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馬で競うギャンブルが競馬なら、竜で競うギャンブルは競竜だ。  作者: 秋山機竜


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第24話 空想癖をレースに活かせ

 競竜は秋シーズンを迎えて、魔王賞の開催期間になった。


 ゼルツェンの目標はこのレースを勝って父の冤罪を証明することだが、能力も実績も足りないため、そもそも乗鞍がない。


 悔しいとは思うが、何事も一歩ずつ進んでいくことが大切なはずだ。


 ならばいまの自分がやるべきことは、調教師や竜主にまかされた飛竜を未勝利から脱出させることだ。


 シーズンが変わって、ローカルの開催場所が変更になったので、ゼルツェンはいつものトレ谷から、異なる拠点のトレ谷に移動した。


 ジパングのトレ谷だ。


 ジパングは東洋の島国であり、ギリギリ北半球であり、師匠のハヤテの故郷だった。


 トレ谷は東と西に設置されていて、競竜場も二つある。


 ゼルツェンが出場登録したのは、ローカル開催の【風雪競竜場】である。


 ここは季節によってコースの風景が変化する。


 秋シーズンであればローカル開催にふさわしい飛びやすいコースなのだが、夏は高温多湿で強風が吹き荒れて、冬は雪が降る難しいコースになるのだ。


 無論、ゼルツェンは新人竜騎手なので、登録したのは飛びやすい秋シーズンだ。


 すでに日曜日のレース当日を迎えていて、大切なたった一つの乗鞍を騎乗所でセットしていた。


 ゼルツェンは己の初勝利を、《アドバルーン》を勝たせることで手に入れたかった。


 昨晩、調整ルームにて、すでに脳内にスイッチを入れて、空想癖を競竜用に稼働した。


 無数のレースパターンが、鮮明な映像となって脳内に渦巻いた。


 それらを豊富な知識で分析して、一番勝率の高そうな乗り方を選び出した。


 それをいつもの厩務員に伝えた。


「後ろポツンで行きます」


 後ろポツンとは、あえてスタートをゆったり出して、竜群から4竜身ぐらい離して、末翼勝負することだ。


「そんなリスクのある乗り方をやって大丈夫かい?」


 厩務員は心配そうに眉をひそめた。


 その反応をするのは無理もなかった。後ろポツンはハイリスクハイリターンの乗り方だからだ。


「でも《アドバルーン》向きの乗り方なんです。そのためにティア先生にお願いして、ジパングの風雪競竜場に登録してもらったんです」


「そ、そうか。ジバングの競竜場は最後の直線が長いから、前が垂れてくる可能性が高いんだ」


 一般的に最後の直線が長ければ後ろが届きやすくなるし、最後の直線が短ければ先行逃げ切りが強くなる傾向にあった。


「やってやりますよ。このレースで、俺と《アドバルーン》は未勝利脱出です」


「頼もしいなぁ。前回のレースとは別人みたいだよ」


 そこまで自信があるわけではない。だがここしか勝ち筋はないと思っていた。


 それは一流竜舎と大物竜主の思考パターンの隙間を突いたハイエナ作戦みたいなものだった。


 未勝利戦における強い飛竜というのは、可能なかぎりうまい竜騎手を乗せたい。


 となれば、本日は魔王賞が開催されているんだから、そこに集まったトップ竜騎手たちを乗せるために、強い未勝利飛竜たちが集中することになる。


 裏を返せば、G1の裏開催となったローカル競竜場には、あまり強くない未勝利飛竜が集まることになる。


 もし懸念点があるとすれば、このハイエナ作戦は一流竜舎や大物竜主にも使えることだ。


《ヒットアンドブロー》という大手飛竜たちの生産した雌の飛竜が、《アドバルーン》と同じ未勝利戦に出走するのだ。


 鞍上はベテラン竜騎手のラースロンだった。


 いつも新人竜騎手たちのお世話をしてくれる気の良い兄貴分が、今日は自信満々であった。


「ゼルツェンくん、今日は勝たせてもらうよ。この《ヒットアンドブロー》でね」


 ラースロンは大手飛竜谷の良血飛竜である《ヒットアンドブロー》に乗って、完全に浮ついていた。


 いつもは優しくて朗らかな兄貴分であっても、強い飛竜をまかされると増長するらしい。


 それは油断だとゼルツェンは思ったのだが、いつもお世話になっている立場では言えるはずもなかった。


「よかったですねラースロンさん、大手から乗鞍もらえて」


「本当だよ。最近じゃ大手の乗鞍まったくもらえてなかったからね。若いころはたまーにあったんだけどさ、ははは」


 G1の裏開催でローカル競竜場となれば、出場登録している竜騎手が若手だらけになるので、大手の貴重な良血飛竜は経験豊富なベテランにまかされることが多かった。


 たとえそれがラースロンみたいな成績が右肩下がりのベテランであっても、新人より信頼されているからだ。


 その信頼とは、惑星に存在するあらゆる競竜場で乗ったことがあるという経験値そのもので裏書きされている。


 ということは、もし騎乗ミスでもしようものなら、ベテランとしての信頼を失うことになるため、その後の人生プランが大幅にくるうことになる。


 なんだか心配だ、と思ったゼルツェンは、お世話になった後輩としてラースロンに伝えた。


「ジパングは最後の直線長いですからね。気をつけて乗らないと、失速しますよ」


「もちろん知ってるさゼルツェンくん。いやはや今日は久々に1勝できそうだ、これだけ強い飛竜に乗せてもらえたらねー」


 本当に大丈夫なんだろうか。


 ゼルツェンの空想癖を使った分析パターンには、同じレースに出走する竜騎手たちの癖も含めてあるので、そこにはラースロンの失敗パターンも当然あった。


 彼は強い飛竜に乗ると、ほぼ必ず逃げを狙おうとして、他の飛竜が主張してきたらそちらに先頭を譲って番手におさまる、というパターンを繰り返してきた。


 たとえその強い飛竜が差しや追い込みが得意だったとしても、必ずこのパターンになる。


 それが一流調教師や大物竜主の信頼を失っている原因なのだが、本人はまったく気づいていない。


 まさか後輩の立場から、あなたの弱点はこれですよ、なんて言えるはずがない。


 それにレース前に、自分自身の未熟な騎乗技術から目をそらすのもよくないので、意識を切り替えることにした。


「では、先に返し竜いきますね」


 ゼルツェンはラースロンとの会話を打ち切ると、《アドバルーン》と一緒にコースに出た。


 ● ● ● ●


 コースに出たら、早々に返し竜を始めて、《アドバルーン》の状態をチェックした。


「以前よりも人間に対する不信感が和らいでる。ティア竜舎の人たちが工夫してくれたからだな」


 ティア竜舎のスタッフたちが、かつてゼルツェンが提案した作戦を実行してくれたのだ。


 スタッフが《アドバルーン》以外の飛竜をお世話するときには、《アドバルーン》の竜房を垂れ幕やカーテンなどで囲んでしまい、視界を完全に遮るのだ。


 こうするおとで、《アドバルーン》は味方であるはずの竜舎のスタッフたちが、己の嫌いな他の飛竜たちのお世話をするという不信感を倍増させるイベントを回避できた。


 その効果は如実に出ていて、《アドバルーン》はゼルツェンの手綱さばきに反応しやすくなっていた。


 これだけ乗りやすくなっていれば、あとは狂乱状態にならないように気を使うだけで、勝率がかなり高くなるはずだ。


 この予測が確信に繋がったのは、ゲートインしたときだった。


 前回のレースではゲートインした際に、両隣の飛竜たちに激昂して、半狂乱状態になってしまった。


 だが今日は、両隣の飛竜たちをにらみつけるだけで、一切暴走しなかったのだ。


「これだけ落ち着いてレースに参加できるなら、無駄に体力を消耗しないから、末翼勝負で爆発できるぞ……!」


 やがてすべての出走飛竜がゲートインを完了させた。


 運命の瞬間まであと数秒。


 ゼルツェンは集中力を切らさないようにしながら、ふーっと息を抜いた。


 力みすぎれば、それが飛竜に伝わって、無意味に加速してしまう。


 後ろポツンと決めたのだから、ロケットスタートしてはいけないのだ。


 やがて係員たちの安全確認が終了すると、ついにレースがスタートした。

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