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「そ」の場合③

"僕は石で遊ぶのが好きなんだ"


"色んな石で遊んでいると音に違いがあって楽しいんだ"


"音の違いで人がいるかも気付けるようになったんだ"




「そ」は明るい少年だった


それまでお喋りをすることが少なかったのだろう

言葉が次から次へと出てくる



"神威は何が好きなの?"



まるで自分に弟が出来たような気持ちになった



"俺は「そ」とお喋りしてる今が一番楽しい"



「そ」は嬉しそうに笑った



"でね。でね。⋯"


「そ」は賢い子なのかもしれない

俺の今の言葉を受けてか、たくさん話をしてくれている



"それは凄く楽しそうだね"



今、この街で一番幸せな時間を過ごしている気分になっていた



"そういえばこの前見える人がね"



恐らく「そ」の言う見える人は俺以外の〈視覚〉持ちのことだろう




"この街を出ていくんだ。って言ってたんだ"



突然音が止んだ


実際には音は止んでなどいない

俺の体内に音の情報が届かなくなったのだ



"この街を⋯出る?"



考えもしなかった

いや、知識としては持っていた

この街以外に世界が存在すること

この街以外には様々な娯楽や知識が存在すること



ただ、この街を出るという選択肢を

俺はこれまで考えもしなかった



"神威?"


「そ」が心配そうに声をかける



"⋯"


返す言葉が出なかった



"その人は外に出たのかな?"


恐る恐る「そ」に問いかけた



"分かんない。そのことを聞いてからもう会ってないから"




恐らく出たのであろう この街を


そして戻ってこなかったのだ




これまで考えもしなかった

この街を出るという選択肢が

俺の頭の中を占めていった



"神威、街の外のこと知ってる?"


「そ」から向けられた言葉は単純な疑問でしかなかったのだろう

ただ今の俺には、自分の気持ちや考えを吐き出すのに申し分ない着火剤となっていた



"本で読んだんだけど⋯"


この枕詞を皮切りに俺は熱く語りだした

それから「そ」はただ俺の話す話に耳を傾けていた

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