「そ」の場合②
痛ましい傷を負った少年を改めて見てみると
全身傷だらけであることが分かった
石を握る手は土汚れのせいで分かりづらいが
ところどころ青く変色しているのが分かる
"こ、こんにちは"
俺は再び男の子に声をかけた
"もしかして見える人ですか?"
男の子の第一声に俺は面食らった
怯えるでもなく不思議がるわけでもなく
まるで無邪気な様で俺に呼びかけてきた
"⋯はい。神威です。"
悩んだ末、自己紹介をした
"僕は「そ」って言います。7歳です。"
"⋯"
少年はこれまであった人とはまるで違っていた
何も迷わずに自己紹介を返してきた
かつて自分が7つの時、こんなだっただろうか
"「そ」は一体何をしているんだい?"
ここ最近では珍しい年下の同性との出会いに
お兄さんぶっている自分がいた
"石で遊んでいます。"
「そ」は屈託のない笑顔で返した
「そ」はとても可愛らしい少年だった
同時にとても礼儀正しかった
この街でこれだけ物腰が柔らかく礼儀正しい人に会うのは初めてだった
"近くでお話してもいいかな?"
名前の時点で「そ」に〈視覚〉がないことは分かっていた
ただ久し振りに人と関われる喜びから側にいきたいと願っていた
"押し合いっこをするんですか?"
「そ」の一言に俺は足を止めた
"押し合いっこって何のこと?"
思わず言葉を崩して聞き返していた
"お互いに身体を押し合って、倒れたら負けの遊びです。
前に会った見える人とよく遊んでました"
言葉が詰まった
"「そ」は何を感じることができるの?"
恐る恐る俺は質問した
"はい。僕は聞こえることができます。〈ちょーかく〉って言うんですよね。"
「そ」は〈聴覚〉の1つ持ちの少年だった
衝撃が走った
情報の多さに、整理が追いつかないでいた
「そ」は1つ持ちというこの街でも最下層の人間だ
恐らく顔や全身の傷も、触覚がないから感じれていないのだろう
そんなことよりも
何故、1つ持ちの「そ」はこんなに笑顔なのだろうか
何故、自分より幸せそうなのか
嫉妬心と好奇心が入り乱れていた
"「そ」のことがもっと知りたいな。
押し合いっこじゃなくてお話をしない?"
「そ」はその日初めて笑顔を崩した
その様は驚きであった
"はい。"
その日が俺と「そ」の人生の分岐点になった




