表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

「あき」の場合②


今思うと、このコミュニケーションを楽しんでいたのは俺だけだったのかもしれない



"神威、私からも質問していい?"


改まって「あき」は問うてきた


"「見える」ってどんな感じなの?"



難しい質問だった

当たり前に見ているものを、当たり前に見えない人にどう説明したらいいのか分からなかった



"⋯どう伝えたらいいのか⋯良いことと悪いことと

見たいものと見たくないものと⋯そんな感じかな"


全く芯を食ったことは言えなかった



"本! 本が読めるんだ!"


良いことがようやく絞り出てきた


"ほん? ほんって何?"


「あき」は本のことを知らないらしい

無理もない 見えない人間と本の相性は水と油だから



"本は文字が書いてある紙のことなんだ。

 文字ってのは、言葉を見えるようにしたもので⋯"


「あき」は不思議そうな顔をしている



"見える人間は少ないのに、見える人間にしか分からないものがあるのね。"



俺は続きの言葉を飲み込んだ


多分、「あき」と本は縁のないものだから

これ以上この話をしても良くないと思った



俺は本が好きだった

特に空想の物語を描いた小説が好きだった


今日まで本だけ読んで過ごしてきたと言っても過言ではない



"ところで「あき」の子供はどこにいるの?"



俺の質問を境に「あき」の表情は一変した

再び深い悲しみの顔になっていた



"子供は⋯分からないの。

どこにいるのか。なんて名前かも。"



俺はどんな言葉をかけるべきか分からなかった


ただ、「あき」を慰めたいと思った



"大丈夫。きっと大丈夫。"


ゆっくりと「あき」のそばに近づいた


"きっと子供は元気だよ。大丈夫。"


そっと「あき」の肩を抱きしめた



「あき」は飛び跳ねる勢いで驚いていた


"いや、ちょ、神威よね?"


「あき」はかなり動揺しているようだった

こんな展開を本で読んだことがある


悲しむ女性に対して、主人公がそっと肩を抱きしめる

そして主人公が優しい言葉を吐き、主人公の胸の中で女性が涙を流す



自然と俺はその流れを踏襲していた



"「あき」はとても美しいね"


TPOなんて関係ないし、この言葉が所謂口説き文句であることなど10の俺には知る由もなかった



俺の胸の中で「あき」は涙を

流さなかった



"⋯⋯"


ただ胸に顔を埋めて微動だにしなかった


小説は空想の物語なので、実際はこんな感じなんだろう

そう思うことにした



"俺が息子を探してあげる"


なんの正義感なのか自分でもよく分からない

もしかしたらこれが初恋なのかもしれない

ただ格好つけたかっただけなのかもしれない



"また来るね"


俺が離れてもなお、「あき」は言葉を交わすことはおろか身体を動かしていなかった

微かに震える口元以外



彼女の悲しみに触れ高まる正義感を携えて

俺はその場を去った









次の日


同じ場所で横たわる「あき」の姿があった

首を石で切り裂かれた無惨な姿がそこにはあった


「あき」の手には血まみれの石が握られていた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ