表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

「あき」の場合①

「あき」は小さな女だった。


初めて「あき」を見たのは、俺がまだこの街以外に世界を知らなかった10歳の頃だ。



「あき」は〈聴覚〉と〈触覚〉しかない女だった。



女で2持ちってのは災難だよな。

誰かの慰み者になるか、誰も近づけずに孤独に生きるか



「あき」は後者の人間だったのだろうな

俺が見かけた時、俺のいる方向を息を殺して向いていた



少し大きな石を握りしめ、耳を澄ませていたんだ



"なあ、おい"


「あき」は驚きのあまり持っていた石を落とした


"俺は丸腰だ。"



俺の話を聞く耳を持たず「あき」は必死に散らばった石を拾い集めた



鼻息荒くなったことで周りの音が聞こえにくくなったのだろう

必死に辺りを見回すように首を振っている



"頼むよ。お喋りがしたいんだ。"


"⋯"


「あき」は会話を返すことはなく、凄い形相で辺りを警戒している



"俺は神威っていうんだ。あんたは。"


この言葉を受けて「あき」は静止した

何かを悟ったような、何かを諦めたような

悲しみと憂いを帯びた表情をしている



"「あき」"


初めて「あき」とコミュニケーションが取れた瞬間だった


俺は嬉しくなって「あき」の元に歩み寄ろうとしたが

「あき」が怯えているのが分かり足を止めた


先程までの威嚇する様子はなくなった



"「あき」は何持ちなんだ?"


俺はその場で腰を落とした


"言うわけないでしょ。バカじゃないの"



当時の俺はこの質問がタブーであることを知らなかった

【何持ち】即ち、感覚をいくつ持っているかは

この街ではヒエラルキーを表すものだった


いくつ、何の、感覚を持っているか

この情報は生命線であり、弱者は虐げられるしかなかったのだ



"⋯ごめんなさい。今のは言い過ぎたわ"


「あき」は我に返ったように丁寧だった


"あなた⋯神威は確か10歳よね。知らなくても仕方がないわね。"



「あき」は凄くお喋りな女だった


先程の質問がタブーなこと

俺のことは生まれた時から知っていたこと

息子がいること


つい数分前まで他人を警戒していたとは思えないほど

「あき」は色々なことを教えてくれた



"だってあなた有名人だもの。見える子だって"


この街では数少ない〈視覚〉持ちは、ヒエラルキーの上位に位置していることを俺は初めて知った


"何を取っても「見える」ことに勝らず。

あなたも知ってるでしょう。

「見える」子には最上の「神」の名が入るのよ"


"あなたは知らなそうだから言うけど、私の名前は「あき」。本当は名前も気軽に名乗っちゃだめなのよ。"



その日初めて「あき」が微笑んだように見えた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ