「おお、勿論知らないとも!」

 『名無し』へ向けた、なけなしの悪態に、ラキエスはより一層笑みを深めた。

「けれどももとより、言葉で言い表される生き方なぞ何の証左にもならない!生き様は、心根は!常にその行動と過程、齎された結果によってのみ推しはかられる!これぞ正しく少年。君が、我が『創造主』と出会ってから今日に至るまで示し続けた事ではないか!」

「天に届く大言も、海原を満たす甘言も。君が示した、たった一度の勇気には勝らない。私達が君を信じる理由など、そのたった一度きりで十分だ」

「わかったわかったわかった、もういいってマジで」


 静が面倒臭そうに手を振って、項垂れる。

「どいつもこいつも、人のやることなす事に一々大仰な理由付け狙いやがって。碌々なーんも考えてねー俺がアホみてーだから勘弁しろよ……」

「……照れてる?」

「呆れてんだよ」

 場を弁えない抄帷を一蹴してから、静は再び顔を上げ、二人を見上げる。


「前説いらねーんなら話ぁ早ぇー。顔見知りを探しにきててよ。味方自称すんなら、なんか役立つ話の一つも持ってやしねーかい。居場所の手掛かり、心当たりなんかだと助かん、だけど」

「手掛かりもなにも、居場所はもうわかってるぞ」

「は?」


 静と抄帷。目を丸くする二人の前で、ラキエスが杖を正面へと翳す。指し示されるのは彼方、地平線の向こう。

「ここは海べりの丘陵でな。あっちの方角にしばーらく行くと、断崖になっているんだが、そこにあの性悪女の城がある。我らの『創造主』……君らの友達もそこに居るぞ。ちゃんと無事に、な」

「待て待て。なーんでそんな事細かにわかんだよ。ソースは?」

「ぬはは、言ったろう?私はとーっても優れた魔法使いだと」

 言って、ラキエスがニヤリと意地の悪そう……に見せようと努力している形跡の認められる笑みを浮かべた。


「……悪人面がこんなに似合わねー人間が実存するとは思ってなかったぜ——間違えた、エルフか」

「静、失礼——なの?」

「知るかよ聞くなよ」

「……話の続きしてもいい?」

「どうぞ」

 本人としてはそれなりに会心の出来だったのだろう。

 散々めちゃくちゃ言われて、若干ヘソを曲げている様子のラキエスへと、慌てて二人は揃ってぺこりと頭を下げた。


 こほん、と一つ咳払いを挟んで。

「とは言えまぁ、それほど大袈裟なネタバラシでもないんだけどの。『名無し』の剣撃に怯んだんだろう、ちょろっと隙があったもんでの。さっき、あの性悪にも、君らに使ったのと同じ魔法を使ったのさ」

「過去の体験、って奴か」

「それそれ。常ならば小憎たらしい〝天使〟の加護があって干渉できないんだけど……今回は中々機に恵まれたの」

「……しごでき過ぎんだろ魔法使い」

「それほどでも!ある!」


 小さな体を目一杯大きくみせるラキエス。

 そんな珍妙な所作を他所に、静が口元を押さえ考え込む。


 数秒の沈黙を挟んで、静は二本、指を立てる。


「確認したい事が二つあるんだが、よろしいかい?」

「おお!なんなりとー!」

「ありがとさん、と……一つは敵味方の人数。アンタ達以外の味方、それに連中以外にややこしい新キャラが居たりするか、わかるか?」

「今この世界——少なくとも『私達』が感知できる範疇には、私達とあの性悪に、堅物騎士だけだの」

 澱み無く答える姿に内心で舌を巻きつつ、静が続ける。


「んじゃもう一つ……連中とアンタ方、真っ向からやり合ったらどっちが強い?」

「それは勿論、彼女達だな」


 即答。余りにも簡潔な言葉は、故にこそ疑う余地のない、厳然たる事実である事のなによりの証。

「先程の女王は〝天使〟の力によって作られた分身の様なもの。彼女自ら行使する〝天使〟の力は、あんなものでは無い」

「……アレでマックスじゃねーとか、馬鹿クセェパラメーターしてやがんな」

「加えて、あちらには『城砦穿ち』がいる」


 呼称としては初めて聞く言葉。しかしながら、その指し示す先は明らかであった。


「化け物じみてるとは思ってたけどよ、女王陛下よりやべーのか、アイツ」

「単純な戦闘能力なら、遥かに上だ……君との決闘では、何故か『大葬』を封じたままだった様だが」

「大方、少年相手に魔法使うのは気が咎めたんでしょ。変なところで律儀な男だからの、あれも」

「……手ぇ抜かれてたのなんざ百も承知だったけど、他人様の口からハッキリ言われるとムカつくな、あの野郎」


 言葉通り、狂犬の様な顔で苛立ちを示す静を見て、ラキエスがははぁと感心した。

 

「世の中に、こんな悪人面の似合う少年がいるとはの!実は魔族だったりせん?主」

「やっかましぃ」

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