――第 126 幕 ちゃぶ台の配置――
ジャリッ、ヌチャ。 奥歯の間に、砂粒と腐葉土のペーストがねじ込まれる。 物理的な重量と冷たさが、喉の粘膜にへばりついて食道を滑り落ちていく。 重いカビの臭気と腐葉土の悪臭が鼻腔を塞ぐ。 息を吸い込むたび、肺の奥底に細かい砂利が沈殿していく。 「私」は左手の指先で、パジャマの第一ボタンを何度も弾く。
カチッ、カチッ。
プラスチックの微小な音が顎の骨を伝う。
異常な量の唾液が湧き出し、顎を伝って泥だらけの服の襟元へと幾筋も垂れ落ちる。 視界の端が白くチカチカと明滅し、眼球の裏側で青白い火花が弾ける。 カビた畳の臭いが膨張する。 ボタンを弾く。
カチッ。
ボーン。ボーン。
壁に掛けられた古時計が、振り子の音を刻み始める。
「死ね。死ね」
という音が、耳の奥を粗いヤスリで削るように響く。 視神経が点滅し、網膜にザラザラとした砂嵐が走る。 背後で、金髪の男が上下の歯を不規則なリズムで激しくぶつかり合わせる。
ガチガチガチ。
彼は自らの親指の爪を犬歯で激しく噛みちぎる。
カリッ、カリッ。
爪が皮膚を削る。 古い時計の振動が空気を揺らす。
なぜ私はこの腐葉土のペーストを咀嚼し、彼らとの狂った晩餐を受け入れようとしているのか。 その贖罪のプロセスと心理的メカニズムを論理的に分析すべきなのだろう。 だが、息を吸い込むたびに鼻の奥へへばりつくカビた畳の臭いと腐葉土の強烈な悪臭が、脳細胞間のシナプスの接続を強制的に切断していく。
この不潔な臭気が邪魔だ。
気管が細かく痙攣し、まともな思考の結線が組み上がらず、ドロドロに溶け落ちていく。 それはまるで、かつて泥の底に沈めた見知らぬ死体の……いや、違う。 なんだろう、あれは。
どうでもいい。
この不快な視界の明滅の奥にある連想に、意味などあるはずがないのだ。
「私」の顎の筋肉が硬直する。 頭上の中空。 丸型の蛍光灯が、「ジジッ……」と羽虫が焼けるような音を立てて明滅している。 青白い閃光が落ちるたび、湿気を吸った畳の表面がヌメヌメと光り、部屋の四隅にへばりついた影が色を濃くして這い出してくる。 カビの臭気と腐葉土の悪臭が充満する。
私は、狂った家族の幻影に耐えきれず、彼らとの食卓を自ら破壊しようとしているのだろうか。 いや、本当は違う。 私はただ、背後にいる彼らが、ちゃぶ台をひっくり返す私の暴力的な衝動に怯え、無様に震え上がる様を、薄目で見下ろしていたかっただけだ。 他人がパニックを起こし、自分以上に惨めに壊れてくれればくれるほど、あの不潔な病室で暴かれた私自身の罪悪感の輪郭が相対的に曖昧に塗り潰されていく。 彼らが怯えれば怯えるほど、自分だけはまだ「正常で、場を支配する側の人間」なのだという錯覚にすがりつくことができる。 そんな極めて卑小で醜い自己正当化の欲求が、この茶碗をまともに持とうとするエネルギーを根こそぎ奪い去っていくのだ。
泥にまみれたプラスチックの茶碗が、指からこぼれ落ちる。
パァンッ!
茶碗がちゃぶ台の縁にぶつかり、床の畳に叩きつけられる。
狭い密室の空気を切り裂き、鼓膜を内側から破るような銃声が反響する。
胃壁が雑巾を絞るように激しく収縮し、舌の裏側に強烈な酸っぱい味が広がる。 「私」は大きくずらした顎を戻し、過剰な唾液をゴクリと無理やり飲み下した。
この冷徹な物理的激痛と味覚の蹂躙に没頭していれば、自分が加害者ではなく、不条理に巻き込まれた無力な被害者であるかのように振る舞えるという、浅ましい自己欺瞞。
左腕のホッチキスの針が肉を引きちぎる。 自らの喉を強く掻きむしる。 灰色の泥と酸っぱい液体が、カビた畳の上に散らばる。
右手の掌で、完全に癒着した佐渡赤玉石が、チリチリと微熱を放っている。 焦げた肉の香ばしい悪臭が、カビと腐葉土の匂いに衝突する。 左手の親指の爪で、人差し指の腹を強く引っ掻く。 ジワリと血が滲み、微かな鉄錆の味が口内に広がる。
カリッ、カリッ。
爪が皮膚を削る。 パジャマのボタンを弾く。
カチッ、カチッ。
カビた畳の臭いと腐葉土の悪臭がこもる空間に、ただ時計の音と、プラスチックの反復音だけが充満し続けていた。




